後書きに生成AI製ですけど紹介ページのイメージ画像を載せています。苦手な方はお気をつけてください
日曜に《立体造形》を取得してから6日。土曜の夕方、画面の中には、服まで揃った女の子が立っている。
週の前半は、本体の形と動きを整えることに使った。後半は衣装と表情を作り、VRChatへ持ち込んでは、気になるところを直す繰り返しだ。
腕を上げると服が身体に埋まり、顔を横へ向けると髪が変なところへ引っ掛かる。静止した状態で綺麗に見えても、それだけでは済まないことが、触っているうちに分かってくる。
分からないところは調べ、同じところで何度も止まらないようにメモを残す。形を作るより、動かした後の確認に使う時間の方が長い日もある。
その間にも、ハルトたちの編集も進めている。
受けた仕事を放り出して、新しいものだけ作るわけにもいかない。先に納品する分を終わらせ、返事を待つ間や、作業が片づいた後に少しずつ触る形だ。
もっとも、以前の編集速度のままなら、ここまで余裕はなかっただろう。
《映像制作》と《PC操作》へ先にポイントを使っておいて、正解だった。
「……ちゃんと形になったな。先週は顔の練習してたくらいなのに」
画面を回し、横と後ろからも確認する。
まだ最後の調整は残っているが、少なくとも何を作っているのか分からない状態ではない。最初に眺めていた商品ページと、同じように全身を見せられるところまでは来ている。
数日前まで、作り方すらまともに知らなかったものだ。
それを考えると少しおかしくなるが、できているのだから仕方がない。調べて手を動かした分だけ形になるのは、普通に楽しい。
少し早い夕飯を済ませ、今日のDailyも受け取る。
これで所持SPは30。
月曜から土曜まで、Dailyを全部回収して18SP。残っていたWeeklyも、運動の日数、歩数、自炊、睡眠の4つが終わり、合わせて12SPになる。
工場へ行き、飯を作り、寝る。休日も少し歩くことを意識すれば、その辺りは無理なく進められる。
スキルを取る前と比べて生活そのものが劇的に変わったわけでもないのに、使えるポイントはまた貯まっていた。
「今回はこっちだな。売るなら、もうちょい良くしときたいし」
《映像制作 Lv:6》の目標は残っている。
ただ、今は初めての商品を仕上げているところだ。既に受けている編集は回せているし、こちらが売れるようになれば、別の収入源にもなる。
保有スキルから2つを選ぶ。
《立体造形 Lv:4 → Lv:5》
消費SP:20
《デザインセンス Lv:3 → Lv:4》
消費SP:10
所持SP:0
今回も、きっちり使い切る。
改めて見直していると、先ほどまで気にならなかった部分へ目が行く。
正面から見た時の目元はいいが、斜めになると頬との繋がりが少し硬い。髪も束ごとには整っているのに、全体で見ると片側だけ重く感じる。
直す場所を探してから悩むのではなく、どう変えればまとまるかまで考えやすい。
少しずつ動かして、角度を変え、表情も切り替えてみる。
「お、こっちの方がいいな。笑わせた時も変にならんし」
《立体造形》だけなら、形として整える方へ強く働くのだろう。
そこへ《デザインセンス》が重なると、整っているだけでなく、どう見せたいかまで一緒に考えられる。直したい方向が分かるから、形を作る手も迷いにくい。
動画に文字を載せる時や、料理を皿へ盛る時にも似たようなことはある。今回は、顔や髪を直接いじっている分、違いが分かりやすかった。
別々に取ったスキルが、同じものを作るために噛み合っている。
どれか1つだけ上げて終わりではないのが、面白いところだ。
最初のモデルは、少し気の強そうな顔の女の子にした。
目尻はやや上がっているが、目を細くしすぎると冷たい印象になる。普段は少し眠そうで、笑った時にだけ小さな八重歯が見えるくらいが、今のところ気に入っている。
髪は肩甲骨の辺りまで伸ばし、片側だけ細く編んでまとめた。標準の色は淡い灰色に少し紫を混ぜ、瞳には青緑を入れてある。
体型は小柄寄りだが、極端に幼くも華奢にも見せない。ほかの服へ着替えた時にも合わせやすいよう、手足や腰回りの比率は素直にまとめた。
