9月22日の土曜、朝飯を食べながらスマホを見ていると、ハルトから連絡が来ていた。
ハルト:今日の午後って空いてますか? よかったら一緒にゲームしません? 配信はしないので。
動画の確認かと思って開いたので、途中でもう一度読み直す。
昨日送った分は、既に大丈夫だという返事をもらっている。今日の作業を先に済ませれば、午後は空けられそうだった。
ナオ:午後なら大丈夫です。先に編集を終わらせるので、2時くらいからでもいいですか。
ハルト:大丈夫です! じゃあ2時に。通話の方で待ってます。
返事をして、残っていた卵焼きを口へ入れる。
普段からハルトのゲームは見ているが、一緒に遊ぶとなると話は別だ。素材の中で何度も通っていた場所へ、自分も入ることになる。
食器を洗い、洗濯機を回してからパソコンへ向かった。
午前中は、レナのショートとハルトの次の分を進める。レナの本編は昨日のうちに送っているので、その中から短く使う場面を選べばいい。
炊き込みご飯の蓋を開けたところへ、湯気を避けるレナの顔を繋ぐ。ご飯をよそう手元も入れ、完成した茶碗が見えたところで終わらせた。
ハルトの方は、同じ配信から何本かまとめて作る。確認用の動画を送り終えると、まだ昼まで少し時間があった。
洗濯物を干してから、近くを歩いてくる。
工場へ行かない日は、自分で外へ出ないと歩数が足りなくなる。来月からは毎日そうなるので、買い物のついでだけで済ませる日と、こうして歩く日を分けた方がよさそうだ。
戻ってシステムを開くと、運動のデイリーが達成済みになっていた。今週のウィークリーも、全部達成済みになっている。
報酬を受け取り、ポイントの残りを見る。
89SP。
しばらく使わずにいるだけで、随分貯まった。
霊能力と棍棒術、身体強化を揃える分にも近づいている。ただ、そちらを試すのは、工場を辞めた後の生活が分かってからだ。今すぐ全部使う予定はないので、確かめて閉じる。
昼飯までの時間に、完成した狸モデルの画像を開く。
服も説明書も揃っているのに、フォルダの名前はまだ狸モデルのままだ。紹介画像にも、商品名を入れる場所だけ空いている。
栗色の髪と丸い頬を眺め、隣のメモへ名前をいくつか打つ。
長いものは、入力している途中で面倒になった。呼びやすい方がいいだろう。
「コムギでいいか」
茶色とクリーム色で、何となくそれらしい。
画像へ文字を入れてみると、見た目にも合っていた。ルゼと並べても区別しやすいので、そのまま決める。
データのフォルダと説明書にも名前を入れ、紹介画像を書き出し直した。
昼飯を済ませ、飲み物を用意して通話へ入る。少し待つと、聞き慣れた声がヘッドホンから届いた。
『お疲れさまです。編集、間に合いました?』
「終わりました。さっき送ったので、確認は後で大丈夫です」
『ありがとうございます。今日はもう遊んじゃいましょう』
招待を受けて、ハルトのいる部屋へ入る。
2人で施設の中を調べ、道具を集めながら奥へ進むゲームだ。動画で見ている分には、どこを曲がればいいかも何となく分かる気がしていた。
しかし、自分で歩くと通路が全て同じに見えてくる。
ハルトの姿を見失い、目の前の扉を開けた途端、中から出てきた敵に殴られた。
『そっち、まだ開けない方が良かったんですけどね』
「先に言ってほしかったな、それ」
『俺の後ろにいると思ってました。いったん戻れます?』
閉じようとした扉へ敵が挟まり、退こうとすると背中が壁に当たる。操作を覚えるより先に、画面の端で体力が減っていった。
ハルトが横から入り、敵を引きつけてくれる。その間に通路へ出て、ようやく息をついた。
俺のキャラクターはまだ走れるが、体力は半分もない。
『回復、置きます。初めてだと、扉と収納の見分けがつきにくいんですよね』
「配信で見てた時は分かったんですけどね」
『見るのとやるの、結構違いますよ。俺も編集されたやつ見ると、何で気づかなかったんだろってなりますし』
それは、こちらも今分かった。
画面を止めて、前後を何度も見られる時とは違う。足音を聞きながら、道具を探して、地図も見ようとすると、通り過ぎた場所まで覚えていられない。
次の部屋では、ハルトが棚を調べている間に、俺が壁のスイッチを見つけた。
何に使うものか分からず押してみると、奥の照明が消える。
『今、何かしました?』
「スイッチ押しました」
『それ、最後に押すやつですねぇ』
暗くなった通路から、さっきより大きな足音がした。
