スキル制ステータスで現代をお気楽に過ご……したい   作:逆鯖

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1本まるまる動画を

 

 

 

 

 9月2日の昼過ぎ。昼飯の皿を洗ってからパソコンへ戻ると、レナからメッセージが届いている。

 

 食品衛生責任者の講習を受けてから、まだ2日だ。8月分のMonthlyを全部終えたと思えば、翌日には9月分へ切り替わっている。新しい内容を確認するのは後にして、先に仕事用の画面を開く。

 

 

レナ:ちょっと仕事の相談したいんだけど、今いい?

 

ナオ:大丈夫です。次の動画の話ですか?

 

レナ:そう。ショートだけじゃなくて、普通の本編もお願いできたりする?

 

 

 送られてきた文面を読み、隣の画面に出している作業予定を見る。

 

 ハルトとゴウの分は、今日中に確認してもらうところまで進んでいる。レナの次のショートも、指定された動画から1本仕上げればいい。

 

 最近は予定より早く終わることが増えてきた。新しく誰かに営業するつもりはなかったが、今付き合っている相手からの相談なら、内容くらいは聞いておきたい。

 

 

ナオ:撮影した素材をもらって、投稿用の本編に編集する形ですか?

 

レナ:うん。配信の切り抜きじゃなくて、普段の料理動画の方。今は自分で編集してるんだけど、そっちも任せられたら助かるなって。

 

ナオ:最近、撮影が増えたんです?

 

レナ:増やしたい。というか、チャンネルの数字が変なことになってる。今、登録者2万9000超えた。

 

 

「……そんな増えてんの?」

 

 思わず声が出る。

 

 初めて依頼を受けた頃は、9000人ほどだったはずだ。動画を確認する時も、最近は送ってもらうURLから直接開いているので、チャンネル全体の数字まで見ていなかった。

 

 ページを開くと、確かに表示は2.9万人になっている。

 

 並んでいるショートにも、見覚えのある画像が多い。そのうちの1本には、100万を超える再生数がついていた。

 

 鶏肉を焼く音から始めて、完成した丼へ繋いだやつだ。

 

 レナが料理をしている途中にぼそっと言った、やる気はないのに腹は減るという一言が面白くて、冒頭へ使った覚えがある。

 

 

ナオ:本当だ。丼のやつ、100万超えてるじゃないですか。

 

レナ:それ。Xに載せた方も回って、テレビから紹介していいかって連絡来たんだよね。この前ちょっと流れた。

 

ナオ:テレビまで? それは聞いてなかったです。

 

レナ:自分でも、ちゃんと放送されるまで信じてなかったし。気だるげな料理女子って紹介されてた。あの日、普通に寝起きだったんだけど。

 

 

 あの眠そうな顔は演出でも何でもなかったらしい。

 

 言われてみれば、材料を紹介する前に何度か目を擦っているところもあった。完成済みの動画からショートを作っているだけでも、そのくらいは分かる。

 

 テレビの話に驚いていると、続けて画像が送られてくる。

 

 チャンネルの登録者数を示すグラフだ。左の方では緩やかに増えていた線が、途中から大きく上を向いている。

 

 

レナ:テレビもあるんだろうけど、その前から伸び方違うんだよね。最初に編集してもらったショート出したの、この辺。

 

 

 別の画像には、グラフの途中へ丸がついている。

 

 そこから先は、目盛りを見なくても増え方の違いが分かる。

 

 

レナ:最初のやつ出した時、いつもより登録増えるなって思って。次も伸びて、今度は前に上げた本編まで見られ始めた。

 

ナオ:ショートから本編に来てるんですね。

 

レナ:そういうコメントも増えた。配信でも、Xの肉の動画から来ましたって言われる。肉で覚えられてる。

 

ナオ:顔より先に肉の印象なんですね。

 

レナ:あの動画、最初に映るの肉だし。そこはナオさんのせいでしょ。

 

 

 確かに、その順番にしたのは俺だ。

 

 焼ける音もよく録れていたので、顔より料理を先に見せたかった。そこから眠そうなレナへ切り替わる落差も気に入っている。

 

 それを見た人が、ほかの動画や配信まで見に来ている。

 

 編集して納品した後に、そんなところまで動いているとは思わなかった。

 

 

レナ:8月の収益も、まだ確定前の表示だけど30万近くになってる。前は5万いったら結構喜んでたのに。

 

ナオ:だいぶ違いますね?

