スキル制ステータスで現代をお気楽に過ご……したい   作:逆鯖

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売り込み先

 

 

 

 手に職をつけると決めた翌日、帰宅してシステムを開くと、昨日より少し多くの報酬が待っていた。

 

 デイリーの運動とスキル使用は、今日も工場で達成済み。それに加えて、ウィークリーの運動時間が600分を超えている。

 

 昨日と今日の勤務で、条件を満たしたらしい。

 

 

【Weekly】

 

・累計600分以上、身体を動かす

 [達成] 報酬:3SP

 

 

「こっちも終わったか。仕事行って給料と別にポイントもらえるの、普通にお得だな」

 

 まとめて受け取ると、所持SPが0から5へ増える。

 

 週の運動課題はこれで両方終わりだ。明日も工場へ行くが、同じ報酬をもう一度もらえるわけではないのが残念なところ。

 

 少し惜しい気もするものの、毎日の2ポイントは残っている。それに、自炊まで済ませれば今日は6ポイントになる。

 

 画面を閉じ、冷蔵庫から昨日の残りを取り出す。

 

 卵とウィンナー、それから少し余っていたご飯。昨日と同じものを食べるのも味気ないので、まとめて炒めてしまうことにした。

 

 《料理》を買ってから、実際に作るのはこれが初めてだ。

 

 特別なものを用意したわけではないが、始めてみると違いはすぐに分かった。包丁を置いてから調味料を探したり、火をつけた後に皿がないことに気づいたりすることがない。

 

 何を先に用意しておけばいいのか、手を動かす前から大体まとまっていた。

 

 炒めている途中も、昨日までより様子を見やすい。卵が固まっていくのを眺めながら、ご飯を加え、塊をほぐしていく。

 

 味を確かめて、調味料を少しだけ足す。そしてもう一度味を確かめ、程よい塩味となり思わず頷いてしまった。

 

「いいじゃん、いいじゃん。いつもだと足しすぎるか、薄いまま諦めるんだけどな」

 

 皿へ移したところで、デイリー達成の通知が出る。

 

 1SPを受け取って、所持SPは6。ウィークリーの自炊も2/3まで進んでいる。明日もう1食作れば、そちらも終わり。

 

 椅子に座って食べてみると、盛り付けにも影響が出ているのか見た目も良い、何より味がちょうど良い。店で出てくるものとは違うが、自分で適当に作った夕飯としては、かなり満足できる出来である。

 

 これが1ポイントで手に入るなら、やはり安いな。

 

 最後まで食べ終えて皿を片づけると、今度はスキルの画面を開く。

 

 今日やることは、既に決めてある。

 

 昨日作ったサンプルを使って、編集の仕事へ応募する。そのために使うなら、まず上げるべきなのはこの辺りだろう。

 

 

《商売上手 Lv:1 → Lv:2》

消費SP:2

 

《話術 Lv:1 → Lv:2》

消費SP:2

 

 

 条件を考えることと、それを相手へ伝えること。昨日もプロフィールを作る時に多少は役立ったが、これからは実際にやり取りする相手がいる。

 

 残り2ポイントは、少し考えてから《料理》へ入れることに。

 

「毎日使うんだし、こっちも上げとくか。飯がうまくなる分には、いくらあっても困らんし」

 

 レベル2へ強化すると、今日も所持SPが0になる。

 

 料理だけはまた食べた後になってしまったが、明日から使えばいい。どうせ、これから何度も作ることになる。

 

 システムを閉じ、パソコンの前へ座り直す。

 

 最初に開いたのは、昨日保存しておいたレビュー系投稿者の募集のページだ。

 

 改めて動画を見ると、やはり話は面白い。編集で手伝えそうなところもある。ただ、最初から長い動画を受けると、自分にどれだけ時間が掛かるのか、まだ少し読めなかった。

 

 昨日作ったのは50秒ほどのサンプルだけだ。素材を見る時間も、依頼者に確認してもらう時間も、修正に掛かる手間も含めて、まずは短いもので確かめたい。

 

 その募集は候補に残し、今度はショート動画の編集者を探している投稿を中心に見ていく。

 

 気になる相手は何人かいたが、最初から片っ端に声をかけるつもりはない。仕事が取れた後、やり取りだけで夜が終わるようになっても困る。

 

 付き合う相手は、まず2~3人くらい。その中でも、今日は1人へ送ってみる。

 

