スキル制ステータスで現代をお気楽に過ご……したい   作:逆鯖

4 / 4
妖魔とは?

 

 

 

 水曜の夜にハルトから最初の仕事を受けて、今日で4日。日曜の朝、パソコンを開くと、仕事用のフォルダには3人分の名前が並んでいる。

 

 木曜は、夕飯を済ませてから依頼のショート2本に集中。使う場面の候補をもらっているうえ、見た目も営業用のサンプルを基準にできるので、何もないところから作るより随分と楽に進む。

 

 その夜のうちに初稿を送ると、ハルトからは「もうできたんですか」と驚かれる。修正の希望も、叫ぶ場面の字幕を少し控えめにしてほしいという程度だ。

 

 叫び声だけで十分目立つので、文字まで大きくしなくていいらしい。言われて見直すと確かにその通りで、控えめにした方が本人の反応へ目が向く。

 

 金曜には修正版の確認も終わり、2本とも納品。その日のうちに、約束どおり3000円が振り込まれている。

 

 金額だけなら、今の仕事を辞められるほどでもない。営業用の見本を作る時間まで含めれば、飛びつくほど割がいいかも分からない。

 

 それでも、自分で作ったものに金を払ってもらえる。

 

 スキルの説明に売れると書いてあるだけではなく、実際に口座へ金が入るのだから、こちらの方がよほど分かりやすい。何度も数字を確認してしまうくらいには、嬉しいものだ。

 

 ハルトは金曜と土曜に1本ずつ投稿してくれた。

 

 急に何十万回も再生されるようなことはないが、コメントの反応は悪くない。「字幕が見やすい」「この配信見てた」「言い訳まで残ってて草」と、内容を楽しんでもらえている様子も窺える。

 

 その反応と本人の感触を踏まえて、土曜には次の依頼も決まる。

 

『まずは1週間分、14本でお願いします。毎日2本ずつ出せるように、少しストックを作っておきたくて』

 

 通常料金の1本2000円で、14本なら2万8000円。

 

 試しの2本から、いきなりそれなりの本数になる。ただし、毎日2本というのは向こうの投稿予定だ。こちらまで毎晩、その日の分を作って送る必要はない。

 

 候補をまとめてもらい、数本ずつ先に納品する。その形なら互いに余裕を持てるということで、話はまとまっている。

 

 木曜から土曜の間には、残りの営業候補2人にも連絡を入れた。

 

 最初に見つけたレビュー系の投稿者と、もう1人。こちらもサンプルを見てもらい、内容と納期をすり合わせたうえで、小口の依頼を受けることに。

 

 というわけで、今は3人分の仕事が手元にある。

 

「……とりあえず営業は止めとくか。今の分がどれくらい掛かるか分かってからだな」

 

 依頼が取れるのは嬉しい。最初の3000円も、次の14本も、数日前には考えていない話だった。

 

 ただ、木曜から土曜まで、帰宅後はほとんどパソコンに向かっている。

 

 編集は面白いし、できることが増えるのも楽しい。とはいえ、工場から帰って飯を作り、寝るまで別の仕事をする生活がしたいわけではない。

 

 仕事を取れることは分かった。次に考えるのは、これをどれだけ楽に終わらせられるかだ。

 

 稼ぎが増えた分だけ自由時間が減るのでは、何のために始めたのか分からなくなる。

 

 ひとまず予定の確認を終え、システムを開く。

 

 所持SPは36。水曜の夜に使い切ってから、こちらも随分と増えている。

 

 木曜から土曜のデイリーは全部回収済みで、これが9SP。工場のない土曜は買い物がてら歩き、運動の分もきちんと取ってある。

 

 ウィークリーの残りは、自炊3食、洗濯、自宅全体の清掃、それからSPを使わずにスキルレベルを上げるという4つ。

 

 自炊は木曜の夕飯で終わり、洗濯と家の掃除も土曜に済ませている。

 

 最後の自然成長だけはどうなるかと思ったが、掃除を進めている途中で《清掃》がレベル2へ上がった。

 

 工場では毎日、部品の仕分けや整理に使う。家でも机に台所、風呂場と出番が多いので、今持っている中では特に使う機会の多いスキルだ。

 

 どのくらいで次へ上がるかは分からないが、SP以外で成長するという説明も、これで確かめられたことになる。

 