結局、拾ったものを抱えて2人で走ることになった。途中でハルトまで曲がる場所を間違え、行き止まりから引き返す。
施設の外へ出られた時には、思っていたより長く遊んでいた。
『いや、今のは俺も悪かったです。出口こっちだって言っといて、普通に違いました』
「あそこ切り抜くなら、出口の話をしたところからですね」
『編集者の目で見ないでくださいよ』
笑いながら次の準備をする。今度は回復を多めに持ち、道具の使い方も確かめてから出発した。
何度か遊ぶうちに、拾うものと後回しにするものが分かってくる。ハルトが敵を見ている間に扉を開けたり、こちらが地図を見ている間に道具を集めてもらったりして、最初より奥まで行けた。
同じ失敗をした時にも、その場で笑える。
素材の中で聞いていた声が、自分のやったことへ返ってくるのは面白かった。
区切りのいいところで、飲み物を取りに席を立つ。戻ってきて椅子へ座ると、ハルトも休憩していた。
『ナオさん、来月からは家で仕事になるんですよね』
「そうですね。通勤がなくなるんで楽ですね」
『編集の本数、増やしたりするんですか?』
「最初は今の分で、どのくらい時間が空くか見たいですね。モデルの方も作りたいですし」
『モデルって、売ってる3Dのやつですか。前にプロフィールから見ましたよ』
仕事用のアカウントには、ルゼの販売ページを載せてある。
説明したことはあっても、動かしているところまで見せたことはなかった。
「あれです。もう1体できたんで、そっちも今準備してます」
『見てみたいです。画像、あります?』
紹介画像を開いて画面共有する。ルゼの横に、さっき名前を入れたコムギを並べた。
『お、狸だ。そっちは顔にも毛があるんですね』
「今回は耳だけじゃなくて、もう少し獣っぽくしたくて」
画像から作業画面へ切り替え、コムギを横へ向ける。後ろまで回すと、太い尻尾が身体の横へ出てきた。
『尻尾、でかいですね。これ服を変えてもつくんですか?』
「つきます。服は4つ作りました」
普段着から巫女服へ切り替え、続けてメイド服と魔女服も見せる。帽子を外して戻すと、ハルトが感心したような声を出した。
『こういう切り替えまで、自分で作ってるんですね。ルゼの方も動きます?』
そちらも開き、表情を変えてみる。
眠そうな顔から笑顔にすると、小さな八重歯が見えた。角を外し、髪の色を変えられる場所も見せる。
『画像で見るより、動いてる方がいいな。これって普段、何で使うんですか?』
「俺はVRChatで使ってます。ぶいちゃって呼ばれてるやつです」
『ああ、名前は聞いたことあります。VRで集まるやつですよね』
俺が使っている時の画像も、確認用のフォルダに入っていた。鏡の前で腕を上げているものと、ワールドの中を歩いているものを開く。
作業画面で服を切り替えるところを見せた後なので、同じモデルがそのまま景色の中にいることも伝わりやすかった。
『これ、ナオさんなんですか?』
「中身はそうです」
『なるほど。自分で作って、自分で着てるんだ』
ヘッドセットを被る前は、作ったモデルを確認する作業でもある。しかし、鏡の前に立つと、服を変えたり顔を眺めたりして、確認とは関係ない時間も増える。
コムギでも、最後は何枚か余計に撮っていた。
『俺、ヘッドセット持ってないんですけど、それでも入れるんですか?』
「パソコンだけでも入れます。俺も最初はそっちでした」
『それなら今度やってみたいな。配信で遊べますかね』
ハルトの声が、さっきまでより弾んでいる。
俺が使っていたワールドの話をすると、まず歩き回ってみたいらしい。モデルを近くで見たり、鏡の前で動かしたりするだけでも、最初は十分遊べると思う。
『その時、ナオさんのモデル使ってもいいですか? 作ってる人と一緒に遊べるなら、紹介もしたいです』
「大丈夫です。ルゼの方なら、販売ページもありますし」
『概要欄に載せときます。コムギも、準備できたら教えてください』
名前まで覚えてくれたらしい。
自分で作った紹介動画は出しているが、配信の中で使っている姿を見てもらえる機会は少ない。ハルトが遊びながら見せてくれるなら、こちらにもありがたい話だった。
画面の隅には、ハルトが使っているキャラクターの画像がある。
編集の時には何度も見ている姿だ。これも、立体にできれば本人が使えるのだろうか。
「それなら、宣伝料の代わりにハルトさんのモデル作りましょうか」
『え、自分のですか?』
「今使ってるキャラの3Dです。資料があれば、そっち見ながら作れると思いますけど」