 そう考えて候補を絞っているうちに、ある募集で手が止まった。

 

 

【配信の切り抜きショートを作ってくださる編集者さんを探しています。

 

 ゲーム・雑談が中心です。

 まずは少数でお願いして、方向性が合えば継続も考えています。

 

 サンプルや過去の制作物を添えて、DMからご連絡ください。】

 

 

 投稿者は、東雲ハルトという男性VTuber。

 

 チャンネル登録者は約1万8000人。活動を始めてから2年以上経っているらしく、配信履歴もかなりの数がある。

 

 ゲームと雑談が中心で、週に4~5回ほど配信していた。固定で見に来ている人もいるようで、コメントとのやり取りも慣れている。

 

 その一方で、ショート動画の数は随分と少ない。

 

 プロフィールから辿った案内には、応募用のサンプルであれば、公開アーカイブを使って構わないと書かれている。ただし、確認前に投稿しないでほしいとのこと。

 

「配信は結構やってんだな。切り抜くものには困らなさそうだけど、これ全部見るのはめんどいな……」

 

 1回の配信が長いものでは数時間ある。

 

 編集そのものより、使う場面を探す方に時間が掛かる可能性もありそうだった。その辺りは依頼を受ける前に、ちゃんと聞いておいた方がいい。

 

 まずは最近の配信を開き、少しずつ場所を変えながら見ていく。

 

 話し方は気さくだ。ゲームを進めるだけでなく、失敗すれば言い訳もするし、コメントに突っ込まれればそちらにも返す。

 

 そのやり取りが面白くて、営業先を調べているつもりが、しばらく普通に見てしまう。

 

 以前遊んだことのあるアクションゲームの配信を開いた時、ちょうどボスへ挑むところから始まった。

 

『もう分かったわ。こいつ動き大きいだけ、避けるタイミングさえ覚えたら普通にいける。次で終わりにしまーす』

 

 画面の中で、ハルトの操作するキャラクターが武器を構える。

 

 その場所に少し嫌な覚えがあった。

 

 敵の攻撃だけでなく、足場にも気をつけなければならない。余裕ができたと思った頃に限って、避けた先へ床がなかったりする。

 

 案の定、ハルトは最初の攻撃を綺麗に避けた。

 

 そして、そのまま画面の下へ落ちていく。

 

 声が止まり、死亡を知らせる文字だけが出る。配信画面の端では、笑っているコメントが流れていく。

 

『……いや、ボスの避け方は分かったんだよ。今のは床の問題でしょ。ボスには勝ってたから、実質勝ちよ勝ち』

 

 思わず笑う。

 

「いや、実質も何も負けてんだろ。せめて1発くらい殴ってから言えよ」

 

 少し前へ戻して、もう一度見る。

 

 自信満々に宣言してから落ちるまで、長い説明はいらない。初めて見た人でも、何が起きたのか分かる場面だ。

 

 字幕や演出で無理に笑わせようとしなくても、本人だけで綺麗に終わっている。

 

「これなら作りやすそうだな。見本はここにしようか」

 

 元配信のURLと時間を控え、必要な部分を確認用の素材として用意する。

 

 今回は昨日のような紹介映像ではなく、喋りのある切り抜きだ。縦長の画面へどう収めるかも含めて、少し調べるところから始めた。

 

 

 最初に困ったのは、画面の配置だ。

 

 横長の配信画面をそのまま縦へ切ると、ゲームの様子とハルトの姿が両方は収まらない。かといって全部を小さく入れると、スマホで見た時に肝心の落下が分かりづらくなる。

 

 いくつかの作例を見比べ、上にはハルト、下にはゲーム画面を置いてみる。

 

 それだけでは間が広く感じたので、字幕を入れる位置も調整する。ゲームの邪魔にならず、誰が喋っているのかも分かる辺りへまとめると、ようやく落ち着いた見た目になる。

 

 配色は本人の配信画面に寄せる。普段使っている色を無視して、自分の好きな見た目に変えてしまう必要はない。

 

 次は、前後の会話を整理してしまおう。

 

 ボスへ入るまでの長い準備は省き、勝てると宣言しているところから始める。ただ、その直後にいきなり落とすと、何を避けたのかが少し分かりづらく感じてしまう。

 

 ゲームの動きが見える時間は残し、字幕が追いつく程度に間を整える。

 

