スキル制ステータスで現代をお気楽に過ご……したい   作:逆鯖

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依頼主とスキル基準

 

 

 

 日曜にスキルをまとめて上げてから更に4日。木曜の夜、夕飯を済ませてパソコンを開くと、仕事用のアカウントにいくつか連絡が届いている。

 

 月曜からはハルトのショートを数本ずつ仕上げ、その合間にほかの2人の編集も進めている。火曜にはそちらの初稿を送り、水曜に修正と次の依頼について相談。今日は残りを確認してもらい、ハルトの分も追加で納品する予定だ。

 

 3人とも欲しいのは短い動画だが、中身まで同じではない。

 

 笑えるところを残してほしい人もいれば、商品の特徴を伝えたい人もいる。料理をうまそうに見せてほしいという依頼もあって、同じ型へ全部押し込めば済むわけでもなかった。

 

 ただ、相手の好みが少しずつ分かってくると、毎回最初から悩む必要はなくなる。

 

 字幕の色や配置を決め直したり、どの程度まで効果音を入れるか迷ったりする時間は、最初より随分と減っている。

 

 《映像制作》をレベル4へ上げた影響もあるのだろう。

 

 何をどう見せたいのか、そのためにどの部分を残すのか。考えながら何度も切り直すより、先に大まかな形を決めてから作れることが増えてきた。

 

 だからといって、何でも知っているわけではない。分からない操作は今も調べるし、作例を見て真似することもある。

 

 それでも、調べ物をしたまま別のページへ脱線し、気づけば関係ない動画を見ているようなことは減った。仕事として始めている以上、先に済ませたいという気持ちもある。

 

「今日は確認と、残りの編集か。これならそんな遅くならずに終わりそうだな」

 

 3人分のメモを開き、先に返事をしておくものから目を通す。

 

 最初はハルトからだ。

 

 数日前までは、どのくらい丁寧に返せばいいのか少し考えながら連絡していた。それも何度かやり取りするうちに、互いに必要なことを聞きやすくなっている。

 

 

ハルト:昨日の3本、確認しました。全部このままで大丈夫です。ホラーのやつ、自分で見ても普通に笑いました。

 

ナオ:確認ありがとうございます。じゃあ、そちらは完成版にしておきます。次の候補も、送ってもらった順に見てます。

 

ハルト:次のボス戦、最後は結構きれいに勝ててるので、そこも使えそうですかね。最近ショートで死んでるところしか見せてない気がして。

 

 

 候補の配信を開き、指定された時間へ飛ぶ。

 

 確かに、最後の戦闘はうまい。攻撃を避けてから反撃へ繋げ、そのまま決着まで持っていく。最初に見た時の、敵を殴る前に落ちる姿とは別人みたいだ。

 

 ただ、その少し前にも気になるところがある。

 

 回復しようとして別の道具を使い、目の前で敵に殴られる。その後で、何事もなかったように「今ので動きは見えた」と言い張っている場面だ。

 

 

ナオ:最後の勝ったところは使えます。その前に回復と間違えて変な道具を使ったところも入れると、流れが分かりやすそうです。

 

ハルト:勝ったところだけじゃ駄目なんですか?

 

ナオ:できますけど、先に1回やらかしてる方が、最後に勝った時の見え方はよくなると思います。

 

ハルト:ちゃんと理由をつけて失敗を入れてくる……。じゃあ、それでお願いします。

 

 

 了承が取れたので、前後の時間を控えておく。

 

 勝った場面も、別に使いたくないわけではない。ただ、何の説明もなく上手く倒しているところだけ見せるより、少し経緯がある方が伝わりやすい。

 

 もっとも、言い訳をしているところが面白いのも事実なので、そちらを残せるのはありがたい。

 

 ハルトのショートは、本人の喋りと反応が中心だ。

 

 間を詰めればいいというものでもなく、何も言えなくなる時間を残した方が面白い場合もある。その辺りを考えるのは、手間ではあるが嫌いではない。

 

 続けて、もう1通メッセージが来る。

 

 

ハルト:そういえば昨日の配信で、編集してくれてる裏方さんの話を少ししました。ショート増えたねってコメントがあったので。

 

ナオ:別に大丈夫です。編集を頼んでることまで隠す必要もないですし。

 

ハルト:失敗したところばっかり送ってくるって言ったら、裏方さん分かってるって言われました。味方がいない。

 

ナオ:候補を送ってるの、ハルトさんですよね?