標準衣装は、黒い短丈のジャケットに白いインナー。ショートパンツと厚底のスニーカーを合わせ、留め具や小さな飾りだけ、瞳と同じ色にしている。
少しサイバーっぽさはあるが、機械や光る線を全身へ貼りつけたような格好にはしなかった。
顔を近くで見れば少し生意気で、離れて見れば服の輪郭が分かる。
ひとまず、狙った感じにはなっている。
「……悪くないな。自分で作ってるから気に入るのは当たり前かもしれんけど」
商品名は『ルゼ』。
いつまでも作業用の番号で呼ぶのも味気ないので、呼びやすさで決めた。特別な出自や細かな性格設定をつけるつもりはない。
使う人が、自分の好きな見た目に変えればいい。
目元や口の形を少し調整すれば、標準より柔らかい顔にもできる。髪や瞳、服の色も変えやすいようにして、小さな角はつけ外しできる別の飾りとして用意した。
小悪魔っぽく使いたい人はつければいいし、普通の女の子として使いたければ外せばいい。
最初から全部の特徴を固定してしまうより、そのくらいの余地がある方が、自分でも遊びやすそうだった。
追加衣装も3着ある。
大きめのパーカーを中心にしたラフなストリート系。家でだらっと着ていそうな、ゆったりした部屋着。それから、黒を基調に少し飾りを入れた、ゴス寄りの服だ。
標準衣装と合わせれば、全部で4通りになる。
同じ顔でも、服を変えて立たせると印象がかなり違う。部屋着にすると眠そうな目がよく合うし、黒い服へ角を足すと、少し意地の悪そうな笑顔が似合う。
衣装を増やすだけでも遊べるというのが、自分で触っているとよく分かった。
「これ、髪型まで変え始めたら終わらんな」
作ろうと思えば、まだいくらでも増やせそうだ。
ただ、それを全部やっていたら発売する日が来ない。最初の商品はここまでと決め、残りの案はメモに入れておく。
最後はVRゴーグルを使い、実際に着た状態で確かめる。
目の前の鏡には、自分の作った女の子が映っている。手を上げると同じように動き、頭を傾ければ髪も揺れる。
パソコンの画面で見る時とは、少し感覚が違う。
自分が作った顔がこちらを見るので、妙に落ち着かない。表情を切り替えて笑わせてみると、鏡の向こうだけ随分と愛想がよかった。
「……これを25歳の男が動かしてんのかと思うと、何とも言えんな」
別に今さらではある。
昔買ったアバターも女性モデルだ。分かっているのに、自作になると余計にそのことを意識してしまう。
腕を上げ、顔を近づけ、横からの見え方も確かめる。衣装を替えた時に変なものが残らないか、笑顔から別の表情へ戻した時に崩れないか。
ひと通り試して、気になるところをメモする。
戻ってから数か所だけ直し、もう一度確認。目立つ引っ掛かりがなくなったところで、ようやくゴーグルを外した。
額の辺りが少し蒸れている。
以前はただ遊ぶために買ったものが、今は仕事の確認に使えているのだから、捨てずに置いておいてよかった。
モデルの出来も、自分で着てみると判断しやすい。
紹介画像で整っているだけでなく、動かしていて嫌なところがない。少なくとも、自分が金を払って買う時に気にする部分は、ちゃんと確かめられた。
これで、商品として出す準備に進める。
値段は、市場を見ながら何度か考えている。
初作品だからと極端に安くする気はない。かといって、作るのに苦労したから高くするというのも、買う側には関係のない話だ。
何が入っていて、どんな見た目で、使う時にどこまで手間が掛かるか。
似た内容の商品を見比べたうえで、今回はこの3種類に分けることにした。
【オリジナル3Dアバター『ルゼ』】
本体・標準衣装付き:5500円
追加衣装3着セット:1800円
※本体は含みません。『ルゼ』専用です。
本体+追加衣装3着セット:6500円
本体だけで普通に使えるようにはしてある。
着せ替えも楽しみたい人は、セットを選べばいい。あとから衣装だけ欲しくなった場合も、別に買える形だ。
単品を両方買えば7300円なので、最初から全部欲しいならセットの方が800円安くなる。
「5500円か……自分でつける側になると、ちょっと考えるな」
昔買ったモデルの値段と、大きくは変わらない。
その分、買った人に困ってほしくもなかった。
見本にしか入っていない衣装が、商品にもついているように見えたり、使えない環境で使えると思わせたりするのは避けたい。
