スキル制ステータスで現代をお気楽に過ご……したい   作:逆鯖

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ちょっとした日常パート

 

 

 

 ルゼを売り始めてから、もうすぐ1週間。金曜の朝、今日は作業着ではなく、普通の服に着替える。

 

 工場の仕事は有給を取ってある。編集の方も昨夜までに必要な分を送り、今日の昼間は作業しないと決めているので、時間を気にしてパソコンへ張りつく必要はない。

 

 出かける予定ではあるが、遊びに出かけるわけでもなかった。

 

 鞄に入れるのは、筆記用具と本人確認用の免許証、それから講習会の受付票だ。

 

 今日は食品衛生責任者の養成講習を受けに行く。

 

 きっかけは、今月のMonthlyに残っている、資格を1つ取得するという項目だった。

 

 ルゼを作っている合間にも何度か確認していたが、これだけは普段どおり生活していても進まない。取得できそうなものを探していたところ、1日の講習で修了できるものとして目に留まったのが、食品衛生責任者だった。

 

 今すぐ飲食店を開く予定はない。

 

 ただ、最近は毎日自炊しているし、料理に関係する知識なら覚えても無駄にはならないだろう。試験に向けて何週間も勉強する必要がないのも、最初に選ぶものとしてはありがたい。

 

 空きのある日程を確認し、申込書を郵送。有給の申請も先に済ませ、届いた受付票は、なくさないよう机の引き出しへ入れておいた。

 

 それが、ちょうど今日というわけだ。

 

「1日で資格取って、10ポイント。美味しいミッションだ」

 

 教材費まで含めて、受講料は1万2000円。

 

 安いとは言わないが、そのくらいなら払える。以前なら、使う予定もない資格へ金を出すのは少しためらったかもしれない。

 

 今はスキルのポイントまでついてくる。

 

 しかも、金を払ったら自動で頭に入るわけではないとはいえ、覚えた知識はその後も使える。普段の飯に関係する内容なら、それも悪くない。

 

 簡単に朝飯を済ませ、Dailyの自炊を受け取る。

 

 今日の運動は、会場への行き帰りと、少し寄り道すれば終わるだろう。工場に行かない日にも、ポイントを取りこぼさない生活がだいぶ馴染んできている。

 

 時計を確かめてから、鞄の口を閉じる。

 

 いつもなら、そろそろ仕事を始めている時間だ。

 

 今日はまだ家にいるというだけで、少し気分が違った。

 

 会場へ向かう電車は、通勤の時間帯を外したせいか、思っていたより空いている。

 

 座って受付票を確かめ、降りる駅と、そこから歩く道をもう一度見る。初めて行く場所なので、ぎりぎりに着くより少し余裕がある方がいい。

 

 スマホには、昨夜のうちに届いた販売通知も残っている。

 

 ルゼの注文だ。

 

 最初の週末ほど立て続けではないが、その後も少しずつ買ってもらえている。衣装だけの注文もあり、本体を使ってから追加してくれたのかと思うと、そちらも嬉しい。

 

 問い合わせは、色を変えるデータがどこにあるかといったものが中心だった。説明に書いてあることでも、探している人からすれば見つけづらい場所にあるのかもしれない。

 

 何度か同じところを聞かれたので、商品ページの案内を少し上へ移している。

 

 今のところ、大きく作り直すような問題はない。売る前に自分で読み込み直したり、動かして確かめたりした手間は、無駄ではなかったようだ。

 

 ただ、今日はその作業まで持ち出すつもりもない。

 

 注文の内容だけ確認して、スマホをしまう。

 

 工場を休んで講習へ行く間にも、店の方は開いている。その状態は、まだ少し不思議だった。

 

 駅を出て案内どおりに歩くと、建物の入口に講習会の表示が見つかる。

 

 受付で名前を伝え、必要なものを確認してもらってから受講料を払う。教材と案内を受け取り、指定された席へ向かった。

 

 会場には既に何人も座っている。

 