 

ハルト:それを言われると終わりなんですよね。

 

 

 画面の前で少し笑う。

 

 今のところ、こういうやり取りも仕事の話から外れすぎることはない。無茶な修正を言われることもなく、こちらの対応時間も守ってくれている。

 

 いずれにせよ、頼んでもらえている間は、ちゃんと仕上げたい相手だった。

 

 

 

 メモへ次の編集方針を書き足し、別のチャットを開く。

 

 2人目は、最初に見つけたガジェット系の投稿者だ。

 

 活動名はゴウ。プロフィールには神崎剛、28歳とあり、登録者は8000人弱。最近いくつかの動画が伸びたことをきっかけに、ショートも増やしてみたいらしい。

 

 スマホやイヤホン、キーボードに小型家電と、扱うものは身近な製品が多い。

 

 普通に買って使ってみて、どこが便利で何が微妙なのか説明する。その内容も分かりやすいのだが、初めて動画を開くと、別のものへ目が行く。

 

 筋肉だ。

 

 机の向こうに座っているだけなのに、肩幅がやたら広い。半袖から出ている腕も太く、胸の辺りは無地のシャツが妙に張っている。

 

 本人の紹介によれば、身長も185cmあるらしい。そこまで大きな身体で小さなマウスを持たれると、商品のサイズ感より先に手の大きさが気になる。

 

「いや、これ初見だと筋トレのチャンネルだと思うだろ」

 

 だが、喋り方は穏やかだ。

 

 大声で商品を褒めたり、悪いところだけ大げさに取り上げたりもしない。使ってみてどうなのかを順番に説明するので、買うか迷っている時には見やすそうだった。

 

 動画の内容に反して、腕と胸だけが無駄に主張している。

 

 本人も気づいているようで、コメントに筋肉の話が多いと時々ぼやいていた。

 

 

ゴウ:昨日送っていただいた動画、確認しました。かなり見やすいです。次はこちらの充電器の動画から、小ささが伝わる形で1本お願いできますか。

 

ナオ:ありがとうございます。手に持っているところより、机でほかの製品と並べている場面を中心に使う形で考えてます。

 

ゴウ:その方がよさそうですね。手に持ったら何でも小さく見えるって、またコメントで言われたので。

 

ナオ:比較対象がゴウさんの手だけだと、確かに分かりづらいです。

 

ゴウ:レビューのために筋トレやめるわけにもいかないので、そこは編集で何とかお願いします。

 

 

 筋トレをやめるという選択肢まで持ち出されると、少しおかしい。

 

 ただ、実際に商品を手に持っている画面だけでは、小ささが伝わりにくいのも確かだ。同じ机の上で別の製品と並べた部分なら、見た人も判断しやすい。

 

 完成済みの通常動画から使うので、説明の順番も既にある程度まとまっている。

 

 ハルトのように、面白い場面を選んで話を組み直す手間は少ない。その代わり、短くする時に残すべき情報がある。

 

 今回なら、充電器の大きさだけでなく、何を繋いだ時の話なのかも省けなかった。

 

 1台だけ使っている場面と、複数の端末を同時に繋いだ場面を混ぜると、元の説明と違って見える。字幕の数字だけ拾えば分かりやすくなる、というわけではない。

 

 

ナオ:小ささを中心にまとめます。出力の数字も入れますけど、1台だけ繋いでいる時の条件は残しますね。

 

ゴウ:お願いします。そこを抜くと、本編で話していることと違ってしまうので。型番の末尾も似ているものがあるので、念のため一覧を送ります。

 

ナオ:助かります。こちらでも元動画と照らして確認します。

 

 

 こういうところは、かなりきっちりしている。

 

 型番、寸法、重量。短い字幕へ入れるにしても、元の資料と一致しているかを確かめなければならない。

 

 スキルで読み落としにくくなっても、確認を飛ばしていいわけではないのだ。知らない数字を、正しいものとして頭が勝手に直してくれることもない。

 

 送られてきた一覧を素材のフォルダへ入れ、必要なところをメモする。

 

 ついでに、確認しておきたいことも聞いた。

 

 

ナオ:最後は「小さいのが欲しい人向け」という結論まで入れて、詳しい比較は本編へ案内する形で大丈夫ですか。

 

