水曜の夜にハルトから最初の仕事を受けて、今日で4日。日曜の朝、パソコンを開くと、仕事用のフォルダには3人分の名前が並んでいる。
木曜は、夕飯を済ませてから依頼のショート2本に集中。使う場面の候補をもらっているうえ、見た目も営業用のサンプルを基準にできるので、何もないところから作るより随分と楽に進む。
その夜のうちに初稿を送ると、ハルトからは「もうできたんですか」と驚かれる。修正の希望も、叫ぶ場面の字幕を少し控えめにしてほしいという程度だ。
叫び声だけで十分目立つので、文字まで大きくしなくていいらしい。言われて見直すと確かにその通りで、控えめにした方が本人の反応へ目が向く。
金曜には修正版の確認も終わり、2本とも納品。その日のうちに、約束どおり3000円が振り込まれている。
金額だけなら、今の仕事を辞められるほどでもない。営業用の見本を作る時間まで含めれば、飛びつくほど割がいいかも分からない。
それでも、自分で作ったものに金を払ってもらえる。
スキルの説明に売れると書いてあるだけではなく、実際に口座へ金が入るのだから、こちらの方がよほど分かりやすい。何度も数字を確認してしまうくらいには、嬉しいものだ。
ハルトは金曜と土曜に1本ずつ投稿してくれた。
急に何十万回も再生されるようなことはないが、コメントの反応は悪くない。「字幕が見やすい」「この配信見てた」「言い訳まで残ってて草」と、内容を楽しんでもらえている様子も窺える。
その反応と本人の感触を踏まえて、土曜には次の依頼も決まる。
『まずは1週間分、14本でお願いします。毎日2本ずつ出せるように、少しストックを作っておきたくて』
通常料金の1本2000円で、14本なら2万8000円。
試しの2本から、いきなりそれなりの本数になる。ただし、毎日2本というのは向こうの投稿予定だ。こちらまで毎晩、その日の分を作って送る必要はない。
候補をまとめてもらい、数本ずつ先に納品する。その形なら互いに余裕を持てるということで、話はまとまっている。
木曜から土曜の間には、残りの営業候補2人にも連絡を入れた。
最初に見つけたレビュー系の投稿者と、もう1人。こちらもサンプルを見てもらい、内容と納期をすり合わせたうえで、小口の依頼を受けることに。
というわけで、今は3人分の仕事が手元にある。
「……とりあえず営業は止めとくか。今の分がどれくらい掛かるか分かってからだな」
依頼が取れるのは嬉しい。最初の3000円も、次の14本も、数日前には考えていない話だった。
ただ、木曜から土曜まで、帰宅後はほとんどパソコンに向かっている。
編集は面白いし、できることが増えるのも楽しい。とはいえ、工場から帰って飯を作り、寝るまで別の仕事をする生活がしたいわけではない。
仕事を取れることは分かった。次に考えるのは、これをどれだけ楽に終わらせられるかだ。
稼ぎが増えた分だけ自由時間が減るのでは、何のために始めたのか分からなくなる。
ひとまず予定の確認を終え、システムを開く。
所持SPは36。水曜の夜に使い切ってから、こちらも随分と増えている。
木曜から土曜のデイリーは全部回収済みで、これが9SP。工場のない土曜は買い物がてら歩き、運動の分もきちんと取ってある。
ウィークリーの残りは、自炊3食、洗濯、自宅全体の清掃、それからSPを使わずにスキルレベルを上げるという4つ。
自炊は木曜の夕飯で終わり、洗濯と家の掃除も土曜に済ませている。
最後の自然成長だけはどうなるかと思ったが、掃除を進めている途中で《清掃》がレベル2へ上がった。
工場では毎日、部品の仕分けや整理に使う。家でも机に台所、風呂場と出番が多いので、今持っている中では特に使う機会の多いスキルだ。
どのくらいで次へ上がるかは分からないが、SP以外で成長するという説明も、これで確かめられたことになる。
「勝手に育った分で、ポイントまでもらえるんだからな。使うやつは取っとくだけでも得だわ」
レベル2になった《清掃》は、単に今の散らかりを片づけるだけではなく、後から戻しやすい場所を考える時にも便利だ。
何でも奥へしまえば綺麗には見える。けれど、自分の性格を考えると、出し入れが面倒な場所へ置いたものほど、使った後に机へ放置する気がする。