 何度か通して見るうちに、切ってはいけないところも分かってくる。

 

 落ちた直後の無言だ。

 

「ここ詰めたら、逆に微妙になるな。黙ってる時間が面白いんだし」

 

 昨日は、間を減らすことばかり気にしていた。

 

 今回は、その間を少し残した方がいい。ハルトが何を言ってごまかすのか、見ている方も待てるくらいの長さにしておく。

 

 余計なBGMは足さず、元のゲーム音と声を中心にまとめていく。死亡表示のところへ短い効果音を添えてみたが、大きすぎて本人の反応を邪魔したので、音量を下げる。

 

 字幕も全部を派手にするのではなく、最初の自信満々な宣言と、最後の言い訳を少し目立たせる程度に。

 

 試しに「ボスには勝ってた」という発言の下へ、敵の体力が減っていないところを拡大して置く。

 

 再生し、口元に手をやって何かが違うと考え込む。

 

「……いや、そこまでやるとくどいか。本人の言い訳だけで十分だな」

 

 面白いとは思ったが、見本から何でも詰め込む必要はない。拡大を消して見直すと、流れがすっきりした。

 

 どうにか笑わせたいというより、元から面白いところを見やすくする。それくらいの方が、今の自分にも合っていそうだ。

 

 完成したサンプルは40秒ほど。

 

 書き出したものをスマホへ移し、実際の画面の大きさでも確認する。文字が小さすぎないか、切り替わりが忙しくないか、声を聞かなくても大筋が伝わるか。

 

 直せそうなところを少し調整して、もう一度書き出す。

 

 昨日より、操作に迷う時間は減っている。調べ直したのは縦動画特有の配置や出力設定くらいで、カットや字幕の扱いは、まだ頭で覚えている。

 

 それでも、知らないことまで勝手にできるわけではない。分からないところだけ調べながら進められる分、余計な遠回りをせずに済んでいる感じだった。

 

 マンスリーを確認すると、成果物の進捗が2/3へ増えていた。

 

「営業用でも数えてくれるんだな。あと1本なら、こっちも割とすぐ終わりそうだ」

 

 報酬はまだもらえないので、そのまま閉じる。

 

 今日作ったものは、公開せず確認用にしておいた。昨日の紹介映像と合わせれば、少なくとも2種類の作り方は見せられる。

 

 あとは、条件をどう伝えるかだった。

 

 料金は、他の出品や募集を見ながら考えた。

 

 同じショート編集でも、素材を切って字幕をつけるだけのものと、配信全体から見どころを探すものでは、やることが違う。

 

 今回のように数時間のアーカイブを眺めるところから始めるなら、その時間も仕事に入れることにする。編集した40秒だけを見て値段をつけると、後で自分が困りそうだ。

 

 最初は、使う場所の候補を教えてもらう形がよさそうだな。

 

 そこから短くまとめて、字幕や音を整える。毎回まったく違う演出を作るのではなく、同じ相手なら見た目や文字のルールも揃えられるからある程度は決めておく。

 

「通常で1本2000円くらいか。まず2本やって、どれだけ掛かるか見たいな」

 

 最初だけは、2本で3000円。

 

 実績がない分、試してもらいやすくするつもりだった。ただ、これ以上は下げない。作ったものを投稿に使ってもらうなら、そこは仕事として受けたかった。

 

 今日の1本は営業のための見本だ。

 

 その後までずっと無料で作り続けていては、何のために始めたのか分からなくなる。

 

 メモへ金額と条件を書き、もう一度見直す。

 

 短い動画2本。切り抜く候補の時間を指定してもらい、そこから内容を整える。修正は各1回を基本にして、大きく方向が変わる時は相談する。

 

 今の自分なら何でもできる、と書く気にはならなかった。今日も配置に迷ったし、作例を見なければ分からないところはある。

 

 作れる範囲を伝えて、合う仕事を受ければいい。

 

 

 ひとまず条件を固めたところで、ハルトへのDMを開く。

 

 最初に書いた文面は、少し長くなった。挨拶から料金の説明まで全部入れると、動画を見る前に読むのが面倒そうだったので、半分ほど消す。

 

 先に見てほしいのは、出来上がったサンプルだ。

 

 

『はじめまして。動画編集をしているナオと申します。切り抜きショートの編集者募集を拝見し、ご連絡しました。

 