 若い人もいれば、自分よりずっと年上に見える人もいる。会社から来たらしい人たちは近くで話していて、これから店を始めるという言葉も聞こえてきた。

 

 その中で、スキルポイントが欲しくて来ているのは、たぶん自分だけだろう。

 

 教材を机へ置き、今日の予定を見る。

 

 食品衛生学、公衆衛生学、食品衛生法。確認テストも含めて6時間で、昼休みを挟んで夕方まで続く。

 

「……1日で取れるのはいいけど、1日使うのは少し気になるが……しゃーなしだな」

 

 小声で呟き、椅子へ座り直す。

 

 普通に工場へ行くより遅い時間に始まるとはいえ、午前中だけで終わるようなものでもない。

 

 自分で申し込んだのだから、そこは仕方がない。せっかく金を払う以上、覚えられるものは覚えて帰りたいところだ。

 

 講習が始まり、教材を開く。

 

 最初から知らない言葉ばかりというわけではない。食材の保存や、調理器具の扱いについては、普段料理をする時にも関わる内容だ。

 

 ただ、何となくそうした方がよさそうだと思っていたことに、具体的な理由がついていく。

 

 どこで何に触れるのか。どの段階で汚れがほかへ移るのか。

 

 説明を聞いていると、自分の台所で同じ作業をした時の動きが浮かぶ。道具を置く位置や、先に準備しておくものまで繋げて考えられるので、話を追いやすい。

 

 《料理》と《清掃》の両方が、こういうところでも使えているのかもしれない。

 

 もっとも、知らない病原体の名前まで勝手に出てくるわけではなかった。

 

 初めて聞くものは教材に印をつけ、特徴を確かめる。説明を聞かずに分かるほど便利ではないが、聞いた内容を実際の作業へ結びつけやすいだけでも、かなり助かる。

 

 ただの暗記として聞くより、何を防ぐための話なのか分かった方が頭にも残りやすい。

 

 配られた教材の余白へ、自分が気になったところを書き足していく。

 

 パソコンばかり触っているので、手でこんなに文字を書くのは久しぶりだ。少し書いただけで、普段どれだけ指先しか動かしていないか分かる。

 

 字は、相変わらず自分の字だった。

 

 読めないほどではないが、丁寧に書こうとすると少し時間が掛かる。こういうのにもスキルがあるのだろうかと考えかけて、教材へ目を戻した。

 

 今は探している場合ではない。

 

 講師の話を聞きながら、必要なところだけメモを続ける。

 

 たまに時計を見ると、まだ思ったほど時間が進んでいない。

 

 内容は理解できる。けれど、理解できたから次へ進めてくれるわけではなく、会場では決まった順番で説明が続く。

 

 自分で解説動画を見ている時のように、分かるところだけ飛ばすこともできない。

 

 こういう待ち時間まで、スキルがどうにかしてくれるわけではないらしい。

 

 休憩の案内が出る頃には、椅子から立ち上がるのが少し嬉しくなっていた。

 

 廊下で軽く肩を回し、飲み物を買って戻ると、隣に座っている男性から声をかけられる。

 

「お店を始める予定なんですか?」

 

「いえ、今のところはないですね。最近自分で料理することが増えたんで、どうせなら取っておこうかと思って」

 

「ああ、そういう方もいるんですね。うちは店の方で必要になって、今回来てるんですよ」

 

 なるほど、それが普通なのだろう。

 

 こっちは資格そのものに加えて、目に見えないポイントまで目当てにしている。さすがにそれを説明するわけにはいかないが、料理する機会が増えたこと自体は本当だ。

 

 少し話してから、次の講義に備えて教材を開く。

 

 普段の工場とも、ネット越しの依頼とも違う。

 

 たまにはこういう場所へ来るのも、悪くはなさそうだった。

 

 昼休みは45分。

 

 初めての場所で店を探して歩き回るほど余裕はないので、来る途中に見かけた定食屋へ入ることにした。

 