「勝手に育った分で、ポイントまでもらえるんだからな。使うやつは取っとくだけでも得だわ」

 

 レベル2になった《清掃》は、単に今の散らかりを片づけるだけではなく、後から戻しやすい場所を考える時にも便利だ。

 

 何でも奥へしまえば綺麗には見える。けれど、自分の性格を考えると、出し入れが面倒な場所へ置いたものほど、使った後に机へ放置する気がする。

 

 その辺りも込みで、しまい方を考えやすい。

 

 掃除の能力が上がっても、急に几帳面な人間になるわけではないようだ。ずぼらなままでも片づけやすくなるなら、むしろありがたい。

 

 これで最初のウィークリーは7個すべて達成。水曜から残っていた4つの報酬が、合わせて12SPになる。

 

 さらに、マンスリーも2つ終わっている。

 

 成果物3つは、火曜の紹介映像、水曜の営業サンプル、正式に依頼されたショートの1本目で達成。収入の課題も、3000円の入金を確認して完了だ。

 

 こちらが5SPと10SPで、合わせて15。

 

 デイリーの9、ウィークリーの12、マンスリーの15。全部で36ポイントというわけである。

 

「まとめて終わると結構入るんだな。毎回こうなら楽なんだけど」

 

 もちろん、同じ課題から何度ももらえるわけではない。

 

 マンスリーで残っているのは資格だけだが、何を受けるかも決めていない。今月中に間に合うかも、まずは調べてからになる。

 

 取るなら面白そうなものがいい。ポイントのためだけに何でもいいから受けるというのも、少し違う気がする。

 

 今は、既に貯まっている分だけでも十分使い道がある。

 

 システムの最初の画面には、見慣れない通知も残っている。

 

 

【Weeklyミッションが更新されました】

 

 

「そういや日曜更新だったな。今週は何やればいいんだか」

 

 日曜0時から土曜23時59分までが、ウィークリーの区切り。

 

 昨日までの課題は達成状況を残して前週分へ移り、今週の7個が新しく並んでいる。運動2、生活3、スキル2という分け方は同じだが、中身は少し違う。

 

 

【Weekly】

 

〈運動〉

・累計300分以上、身体を動かす

 [未達成] 報酬:3SP

 

・8000歩以上歩く

 [未達成] 報酬:3SP

 

〈生活〉

・5食分、自炊する

 [未達成] 進捗:0/5 報酬:3SP

 

・水回りを2か所清掃する

 [未達成] 報酬:3SP

 

・7時間以上睡眠する

 [達成] 報酬:3SP

 

〈スキル〉

・スキルを累計20回以上使用する

 [未達成] 報酬:3SP

 

・異なる3種類以上のスキルを使用する

 [未達成] 報酬:3SP

 

 

「寝るやつ、もう終わってんじゃん。起きただけで3ポイントはうまいな」

 

 昨夜ベッドへ入ったのは日付が変わってからで、今朝起きたのは8時過ぎ。今週の判定が始まってからの睡眠だけで、条件を満たしているらしい。

 

 報酬を受け取ると、所持SPは39へ増える。

 

 自炊は3食から5食へ増加。その代わり、掃除は家全体ではなく水回り2か所でいい。

 

 スキルの方も、今回は買ったりレベルを上げたりする必要がない。持っているものを使えばいいので、こちらは気づいたら終わっていそうだ。

 

 運動の300分は、明日工場へ行けばかなり進むはず。歩数も仕事中に増えるだろうし、まずは普段どおり過ごせばよさそうだった。

 

「やることは似たようなもんか。毎週全部違うよりは、このくらいの方が楽だな」

 

 ただ、今日のデイリーは自分で進める必要がある。

 

 仕事へ行かない日は、運動が勝手に終わらない。ずっと部屋でパソコンを触っていれば、そこだけ残ることになる。

 

 工場を辞めれば毎日こうなるのだろうが、その時は散歩でもすればいい。今はひとまず朝飯だ。

 

 画面を閉じ、冷蔵庫から野菜と卵を取り出す。

 

 《料理》がレベル2になってから、作ること自体が以前ほど面倒ではない。先に何を用意すればいいか分かるし、途中で調味料を探して手を止めることも減っている。

 

 味噌汁を温めている間に野菜を炒め、卵焼きも作る。

 