ゴウ:はい、それでお願いします。腕が大きい人向けみたいにはしないでください。

 

ナオ:そこまでは考えていませんが。

 

ゴウ:今、考えましたよね。

 

 

 考えたかどうかで言えば、今ちょっと考えた。

 

 もちろん、頼まれた動画に勝手に入れるつもりはない。商品より本人の腕が気になるのは確かだが、それと仕事は別だった。

 

 

 

 短く笑ってから了承を返し、次のチャットへ移る。

 

 3人目は、料理動画を投稿している黒瀬レナ。

 

 活動名もそのままレナで、年齢は24歳。登録者は9000人ほどだが、本人の話では、ここ数か月で一気に増えてきているらしい。

 

 普段は料理の工程をまとめた動画を投稿し、時々そのまま配信もする。パスタや丼物、家にある食材で作るような飯が多く、見た後で自分も作ってみようと思えるものが多い。

 

 見た目は、かなりギャル寄りだ。

 

 明るめの髪に、しっかりした目元。耳にはピアスもついている。ただ、喋り方まで賑やかなわけではなく、むしろ声の調子はずっと低い。

 

 料理中も、必要なことを淡々と説明するだけ。配信でコメントを拾う時も、手を動かしながら「んー、それでもいける」と返すくらいだ。

 

 寝起きのまま始めたのかと思うような雰囲気なのに、包丁もフライパンも扱いに迷いがない。

 

 盛りつけたものをカメラへ寄せる時だけ、ちゃんとうまそうに見える向きへ皿を動かす。その辺りまで含めて、手慣れている感じがした。

 

 こちらも通常動画は自分で作っているが、ショートまで用意するのは面倒らしい。

 

 

レナ:次、このパスタの動画でお願い。最初に完成したとこ見せて、その後に作る流れがいい。

 

ナオ:分かりました。最後の盛りつけを先頭にも使う感じにします。今回も、しゃべりは必要なところだけ残して大丈夫ですか。

 

レナ:それでいいよ。途中で冷蔵庫にチーズ取りに行ってるとこ、あそこ全部いらないし。

 

ナオ:卵を入れる前に火を止めてるところは残しますね。そこまで飛ばすと、工程が分かりにくくなるので。

 

レナ:そう、そこは入れて。あとベーコン焼いてる音、今回結構よく録れてるから使ってほしい。

 

 

 完成したものを見せて、工程を短く繋ぐ。

 

 それだけなら簡単そうだが、何を残すかはハルトともゴウとも違う。

 

 喋りのオチより、料理ができていく様子が大事だ。かといって、見栄えばかり優先して肝心の工程を飛ばすと、作り方が違って伝わってしまう。

 

 この辺りでは《料理》も役に立っている。

 

 自分でも作るなら、どこを見ておきたいか。調理の流れを多少なりとも理解していると、映像として似たような場面でも、残す意味があることに気づきやすい。

 

 ただの生活改善のつもりで取ったものが、仕事にも使えるのはありがたいところだった。

 

 動画を再生すると、ベーコンが焼ける音が聞こえる。

 

 確かに、今回は音がいい。ここへ大きなBGMを重ねるより、少しだけ音楽を下げて、そのまま聞かせた方がうまそうに見える。

 

 《音楽センス》を持っているから、何でも曲を足せばいいということでもないらしい。

 

 

ナオ:焼いてるところはBGMを下げて、音を残します。しゃべりと重なってないところがあるので、そこを使いますね。

 

レナ:助かる。あと、皿出すのめんどいって言ってフライパンから食べたとこは切って。

 

ナオ:今回は料理の紹介が中心なので、そこは使わないです。

 

レナ:よかった。あれだけ見られたら、いつもああやって食べてると思われるし。

 

ナオ:違うんですか。

 

レナ:毎回ではない。今日はちゃんと皿出した。

 

 

 完全には否定しない辺り、少し親近感が湧く。

 

 自分も、スキルを手に入れる前は盛りつけにそこまで気を使っていない。皿を増やせば洗うものも増えるので、気持ちは分かる。

 

 もっとも、今は完成した飯がうまそうに見えると少し嬉しい。自炊を続けているうちに、その辺りの感覚も変わってきた気がする。

 

 レナの依頼は、本人の失敗を面白く見せるものではない。見せたいのは料理だし、切ってほしいと言われている場面を残す理由もなかった。

 