本体に入るものと、追加衣装の内容を分けて書く。
色を変えたり形を調整したりするためのデータもまとめ、導入方法は自分で順番を確かめながら説明をつけた。
説明を知っている自分の環境では動く、だけでは不安なので、何も入っていない状態から読み込み直してみる。
途中で必要になるものがあるなら、その前に書いておく。使う順番も、ファイル名を見れば分かるように揃えた。
難しい作業をできるようにするより、買った人が余計に迷わないようにする方へ時間を使う。
自分が以前導入した時にも、こういうところで助けられているのだろう。
「作り方知らなくても使える方が、そりゃありがたいわな」
利用できる範囲や再配布についての案内も、商品ページと同梱する説明の両方へ入れる。
問い合わせの窓口も仕事用のものへまとめ、確認する時間帯を書いておいた。売った後は一切知らない、というつもりはないが、24時間いつでも対応するわけでもない。
分かるところは先に説明しておけば、互いに楽である。
商品画像を作る段階になると、今度は少し勝手が分かる。
最初の画像には、顔と全身が分かるものを使う。細かな機能を文字で詰め込むより、まずはどんなモデルなのか見えた方がいい。
次に横と後ろ。表情の違い。標準衣装と追加衣装。
色を変えた例も用意し、同じモデルでも雰囲気を変えられることを見せておく。ただし、それが標準で入っている状態なのか、自分で色を変えた例なのかは分けて書く。
凝った背景をつけた画像だけでなく、形が分かりやすいものも残した。
格好よく見せることと、買う前に確かめてもらうことは、両方あった方がいい。
PVは40秒ほど。
最初に顔を見せ、全身へ引く。少し首を傾けたところで表情を変え、その動きに合わせて衣装を切り替える。
部屋着でだるそうに目を細め、次の場面では黒い服に変わって、口元だけ笑う。
それだけで同じモデルの印象が変わるので、妙に派手な効果を足す必要はなかった。
最後に標準衣装へ戻し、名前と販売価格を出す。
「顔が見たいのに、文字が邪魔とかになったら意味ないしな」
BGMも、モデルより目立たせる必要はない。
服が切り替わるところへ軽く音を合わせ、表情を見せる場面は少し落ち着かせる。テンポは出すが、何を見たのか分からない速度にはしなかった。
今まで依頼で使ってきた《映像制作》が、今回は自分の商品へ使えている。
モデルを作るために取ったのは《立体造形》だが、それだけで全部やっているわけではない。見た目、画像、動画、説明と、それぞれで別のスキルが働く。
追加で人へ頼まなくても、一通り自分で形にできる。
こうして同じ商品へまとめて使うと、数を持っている意味がよく分かる。
「……宣伝だけ別で頼まなくていいの、楽だなぁ。イメージ通りにできるし」
もちろん、PVがよければ売れると決まっているわけでもない。
ただ、せっかく作ったものを、見せ方で損させずに済むのはありがたかった。
紹介する場所も、商品ページだけではない。
調べ物の途中で見つけたアバターミュージアムは、VRChatの中でモデルを見られる展示会だ。画像だけでは分からない見え方を、実際の空間で確かめてもらえる。
過去の会場も少し見て回ったが、自分が買う側なら、こういう場所があるのは助かると思う。
ただし、商品を完成させたからといって、その日のうちに展示へ追加してもらえるわけではない。募集や公開の時期は、向こうの予定に合わせる必要がある。
出展用に使えそうな画像とデータはまとめ、募集を確認するためのページも残しておく。
ここは次の機会に合わせればいい。
販売そのものまで待つ理由はないので、まずはBOOTHと、自分のアカウントでの告知から始める。
Xには全身と顔の画像、それからPV。何の商品で、いくらで、どこから買えるかまで、その投稿で分かるようにした。
YouTubeにも短い紹介動画を載せ、商品ページから見られるように繋ぐ、逆も然り。
今のアカウントに、このモデルを待っている人がいるわけではない。
偶然目に入った人が、顔を気に入ったなら、そのまま全身や衣装も見られる。それくらいでちょうどいいだろう。
VRChatのアバターを探している人に見つけてもらえるよう、投稿につけるタグも確認する。
