日曜にスキルをまとめて上げてから更に4日。木曜の夜、夕飯を済ませてパソコンを開くと、仕事用のアカウントにいくつか連絡が届いている。
月曜からはハルトのショートを数本ずつ仕上げ、その合間にほかの2人の編集も進めている。火曜にはそちらの初稿を送り、水曜に修正と次の依頼について相談。今日は残りを確認してもらい、ハルトの分も追加で納品する予定だ。
3人とも欲しいのは短い動画だが、中身まで同じではない。
笑えるところを残してほしい人もいれば、商品の特徴を伝えたい人もいる。料理をうまそうに見せてほしいという依頼もあって、同じ型へ全部押し込めば済むわけでもなかった。
ただ、相手の好みが少しずつ分かってくると、毎回最初から悩む必要はなくなる。
字幕の色や配置を決め直したり、どの程度まで効果音を入れるか迷ったりする時間は、最初より随分と減っている。
《映像制作》をレベル4へ上げた影響もあるのだろう。
何をどう見せたいのか、そのためにどの部分を残すのか。考えながら何度も切り直すより、先に大まかな形を決めてから作れることが増えてきた。
だからといって、何でも知っているわけではない。分からない操作は今も調べるし、作例を見て真似することもある。
それでも、調べ物をしたまま別のページへ脱線し、気づけば関係ない動画を見ているようなことは減った。仕事として始めている以上、先に済ませたいという気持ちもある。
「今日は確認と、残りの編集か。これならそんな遅くならずに終わりそうだな」
3人分のメモを開き、先に返事をしておくものから目を通す。
最初はハルトからだ。
数日前までは、どのくらい丁寧に返せばいいのか少し考えながら連絡していた。それも何度かやり取りするうちに、互いに必要なことを聞きやすくなっている。
ハルト:昨日の3本、確認しました。全部このままで大丈夫です。ホラーのやつ、自分で見ても普通に笑いました。
ナオ:確認ありがとうございます。じゃあ、そちらは完成版にしておきます。次の候補も、送ってもらった順に見てます。
ハルト:次のボス戦、最後は結構きれいに勝ててるので、そこも使えそうですかね。最近ショートで死んでるところしか見せてない気がして。
候補の配信を開き、指定された時間へ飛ぶ。
確かに、最後の戦闘はうまい。攻撃を避けてから反撃へ繋げ、そのまま決着まで持っていく。最初に見た時の、敵を殴る前に落ちる姿とは別人みたいだ。
ただ、その少し前にも気になるところがある。
回復しようとして別の道具を使い、目の前で敵に殴られる。その後で、何事もなかったように「今ので動きは見えた」と言い張っている場面だ。
ナオ:最後の勝ったところは使えます。その前に回復と間違えて変な道具を使ったところも入れると、流れが分かりやすそうです。
ハルト:勝ったところだけじゃ駄目なんですか?
ナオ:できますけど、先に1回やらかしてる方が、最後に勝った時の見え方はよくなると思います。
ハルト:ちゃんと理由をつけて失敗を入れてくる……。じゃあ、それでお願いします。
了承が取れたので、前後の時間を控えておく。
勝った場面も、別に使いたくないわけではない。ただ、何の説明もなく上手く倒しているところだけ見せるより、少し経緯がある方が伝わりやすい。
もっとも、言い訳をしているところが面白いのも事実なので、そちらを残せるのはありがたい。
ハルトのショートは、本人の喋りと反応が中心だ。
間を詰めればいいというものでもなく、何も言えなくなる時間を残した方が面白い場合もある。その辺りを考えるのは、手間ではあるが嫌いではない。
続けて、もう1通メッセージが来る。
ハルト:そういえば昨日の配信で、編集してくれてる裏方さんの話を少ししました。ショート増えたねってコメントがあったので。
ナオ:別に大丈夫です。編集を頼んでることまで隠す必要もないですし。
ハルト:失敗したところばっかり送ってくるって言ったら、裏方さん分かってるって言われました。味方がいない。
ナオ:候補を送ってるの、ハルトさんですよね?