 何でもハルトと同じ編集にすればいいわけではないのだ。

 

 

レナ:あと、昨日の丼のショートはあれで大丈夫。短いのに、作るのめんどくさそうに見えないのがよかった。

 

ナオ:ありがとうございます。材料を並べてるところを短くした分、焼くところと完成を少し長めにしてます。

 

レナ:なるほどね。ああいう感じでお願いしたい。自分でやると全部説明したくなって、短くならないんだよね。

 

 

 見せ方の方向が合っているなら、次からも作りやすい。

 

 了承を返してから、参考にする動画と残す工程をメモへまとめる。相手が変わるたび、頭の中だけで覚えておこうとするより、この方が間違いがない。

 

 書き終えて顔を上げると、ちょうどパスタを持ち上げる場面で動画が止まっている。

 

 夕飯はもう食べた。

 

 食べたはずなのに、少し腹が減る。

 

「……料理の動画、飯の前にやった方がよくないか。夜中にこれ見てたら何か食いたくなるぞ」

 

 画面を閉じる前に、使っている材料だけ確認してしまった。

 

 3人分の返事を済ませ、作業予定を見直す。

 

 ハルトは配信から候補を出してもらい、そこから短い話としてまとまる場面を選ぶ。本人の喋りや反応を、どの順番で見せるかが大きい。

 

 ゴウは完成済みのレビュー動画から、商品ごとの特徴を整理する。使う場面は探しやすいが、数字や条件を省きすぎないように気をつける必要がある。

 

 レナも元は通常動画だが、こちらは料理の工程と音。短くても、何を作っているのか分かり、うまそうに見えるようにしたい。

 

 同じショートでも、やっていることは随分と違う。

 

 ゴウとレナは、それぞれ週3本から。ハルトの14本と合わせると、1週間に20本になる。

 

 数字だけ見ると多いが、20本分の見た目を全部最初から考えるわけではない。相手ごとに使う字幕や画面の形も決まり、同じ説明を何度も聞く必要もなくなってきている。

 

 それでも、今はこの3人までだ。

 

 まだ工場に通っているのだから、受けられるだけ受ければいいというものでもない。作業する時間だけでなく、修正や連絡のための余裕も残しておきたい。

 

「今の本数をもっと楽に作れるようにする方が先だな。客増やすのは、その後でいいわ」

 

 返事を待つ間にもできることはあるので、順番を決めて進めれば、ずっと画面の前に張りついている必要はない。

 

 ただ、肝心の編集にもう少し余裕は欲しい。

 

 ここを短くしたらどうか、音の入り方を変えたらどうか。完成形を想像しては試し直す作業は、今もそれなりにある。

 

 良くなっているのは分かるが、もう1段上げられるなら上げたいところだった。

 

 そこで、システムへ意識を向ける。

 

 所持SPは30。

 

 月曜から今日まで、Dailyを全部達成して12SP。今週のWeeklyも、日曜に受け取った睡眠以外の6個が終わり、こちらが18SPだ。

 

 運動と歩数は工場で達成し、スキルの使用回数も同じく勤務や編集で進む。水回りの掃除は火曜に済ませ、自炊5食も今夜の夕飯で条件を満たしている。

 

 日曜の午後に受け取った残りのDaily2SPは、その日のうちに《機械操作》をレベル2へ上げるのに使った。

 

 辞めることを考えていても、今は毎日使っている技能だ。工場の仕事が楽になるなら、こちらへ入れて損もない。

 

 というわけで、今回使えるのは30ポイントになる。

 

「ちゃんと貯まるもんだな。やることはそんな大げさでもないのに」

 

 Weeklyは、これで土曜まで全部達成済み。

 

 明日も仕事へ行けばDailyは進むが、同じ18ポイントがまた入るわけではない。その辺りは、最初の週でよく分かっている。

 

 問題は、今ある分を何へ使うかだ。

 

 《映像制作》の詳細を開くと、レベル5への強化には20SPと表示されている。

 

 三流から二流へ。

 

 字面だけだと、あまり嬉しくない。いや、上がるのだから嬉しいのだが、二流と呼ばれて素直に喜ぶのも何か違う気がする。

 

「そもそも、この三流とか二流って、どの辺の話なんだよ」

 