その辺りも込みで、しまい方を考えやすい。
掃除の能力が上がっても、急に几帳面な人間になるわけではないようだ。ずぼらなままでも片づけやすくなるなら、むしろありがたい。
これで最初のウィークリーは7個すべて達成。水曜から残っていた4つの報酬が、合わせて12SPになる。
さらに、マンスリーも2つ終わっている。
成果物3つは、火曜の紹介映像、水曜の営業サンプル、正式に依頼されたショートの1本目で達成。収入の課題も、3000円の入金を確認して完了だ。
こちらが5SPと10SPで、合わせて15。
デイリーの9、ウィークリーの12、マンスリーの15。全部で36ポイントというわけである。
「まとめて終わると結構入るんだな。毎回こうなら楽なんだけど」
もちろん、同じ課題から何度ももらえるわけではない。
マンスリーで残っているのは資格だけだが、何を受けるかも決めていない。今月中に間に合うかも、まずは調べてからになる。
取るなら面白そうなものがいい。ポイントのためだけに何でもいいから受けるというのも、少し違う気がする。
今は、既に貯まっている分だけでも十分使い道がある。
システムの最初の画面には、見慣れない通知も残っている。
【Weeklyミッションが更新されました】
「そういや日曜更新だったな。今週は何やればいいんだか」
日曜0時から土曜23時59分までが、ウィークリーの区切り。
昨日までの課題は達成状況を残して前週分へ移り、今週の7個が新しく並んでいる。運動2、生活3、スキル2という分け方は同じだが、中身は少し違う。
【Weekly】
〈運動〉
・累計300分以上、身体を動かす
[未達成] 報酬:3SP
・8000歩以上歩く
[未達成] 報酬:3SP
〈生活〉
・5食分、自炊する
[未達成] 進捗:0/5 報酬:3SP
・水回りを2か所清掃する
[未達成] 報酬:3SP
・7時間以上睡眠する
[達成] 報酬:3SP
〈スキル〉
・スキルを累計20回以上使用する
[未達成] 報酬:3SP
・異なる3種類以上のスキルを使用する
[未達成] 報酬:3SP
「寝るやつ、もう終わってんじゃん。起きただけで3ポイントはうまいな」
昨夜ベッドへ入ったのは日付が変わってからで、今朝起きたのは8時過ぎ。今週の判定が始まってからの睡眠だけで、条件を満たしているらしい。
報酬を受け取ると、所持SPは39へ増える。
自炊は3食から5食へ増加。その代わり、掃除は家全体ではなく水回り2か所でいい。
スキルの方も、今回は買ったりレベルを上げたりする必要がない。持っているものを使えばいいので、こちらは気づいたら終わっていそうだ。
運動の300分は、明日工場へ行けばかなり進むはず。歩数も仕事中に増えるだろうし、まずは普段どおり過ごせばよさそうだった。
「やることは似たようなもんか。毎週全部違うよりは、このくらいの方が楽だな」
ただ、今日のデイリーは自分で進める必要がある。
仕事へ行かない日は、運動が勝手に終わらない。ずっと部屋でパソコンを触っていれば、そこだけ残ることになる。
工場を辞めれば毎日こうなるのだろうが、その時は散歩でもすればいい。今はひとまず朝飯だ。
画面を閉じ、冷蔵庫から野菜と卵を取り出す。
《料理》がレベル2になってから、作ること自体が以前ほど面倒ではない。先に何を用意すればいいか分かるし、途中で調味料を探して手を止めることも減っている。
味噌汁を温めている間に野菜を炒め、卵焼きも作る。
焼き上がったものから皿へ移していけば、適当に済ませるつもりでも、それなりに朝飯らしい見た目になる。
机へ運んだところで、いつもの通知が出た。
【デイリーミッション達成】
受け取れば、所持SPはちょうど40。
ウィークリーの自炊も1/5へ進んでいる。毎日作るつもりなので、こちらは特に意識する必要もない。
飯を食べながら、保有スキルの画面を開く。
今ある仕事をこなすだけなら、現状でもできなくはない。ただ、編集で迷うことはまだ多いし、試してから戻す作業もそれなりにある。
そこを減らせれば、同じ本数でも使う時間は短くなるはずだ。
「《映像制作》が10で、ほかは5ずつか。これなら結構上げられるな」