ハルト:それを言われると終わりなんですよね。
画面の前で少し笑う。
今のところ、こういうやり取りも仕事の話から外れすぎることはない。無茶な修正を言われることもなく、こちらの対応時間も守ってくれている。
いずれにせよ、頼んでもらえている間は、ちゃんと仕上げたい相手だった。
メモへ次の編集方針を書き足し、別のチャットを開く。
2人目は、最初に見つけたガジェット系の投稿者だ。
活動名はゴウ。プロフィールには神崎剛、28歳とあり、登録者は8000人弱。最近いくつかの動画が伸びたことをきっかけに、ショートも増やしてみたいらしい。
スマホやイヤホン、キーボードに小型家電と、扱うものは身近な製品が多い。
普通に買って使ってみて、どこが便利で何が微妙なのか説明する。その内容も分かりやすいのだが、初めて動画を開くと、別のものへ目が行く。
筋肉だ。
机の向こうに座っているだけなのに、肩幅がやたら広い。半袖から出ている腕も太く、胸の辺りは無地のシャツが妙に張っている。
本人の紹介によれば、身長も185cmあるらしい。そこまで大きな身体で小さなマウスを持たれると、商品のサイズ感より先に手の大きさが気になる。
「いや、これ初見だと筋トレのチャンネルだと思うだろ」
だが、喋り方は穏やかだ。
大声で商品を褒めたり、悪いところだけ大げさに取り上げたりもしない。使ってみてどうなのかを順番に説明するので、買うか迷っている時には見やすそうだった。
動画の内容に反して、腕と胸だけが無駄に主張している。
本人も気づいているようで、コメントに筋肉の話が多いと時々ぼやいていた。
ゴウ:昨日送っていただいた動画、確認しました。かなり見やすいです。次はこちらの充電器の動画から、小ささが伝わる形で1本お願いできますか。
ナオ:ありがとうございます。手に持っているところより、机でほかの製品と並べている場面を中心に使う形で考えてます。
ゴウ:その方がよさそうですね。手に持ったら何でも小さく見えるって、またコメントで言われたので。
ナオ:比較対象がゴウさんの手だけだと、確かに分かりづらいです。
ゴウ:レビューのために筋トレやめるわけにもいかないので、そこは編集で何とかお願いします。
筋トレをやめるという選択肢まで持ち出されると、少しおかしい。
ただ、実際に商品を手に持っている画面だけでは、小ささが伝わりにくいのも確かだ。同じ机の上で別の製品と並べた部分なら、見た人も判断しやすい。
完成済みの通常動画から使うので、説明の順番も既にある程度まとまっている。
ハルトのように、面白い場面を選んで話を組み直す手間は少ない。その代わり、短くする時に残すべき情報がある。
今回なら、充電器の大きさだけでなく、何を繋いだ時の話なのかも省けなかった。
1台だけ使っている場面と、複数の端末を同時に繋いだ場面を混ぜると、元の説明と違って見える。字幕の数字だけ拾えば分かりやすくなる、というわけではない。
ナオ:小ささを中心にまとめます。出力の数字も入れますけど、1台だけ繋いでいる時の条件は残しますね。
ゴウ:お願いします。そこを抜くと、本編で話していることと違ってしまうので。型番の末尾も似ているものがあるので、念のため一覧を送ります。
ナオ:助かります。こちらでも元動画と照らして確認します。
こういうところは、かなりきっちりしている。
型番、寸法、重量。短い字幕へ入れるにしても、元の資料と一致しているかを確かめなければならない。
スキルで読み落としにくくなっても、確認を飛ばしていいわけではないのだ。知らない数字を、正しいものとして頭が勝手に直してくれることもない。
送られてきた一覧を素材のフォルダへ入れ、必要なところをメモする。
ついでに、確認しておきたいことも聞いた。
ナオ:最後は「小さいのが欲しい人向け」という結論まで入れて、詳しい比較は本編へ案内する形で大丈夫ですか。
ゴウ:はい、それでお願いします。腕が大きい人向けみたいにはしないでください。