 

レナ:昔の本編も見られてるし、配信も人が増えてるからだと思う。だから編集代を出して、撮影に時間使いたいんだよね。

 

 

 レナの動画一覧を、もう一度眺める。

 

 伸びているのは新しいショートだけではない。何か月も前に投稿されたパスタや丼物にも、最近のコメントがついている。

 

 仕事の確認で自分が見ている動画を、今は何万人もの人が見ているのだ。

 

 100万回という数字へ目を戻し、意味もなくページを更新してしまう。

 

 もちろん表示は変わらない。

 

「……これ、俺が作ったやつなんだよな」

 

 素材を見て、どこから始めるか考えていた時には、この数字まで想像していない。

 

 何度も再生した短い動画が、画面の中では別のものに見えてくる。

 

 レナとのチャットへ戻り、仕事の内容を確かめる。

 

 

ナオ:本編もできます。ただ、長い動画を丸ごと納品するのは初めてなので、最初に1本作って見てもらってからでお願いします。

 

レナ:それでいいよ。ショートと本編だと見せ方も違うだろうし。よさそうなら、週2本で頼みたい。

 

ナオ:完成した動画は、何分くらいを考えてます?

 

レナ:10~15分くらい。料理と、最後に食べてるところまで。撮ってる時間は長い時で1時間くらいかな。

 

 

 週2本。

 

 ショートより長いものを、それだけ追加することになる。作業予定を見ながら、今の仕事をどこへ振り分けるか考える。

 

 ハルトの分は何本かまとめて作れるし、ゴウの方も字幕や画面の形は決まっている。

 

 レナの本編からショートを作るなら、素材の確認を兼ねられるのも大きい。最初から最後まで自分で編集する映像なのだから、短く紹介する場所も探しやすくなる。

 

 まず1本やって、どのくらい掛かるか確かめたいところだ。

 

 

ナオ:今の予定なら、週2本も入れられそうです。先に素材を1本分見せてもらえますか。普段と同じくらいの長さのもので。

 

レナ:昨日撮ったのがあるから、それ送る。鶏もも肉のねぎ塩焼きと、余ってた野菜でスープ作ってるやつ。

 

ナオ:分かりました。完成尺がそのくらいなら、通常は1本1万2000円で考えてます。初回は1万円で、カットと字幕、音の調整、簡単な演出まで。

 

レナ:了解。今のショートは、そのまま別でお願いしたい。こっちも週3本で。

 

 

 料金の返事は早い。

 

 本編を月8本作れば9万6000円。今のショートを4週間分合わせると、12万円になる。

 

 レナからの依頼だけで、それだけの金額だ。

 

 計算結果を見てから、素材を確認するためのフォルダを開く。以前の自分なら、仕事を1つ頼まれてこんな数字を考えることはなかった。

 

 

レナ:サムネと投稿は、今までどおりこっちでやる。動画の中の文字も、全部に字幕つけなくて大丈夫。材料とか、聞き取りづらいところ中心で。

 

ナオ:今の動画の雰囲気に合わせます。初稿を見てもらって、直したいところをまとめてもらえれば対応する形でいいですか。

 

レナ:うん。それと、無言のところ全部切ると忙しそうに見えるから、そこだけ気になる。料理の動画だし、せかせかした感じにはしたくない。

 

ナオ:焼いてるところや盛りつけは、映像と音で見せる時間を取ります。ショートより落ち着いた感じにしますね。

 

 

 派手に文字を動かす動画を求められているのではない。

 

 料理の手順が追えて、レナの喋りも聞ける。先ほど開いた本編も、その方向で作られている。

 

 そこを引き継ぎながら、見づらいところを整えればいい。

 

 素材と方針が揃ってから3日ほどで初稿を送ると伝え、料金も含めて確認してもらう。

 

 しばらくして、データの共有先が届いた。

 

 動画の長さは54分。

 

 いつも受け取る完成済みの本編とは、ファイルの大きさから違う。

 

 読み込みを待ちながら空き容量を確認し、再生を始める。最初の数秒は台所だけが映り、その後でレナが画面へ入ってきた。

 