 焼き上がったものから皿へ移していけば、適当に済ませるつもりでも、それなりに朝飯らしい見た目になる。

 

 机へ運んだところで、いつもの通知が出た。

 

 

【デイリーミッション達成】

 

 

 受け取れば、所持SPはちょうど40。

 

 ウィークリーの自炊も1/5へ進んでいる。毎日作るつもりなので、こちらは特に意識する必要もない。

 

 飯を食べながら、保有スキルの画面を開く。

 

 今ある仕事をこなすだけなら、現状でもできなくはない。ただ、編集で迷うことはまだ多いし、試してから戻す作業もそれなりにある。

 

 そこを減らせれば、同じ本数でも使う時間は短くなるはずだ。

 

「《映像制作》が10で、ほかは5ずつか。これなら結構上げられるな」

 

 まず、《映像制作》をレベル3から4へ。

 

 周りも《デザインセンス》《音楽センス》《PC操作》を、それぞれレベル3にしたい。編集だけ上がっても、別のところで手が止まるなら、まとめて底上げした方が使いやすそうだ。

 

 それから、《商売上手》と《話術》。

 

 実際に依頼を受けてみると、映像を作る以外にも考えることは多い。どこまでが依頼の範囲なのか、どんなものを作ってほしいのか、先に確かめておくことがいくつもある。

 

 曖昧に引き受けて後から揉めるくらいなら、最初の相談をちゃんと済ませた方が楽である。

 

 この6つで35SP。残りは5だ。

 

 《清掃》も今ならレベル3へ上げられる。ただ、こちらは工場でも家でもよく使うし、しばらく自然な成長を見てみてもいい気がする。

 

 少し考えながら卵焼きを口へ運び、もう1つの候補を見る。

 

「料理も3にしとくか、美味くて損はなしだ」

 

 これでも十分満足できるが、もう1段上がったらどうなるかは気になる。

 

 仕事を楽にするだけでなく、自分の生活も良くしたい。そのために使うなら、飯は分かりやすい。

 

 食べ終えてから、強化する項目を順番に選んでいく。

 

 

《映像制作 Lv:3 → Lv:4》

消費SP:10

 

《デザインセンス Lv:2 → Lv:3》

消費SP:5

 

《音楽センス Lv:2 → Lv:3》

消費SP:5

 

《PC操作 Lv:2 → Lv:3》

消費SP:5

 

《商売上手 Lv:2 → Lv:3》

消費SP:5

 

《話術 Lv:2 → Lv:3》

消費SP:5

 

《料理 Lv:2 → Lv:3》

消費SP:5

 

 

 40ポイントが綺麗になくなる。

 

 今までで一番多く使う買い物だが、最初の清掃ほどのためらいはない。使っていて便利なものを、さらに上げるだけだ。

 

 《映像制作》の目安は、売れるレベルの特技から三流へ変わる。

 

「三流って、言い方があれだな。上がってんのに微妙な気分になるんだが」

 

 それでも、特技として金になる程度から、職業として扱える技量へ進んだということなのだろう。

 

 いきなり一流になったわけではないし、知らない操作は調べる必要がある。その辺りは、もう何度か使って分かっている。

 

 欲しいのは、頼まれたものを手早く、きちんと形にできる力だ。

 

 派手な演出を増やすより、今の仕事を迷わず進められる方がありがたい。空いた時間を、また全部追加の案件で埋めるつもりもない。

 

 ほかのスキルも、レベル3なら単独で金を取れる水準になる。

 

 デザインや音楽の仕事を別に受けることも、いずれはできるのだろう。今すぐ手を広げる気はないが、選べるものが増えるのは悪くない。

 

 料理まで同じ基準なのは、少し笑える。

 

「料理は売るつもりないけどな。自分で食うもんが売り物レベルになるなら、普通に嬉しいか」

 

 月曜の時点では、保有スキルは2つだけ。それが今では、仕事に使えるものがいくつも並んでいる。

 

 しかも、実際に報酬を受け取り、次の依頼まで決まっているのだから、表示だけの話でもない。

 

 今のところ、かなりありがたい能力である。

 

 強化を終えてステータスへ戻ると、上の方にまったく動いていない数字が見える。

 

 

Lv:1

EXP:0/100

所持SP:0

 

「……そういや、こっちのレベルはそのままなんだよな」

 

 