まず、《映像制作》をレベル3から4へ。
周りも《デザインセンス》《音楽センス》《PC操作》を、それぞれレベル3にしたい。編集だけ上がっても、別のところで手が止まるなら、まとめて底上げした方が使いやすそうだ。
それから、《商売上手》と《話術》。
実際に依頼を受けてみると、映像を作る以外にも考えることは多い。どこまでが依頼の範囲なのか、どんなものを作ってほしいのか、先に確かめておくことがいくつもある。
曖昧に引き受けて後から揉めるくらいなら、最初の相談をちゃんと済ませた方が楽である。
この6つで35SP。残りは5だ。
《清掃》も今ならレベル3へ上げられる。ただ、こちらは工場でも家でもよく使うし、しばらく自然な成長を見てみてもいい気がする。
少し考えながら卵焼きを口へ運び、もう1つの候補を見る。
「料理も3にしとくか、美味くて損はなしだ」
これでも十分満足できるが、もう1段上がったらどうなるかは気になる。
仕事を楽にするだけでなく、自分の生活も良くしたい。そのために使うなら、飯は分かりやすい。
食べ終えてから、強化する項目を順番に選んでいく。
《映像制作 Lv:3 → Lv:4》
消費SP:10
《デザインセンス Lv:2 → Lv:3》
消費SP:5
《音楽センス Lv:2 → Lv:3》
消費SP:5
《PC操作 Lv:2 → Lv:3》
消費SP:5
《商売上手 Lv:2 → Lv:3》
消費SP:5
《話術 Lv:2 → Lv:3》
消費SP:5
《料理 Lv:2 → Lv:3》
消費SP:5
40ポイントが綺麗になくなる。
今までで一番多く使う買い物だが、最初の清掃ほどのためらいはない。使っていて便利なものを、さらに上げるだけだ。
《映像制作》の目安は、売れるレベルの特技から三流へ変わる。
「三流って、言い方があれだな。上がってんのに微妙な気分になるんだが」
それでも、特技として金になる程度から、職業として扱える技量へ進んだということなのだろう。
いきなり一流になったわけではないし、知らない操作は調べる必要がある。その辺りは、もう何度か使って分かっている。
欲しいのは、頼まれたものを手早く、きちんと形にできる力だ。
派手な演出を増やすより、今の仕事を迷わず進められる方がありがたい。空いた時間を、また全部追加の案件で埋めるつもりもない。
ほかのスキルも、レベル3なら単独で金を取れる水準になる。
デザインや音楽の仕事を別に受けることも、いずれはできるのだろう。今すぐ手を広げる気はないが、選べるものが増えるのは悪くない。
料理まで同じ基準なのは、少し笑える。
「料理は売るつもりないけどな。自分で食うもんが売り物レベルになるなら、普通に嬉しいか」
月曜の時点では、保有スキルは2つだけ。それが今では、仕事に使えるものがいくつも並んでいる。
しかも、実際に報酬を受け取り、次の依頼まで決まっているのだから、表示だけの話でもない。
今のところ、かなりありがたい能力である。
強化を終えてステータスへ戻ると、上の方にまったく動いていない数字が見える。
Lv:1
EXP:0/100
所持SP:0
「……そういや、こっちのレベルはそのままなんだよな」
スキルのレベルはいくつも上がっているのに、通常レベルは月曜から変化なし。
仕事をしたり何かを作ったりしても、経験値は入らない。何で上がるかは最初に確認したはずだが、改めて疑問符を選んでみる。
妖魔・怪異などの討伐で経験値を獲得。レベルが上がれば5SP、節目には追加の報酬もある。
初日に読んだ時は、いきなり何を言っているんだと思った。
ただ、ほかの機能は今のところ、説明どおりに働いている。
「妖魔って、結局なんなんだよ。本当にいるのか、そういうの」
掃除の手際が良くなり、映像を作れるようになる。体を動かせばポイントが入り、今朝は寝ただけでも報酬が出る。
そこまでちゃんと動くシステムが、この項目だけ存在しないものを倒せと言っているのも、何となく変だ。
単に見たことがないだけで、本当にいるのだろうか。
気になって、ネットでも少し調べてみる。
妖怪、幽霊、悪霊。思いつく名前で検索すると、怪談や創作、体験談に心霊写真と、いくらでも出てくる。