『いや、それは嬉しいですけど。そんな簡単に頼んでいいものなんですかね』
ルゼとコムギを作って、どこに時間を使うかは分かってきた。
今度は、見た目をゼロから決めるところを省ける。ハルトの好みに合っているかは見てもらう必要があるが、作っている途中で聞ける相手でもある。
工場へ行かなくなれば、制作に使える時間も増えるはずだ。
「まず服1着で作って、表情も基本のものを揃える感じなら。俺も配信で使うモデルは調べたかったので」
『普段の配信でも使えたら、かなり嬉しいです。今の姿でVRCに行けるのもいいし』
「そっちのアプリで使える形も確認します。普段って、顔を動かすのはWebカメラですか?」
『はい。カメラで取ってます。必要なら、今の設定も送れますよ』
モデルの資料と一緒に、使っている環境も教えてもらうことになった。
髪や服がよく見える画像はあるらしい。正面だけで分からないところは、今のデザインを作った時の資料も探してくれるという。
こちらからは、途中の形ができたら見せると伝えた。
ハルトは今日のうちにVRCを入れてみるそうだ。専用のモデルを自分のアカウントへ上げるには利用状況に応じた権限も必要なので、完成までに操作を覚えながら遊んでもらう。
配信の日は、モデルと導入を試してから決めることにした。
『今日、ゲーム誘ってよかったです。普通に遊ぶだけのつもりだったのに』
「俺も、これ見せる予定はなかったですねぇ」
コムギの画像を閉じ、ゲームへ戻る。
次の施設では、俺より先にハルトが扉を開けて殴られていた。さっき置いてもらった回復を、今度はこちらから渡す。
仕事の話が済んでも、そのまま遊び続けられるのは気楽だった。
通話を終えた時には、夕飯の時間を過ぎている。
届いた資料だけ保存し、先に飯を作った。
食後、ハルトのモデルを作るためのフォルダを用意する。
キャラクターの画像を大きく表示し、髪と服を見比べた。動画の端に映っている時には分からなかった細かい形も、資料なら確かめられる。
ただ、作り始める前に、普段の配信で使う方法を調べておきたい。
検索していくと、3Dモデルを読み込み、Webカメラで顔の動きを取るアプリがいくつも出てきた。モデルの形式も、それぞれで確認する必要がある。
候補の説明を開き、必要なものをメモへ並べる。
人型の骨格。口と瞬き、表情の設定。目の動きに、髪などの揺れ方。読み込める形に書き出した後も、使うアプリで確かめることがある。
ルゼを作った時のデータを開いて、該当する部分を見た。
口の形も、目を閉じる形も作ってある。それをどこへ登録するのか、配信用の形式で書き出す手順と合わせて調べる。
作業画面、アプリの説明、ハルトから送られた資料を行き来していると、強化しておきたいものも見えてきた。
システムを開き、《PC操作》を選ぶ。
レベル4から5へ、20SP。
これから使うソフトが増えるなら、設定や操作を整理する方も上げておきたい。強化を選び、続けて《立体造形》へ移る。
こちらはレベル5から6で、50SPだった。
映像制作を6へ上げた時には、素材を見てから使い方を決めるまでが変わった。造形でも同じ境目を越えるなら、ハルトのモデルを作る前に試したい。
70SPを使うと、残りは19になる。
そこで一覧を閉じかけ、もう1つお気に入りを開いた。
《プログラミング》。
最初に見た時は、何を作ればいいのか分からなかった。今は、モデルを配るためにファイルをまとめるだけでも、何度も同じ作業をしている。
ルゼの時にやったことを、コムギでも繰り返した。モデルを増やせば、その分だけフォルダを開いて、コピーして、名前を確かめることになる。
自分で使うものなら、欲しい機能も考えやすい。
取得に1、レベル2へ2、3へ5、4へ10。合わせて18SPだった。
「ちょうど買えるな」
取得してから、レベル4まで上げる。
残りは1SPになった。
使った数字をメモへ入れ、システムを閉じる。戦闘系の分は、また日課を続けながら貯めればいい。
今夜は配信用の準備を途中まで進め、明日試すところをまとめた。
ハルトの資料は、作業画面の隣へ開いたままにしておく。顔を作るのは、そちらの確認が済んでからにする。
日曜の朝は、飯を済ませてからルゼのデータを開いた。
4つの衣装を全部移す前に、まずは標準の服で試す。普段使っているデータとは別に作業用のものを用意し、昨日調べた手順へ進んだ。
人型として動かすための骨を確認し、首や腕を曲げてみる。