 スキルのレベルはいくつも上がっているのに、通常レベルは月曜から変化なし。

 

 仕事をしたり何かを作ったりしても、経験値は入らない。何で上がるかは最初に確認したはずだが、改めて疑問符を選んでみる。

 

 妖魔・怪異などの討伐で経験値を獲得。レベルが上がれば5SP、節目には追加の報酬もある。

 

 初日に読んだ時は、いきなり何を言っているんだと思った。

 

 ただ、ほかの機能は今のところ、説明どおりに働いている。

 

「妖魔って、結局なんなんだよ。本当にいるのか、そういうの」

 

 掃除の手際が良くなり、映像を作れるようになる。体を動かせばポイントが入り、今朝は寝ただけでも報酬が出る。

 

 そこまでちゃんと動くシステムが、この項目だけ存在しないものを倒せと言っているのも、何となく変だ。

 

 単に見たことがないだけで、本当にいるのだろうか。

 

 気になって、ネットでも少し調べてみる。

 

 妖怪、幽霊、悪霊。思いつく名前で検索すると、怪談や創作、体験談に心霊写真と、いくらでも出てくる。

 

 ただ、それが本当なのか確かめる方法はない。

 

 写真を見ても、作ろうと思えば作れそうだという感想が先に来る。動画にしても、画面の隅で妙な影が揺れるだけでは、何とも言いづらい。

 

「システムなかったら、普通に作り物だと思って終わってるな」

 

 自分の目の前にある画面だって、スマホには写らない。

 

 他人へ説明しても、そういう設定の話かと思われるのがせいぜいだろう。そう考えると、証拠を出せないから全部嘘だと切り捨てるのも、今は少しやりづらい。

 

 とはいえ、何でも信じる気にもならないので、先にシステムの方を調べ直す。

 

 スキル一覧で霊に関係するものを探すと、《陰陽術》《退魔術》《呪術》などが並ぶ。

 

 名前には見覚えがある。ただ、何をできるかまでは知らないし、今すぐ使ってみたいというほどでもない。

 

 まずは、そもそも見えるようになるものがあるのか。

 

 そのつもりで眺めていると、《霊能力》が目に留まる。

 

 

《霊能力 Lv:1》 ☆

 

必要SP:5

 

霊的存在および霊的現象を知覚し、基礎的な干渉を可能とする能力。

 

※霊的な接続が成立した対象からは、接触・干渉を受ける可能性があります。[?]

 

 

「5ポイントなら、そんな高くはないな……って、何か注意書きあるな?」

 

 値段より、その下の一文が気になる。

 

 見えるようになるだけでなく、向こうからも触れるようになるということだろうか。

 

 注意書きの疑問符を選ぶと、霊的な知覚と干渉についての説明が開く。

 

 普段の人間が捉えているものと、霊的存在が属するものとでは、周波数に違いがあるらしい。同じ場所に重なっていても、合っていなければ姿も声も認識できない。

 

 《霊能力》は、そのずれを合わせて知覚できるようにするものだという。

 

「テレビのチャンネルみたいなもんか。こっちで映してないから、そこにいても見えないと」

 

 何もいないのではなく、そもそも見ているところが違う。

 

 だから、一度も見たことがなくても、存在しないとは限らない。幽霊や妖怪、悪魔といった名前も説明に並んでいて、やはり、いることを前提に話が進んでいる。

 

 ただ、そのずれは不便なだけではないらしい。

 

 霊的存在の側も、自分たちを知覚していない普通の人間へは直接手を出せない。接続が成立していないので、襲おうにもこちらへ届かないという。

 

 見えないままでいること自体が、一種の壁になる。

 

 その壁を、こちらから取り払う能力でもあるわけだ。

 

「見えるようになったら、向こうからも殴れるようになるってこと? 見るだけにしといてほしいんだが」

 

 こちらからも干渉できるとは書いてある。

 

 とはいえ、触れることと、襲われても対処できることは別だろう。何がいるかも知らないのに、これを買えば安心という話には思えない。

 

 全部が敵というわけではないのかもしれないが、それも今の自分には分からない。

 

 目の前に何か見えて、そいつが話の通じる相手かどうか。そこから確かめることになるのは、少し面倒そうでもある。

 

 買う前に注意書きを読むのは、やはり大事だ。

 