 前にも大まかな基準は見ている。ただ、《映像制作》に限って言えば、配信の切り抜きだけでなく、撮影や映画の演出まで含む技能だ。

 

 どこを基準にした二流なのかで、随分と話が違う。

 

 詳細画面を下へ送ると、レベルごとの参考例という項目がある。開いてみると、今のレベルと、その先の説明が並んだ。

 

 

【《映像制作》レベル別参考例】

 

Lv:4 三流

小規模なCM・企業PVなどの制作や、個人の動画チャンネルにおける撮影・編集を、職業として継続できる水準。

登録者1万人前後のチャンネルなどを参考例とする。

 

Lv:5 二流

商業用のCM・MV・短編映像などを、制作意図に合わせて安定して仕上げられる水準。

数万~10万人規模の動画チャンネルなどを参考例とする。

 

Lv:6 一流

商業映画、テレビ番組、大手企業の広告映像などで、主要な制作担当として撮影・編集・映像演出を高水準で行える。

 

※区分は本システム独自の評価です。作品規模・媒体・登録者数等は理解を補助するための参考例であり、実在する制作者の技量や優劣を示すものではありません。収益・人気・受賞歴等も保証しません。

 

 

「……俺しか見えないのに誰に対する配慮だよ」

 

 最後だけ妙に丁寧だ。

 

 自分以外に見せることもできない画面で、そこまで予防線を張る必要があるのか。説明を読んでいるだけなのに、急に利用規約みたいなものが出てきた気分になる。

 

 ただ、言いたいことは分かる。

 

 登録者の数で腕が決まるわけではないし、小さな規模の作品を作っているから下手というわけでもない。あくまで、どういう仕事に使えるかを想像するための例なのだろう。

 

 そして映画まで含めた映像制作全体の基準なら、今のレベル4も悪くはない。

 

 逆に言えば、今受けている仕事をこなせるからといって、この分野で上の方にいるわけでもなかった。

 

「5で商業用を普通に作れる。6で一流……なら、とりあえず目指すのは6だな」

 

 映画を撮る予定があるわけではない。

 

 ただ、映像を作ることで食べていくつもりなら、腕の方には余裕が欲しい。今の依頼をどうにか仕上げられるというところで止まるより、もう少し上まで持っていきたい。

 

 もちろん、腕が上がっただけで客が増えるわけではないことも、ここ数日で分かっている。

 

 それでも、技術を理由に困る場面を減らせるなら、先に上げておく価値はある。

 

 今日は5まで。その先の6が、当面の目標だ。

 

 続いて、《PC操作》も開く。

 

 映像の見せ方を考える力とは別に、実際にパソコンで作業する時の手間も減らしたい。

 

 素材を並べて、編集ソフトを触り、分からないところを検索し、確認用の動画を書き出して送る。その間には、地味な操作がいくつもある。

 

 何をどこへ保存したか分からなくなることは減っているが、扱う相手が増えれば、素材や書き出した動画も増えていく。

 

 毎回探すようになる前に、そこも整えておきたかった。

 

 こちらにも、同じように参考例がある。

 

 

【《PC操作》レベル別参考例】

 

Lv:3 売れるレベルの特技

各種設定、ファイル管理、周辺機器の導入、基本的なトラブル対応などを有償で請け負える水準。

 

Lv:4 三流

職業的なPCオペレーターやサポート担当として、複数ソフトを用いる作業、大量のファイル管理、操作手順の整理などを安定して行える。

 

Lv:5 二流

複雑な制作・業務環境でも、設定や不具合の切り分け、反復作業の効率化に熟達している。

 

※専門分野の制作技術、プログラムの設計・記述能力、機器そのものの処理性能は含みません。

 

 

「こっちは道具の使い方ってことか。まあ、動画の作り方が分かっても、操作でもたついたら意味ないしな」

 

 パソコンが勝手に速くなるわけではないし、《プログラミング》の代わりにもならない。

 

 ただ、今ある環境を扱いやすくするための補正なら、毎日恩恵を受けられる。

 

 ショートを1本作るたびに、素材を探してソフトを切り替え、確認してまた戻る。そういう細かい手間が減るだけでも、本数が増えれば差になるはずだ。

 

 レベル3から4へ上げる費用は10SP。

 

 《映像制作》の20と合わせて、ちょうど30になる。

 

 迷うほど複雑な選び方でもなかった。

 