ただ、それが本当なのか確かめる方法はない。
写真を見ても、作ろうと思えば作れそうだという感想が先に来る。動画にしても、画面の隅で妙な影が揺れるだけでは、何とも言いづらい。
「システムなかったら、普通に作り物だと思って終わってるな」
自分の目の前にある画面だって、スマホには写らない。
他人へ説明しても、そういう設定の話かと思われるのがせいぜいだろう。そう考えると、証拠を出せないから全部嘘だと切り捨てるのも、今は少しやりづらい。
とはいえ、何でも信じる気にもならないので、先にシステムの方を調べ直す。
スキル一覧で霊に関係するものを探すと、《陰陽術》《退魔術》《呪術》などが並ぶ。
名前には見覚えがある。ただ、何をできるかまでは知らないし、今すぐ使ってみたいというほどでもない。
まずは、そもそも見えるようになるものがあるのか。
そのつもりで眺めていると、《霊能力》が目に留まる。
《霊能力 Lv:1》 ☆
必要SP:5
霊的存在および霊的現象を知覚し、基礎的な干渉を可能とする能力。
※霊的な接続が成立した対象からは、接触・干渉を受ける可能性があります。[?]
「5ポイントなら、そんな高くはないな……って、何か注意書きあるな?」
値段より、その下の一文が気になる。
見えるようになるだけでなく、向こうからも触れるようになるということだろうか。
注意書きの疑問符を選ぶと、霊的な知覚と干渉についての説明が開く。
普段の人間が捉えているものと、霊的存在が属するものとでは、周波数に違いがあるらしい。同じ場所に重なっていても、合っていなければ姿も声も認識できない。
《霊能力》は、そのずれを合わせて知覚できるようにするものだという。
「テレビのチャンネルみたいなもんか。こっちで映してないから、そこにいても見えないと」
何もいないのではなく、そもそも見ているところが違う。
だから、一度も見たことがなくても、存在しないとは限らない。幽霊や妖怪、悪魔といった名前も説明に並んでいて、やはり、いることを前提に話が進んでいる。
ただ、そのずれは不便なだけではないらしい。
霊的存在の側も、自分たちを知覚していない普通の人間へは直接手を出せない。接続が成立していないので、襲おうにもこちらへ届かないという。
見えないままでいること自体が、一種の壁になる。
その壁を、こちらから取り払う能力でもあるわけだ。
「見えるようになったら、向こうからも殴れるようになるってこと? 見るだけにしといてほしいんだが」
こちらからも干渉できるとは書いてある。
とはいえ、触れることと、襲われても対処できることは別だろう。何がいるかも知らないのに、これを買えば安心という話には思えない。
全部が敵というわけではないのかもしれないが、それも今の自分には分からない。
目の前に何か見えて、そいつが話の通じる相手かどうか。そこから確かめることになるのは、少し面倒そうでもある。
買う前に注意書きを読むのは、やはり大事だ。
さらに続きを読むと、周波数のずれも完全に固定されているわけではないらしい。
揺らぎによって、一瞬だけこちらへ近づくことがある。
その瞬間、視界の端に影のようなものが映ったり、輪郭だけを捉えたりする。目を向ける頃にはまた離れていて、確かめようとしても何も見えない。
「さっきの動画みたいなのも、全部が全部作り物とは限らんのか。いや、分かったところで見分けられないけど」
一瞬見えたからといって、いつでも同じものを見られるようになるわけではない。
普段なら、その程度の混線で終わることが多いという。
ただし、場所によっては事情が変わる。
霊的な影響の強い土地は、土地そのものが向こう側へ寄っているらしい。そこへ入ると、本人に能力がなくても、普段より周波数が近づいてしまう。
自分はそのままでも、周りが変わる。
だから、そういう場所では普段見えない人間にも、見えることがあるわけだ。
「心霊スポットって、幽霊がいるかどうかだけじゃないのか。場所自体がそっちに寄ってるってことね」
名前がついている場所すべてが、本当にそうだとは限らないのだろう。