モデル名のタグは『#ルゼ3D』にした。使った写真を載せる時に利用してもらえれば、後からこちらでも見つけやすい。
「よし、あとは出すだけか」
商品ページをもう一度見直す。
本体と衣装だけの商品を取り違えないか。セットの中身は分かるか。動画へのリンクは開くか。
販売するファイルも、作業途中のものが混ざっていないか確かめた。
問題がなさそうなのを見て、公開する。
続けてXへ告知を投稿し、YouTubeの動画も公開した。
見た目だけなら、普通の商品ページになっている。
少し前まで他人の作ったものを眺めていた場所に、自分のアバターが並んでいるのが妙な感じだ。
別の画面から開き直してみても、ちゃんと価格が表示され、画像も見られる。
当たり前なのだが、少し嬉しい。
「……店に置くところまではできたな」
そこから数分、特に何も起きない。
売上は0。
Xの投稿を見直しても、急に何百人もの反応がつくわけではない。何も起きていないのに、また商品ページへ戻ってしまった。
さっき公開したばかりなのだから、そんなに都合よく進むはずもない。
「見てたって増えんわな。ほかのことやるか」
まだ残っている編集の確認を済ませ、依頼主へ返事を送る。
その後は風呂へ入り、パソコンへ戻ってゲームを起動した。
今日は朝からずっと何かを作っている。販売ページまで用意したのだから、ここから先くらいは遊んでもいいだろう。
しばらくゲームを進め、区切りのいいところで飲み物へ手を伸ばす。
そこで、スマホにメールが来ていることに気づいた。
BOOTHからだ。
何か設定を間違えたのかと思いながら開き、件名をもう一度読む。
「……売れた?」
慌ててゲームを止め、ショップの注文を確認する。
購入されているのは、ルゼの本体と追加衣装のセット。金額は6500円で、支払いも完了している。
誰かが、本当に買っている。
知り合いに頼んだわけでもないし、いつもの依頼主に買ってもらったわけでもない。
商品を見て、その値段を払おうと思った人がいるのだ。
「いきなりセットの方かよ。……ありがてぇな」
少し落ち着かなくなって、注文の内容をもう一度確かめる。
こちらから送るものはない。
購入者は、先に置いてあるデータを受け取れる。今から相手の希望を聞き、別の衣装を作ったり、動画を編集したりする必要もない。
6500円が、そのまま今すぐ口座へ入るわけではない。手数料も掛かるし、売上の振込は別だ。
それでも、1件売れたことには違いない。
自分がゲームをしている間に、既に完成している商品が売れた。
そのことが、金額以上に妙に嬉しかった。
Xを見てみると、告知を広めてくれた人が何人かいる。
『この顔好き。笑った時の歯がかわいい』
『標準服もいいけど、追加のパーカーが欲しい』
『新しいショップ? 紹介動画ちゃんとしてるな』
見覚えのない名前ばかりだ。
そこから商品ページへ来てくれたのか、BOOTHの中で見つけたのか。どこを通って買ったのかまでは分からない。
ただ、見てもらえていることは分かる。
顔や衣装のことを言ってもらえるのも、PVを見て反応してもらえるのも、どちらも悪い気はしなかった。
調べて、作って、何度か直したところを、自分以外の人が見ている。
編集の初仕事を取った時とは、また少し違う嬉しさがある。
通知を見ている間に、もう1件注文が入る。
今度は本体だけだ。
「……おお。もう1人」
同じファイルなのに、また売上が増える。
2人目のために何かを作ったわけではない。今したことと言えば、スマホで反応を見ていたくらいだ。
頭では分かっていた。
1回作れば何度でも売れるから、こういう商品を作りたかったのだ。けれど、実際に2回目の注文が入ると、ようやくその違いが分かる。
受託の動画編集なら、次の報酬には次の作業が必要になる。
こちらは、次の購入者にも同じ完成品を渡せる。
「これは……思ってた以上にいいな」
だからといって、今後何もせずに済むわけではない。
不具合があれば直すし、使い方の問い合わせが来れば対応する。今のところ見つけていない問題が、ほかの環境では出るかもしれない。
そこまで含めて売った商品だ。
ただ、その対応と、1人ずつ最初から作り直すことは別である。
欲しかったのは、こういう稼ぎ方だった。