ナオ:そこまでは考えていませんが。
ゴウ:今、考えましたよね。
考えたかどうかで言えば、今ちょっと考えた。
もちろん、頼まれた動画に勝手に入れるつもりはない。商品より本人の腕が気になるのは確かだが、それと仕事は別だった。
短く笑ってから了承を返し、次のチャットへ移る。
3人目は、料理動画を投稿している黒瀬レナ。
活動名もそのままレナで、年齢は24歳。登録者は9000人ほどだが、本人の話では、ここ数か月で一気に増えてきているらしい。
普段は料理の工程をまとめた動画を投稿し、時々そのまま配信もする。パスタや丼物、家にある食材で作るような飯が多く、見た後で自分も作ってみようと思えるものが多い。
見た目は、かなりギャル寄りだ。
明るめの髪に、しっかりした目元。耳にはピアスもついている。ただ、喋り方まで賑やかなわけではなく、むしろ声の調子はずっと低い。
料理中も、必要なことを淡々と説明するだけ。配信でコメントを拾う時も、手を動かしながら「んー、それでもいける」と返すくらいだ。
寝起きのまま始めたのかと思うような雰囲気なのに、包丁もフライパンも扱いに迷いがない。
盛りつけたものをカメラへ寄せる時だけ、ちゃんとうまそうに見える向きへ皿を動かす。その辺りまで含めて、手慣れている感じがした。
こちらも通常動画は自分で作っているが、ショートまで用意するのは面倒らしい。
レナ:次、このパスタの動画でお願い。最初に完成したとこ見せて、その後に作る流れがいい。
ナオ:分かりました。最後の盛りつけを先頭にも使う感じにします。今回も、しゃべりは必要なところだけ残して大丈夫ですか。
レナ:それでいいよ。途中で冷蔵庫にチーズ取りに行ってるとこ、あそこ全部いらないし。
ナオ:卵を入れる前に火を止めてるところは残しますね。そこまで飛ばすと、工程が分かりにくくなるので。
レナ:そう、そこは入れて。あとベーコン焼いてる音、今回結構よく録れてるから使ってほしい。
完成したものを見せて、工程を短く繋ぐ。
それだけなら簡単そうだが、何を残すかはハルトともゴウとも違う。
喋りのオチより、料理ができていく様子が大事だ。かといって、見栄えばかり優先して肝心の工程を飛ばすと、作り方が違って伝わってしまう。
この辺りでは《料理》も役に立っている。
自分でも作るなら、どこを見ておきたいか。調理の流れを多少なりとも理解していると、映像として似たような場面でも、残す意味があることに気づきやすい。
ただの生活改善のつもりで取ったものが、仕事にも使えるのはありがたいところだった。
動画を再生すると、ベーコンが焼ける音が聞こえる。
確かに、今回は音がいい。ここへ大きなBGMを重ねるより、少しだけ音楽を下げて、そのまま聞かせた方がうまそうに見える。
《音楽センス》を持っているから、何でも曲を足せばいいということでもないらしい。
ナオ:焼いてるところはBGMを下げて、音を残します。しゃべりと重なってないところがあるので、そこを使いますね。
レナ:助かる。あと、皿出すのめんどいって言ってフライパンから食べたとこは切って。
ナオ:今回は料理の紹介が中心なので、そこは使わないです。
レナ:よかった。あれだけ見られたら、いつもああやって食べてると思われるし。
ナオ:違うんですか。
レナ:毎回ではない。今日はちゃんと皿出した。
完全には否定しない辺り、少し親近感が湧く。
自分も、スキルを手に入れる前は盛りつけにそこまで気を使っていない。皿を増やせば洗うものも増えるので、気持ちは分かる。
もっとも、今は完成した飯がうまそうに見えると少し嬉しい。自炊を続けているうちに、その辺りの感覚も変わってきた気がする。
レナの依頼は、本人の失敗を面白く見せるものではない。見せたいのは料理だし、切ってほしいと言われている場面を残す理由もなかった。
何でもハルトと同じ編集にすればいいわけではないのだ。