 入口のメニューには焼き魚や生姜焼きが並んでいる。席も空いていたので、生姜焼きを頼んで座る。

 

 午前中に聞いた話が残っているせいか、いつもなら気にしないところへ少し目が向く。

 

 ただ、店の中を勝手に点検して回るつもりもない。講習を半日聞いただけで、急に専門家みたいな顔をするのも違うだろう。

 

 水を飲み、料理が来るまでスマホを開く。

 

 ルゼのタグには、新しい写真が増えていた。

 

 標準の灰色の髪を暗い色へ変え、服も白を中心に揃えている。同じモデルなのに、商品ページへ載せた姿より落ち着いた雰囲気だ。

 

 こういう使い方もあるのかと、画像を大きくして見てしまう。

 

 自分で作る時には、どうしても好みの色へ寄る。それを別の人が変えて使っていると、知らない組み合わせまで見られるのが面白い。

 

 売れた後まで、作った時の姿を守ってほしいわけではない。好きに変えて、気に入って使ってくれるなら、その方が嬉しかった。

 

 販売通知も1件増えている。

 

 本体と衣装のセットなので、6500円だ。

 

 午前中はずっと教材を見ていたのに、別のところでは商品が売れている。受講料の半分ほどの売上が増えたと思うと、少し口元が緩む。

 

 もちろん、手数料を引く前の数字だ。それでも、こちらが何かを作って送り直したわけではない。

 

「……いいな、これ。ほんとに」

 

 小さく呟いたところへ、生姜焼きが運ばれてくる。

 

 スマホを伏せ、箸を取る。

 

 自分の料理も前より随分とうまくなったが、外で頼んだ飯を食べるのは、また別にいいものだ。作らずに出てくるし、この後に皿を洗う必要もない。

 

 味付けをどうしているのか少し気にはなるものの、今は普通に腹が減っている。

 

 肉をご飯と一緒に口へ運び、味噌汁を飲む。

 

 平日の昼に、会社の休憩時間ではなく、自分で選んだ店で飯を食う。たったそれだけのことが、今日は少し楽しかった。

 

 午後は、法律や営業に関係する説明も続く。

 

 こちらは、毎日料理をしているだけでは知らないことが多い。用語の意味を確かめ、教材のどこを見ればいいか印をつけていく。

 

 食品衛生責任者は、料理が上手いことを認めてもらう肩書きではない。

 

 食べ物を扱う場所で、衛生管理に関わる役割だ。うまい飯を作ることと、安全に扱うことを分けて考える必要があるのは、説明を聞いているとよく分かる。

 

 《料理》のレベルが高いから、こういう制度まで知っていることにはならない。

 

 分からないところは、ちゃんと聞いて覚える。

 

 その辺りは動画編集を始めた時と同じだった。

 

 手を動かす能力があっても、使う道具や仕事の決まりまで最初から分かるわけではない。今日の内容も、スキルを持っていることとは別に、自分で知っておく意味がある。

 

 ただ、昼飯の後に座って話を聞いていると、眠くなってくる。

 

 教材の同じところを数秒眺めていることに気づき、背筋を伸ばす。

 

 自分で金を払って来ているのに、ここで寝るのはもったいない。講師が説明している場所へ目を戻し、聞き逃しかけた部分を確認する。

 

 休憩を挟んで話が進み、最後には確認テストもある。

 

 聞いていないことを突然答えろと言われるわけではない。今日の説明を思い返しながら、設問を順番に読んでいく。

 

 紛らわしいと感じたところは読み直す。普段の感覚で答えるより、何について聞かれているのかを確かめた方がよさそうだった。

 

 記入を終え、残った時間でもう一度確認する。

 

 スキルを取った時のような、数字が一瞬で変わる派手さはない。

 

 知らないことを教わって、理解して、答える。やっていることは普通の勉強だが、その普通の作業が以前より進めやすい。

 

 全部が頭から抜けて、最初に何を聞いたか分からなくなるようなことも、今日はほとんどない。

 