それでも、実際に向こう側へ寄っている土地なら、霊感がないから安全とも言い切れない。見えなければ触られないという前提が、その場所では変わってしまう。
わざわざ確かめに行く理由はないな。
そこまで読んで、何となく部屋の隅を見る。
いつもの壁と家具しか見えない。当然だ。
見えないものの説明を読んだ直後に、見えないかどうか確かめても意味がない。それは分かっていても、少しくらい気にはなってしまう。
「いや、いるかも分からんもん気にしてどうすんだよ。今まで何もなかったんだし、普段はそのままでいいだろ」
椅子へ座り直し、《霊能力》の説明へ目を戻す。
必要なのは5SP。
今は0だが、デイリーを2日分取れば届く。さっき使った40ポイントから残しておくことだってできる金額だ。
手が届かないほど高い能力ではない。
ただ、安いから取っておこうという気にもならない。
妖魔を倒せば経験値が入り、通常レベルが上がればSPがもらえる。
今までとは別の稼ぎ方があるのは、確かに魅力的だ。《豪運》や思考系の能力を狙うにも、ミッションだけを続けるより早くなるかもしれない。
ただ、そのために何をするのか。
まず見えるようにする。それから身を守る手段を用意し、実際に探しに行く。
相手がどんなものかも分からないし、見つけたところで倒せるかも分からない。そもそも、全部を倒していいと考えるのも違うだろう。
必要なことを順番に考えると、普通に手間である。
「工場終わって、動画作って、その後に化け物探し? いや、それはだるいな……」
体も動かすだろうし、知らない相手なら気も張る。
毎回近所で済むとは限らない。何も見つからず、探しただけで終わる日もありそうだ。
仕事が終わってからそれをやり、翌朝はまた工場へ行く。
どう考えても、今より忙しくなる。
金と自由時間を増やしたいのであって、毎日の予定を隙間なく埋めたいわけではない。編集の仕事ですら、受けすぎないように気をつけているところだ。
ハルトの14本に、ほかの2人からの依頼もある。
まずはそれを無理なく回せるようにする。作業時間を減らしながら収入を増やし、工場へ行かなくても困らないくらいになれば、使える時間は随分と違うはずだ。
ほかのことを試すのは、そこからでも遅くない。
「先に生活の余裕だな。仕事で疲れてんのに、さらに体動かしに行くのは勘弁してほしいわ」
妖怪や幽霊に興味がないわけではない。
本当に何かがいるなら見てみたいし、魔術だの陰陽術だのが何をできるのかも気になる。ダンジョンを作るつもりなら、いずれその辺りへ手を出すことにもなるのだろう。
だからこそ、今の生活へ無理にねじ込みたくはない。
明日の出勤時間を気にしながら妖怪を探していても、たぶん楽しくない。せっかくなら、時間を気にせず試せるようになってからの方がいい。
《霊能力》の横にある星を選ぶ。
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「まあ、余裕できてからだな。今はこっちで十分忙しいし」
代わりに開くのは、ハルト用の編集データだ。
最初の2本で使った字幕や配置は残してあるが、次も全部そのままで済むわけではない。文字が長い時や、背景が明るい時に使う形も、いくつか用意しておきたい。
レベルを上げても、設定まで勝手に作られるわけではない。その辺りは自分で手を動かす必要がある。
ただ、前のデータを見ていると、どこを共通にしておけば手間が減るかは考えやすい。毎回調整しているところにも、先に決めておけそうなものがある。
「この辺まとめて作っとけば、次から少し楽になるか」
操作方法が分からない部分だけ調べ、字幕の設定を複製する。明るい場面と暗い場面、それぞれで見やすいものを用意しておけば、毎回色から考えずに済む。
候補の映像も並べ、どの形が使えそうか確かめていく。
夢中になる前に時計を見て、今日は昼までと決める。
午後は買い物がてら歩き、戻ってきたら自分のゲームでもやりたい。休みの日まで、起きている間ずっと仕事では仕方がない。
見えないものを見に行くより、まずはその時間だ。
机の端へ仕事のメモを置き、次の素材を読み込む。
今欲しいのは、5ポイントで買える霊能力より、使って遊べるだけの余裕である。