レナ:あと、昨日の丼のショートはあれで大丈夫。短いのに、作るのめんどくさそうに見えないのがよかった。
ナオ:ありがとうございます。材料を並べてるところを短くした分、焼くところと完成を少し長めにしてます。
レナ:なるほどね。ああいう感じでお願いしたい。自分でやると全部説明したくなって、短くならないんだよね。
見せ方の方向が合っているなら、次からも作りやすい。
了承を返してから、参考にする動画と残す工程をメモへまとめる。相手が変わるたび、頭の中だけで覚えておこうとするより、この方が間違いがない。
書き終えて顔を上げると、ちょうどパスタを持ち上げる場面で動画が止まっている。
夕飯はもう食べた。
食べたはずなのに、少し腹が減る。
「……料理の動画、飯の前にやった方がよくないか。夜中にこれ見てたら何か食いたくなるぞ」
画面を閉じる前に、使っている材料だけ確認してしまった。
3人分の返事を済ませ、作業予定を見直す。
ハルトは配信から候補を出してもらい、そこから短い話としてまとまる場面を選ぶ。本人の喋りや反応を、どの順番で見せるかが大きい。
ゴウは完成済みのレビュー動画から、商品ごとの特徴を整理する。使う場面は探しやすいが、数字や条件を省きすぎないように気をつける必要がある。
レナも元は通常動画だが、こちらは料理の工程と音。短くても、何を作っているのか分かり、うまそうに見えるようにしたい。
同じショートでも、やっていることは随分と違う。
ゴウとレナは、それぞれ週3本から。ハルトの14本と合わせると、1週間に20本になる。
数字だけ見ると多いが、20本分の見た目を全部最初から考えるわけではない。相手ごとに使う字幕や画面の形も決まり、同じ説明を何度も聞く必要もなくなってきている。
それでも、今はこの3人までだ。
まだ工場に通っているのだから、受けられるだけ受ければいいというものでもない。作業する時間だけでなく、修正や連絡のための余裕も残しておきたい。
「今の本数をもっと楽に作れるようにする方が先だな。客増やすのは、その後でいいわ」
返事を待つ間にもできることはあるので、順番を決めて進めれば、ずっと画面の前に張りついている必要はない。
ただ、肝心の編集にもう少し余裕は欲しい。
ここを短くしたらどうか、音の入り方を変えたらどうか。完成形を想像しては試し直す作業は、今もそれなりにある。
良くなっているのは分かるが、もう1段上げられるなら上げたいところだった。
そこで、システムへ意識を向ける。
所持SPは30。
月曜から今日まで、Dailyを全部達成して12SP。今週のWeeklyも、日曜に受け取った睡眠以外の6個が終わり、こちらが18SPだ。
運動と歩数は工場で達成し、スキルの使用回数も同じく勤務や編集で進む。水回りの掃除は火曜に済ませ、自炊5食も今夜の夕飯で条件を満たしている。
日曜の午後に受け取った残りのDaily2SPは、その日のうちに《機械操作》をレベル2へ上げるのに使った。
辞めることを考えていても、今は毎日使っている技能だ。工場の仕事が楽になるなら、こちらへ入れて損もない。
というわけで、今回使えるのは30ポイントになる。
「ちゃんと貯まるもんだな。やることはそんな大げさでもないのに」
Weeklyは、これで土曜まで全部達成済み。
明日も仕事へ行けばDailyは進むが、同じ18ポイントがまた入るわけではない。その辺りは、最初の週でよく分かっている。
問題は、今ある分を何へ使うかだ。
《映像制作》の詳細を開くと、レベル5への強化には20SPと表示されている。
三流から二流へ。
字面だけだと、あまり嬉しくない。いや、上がるのだから嬉しいのだが、二流と呼ばれて素直に喜ぶのも何か違う気がする。
「そもそも、この三流とか二流って、どの辺の話なんだよ」
前にも大まかな基準は見ている。ただ、《映像制作》に限って言えば、配信の切り抜きだけでなく、撮影や映画の演出まで含む技能だ。