 

《映像制作 Lv:4 → Lv:5》

消費SP:20

 

《PC操作 Lv:3 → Lv:4》

消費SP:10

 

所持SP:0

 

 

「……こんなサクサク上げていいのか、これ」

 

 強化完了の表示を見ながら、少しだけ変な気分になる。

 

 最初の月曜には、動画編集を仕事にしようとさえ思っていない。それが、まだ2週間も経たないうちに、システムから商業用の映像を作れると言われている。

 

 実際に調べて、作って、修正しているのは自分だ。

 

 何もしなくても完成品が出てくるわけではないのだが、普通に覚える場合と比べれば、随分と都合がいい。

 

 手に入れた能力を使わずに苦労する理由もないので、遠慮する気はない。それでも、これだけでいいのかという気持ちは多少あった。

 

 そのまま次の強化費用を開き、ついでにさらに先も表示させてみる。

 

 

【《映像制作》強化費用】

 

Lv:5 → Lv:6 50SP

Lv:6 → Lv:7 100SP

Lv:7 → Lv:8 200SP

Lv:8 → Lv:9 500SP

Lv:9 → Lv:10 1000SP

 

Lv:5からLv:10までの必要SP:1850

 

 

「……後半、値段の上がり方が雑じゃね? 最後だけで1000って」

 

 今まで使った分を思い返す。

 

 最初にレベル3へ持っていくのに8ポイント。そこから4で10、今回5へ上げるのに20。

 

 次の50は、まだ目標として考えられる。だが、100、200と続き、500から1000になると、気軽に何個も上げる数字ではなくなってくる。

 

 《記憶力》が200で、《豪運》は500。

 

 映像制作をレベル9から10へ上げるだけで、《豪運》を買う時の倍も使うわけだ。

 

「まあ、一流とか超一流の先だからなぁ。歴史に名を残すのが簡単に買えても、それはそれで変だけど」

 

 さらにその先には、Xの1万、EXの10万がある。

 

 見えているからこそ気にはなるが、今の自分が考える価格ではなかった。

 

 まずは50ポイント。

 

 何も考えずに全部使い続けていれば貯まらないだろうが、次に上げるものを決めておけば、届かない数字でもない。

 

 映像制作を6へ。PC操作も、できれば5以上。

 

 そこまで考えてから、ほかのスキルにも目が行く。

 

 デザインも音楽も、今の仕事では毎回使っている。

 

 話術と商売上手も、連絡や相談で役に立つ。料理は毎日だし、清掃も家と工場の両方で出番がある。

 

 どうせなら、よく使うものは全部5くらいまで上げたい。

 

 いくつかの詳細を見ているうちに、共通の説明欄にも気になる記載を見つける。

 

 

【スキルの維持】

 

取得したスキルレベルは、加齢や未使用期間によって低下しません。

 

習得済みの技量は維持されますが、新たな情報・技術・道具については、必要に応じた学習が必要です。

 

 

「これ、一生落ちないのか。じゃあ使うやつ上げといた方が、ずっと得じゃね?」

 

 しばらく編集しなかったから、以前できたことまでできなくなる。そういうことがないらしい。

 

 新しいソフトが出れば使い方は調べる必要がある。それでも、映像をどう組み立てるか考える力や、身につけた技術そのものは残る。

 

 料理も、掃除も同じだ。

 

 一度上げてしまえば、その後ずっと使える。そう考えると、数十ポイント使ってレベル5にするのも、随分と安く思えてくる。

 

「今あるの、できれば全部5以上にしたいな。……それやってると6が遠くなるんだけど」

 

 どれも欲しいのが困るところだった。

 

 最初は500ポイントなんて何に使うのかと思ったが、今はあれば使い道に困らない気がする。むしろ、少し考えただけで足りなくなりそうだ。

 

 ひとまず、今の稼ぎに一番繋がるものから。

 

 次の目標を《映像制作 Lv:6》に決め、画面を閉じる。

 

 強化した分は、実際に使って確かめればいい。

 

 先にゴウの次の1本を開く。

 

 元動画の比較部分と、送られてきた資料を横へ並べる。小ささを見せる場面を先に置き、持ち運びやすさの説明へ繋げ、最後に本編への案内を入れる。

 

 今までも考えていた順番だ。

 

 ただ、並べてから長さを変える前に、どこをどのくらい残せばよさそうか、前よりまとまりやすい。

 