 募集のご案内に沿って、公開アーカイブから確認用のサンプルを作成しました。一般公開はしていません。

 

 方向性が合いそうでしたら、まずは少数からお受けできればと思っています。お手すきの際にご確認いただけますと幸いです。』

 

 

 確認用のURLと、昨日作ったサンプルを載せているページを添える。

 

 送信前にもう一度読み直したが、変なところはなさそうだった。

 

「まあ、これで駄目なら次考えるか。送らなきゃ始まらんし」

 

 送信する。

 

 それだけのことなのに、押した直後は少し落ち着かなくなった。

 

 昨日までは、自分の動画を勝手にネットへ置いただけだ。今回は相手を決めて、金を払ってもらう前提で声をかけている。

 

 顔を合わせているわけでもないのに、妙にちゃんと営業した気がする。

 

 何度も画面を開いていても仕方がないので、いったん別のタブへ移る。

 

 残しておいた募集のうち、もう2人だけ候補のメモをする。今日はまだ送らず、どんな動画を出しているかを見るだけだ。

 

 もし営業して同時に返事が来た時、自分が何本なら受けられるのかも分かっていない。焦って増やすより、最初の仕事で手間を確かめた方が良いという判断。

 

 その後は、サンプルで使った字幕の設定を保存する。

 

 相手ごとに色や配置は変えるとしても、毎回同じ操作を最初からやり直す必要はない。次に使う時、何を作ったか分かるよう名前をつけておく。

 

 そうしているうちに、通知が来た。

 

 返信はハルトからである。

 

 思ったより早かったので、直人は手元の作業を止めて文面を開く。

 

『ご連絡ありがとうございます。サンプル拝見しました。字幕も見やすくて、すごく分かりやすかったです。

 

 ただ、よりによってあの場面を選ぶんですね……笑』

 

 最後の一文を見て、少し笑う。

 

 怒っている感じではない。少なくとも、動画自体は見てもらえたようだ。

 

『ありがとうございます。前後の配信を見ていなくても流れが伝わる場面だったので、サンプルに向いていると思いました。最後の言い訳まで綺麗につながっていたので』

 

 送ってから、褒めているのか何なのか分からない文面になったことに気づく。

 

 しばらくして、また返信が届いた。

 

『そこまで言われると何も返せないです。あの後もずっとコメントで言われてました。

 

 編集の方向性は好きなので、まず2本ほどお願いできますか? 実際に投稿してみて、自分の配信に合うかと視聴者の反応を見たいです』

 

 直人は、もう一度その文章を読んだ。

 

 お願いできますか、と書いてある。

 

 まだ金額も全部は伝えていないので確定ではないが、少なくとも、頼んでみようとは思ってもらえたらしい。

 

「お、話は通ったか。ちゃんと見せるもんあると違うな」

 

 すぐに了承だけ返しそうになって、メモしていた条件を開く。

 

 先に確認しておかなければ、後から言いづらくなる。相手も試したいという話なのだから、この段階で互いに分かるようにしておけばよかった。

 

『2本で大丈夫です。通常は1本2000円を考えていますが、今回は初回の試作として、2本で3000円でお受けできます。

 

 30~60秒ほどのショートで、カット、字幕、BGMや効果音、簡単な演出まで含めた形です。切り抜き候補の箇所をいくつか教えていただくことは可能でしょうか』

 

 ここまで送ってから、直人は飲み物を取りに立った。

 

 返信が来ているか気になるが、ずっと画面に張りついているのも落ち着かない。冷蔵庫から取り出したお茶を一口飲んで戻ると、ちょうど新しいメッセージが届いていた。

 

『候補の時間は送れます。使ってみたいところが何か所かあるので、その中から短くまとめやすい場面を選んでもらえれば。

 

 自分で編集していた時は、どこまで残すか迷って、結局長くなってしまっていたので』

 

 それなら、今日の営業サンプルより素材を探す時間は短く済みそうだ。

 

 ただ、候補があることと、そのままショートになることは別だ。前後の話を見なければ、何が面白いのか分からない場合もある。

 

 その辺りは確認してから選ぶと伝える。

 

『候補を3~4か所いただければ、前後を確認して2本にまとめます。時間を指定いただいた場所でも、短くすると意味が変わりそうな場合は、一度ご相談します』

 

『助かります。それならお願いしたいです。

 