肩の辺りへ目が行った。
腕を下ろしている時の形は気に入っている。しかし、前へ出した時には、脇の面がまとめて引っ張られていた。
以前も動かして確認している。その時は、服が大きく崩れなければ次へ進んでいたところだ。
今は腕の角度を変えながら見ると、どの辺りから動かしすぎているかが分かりやすい。上腕に合わせる部分を狭め、身体の側へついてくるところを調整すると、肩から脇までの形が繋がった。
腕を上げた姿も、前へ伸ばした姿も確かめる。
1つ直した結果、別の角度で不自然になるところまで、前より想像しやすかった。
「……ここも直さないとな」
気づくと、配信用の設定へ進む前にルゼをいじっている。
顔へ近づけば、口元も気になりそうだった。今見つけた修正だけメモへ入れ、先に読み込ませる準備を進める。
VSeeFaceというアプリを使ってみることにした。
対応しているVRMの形式で書き出し、引き出しからWebカメラを出す。通話用に買ったものだが、最近はマイクだけで済ませていたので、机の上へ置くのは久しぶりだ。
カメラの入力を選び、モデルを読み込ませる。
画面にルゼが出てきた。
顔を横へ向けると、向こうも同じように動く。髪が遅れて揺れ、正面へ戻すと肩の辺りへ落ち着いた。
何となく楽しくなって、しばらく首を左右へ動かしてしまう。
しかし、喋っても口が動いていない。
「あー……。これ、口は別の動作なのか」
設定の説明へ戻り、口の形を登録するところを確かめる。
元のモデルには、母音に合わせた形が入っている。それを配信用のデータへ割り当てる作業が抜けていた。
該当するところを直して書き出し、もう一度読み込ませた。
今度は声に合わせて口が開く。
同じ音を何度か出し、大きく開いた時と小さく動く時を見比べる。ルゼがこちらへ向かって喋っているようで、見ているうちに笑ってしまった。
次に笑顔を切り替えるキーを設定し、そのまま瞬きをする。
目の端が、不自然に潰れた。
笑った顔で瞼を下げ、そこへ目を閉じる動きが重なっている。片方ずつなら問題なく見えていたが、同時に使うと形が崩れるらしい。
元のデータへ戻り、2つを重ねた状態で確かめる。
笑顔で動かす範囲を見直し、目の端を引っ張りすぎているところを直した。頬の形まで変えてしまうと笑顔そのものが違ってくるので、正面と横から見ながら調整する。
再び読み込ませ、同じキーを押して瞬きをした。
今度は目が閉じて、笑った顔へ戻る。
口も動かしてみると、八重歯の見える範囲が少し気になった。そこも直したくなったが、今日はハルトの方へ進みたい。
気になる箇所をメモへ加えて、目と髪の動きを確かめる。
視線を端へ動かした時に瞳が寄りすぎないか。首を傾けた時に髪が顔を通らないか。作業画面とアプリを行き来し、設定を変えたところを順に試した。
昨日は説明を読みながら、先に何を済ませるべきか考えていた。今日は必要な設定をまとめておけるので、1つ直すたびに最初から探し直さずに済む。
PC操作も上げておいてよかった。
昼前には、配信用の画面へルゼを入れられるようになった。
OBSへ取り込み、背景を透過させる。普段の配信で見ているように、ゲームの画面の隅へモデルを置いてみた。
顔が小さくなっても、目元と髪の色でルゼだと分かる。喋ると口が動き、黙るとそのままこちらを向いている。
昨日遊んだゲームも起動し、両方を動かして録画する。
通路を歩いている間に顔を動かし、表情のキーも押してみた。操作に気を取られると、ルゼの顔まで妙に真剣になる。
録画を見直した時には、それがおかしかった。
「ゲームやってる時、俺こんな顔してるのか」
モデルの顔なのに、自分が見ていた方向や、喋る前に口を開いたところまで分かる。ハルトの配信でも、こんなふうに表情がつくなら面白そうだ。
動きが大きく止まるところはなく、録った声と口の動きも確かめられた。
短い確認動画を作って、ハルトへ送る。
ナオ:普段の配信用にも使える形を試してみました。ルゼで確認した動画です。Webカメラで顔と口を動かしています。
ハルト:見ました! 普通に配信の画面ですね。髪も動くんだ。
ナオ:専用モデルも、この形で書き出すところまで試す予定です。ハルトさんのパソコンでも動かして確認したいので、試したデータを後で送ります。
ハルト:お願いします。俺もアプリ入れてみます。昨日、ぶいちゃの方も少し触りましたよ。
話を聞くと、最初は操作を覚えるだけでしばらく使ったらしい。鏡のある場所まで行き、標準のアバターで手を振ってきたそうだ。