どこを基準にした二流なのかで、随分と話が違う。
詳細画面を下へ送ると、レベルごとの参考例という項目がある。開いてみると、今のレベルと、その先の説明が並んだ。
【《映像制作》レベル別参考例】
Lv:4 三流
小規模なCM・企業PVなどの制作や、個人の動画チャンネルにおける撮影・編集を、職業として継続できる水準。
登録者1万人前後のチャンネルなどを参考例とする。
Lv:5 二流
商業用のCM・MV・短編映像などを、制作意図に合わせて安定して仕上げられる水準。
数万~10万人規模の動画チャンネルなどを参考例とする。
Lv:6 一流
商業映画、テレビ番組、大手企業の広告映像などで、主要な制作担当として撮影・編集・映像演出を高水準で行える。
※区分は本システム独自の評価です。作品規模・媒体・登録者数等は理解を補助するための参考例であり、実在する制作者の技量や優劣を示すものではありません。収益・人気・受賞歴等も保証しません。
「……俺しか見えないのに誰に対する配慮だよ」
最後だけ妙に丁寧だ。
自分以外に見せることもできない画面で、そこまで予防線を張る必要があるのか。説明を読んでいるだけなのに、急に利用規約みたいなものが出てきた気分になる。
ただ、言いたいことは分かる。
登録者の数で腕が決まるわけではないし、小さな規模の作品を作っているから下手というわけでもない。あくまで、どういう仕事に使えるかを想像するための例なのだろう。
そして映画まで含めた映像制作全体の基準なら、今のレベル4も悪くはない。
逆に言えば、今受けている仕事をこなせるからといって、この分野で上の方にいるわけでもなかった。
「5で商業用を普通に作れる。6で一流……なら、とりあえず目指すのは6だな」
映画を撮る予定があるわけではない。
ただ、映像を作ることで食べていくつもりなら、腕の方には余裕が欲しい。今の依頼をどうにか仕上げられるというところで止まるより、もう少し上まで持っていきたい。
もちろん、腕が上がっただけで客が増えるわけではないことも、ここ数日で分かっている。
それでも、技術を理由に困る場面を減らせるなら、先に上げておく価値はある。
今日は5まで。その先の6が、当面の目標だ。
続いて、《PC操作》も開く。
映像の見せ方を考える力とは別に、実際にパソコンで作業する時の手間も減らしたい。
素材を並べて、編集ソフトを触り、分からないところを検索し、確認用の動画を書き出して送る。その間には、地味な操作がいくつもある。
何をどこへ保存したか分からなくなることは減っているが、扱う相手が増えれば、素材や書き出した動画も増えていく。
毎回探すようになる前に、そこも整えておきたかった。
こちらにも、同じように参考例がある。
【《PC操作》レベル別参考例】
Lv:3 売れるレベルの特技
各種設定、ファイル管理、周辺機器の導入、基本的なトラブル対応などを有償で請け負える水準。
Lv:4 三流
職業的なPCオペレーターやサポート担当として、複数ソフトを用いる作業、大量のファイル管理、操作手順の整理などを安定して行える。
Lv:5 二流
複雑な制作・業務環境でも、設定や不具合の切り分け、反復作業の効率化に熟達している。
※専門分野の制作技術、プログラムの設計・記述能力、機器そのものの処理性能は含みません。
「こっちは道具の使い方ってことか。まあ、動画の作り方が分かっても、操作でもたついたら意味ないしな」
パソコンが勝手に速くなるわけではないし、《プログラミング》の代わりにもならない。
ただ、今ある環境を扱いやすくするための補正なら、毎日恩恵を受けられる。
ショートを1本作るたびに、素材を探してソフトを切り替え、確認してまた戻る。そういう細かい手間が減るだけでも、本数が増えれば差になるはずだ。
レベル3から4へ上げる費用は10SP。
《映像制作》の20と合わせて、ちょうど30になる。
迷うほど複雑な選び方でもなかった。