 こういうところでも恩恵はあるのだろう。

 

 終了の案内を聞き、筆記用具を片づける頃には、窓の外の明るさも朝とは変わっていた。

 

 予定どおり、もう夕方だ。

 

 全課程が終わり、修了証を受け取る。

 

 渡された赤い手帳を開くと、自分の名前が載っている。内容を確かめているところで、視界の端に別の表示が出た。

 

 

【Monthlyミッション達成】

 

資格を1つ取得する

 

報酬:10SP

 

 

 ちゃんと達成している。

 

 講習を修了して、食品衛生責任者になれる資格を得たことが、システムでも認められたらしい。

 

 会場の中なので、その場で声を出すのはやめておく。手帳を鞄へしまい、外へ出てから改めて画面を開いた。

 

 

【Monthly】

 

・スキルを利用して収入を得る

 [達成・受取済み] 報酬:10SP

 

・成果物を3つ完成させる

 [達成・受取済み] 報酬:5SP

 

・資格を1つ取得する

 [達成・報酬受取可能] 報酬:10SP

 

 

「よし、これで全部か。最後の1個だけ残ってるの、ちょっと気になってたんだよな」

 

 10SPを受け取ると、最後の表示も受取済みに変わる。

 

 追加で新しい資格の課題が出てくることはない。今月のMonthlyは、これで完了だ。

 

 今日は朝から座って話を聞き、テストも受けている。無料でポイントだけ手に入ったわけではないが、必要なことを済ませて全部埋まるのは気持ちがいい。

 

 それに、報酬はポイントだけでもなかった。

 

 鞄の中には、修了証がある。

 

 今すぐ使う予定がないとしても、自分が取得したものとして残る。難関試験を突破したわけではないのに、ついもう一度見たくなった。

 

「……こういうの増えてくの、ちょっといいな」

 

 スキル欄の数字は、俺しか見られない。

 

 料理がうまくなったり、動画を作れたりするようになっても、どのくらいできるのかは実物を見せるしかなかった。

 

 こっちは、講習を修了したと普通に示せる。

 

 それが何となく嬉しい。

 

 誰かへ大げさに自慢するようなものではないのだろうが、持っていると言えるものが1つ増えるのは、悪い気分ではなかった。

 

 会場を出て、駅へ向かう。

 

 真っ直ぐ帰れば、いつもの工場帰りより少し早く家に着けそうだ。ただ、せっかく普段来ない場所まで出てきたので、駅前を少し見てから帰ることにした。

 

 今日は運動のDailyもまだ確認していない。

 

 歩く理由があるのはありがたいが、何でもミッションのために動いているみたいになるのも、少し変な感じである。

 

 普通に寄り道したいから歩くのでいいだろう。

 

 駅前の店に入り、家電やPC周辺機器を眺める。

 

 買い替えるつもりはないが、最近は動画を書き出す時やモデルを動かす時に、今のパソコンをもう少し良くしたいと思うことがある。

 

 自分の操作が速くなっても、機械の処理が終わるまでの時間は別だ。

 

 高いものへ替えれば何でも解決するわけでもなさそうなので、必要になったら調べてから買うつもりではいる。ただ、展示してある大きな画面を見ると、作業場所が広いのは普通に羨ましかった。

 

「先に机どうにかしないと、置けないんだよなぁ」

 

 今ある部屋で無理に物を増やせば、結局邪魔になる。

 

 《清掃》を上げても、床面積が増えるわけではない。その辺りは、普通に引っ越すか家具を減らすしかなさそうだ。

 

 売り場を抜け、同じ建物の別の階へ上がる。

 

 フィギュアのケースが並んでいるところでは、足が止まった。

 

 以前なら、好きなキャラクターかどうかと、顔が好みかくらいしか見ていない。それが今は、髪の束や服の広がり方にも自然と目が向く。

 

 腕と髪が重なるところでも、離れて見ると窮屈に感じない。正面だけでなく、横から見た時にも綺麗にまとまっている。

 