 最終的には毎日2本くらい投稿できたらと思ってるんですが、まずは今回の2本を見てから、継続の相談でも大丈夫ですか?』

 

 毎日2本なら、1週間で14本になる。

 

 頭の中で本数を計算する。短い動画でも、毎日自分で探して作って投稿するとなれば、配信と一緒に続けるのは大変そうだ。

 

 まとめて素材をもらい、同じ形で作れるなら、こちらにもやりやすい部分はある。

 

 ただ、まだ実際の依頼は1本も終えていない。いきなりその本数で約束するより、今は2本でちょうどよいだろう。

 

『もちろん大丈夫です。こちらも最初の2本で、字幕や演出の好みと、作業に必要な時間を確認したいので。

 

 継続する場合の本数や納品方法は、今回のものを見てから相談しましょう』

 

 返ってきたのは、了承とお礼だった。

 

 この時点で、相手も無理に本数を押しつけてくるつもりはなさそうだと分かり、少し気が楽になる。

 

 頼まれた分をきちんとやるのは構わない。ただ、その分を曖昧にしたまま仕事を増やされるのは困るというか嫌である。

 

 その後は、字幕や演出の方向性を確認していく。

 

 ハルトは、サンプルくらいの見やすさで問題ないらしい。ただ、叫んでいるところへさらに大きな効果音を重ねるような編集は、あまり好みではないとのこと。

 

『元の声がうるさいので、そこへ音を足すと本当にうるさくなるんですよね。自分で見返して、音量下げることがあるので』

 

『声の方を優先して、効果音は控えめにします。BGMも元のゲーム音と重なる場合は、無理に足さない形で考えています』

 

 その辺りは、自分と同じ感覚だ。

 

 字幕の色や雰囲気は、今の配信画面に寄せてほしいという。文字を動かし続けるような派手さより、話が追いやすい方がよさそうな印象を受ける。

 

 希望を聞きながらメモへまとめていくと、何を作ればいいのかが少しずつはっきりしてきた。

 

 自分がいいと思ったものを作るだけではなく、相手の欲しい形へ合わせる。

 

 そう考えると、同じ編集でも、昨日のサンプルとは少し違う緊張感が出てくる。

 

『納期はどれくらいになりそうでしょうか。急ぎではないんですが、投稿する日だけ先に考えておきたくて』

 

 直人は、今日のサンプルに掛かった時間を思い返す。

 

 素材を探した時間まで含めれば、それなりに使っている。ただ、編集の形が決まり、使う場所も絞られているなら、次はもう少し早くできそうでもある。

 

 とはいえ、それを理由に今夜中と答える必要もない。修正や、まだ触ったことのない操作で手が止まることも考えておきたい。

 

『素材と編集方針が揃ってから、2~3日で初稿をお送りします。作業が早く終われば、その時点でご確認いただけるようにします。

 

 修正は各動画1回を基本に、ご希望をまとめていただければと思います。こちらの誤字や編集ミスは別で直します』

 

『2~3日なら助かります。自分だと配信が終わった後にやろうとして、そのまま何日も放置してしまうので……。

 

 修正についても大丈夫です。支払いはどうしましょう?』

 

 代金は、2本とも納品して確認してもらってから、まとめて3000円。

 

 そう伝えると、ハルトも了承した。投稿後の再生数が出るまで待つ、といった話ではなく、まずは編集の仕事として支払う形になる。

 

 そのうえで、本人の感触や視聴者の反応を見て、継続するか考える。

 

 条件が一通り揃ったところで、直人は内容をまとめ直して送る。

 

 

【初回トライアル】

 

内容:切り抜きショート2本

完成尺:各30~60秒程度

料金:2本で3000円

 

編集:カット、字幕、BGM・効果音、簡単な演出

素材:指定された候補箇所から選定

修正:各1回を基本

初稿:素材・方針の確認後、2~3日

支払い:2本の納品・確認後

 

継続については、今回の投稿後に別途相談。

 

 

 書いてみると、随分と仕事らしく見えてきた。

 

 今まで会社から渡される側だった条件を、自分で考えて相手と決めている。そのことに少しむずがゆさを覚えながら、間違いがないか確認をお願いする。

 

 ハルトから問題ないという返事が帰ってきた。

 

『では、この内容でお願いします。候補の配信URLと時間を送りますね。

 