 さらに続きを読むと、周波数のずれも完全に固定されているわけではないらしい。

 

 揺らぎによって、一瞬だけこちらへ近づくことがある。

 

 その瞬間、視界の端に影のようなものが映ったり、輪郭だけを捉えたりする。目を向ける頃にはまた離れていて、確かめようとしても何も見えない。

 

「さっきの動画みたいなのも、全部が全部作り物とは限らんのか。いや、分かったところで見分けられないけど」

 

 一瞬見えたからといって、いつでも同じものを見られるようになるわけではない。

 

 普段なら、その程度の混線で終わることが多いという。

 

 ただし、場所によっては事情が変わる。

 

 霊的な影響の強い土地は、土地そのものが向こう側へ寄っているらしい。そこへ入ると、本人に能力がなくても、普段より周波数が近づいてしまう。

 

 自分はそのままでも、周りが変わる。

 

 だから、そういう場所では普段見えない人間にも、見えることがあるわけだ。

 

「心霊スポットって、幽霊がいるかどうかだけじゃないのか。場所自体がそっちに寄ってるってことね」

 

 名前がついている場所すべてが、本当にそうだとは限らないのだろう。

 

 それでも、実際に向こう側へ寄っている土地なら、霊感がないから安全とも言い切れない。見えなければ触られないという前提が、その場所では変わってしまう。

 

 わざわざ確かめに行く理由はないな。

 

 そこまで読んで、何となく部屋の隅を見る。

 

 いつもの壁と家具しか見えない。当然だ。

 

 見えないものの説明を読んだ直後に、見えないかどうか確かめても意味がない。それは分かっていても、少しくらい気にはなってしまう。

 

「いや、いるかも分からんもん気にしてどうすんだよ。今まで何もなかったんだし、普段はそのままでいいだろ」

 

 椅子へ座り直し、《霊能力》の説明へ目を戻す。

 

 必要なのは5SP。

 

 今は0だが、デイリーを2日分取れば届く。さっき使った40ポイントから残しておくことだってできる金額だ。

 

 手が届かないほど高い能力ではない。

 

 ただ、安いから取っておこうという気にもならない。

 

 妖魔を倒せば経験値が入り、通常レベルが上がればSPがもらえる。

 

 今までとは別の稼ぎ方があるのは、確かに魅力的だ。《豪運》や思考系の能力を狙うにも、ミッションだけを続けるより早くなるかもしれない。

 

 ただ、そのために何をするのか。

 

 まず見えるようにする。それから身を守る手段を用意し、実際に探しに行く。

 

 相手がどんなものかも分からないし、見つけたところで倒せるかも分からない。そもそも、全部を倒していいと考えるのも違うだろう。

 

 必要なことを順番に考えると、普通に手間である。

 

「工場終わって、動画作って、その後に化け物探し? いや、それはだるいな……」

 

 体も動かすだろうし、知らない相手なら気も張る。

 

 毎回近所で済むとは限らない。何も見つからず、探しただけで終わる日もありそうだ。

 

 仕事が終わってからそれをやり、翌朝はまた工場へ行く。

 

 どう考えても、今より忙しくなる。

 

 金と自由時間を増やしたいのであって、毎日の予定を隙間なく埋めたいわけではない。編集の仕事ですら、受けすぎないように気をつけているところだ。

 

 ハルトの14本に、ほかの2人からの依頼もある。

 

 まずはそれを無理なく回せるようにする。作業時間を減らしながら収入を増やし、工場へ行かなくても困らないくらいになれば、使える時間は随分と違うはずだ。

 

 ほかのことを試すのは、そこからでも遅くない。

 

「先に生活の余裕だな。仕事で疲れてんのに、さらに体動かしに行くのは勘弁してほしいわ」

 

 妖怪や幽霊に興味がないわけではない。

 

 本当に何かがいるなら見てみたいし、魔術だの陰陽術だのが何をできるのかも気になる。ダンジョンを作るつもりなら、いずれその辺りへ手を出すことにもなるのだろう。

 

 だからこそ、今の生活へ無理にねじ込みたくはない。

 

 明日の出勤時間を気にしながら妖怪を探していても、たぶん楽しくない。せっかくなら、時間を気にせず試せるようになってからの方がいい。

 

 《霊能力》の横にある星を選ぶ。

 

 お気に入りへ登録されたことを確認して、取得画面を閉じる。

 