その夜は、もう1件売れたところで確認をやめた。
寝る前に何度もページを開いていても、注文が増えるわけではない。分かっていても、つい見たくなるのが困るところだ。
翌日も、少しずつ反応は増える。
購入してくれた人が、髪や服の色を変えた画像を投稿していた。暗い服を基準に作ったモデルが、淡い色へ変わっている。
同じ顔なのに、雰囲気が随分と柔らかい。
「あー、こういう色も合うんだな」
自分が用意した見本とは違う。
それでも、売ったものを使って楽しんでもらえていることが、一目で分かる画像だった。
作ったままの見た目を全員に使ってもらいたいわけではない。むしろ、こうして違う形にしてもらえる方が面白い。
商品ページで調整できるようにしておいた部分も、ちゃんと使われている。
その投稿へお礼を返し、仕事へ戻る。
気づけばまた注文が増えていて、そのうちの1件は追加衣装だけだった。本体を買ってから、後で欲しくなったのかもしれない。
セットにしなかった人にも、選ぶ余地がある。
商品を分けておいたのは、ひとまず無駄ではなさそうだ。
月曜、工場から帰って売上を確認すると、数字はさらに増えていた。
公開してから、まだ2日ほど。
注文を種類ごとに見直すと、こうなっている。
【販売数】
本体:4件
5500円 × 4 = 22000円
本体+追加衣装セット:8件
6500円 × 8 = 52000円
追加衣装セット:2件
1800円 × 2 = 3600円
売上合計:77600円
「……7万超えたぞ」
全部がそのまま手元に残るわけではない。それでも、初めて出した商品に、これだけ払ってもらえている。
数字を眺めてから、椅子の背へ体重を預ける。
土曜までは、同じ顔を何度も回して見たり、服を直したりしていた。
今は、そのデータを置いてある。
もちろん、何の苦労もせずに金が湧いたわけではない。工場から帰って調べ物をして、知らない操作を覚え、動かしたら変になるところを直している。
それでも、その作業で作ったものが、1人に売れて終わらない。
これまでの自分にはなかったことだ。
「毎回このくらい売れるとは限らんけど……形にはなったな」
今の売れ方がずっと続くとは思っていない。
発売した直後だから見てもらえている部分もあるだろうし、次に作ったものが同じように売れるとも限らない。ここから急に注文が止まる可能性もある。
だから、今の編集を全部やめるつもりはなかった。
あちらは頼まれたものを作れば報酬になる。こちらは作っても売れるか分からない代わりに、売れるたび同じ仕事をしなくて済む。
両方あるなら、それでいい。
次に作るなら、男性モデルも面白そうだ。
ルゼの服や髪型を増やすこともできるし、アバター以外の立体物にも手を出せる。市場を見ていた時には思いつかなかったものまで、今は少し具体的に考えられるようになっている。
ただ、次の商品を今日から作り始める気にはならない。
まずは初めて買ってくれた人たちが、問題なく使えているか。問い合わせや報告を確認し、商品として落ち着かせる方が先だ。
出展用に用意した画像もあるので、アバターミュージアムの募集についても、引き続き確認しておく。
そこから見つけてもらえる機会が増えるなら、今出している商品にもまだできることはある。
「次のやつ考える前に、こっちをちゃんと済ませとくか」
問い合わせ用の画面を確認し、今日返すものを片づける。
その後でハルトたちの依頼を開くが、いつもの作業も、少しだけ気分が違った。
今は、自分が手を動かしている分とは別に、買える商品が店へ並んでいる。
明日の工場へ行っている間も、帰ってゲームをしている間も、誰かが見つければ買ってくれるかもしれない。
売れなくても、新しい依頼が増えるわけではない。売れた時も、その人数分を最初から作り直す必要はない。
欲しかった余裕へ、ようやく別の道ができた気がする。
販売ページの女の子へ目を戻す。
こちらのことなど知った様子もなく、少し意地の悪そうな顔で笑っている。
「……こっちは工場行ってる間も店番してくれるんだもんな。頼むわ、ほんと」
画面を閉じ、今日の編集へ取りかかる。
次のスキルで何を作れるようになるか。
それを考えるのが、また少し楽しみになっていた。