ハルト:人が歩いてるだけで、何か面白かったです。自分のキャラで行けたら楽しそう。
導入の説明を添え、確認用のデータを送る。返事を読み直すと、早く本人のモデルも作って見せたくなった。
ただ、昼飯もまだだった。
いったん画面を閉じ、冷蔵庫から食材を出した。
飯を食べ終えた後は、先に受けている編集を進める。昨日届いた素材を確認し、明日送る分まで作ってから、プログラミングの方へ移った。
今欲しいのは、配布するデータをまとめる道具だ。
書き出したモデル、説明書、紹介用の画像を、毎回それぞれの場所からコピーしている。コムギを作った時にも、説明書だけ前のものを開きかけた。
必要なファイルの一覧を決め、それをもとに1つのフォルダへ集められれば楽になる。
作り方を調べ、ファイルを扱う短いコードを読んでいく。
どこから名前を受け取り、何を順番に繰り返しているのか。説明と見比べると、コードの中でやっていることが追えた。
最初から全部を一緒に作ろうとせず、まず指定したファイルを別の場所へコピーするところを試す。それが動いてから、一覧を読む部分と、足りないものを知らせる部分を足した。
確認用のデータで動かすと、指定した場所にフォルダができる。
その中へ、モデルと説明書、画像が順に入った。
次は必要なファイルを1つ、元のフォルダから一時的に外した状態で試す。途中で何が足りないのか表示されるので、気づかず配布するところまで進むことも減らせそうだった。
同じ名前のフォルダがある時の動きも確かめ、古いものへ勝手に重ねないようにした。
もう一度試してから、コムギのデータをまとめる。
出来上がったフォルダを開くと、ファイルが揃っていた。以前と同じように中身は確認するが、コピーするたびに別の場所へ移動する手間はなくなる。
「これ、次から使えるな」
コムギの後にもモデルは作るし、ハルトの分もまとめることになる。必要なものの一覧を用意すれば、同じ道具を使えた。
自分で欲しいと思ったものが、その日のうちに動いている。
お気に入りへ入れてから、ずっと買わずにいた技能だ。仕事にできるものを考える前に、自分の手間を減らすだけでも使い道はあった。
保存して、外へ歩きに出る。
戻ってから日曜のデイリーを受け取ると、残高は4SPになった。昨日はほとんど使い切ったが、また少しずつ貯まっていく。
夕飯の後、ハルトから返事が届いた。
ハルト:こっちでも動きました。最初、カメラの選択間違えてたんですけど、直したら顔も動きましたし、OBSにも入れられました。
ナオ:よかったです。専用モデルの方も作り始めます。大まかな形ができたら、また見てもらえれば。
ハルト:楽しみにしてます! 資料で分からないところあったら聞いてください。
これで、作った後に使ってもらうところまで想像できた。
作業画面へ戻り、ハルトのキャラクター資料を隣へ並べる。
最初に顔と身体の大まかな形を作った。
ルゼとコムギは、自分の好きな見た目へ変えながら進めている。今度は、資料にある姿を立体で見た時にも、それらしく見えるようにしたい。
正面からの輪郭を合わせ、横へ回して厚みをつける。髪の大きな束を置くと、顔だけだった時より、見慣れた姿へ近づいた。
目と口の位置を調整し、少し離して全身を見る。
頭だけを見ていると気づきにくいが、肩との釣り合いで印象が変わる。身体の方も合わせてから顔へ戻ると、目元を細かく触る前に直したい場所が分かった。
カーソルを動かし、向きを変えて確かめる。
こう作れば横顔が繋がる。この辺りを細かく分けておけば、口を動かす時に調整しやすい。実際に試したことと、これから動かす形が、前より一緒に考えられた。
髪を整えたところで、資料と並べて画像を撮る。
服はまだ大まかな形だけだ。それでも、顔と髪、身体が揃うと、誰を作っているのかは分かるようになった。
ハルトへ送るための画像を保存し、時計を見る。
もう少しやれば、服の襟も作れそうだった。
ただ、そこを始めると袖まで気になる。今日はここで保存して、本人に顔の印象を見てもらおう。
確認してほしい部分を短く添え、画像を送った。
隣の画面には、編集途中のハルトの動画が開いている。いつものキャラクターが喋っているその横に、今作った立体の顔があった。
昨日は、同じ声を聞きながらゲームで走り回っていた。
今度はこの姿で、一緒に歩けるようになる。
もう一度だけ横顔を確かめてから、データを閉じた。