《映像制作 Lv:4 → Lv:5》
消費SP:20
《PC操作 Lv:3 → Lv:4》
消費SP:10
所持SP:0
「……こんなサクサク上げていいのか、これ」
強化完了の表示を見ながら、少しだけ変な気分になる。
最初の月曜には、動画編集を仕事にしようとさえ思っていない。それが、まだ2週間も経たないうちに、システムから商業用の映像を作れると言われている。
実際に調べて、作って、修正しているのは自分だ。
何もしなくても完成品が出てくるわけではないのだが、普通に覚える場合と比べれば、随分と都合がいい。
手に入れた能力を使わずに苦労する理由もないので、遠慮する気はない。それでも、これだけでいいのかという気持ちは多少あった。
そのまま次の強化費用を開き、ついでにさらに先も表示させてみる。
【《映像制作》強化費用】
Lv:5 → Lv:6 50SP
Lv:6 → Lv:7 100SP
Lv:7 → Lv:8 200SP
Lv:8 → Lv:9 500SP
Lv:9 → Lv:10 1000SP
Lv:5からLv:10までの必要SP:1850
「……後半、値段の上がり方が雑じゃね? 最後だけで1000って」
今まで使った分を思い返す。
最初にレベル3へ持っていくのに8ポイント。そこから4で10、今回5へ上げるのに20。
次の50は、まだ目標として考えられる。だが、100、200と続き、500から1000になると、気軽に何個も上げる数字ではなくなってくる。
《記憶力》が200で、《豪運》は500。
映像制作をレベル9から10へ上げるだけで、《豪運》を買う時の倍も使うわけだ。
「まあ、一流とか超一流の先だからなぁ。歴史に名を残すのが簡単に買えても、それはそれで変だけど」
さらにその先には、Xの1万、EXの10万がある。
見えているからこそ気にはなるが、今の自分が考える価格ではなかった。
まずは50ポイント。
何も考えずに全部使い続けていれば貯まらないだろうが、次に上げるものを決めておけば、届かない数字でもない。
映像制作を6へ。PC操作も、できれば5以上。
そこまで考えてから、ほかのスキルにも目が行く。
デザインも音楽も、今の仕事では毎回使っている。
話術と商売上手も、連絡や相談で役に立つ。料理は毎日だし、清掃も家と工場の両方で出番がある。
どうせなら、よく使うものは全部5くらいまで上げたい。
いくつかの詳細を見ているうちに、共通の説明欄にも気になる記載を見つける。
【スキルの維持】
取得したスキルレベルは、加齢や未使用期間によって低下しません。
習得済みの技量は維持されますが、新たな情報・技術・道具については、必要に応じた学習が必要です。
「これ、一生落ちないのか。じゃあ使うやつ上げといた方が、ずっと得じゃね?」
しばらく編集しなかったから、以前できたことまでできなくなる。そういうことがないらしい。
新しいソフトが出れば使い方は調べる必要がある。それでも、映像をどう組み立てるか考える力や、身につけた技術そのものは残る。
料理も、掃除も同じだ。
一度上げてしまえば、その後ずっと使える。そう考えると、数十ポイント使ってレベル5にするのも、随分と安く思えてくる。
「今あるの、できれば全部5以上にしたいな。……それやってると6が遠くなるんだけど」
どれも欲しいのが困るところだった。
最初は500ポイントなんて何に使うのかと思ったが、今はあれば使い道に困らない気がする。むしろ、少し考えただけで足りなくなりそうだ。
ひとまず、今の稼ぎに一番繋がるものから。
次の目標を《映像制作 Lv:6》に決め、画面を閉じる。
強化した分は、実際に使って確かめればいい。
先にゴウの次の1本を開く。
元動画の比較部分と、送られてきた資料を横へ並べる。小ささを見せる場面を先に置き、持ち運びやすさの説明へ繋げ、最後に本編への案内を入れる。
今までも考えていた順番だ。