 ルゼを作っていた時、何度も角度を変えながら直したところだ。

 

 同じ立体物でも、こういう形の整え方があるのかと見入ってしまう。

 

「……うまいな、これ。動かさない分、形で見せてるのか」

 

 しばらく眺めてから、少し離れて全体を見る。

 

 今度は細かな作りより、単純に置いてある姿が気になった。近くで見ている時とは違って、表情とポーズが一緒になって目に入る。

 

 別に、買うための理屈を考えに来たわけではない。

 

 自分で作れるかどうかと、気に入ったものが欲しいかどうかも別だ。作れるようになったから全部自作すればいい、とまでは思わなかった。

 

 ただ、今日は鞄に教材が入っているし、家にも置く場所を決めていない。

 

 売り場の場所だけ覚えておき、今度は文具の方へ回る。

 

 そこで薄い書類ケースを1つ買った。

 

 今日もらった手帳と、受講料の領収書をまとめておくためだ。机に放り出しておくよりは、最初から入れる場所を作った方がいい。

 

 資格はまだ1つだけだが、ケースにはかなり余裕がある。

 

 それを見て、ほかに何を入れられるか、少し考えてしまった。

 

 帰りにスーパーへ寄り、夕飯の材料を買う。

 

 食品衛生責任者の講習を受けたからといって、今日から凝った飯を作るわけでもない。鶏肉ときのこを炒め、スープをつけるくらいで十分だ。

 

 

 家へ着いて手を洗い、先に冷蔵するものをしまう。

 

 今日聞いた話が残っているので、いつもの作業でも少し意識が変わる。味付けや火の通りだけでなく、途中で何に触っているかも、前より気になるところだった。

 

 何かが特別に怖くなったわけではない。

 

 普段から何となく分けていた作業にも、そうする理由があると分かっただけだ。意味が分かっている方が、続けるのも楽だろう。

 

 道具を用意し、材料を切ってから火をつける。

 

 講習ではずっと座っていたので、自分の台所で手を動かしている方が、今は少し落ち着く。

 

 味を確かめながら仕上げ、皿へ移す。

 

 派手ではないが、普通にうまそうだ。茶色だけにならないように野菜を添えるところまで、いつの間にか自然にやるようになっている。

 

「結局こういう飯が楽なんだよな。ちゃんとうまけりゃ、それで十分だわ」

 

 机へ運んで食べ始める。

 

 今日は朝に自炊のDailyを終えているので、2回目の報酬は出ない。それでも夕飯を作るのは、もうポイントだけのためではなかった。

 

 自分で作って、好みの味で、出費も納得できる範囲。

 

 以前は面倒で弁当へ逃げることが多かったが、今は作る手間が随分と軽い。こういう変化も、積み重なると生活に効いてくるものらしい。

 

 食後に皿を洗い、片づけまで済ませる。

 

 システムを確認すると、運動とスキル使用も達成済みだった。駅から会場まで歩き、帰りに店を見て回った分で、今日の運動は足りている。

 

 残りの報酬も受け取って、Dailyは全部完了。

 

 工場へ行かない日でも、いつもの3SPは取れる。特別に大変なことをした感覚もないので、このくらいなら続けられそうだ。

 

 風呂を済ませ、決めている対応時間になってから仕事用のアカウントを開く。

 

 今日の分の納品を急かす連絡はない。ハルトからは動画の確認が終わったという返事、ゴウからは次に渡す素材の案内が届いている。

 

 必要なところへ返事をして、予定を更新する。

 

 レナのメッセージにも、次の動画のURLがついていた。

 

 

レナ:次の素材、いつものところに入れたよ。今日は何か予定あるって言ってたし、確認は明日でも大丈夫。

 

ナオ:ありがとうございます。明日から進めます。今日は食品衛生責任者の講習に行ってました。

 

レナ:動画編集と3Dの次、今度は飲食? 何するつもりなの。

 