「まあ、余裕できてからだな。今はこっちで十分忙しいし」

 

 代わりに開くのは、ハルト用の編集データだ。

 

 最初の2本で使った字幕や配置は残してあるが、次も全部そのままで済むわけではない。文字が長い時や、背景が明るい時に使う形も、いくつか用意しておきたい。

 

 レベルを上げても、設定まで勝手に作られるわけではない。その辺りは自分で手を動かす必要がある。

 

 ただ、前のデータを見ていると、どこを共通にしておけば手間が減るかは考えやすい。毎回調整しているところにも、先に決めておけそうなものがある。

 

「この辺まとめて作っとけば、次から少し楽になるか」

 

 操作方法が分からない部分だけ調べ、字幕の設定を複製する。明るい場面と暗い場面、それぞれで見やすいものを用意しておけば、毎回色から考えずに済む。

 

 候補の映像も並べ、どの形が使えそうか確かめていく。

 

 夢中になる前に時計を見て、今日は昼までと決める。

 

 午後は買い物がてら歩き、戻ってきたら自分のゲームでもやりたい。休みの日まで、起きている間ずっと仕事では仕方がない。

 

 見えないものを見に行くより、まずはその時間だ。

 

 机の端へ仕事のメモを置き、次の素材を読み込む。

 

 今欲しいのは、5ポイントで買える霊能力より、使って遊べるだけの余裕である。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

チートハッキング能力を手に入れた浪人生、善性ゼロのまま世界を幸せにして復讐する~東大理三落ちの欠陥品は、政府と気まぐれ性格最悪女AIを使って現代社会の神になる~(作者:tinko1129)(オリジナル現代/冒険・バトル)

東京大学理科三類へ落ちた平尾龍は、自分を人間失格と判定し、首を吊ろうとした。▼その瞬間、あらゆる電脳と機械へ絶対命令を下す【電脳神の右手】を獲得する。▼善性なし。社会性なし。コミュ力なし。▼人が人であるための三要素の無い自分は人ではないし生きる価値等無い▼それでも今度こそ理三へ合格し、人間だと証明する。▼そして受験勉強のストレス解消として、正規品の善人共より…


総合評価:3344/評価:8.44/連載:28話/更新日時:2026年09月14日(月) 20:00 小説情報

念能力者になってよ!(作者:メガシャキ)(原作:HUNTER×HUNTER)

原作開始前にモブに憑依してしまった男が、某魔法少女アニメの害獣みたいなことをする話


総合評価:1192/評価:6.91/連載:17話/更新日時:2026年06月04日(木) 04:46 小説情報

現代社会における万能チートの正しい使い方(作者:寸劇の小人)(オリジナル現代/日常)

現代日本に住む30歳のサラリーマンが何でもできるチートを手に入れて地味に俗っぽく使う話。▼お金稼いだり恋愛したりするよ。▼ざまぁは気分が悪くなるほどのやつはありません。▼現代ファンタジーというよりSFっぽいかも。▼他のチート所有者なし(重要)。▼AIを補助利用しています。▼【執筆状況】▼週1更新&連休とか時間できて書き溜め出来たらもうちょい投稿したい。▼次話…


総合評価:11099/評価:8.77/連載:11話/更新日時:2026年09月13日(日) 20:05 小説情報

科(化)学系チート持ち転生者のお話 Re:オタクルート(作者:金属粘性生命体)(原作:多重クロスオーバー)

▼ 作品説明▼ 神様から転生特典を貰い、やることは──創作をリアルに引っ張りあげることだった。▼ 会話できる初音ミクを作り、ポケモンのAR作品を作り、ロボットも作ったり?▼ 夢のために動き続けるオタクの話。▼ お久しぶりの人はお久しぶり、初めましての人は初めまして。▼ 元々投稿されていた作品のリメイクとなります。▼ 本作はあくまでifルートであって、本編は↓…


総合評価:1025/評価:8.5/連載:4話/更新日時:2026年09月12日(土) 19:52 小説情報

その美食屋、転生者につき(作者:苦笑いの妖精)(原作:トリコ)

トリコの世界を便利な3つのチートと共に生きていく。▼息抜きに書いた習作です。


総合評価:7423/評価:6.78/短編:14話/更新日時:2026年06月04日(木) 22:26 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>