ただ、並べてから長さを変える前に、どこをどのくらい残せばよさそうか、前よりまとまりやすい。
説明の途中で数字を出すなら、その数字が何の条件かも一緒に示す。別の場面へ切り替える前に読み終えられる長さを残し、重複する言葉は字幕へ任せる。
短くしたいからと、全部の間を削る必要はない。
その判断がつくまでに、何度も再生して悩むことが減っていた。
「お、これなら先に大体組めるな。細かいとこだけ後で直せばよさそうだ」
使う素材をまとめ、映像と音声を並べていく。
資料の数字を確認して編集画面へ戻る時も、必要なものがどこにあるか分かるよう、先にウィンドウを整えておく。毎回開き直していたフォルダも、そのまま呼び出せる位置へ置いた方が早い。
使えそうな操作がないか気になったところだけ検索し、説明を読んでから試す。
知らない機能を急に知るわけではない。それでも、自分のやりたいことに使えるかどうかは、前より掴みやすかった。
新しく覚えた操作を使うと、さっきまで繰り返していた手間がまとめて済む。
少し嬉しくなって、同じ箇所をもう一度確認した。
レベル5だから、何でも派手にする必要はない。
頼まれているのは、商品の特徴が分かる短い動画だ。そこを崩さずに、迷う時間と余計な操作を減らせる方が、今の自分にはずっとありがたい。
大まかな編集を終えて時計を見ると、思っていたより余裕がある。
まだ字幕の細かな確認と音量調整は残っているが、形を決めるところで使う時間は、確かに短くなっていた。
「これくらいで作れるなら、だいぶ楽だな。あとは確認だけ雑にしなきゃいいか」
続けてレナの動画も開き、残す工程を先に並べる。
完成品、材料、調理、盛りつけ。動画の中で順番が前後するところは、見た人が戸惑わないように繋ぎを整える。
さっき聞いた焼く音のところで、少し長めに映像を残す。
全部を急いで見せるより、ここだけ落ち着かせた方が、次の完成場面も引き立ちそうだった。
作業を進めていると、ハルトから通知が来る。
ハルト:次の候補、送っておきました。あと聞きたかったんですけど、ナオさんもこのゲームやってたんですか? ボス前の足場の話、やけに詳しかったので。
ナオ:持ってます。あそこで何回か落ちたんで、覚えてました。
ハルト:じゃあ俺のこと笑えなくないですか。
ナオ:落ちた後に、実質勝ってたとは言ってないです。
ハルト:そこは見逃してもらえないんですね。
メッセージを読みながら、つい笑ってしまう。
相手の素材を見て仕事をするだけでなく、こういう話も少しずつ増えてきている。
まだ気楽に何でも言うような間柄ではない。それでも、必要な連絡しかできない相手より、こちらもやり取りしやすい。
候補は後で確認すると返し、いったん通知の画面を閉じる。
ゴウとレナからも、それぞれ次に渡す素材について了承が来ている。3人とも、今のところ相談しながら進められる相手だ。
仕事相手として、それはかなりありがたい。
だからこそ、引き受けたものはちゃんと仕上げたいし、無理な量を抱えて雑にしたくもなかった。
最後に、今日中に終わらせる分をもう一度確認する。
以前なら、作りながら何度も見直していたところまで、今はまとめて進められる。浮いた時間を使えばもう1本触れそうだが、今日はそこまで増やさなくてもいい。
先に確認を終えて、風呂へ入る。
その後は、自分のゲームを少しやりたい。
「早くなった分まで働いてたら、結局変わらんしな」
書き出しの準備をしながら、作業用のメモへ次の目標を書き足す。
《映像制作 Lv:6》まで50SP。
今は0だが、進む先が分かっているのは悪くない。今ある技能を使って仕事をし、普段の生活でポイントを貯め、また必要なところへ入れていけばいい。
3人分の仕事を回しながら、自分の時間も残す。
まずは、それを普通にできるところまで持っていきたい。
再生している動画の最後まで確認し、問題のない方から書き出しを始める。今日は、まだゲームをする時間が十分にありそうだ。