 返信時間はプロフィールに書いてあったもので大丈夫です。夜中に送ることもあるかもしれませんが、返事は対応できる時間で構いません』

 

 その一文は、料金の話と同じくらいありがたい。

 

 趣味の連絡と仕事の連絡を分けるために、わざわざアカウントを作っている。最初からそこを読んでもらえているなら、余計な説明をせずに済む。

 

『ありがとうございます。確認できる時間に順番に返信します。今回の2本、よろしくお願いします』

 

 送信してから、力を抜き背もたれへ体重をかける。

 

 話がまとまった。

 

 まだ作ってもいなければ、代金が入ったわけでもない。それでも、3000円を払って頼もうという相手ができたのだ。

 

「……ほんとに取れたな、仕事」

 

 口に出すと、少しだけ実感が湧いてくる。

 

 昨日、スキルへポイントを入れた時には、ここまでの形はまだ見えていなかった。とりあえずサンプルを作れば何かできるだろう、と考えていただけだ。

 

 今はそのサンプルを見た相手から、次の2本を頼まれている。

 

 金額そのものは、今の仕事を辞められるほど大きくない。営業用の動画を作った時間まで入れれば、飛びつくほど割のいい仕事でもないのかもしれなかった。

 

 ただ、同じ相手から続けて頼まれるようになれば、毎回最初から説明したり、見本を作ったりする必要はなくなる。

 

 そのためにも、まずは今回の2本だ。

 

 しばらくして、ハルトから素材の案内が届く。

 

 配信のURLと、候補となる時間が4つ。それぞれに、どんな場面だったか短い説明も添えられている。

 

 今日のサンプルで使った配信とは別の、最近のものばかり。

 

 最初の候補を開くと、ハルトがホラーゲームを進めていた。

 

 扉を開ける前から随分と警戒していて、画面の端を何度も確かめている。そこまで怖がらなくても、と思った直後、後ろから音が鳴って盛大に声を上げている。

 

『いや、前だろ普通! 何で後ろなんだよ、こっちは前の扉に全部意識いってたんだけど!?』

 

 思わず口元を緩め、少し前へ戻す。

 

 扉へ向かって延々と話しかけているところを全部残す必要はないが、警戒している様子は見せた方がいい。その後ろで音が鳴るから、反応も分かりやすくなる。

 

 別の候補では、協力ゲームの説明中に妙な言い間違いをして、本人だけがしばらく気づいていない姿が映っている。

 

 コメントに指摘された後の取り繕い方まで含めて、こちらも短くまとまりそうだった。

 

「自分で候補に入れるくらいだし、使っていいんだよな。だったら、この2つかなぁ」

 

 他の候補も最後まで見てから、前後の流れをメモへ書く。

 

 素材を見る前は、仕事として面白いところを探すのは大変そうだと思っていた。しかし、こうして反応の分かりやすい場面を渡されると、どう見せればいいか考えるのは意外と楽しい。

 

 勢いのまま編集を始めかけて、先に時計を確認する。

 

 今日は既に見本を1本作り、条件の相談まで終えている。ここからもう1本完成させようとすれば、また寝るのが遅くなりそうである。

 

 納期には余裕を持たせてある。今夜全部やる必要はない。

 

 選んだ2か所と、大まかな方向性だけハルトへ返信しておく。

 

『確認しました。ホラーゲームの扉前と、協力ゲームで説明されていた場面の2本で進めたいと思います。どちらも、反応の前に必要な流れが伝わるようにまとめる予定です』

 

 返事は、程なく届いた。

 

『大丈夫です。今回も綺麗に失敗してるところばっかりですね……。よろしくお願いします』

 

 画面の前で笑い、少しだけ考えてから返した。

 

『候補がどれも強かったので、選びやすかったです。見やすく仕上げます』

 

 褒めていることには違いない。

 

 たぶん。

 

 最後に作業用のフォルダを2つ作り、素材とメモを分けて入れた。明日帰ってきたら、すぐに始められる状態にしておく。

 

 マンスリーの収入課題は、当然ながら未達成のまま。

 

 所持SPも0。それでも、昨日の0とは少し違って見える。

 

 今日は、自分の作ったものを見て、続きを頼んでくれる相手ができた。

 

「さて、初仕事だな。ちゃんと頼んでよかったと思ってもらわんと」

 

 明日の作業順を確かめてから編集ソフトを閉じた。

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