 説明の途中で数字を出すなら、その数字が何の条件かも一緒に示す。別の場面へ切り替える前に読み終えられる長さを残し、重複する言葉は字幕へ任せる。

 

 短くしたいからと、全部の間を削る必要はない。

 

 その判断がつくまでに、何度も再生して悩むことが減っていた。

 

「お、これなら先に大体組めるな。細かいとこだけ後で直せばよさそうだ」

 

 使う素材をまとめ、映像と音声を並べていく。

 

 資料の数字を確認して編集画面へ戻る時も、必要なものがどこにあるか分かるよう、先にウィンドウを整えておく。毎回開き直していたフォルダも、そのまま呼び出せる位置へ置いた方が早い。

 

 使えそうな操作がないか気になったところだけ検索し、説明を読んでから試す。

 

 知らない機能を急に知るわけではない。それでも、自分のやりたいことに使えるかどうかは、前より掴みやすかった。

 

 新しく覚えた操作を使うと、さっきまで繰り返していた手間がまとめて済む。

 

 少し嬉しくなって、同じ箇所をもう一度確認した。

 

 レベル5だから、何でも派手にする必要はない。

 

 頼まれているのは、商品の特徴が分かる短い動画だ。そこを崩さずに、迷う時間と余計な操作を減らせる方が、今の自分にはずっとありがたい。

 

 大まかな編集を終えて時計を見ると、思っていたより余裕がある。

 

 まだ字幕の細かな確認と音量調整は残っているが、形を決めるところで使う時間は、確かに短くなっていた。

 

「これくらいで作れるなら、だいぶ楽だな。あとは確認だけ雑にしなきゃいいか」

 

 続けてレナの動画も開き、残す工程を先に並べる。

 

 完成品、材料、調理、盛りつけ。動画の中で順番が前後するところは、見た人が戸惑わないように繋ぎを整える。

 

 さっき聞いた焼く音のところで、少し長めに映像を残す。

 

 全部を急いで見せるより、ここだけ落ち着かせた方が、次の完成場面も引き立ちそうだった。

 

 作業を進めていると、ハルトから通知が来る。

 

 

ハルト:次の候補、送っておきました。あと聞きたかったんですけど、ナオさんもこのゲームやってたんですか? ボス前の足場の話、やけに詳しかったので。

 

ナオ:持ってます。あそこで何回か落ちたんで、覚えてました。

 

ハルト:じゃあ俺のこと笑えなくないですか。

 

ナオ:落ちた後に、実質勝ってたとは言ってないです。

 

ハルト:そこは見逃してもらえないんですね。

 

 

 メッセージを読みながら、つい笑ってしまう。

 

 相手の素材を見て仕事をするだけでなく、こういう話も少しずつ増えてきている。

 

 まだ気楽に何でも言うような間柄ではない。それでも、必要な連絡しかできない相手より、こちらもやり取りしやすい。

 

 候補は後で確認すると返し、いったん通知の画面を閉じる。

 

 ゴウとレナからも、それぞれ次に渡す素材について了承が来ている。3人とも、今のところ相談しながら進められる相手だ。

 

 仕事相手として、それはかなりありがたい。

 

 だからこそ、引き受けたものはちゃんと仕上げたいし、無理な量を抱えて雑にしたくもなかった。

 

 最後に、今日中に終わらせる分をもう一度確認する。

 

 以前なら、作りながら何度も見直していたところまで、今はまとめて進められる。浮いた時間を使えばもう1本触れそうだが、今日はそこまで増やさなくてもいい。

 

 先に確認を終えて、風呂へ入る。

 

 その後は、自分のゲームを少しやりたい。

 

「早くなった分まで働いてたら、結局変わらんしな」

 

 書き出しの準備をしながら、作業用のメモへ次の目標を書き足す。

 

 《映像制作 Lv:6》まで50SP。

 

 今は0だが、進む先が分かっているのは悪くない。今ある技能を使って仕事をし、普段の生活でポイントを貯め、また必要なところへ入れていけばいい。

 

 3人分の仕事を回しながら、自分の時間も残す。

 

 まずは、それを普通にできるところまで持っていきたい。

 

 再生している動画の最後まで確認し、問題のない方から書き出しを始める。今日は、まだゲームをする時間が十分にありそうだ。

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