ナオ:店をやる予定はないです。1日で取れるものを調べたら出てきたので、せっかくだし取っておこうかと。

 

レナ:資格の取り方が、買い物ついでみたいで草。

 

 

 別に、何でもいいから手当たり次第に取ったわけではない。

 

 料理は毎日しているし、今日の講習でも知らない話は聞けた。もっとも、最初の理由を言えない以上、少し気まぐれに見えるのは仕方がなかった。

 

 

ナオ:最近は自炊も続いてるので、無関係でもないんですよ。今日の夕飯でも、聞いた話を少し思い出しましたし。

 

レナ:それなら普通に役立ってるね。じゃあ、動画の方はまたよろしく。今回は肉焼いてる音、ちゃんと録れてるから。

 

ナオ:確認しておきます。前みたいにBGMを抑えて、音を聞かせる感じで考えますね。

 

 

 そこまで返して、仕事用の画面を閉じる。

 

 明日やる内容は分かっているし、今夜から編集を始める必要はない。今日は既に6時間の講習を受けてきたのだから、残りくらいは好きに使いたかった。

 

 BOOTHの問い合わせも、説明の場所を案内すれば済むものが1件だけだ。

 

 返事を送り、見つけづらそうな部分には後で追記するようメモを残しておく。

 

 売ったら何もしなくていいわけではないが、こうした確認なら今のところ大きな負担にはなっていない。

 

 そのために、売る前から説明やデータを整えた意味もある。

 

 今日はこれで仕事を終わりにする。

 

 買ってきたケースへ、講習の手帳と領収書を入れる。

 

 しまう前に、もう一度だけ修了証の名前を確かめてしまった。

 

 難しい試験に受かったわけではない。決められた講習を受けて、確認テストを終えた。その結果として受け取ったものだ。

 

 それでも、昨日までは持っていないものが、今は手元にある。

 

 Monthlyの達成も嬉しいが、こちらもそれなりに気に入っていた。

 

「次は、ちゃんと試験受けるやつも面白そうだな」

 

 パソコンを開き、資格の一覧を少しだけ眺める。

 

 講習で取れるものもあれば、試験に合格する必要があるものもある。名前に聞き覚えがあっても、何をする資格なのかまでは知らないものも多い。

 

 難しそうなものほど、今のスキルでどこまで勉強が楽になるのか気になってくる。

 

 今日は、料理に関係する部分はかなり理解しやすかった。

 

 PC関係ならどうなのか。実際に道具を使う試験なら、機械操作の補正はどのくらい役立つのか。

 

 今ある技能で試せるものを探すだけでも、しばらく遊べそうだ。

 

 受験料と日程を見ながら、気になったページを2つだけ残しておく。今すぐ申し込むのではなく、まずは何を覚える必要があるか確かめてからでいい。

 

 今日のMonthlyは、もう終わっている。

 

 続けて別の資格を取っても、同じ10SPがまた出るわけではない。それでも次を調べているのだから、どうやら報酬だけが理由でもなくなりつつある。

 

「まあ、取れそうなのがあったらだな。仕事増やすつもりで資格取ってるわけでもないし」

 

 ケースを引き出しへしまい、講習の教材は本棚の取り出しやすいところへ置く。

 

 有給を1日使って、1万2000円払った。

 

 代わりに資格が1つ増え、Monthlyが全部埋まり、今まで知らなかったことも覚えた。ついでに昼は外で飯を食い、帰りには寄り道までしている。

 

 使い方としては、十分ありだったと思う。

 

 時計を見ると、まだ少し遊べる時間が残っていた。

 

 明日も休みだが、夜更かししすぎると起きるのが面倒になる。ひとまずゲームを1つ起動し、今日はどこまで進めるか考える。

 

 机の端には、しまい忘れた受付票だけが残っていた。

 

 ケースをもう一度取り出し、手帳と一緒に入れておく。

 

 空いているところに、次は何が増えるのか。

 

 少しだけ楽しみになりながら、引き出しを閉じた。

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