 髪をまとめながらカメラを覗き込み、背後の調理台を振り返る。

 

『……映ってるか。今日は鶏肉焼きます。ねぎ塩のやつ。あと野菜がそろそろ怪しいから、スープも作る』

 

 そこで一度止まり、手元のメモへ目を落とす。

 

『怪しいは駄目か。余ってる野菜です。はい、もう1回』

 

「そこ言い直すんだ」

 

 再生を戻さず、そのまま続きを見る。

 

 いつもの動画へ入っていない時間が、今回は全部ある。材料を取りに行く間も、換気扇の音を気にしてカメラへ顔を寄せるところも、そのままだ。

 

 調理を始めると手際はいい。

 

 切ったものを順番に分け、火を使っている間に次の準備を進めていく。低い声で説明しながら、時々コメントする相手もいない台所で独り言をこぼす。

 

『長ねぎ、切ると急に量増えた感じするんだよね。こんなにいらないと思うじゃん。焼いたらなくなるんだけど』

 

 手元のねぎを見て、首を傾げている。

 

 料理の説明だけ拾えば、この辺りは全部削れる。しかし、それだとレナの動画を頼まれている意味が薄くなる。

 

 使えそうな発言の時間を控え、完成まで通して見る。

 

 肉を皿へ移した後、レナは炊飯器を開けかけて手を止める。

 

『あ、米まだだった。……これ先につまんでたら、ご飯できる前になくなるな』

 

 しばらく肉と炊飯器を見比べ、結局端の1切れを口へ運ぶ。

 

 その直後だけ、さっきまで眠そうだった目が開いた。

 

『うま。もうこれでいいか』

 

「飯待つ気なくなってんじゃんか」

 

 ここは使いたい。

 

 料理を作って終わるより、この一口まで見せた方が、出来上がったものの味を想像しやすい。説明する言葉より、本人の反応が分かりやすかった。

 

 再生を止めて、今つけた印を見直す。

 

 素材の確認だけでも、ショートとは随分違う。数十秒の見せ場を探す時より、前後の繋がりを広く考える必要がある。

 

 ひとまず、完成料理を先頭へ置き、材料紹介から調理へ入る形で並べてみる。

 

 最初は14分ほどになった。

 

 通して再生すると、材料を切っているところが長い。レナの説明を全部使ったせいで、同じような手元の映像が続いてしまう。

 

 作業が繰り返しになる箇所を短くし、要点は字幕へまとめる。ねぎの話は、長さを変えて2通り作ってみた。

 

 片方は手元中心、もう片方はレナが山盛りのねぎを見ている顔へ切り替える。

 

 見比べると、顔が映る方がいい。

 

 ずっと俯いている映像の途中で、何を考えているのか分かる瞬間ができる。短い独り言でも、本人が喋っている感じが強くなる。

 

 次に、肉を焼く場面を確かめる。

 

 皮の表面へ焼き色がつき、ひっくり返した途端に音が変わる。ここを急いで次へ送ると、さっきまで並んでいた生の食材が、突然完成品になるようで落ち着かない。

 

 BGMを下げ、肉を返す前後に尺を取る。

 

 白い湯気が画面を横切り、フライパンの中で脂が弾ける。その間は文字も減らして、手元を大きく映した。

 

 この辺りは、《料理》があると判断しやすい。

 

 何をした結果、今の状態になっているのか。調理の流れを理解していると、離れた場面を繋ぐ時にも、どこを飛ばすと分かりづらくなるか気づける。

 

 ねぎ塩だれを混ぜるところでは、換気扇と声が重なっている。

 

 音量を上げてみても、調味料の名前が聞き取りにくい。映像だけで決めつけず、レナへ確認を送る。

 

 

ナオ:たれを作ってるところ、声が換気扇に負けてるので、材料のメモをもらえますか。分量もそちらに合わせて字幕を入れたいです。

 

レナ:あー、そこ聞こえないか。レシピのメモ送る。次から換気扇つける前に説明しとくね。

 

 

 返事を待つ間は、別の場面へ進む。

 

 スープは肉を焼いている合間にも作業しているので、撮影した順番どおりに並べると、視聴者があちこちへ引っ張られる。

 

 仕込みをまとめて見せ、煮ている間に肉へ戻る。その方が、2品をどう進めているか追いやすかった。

 

 何度か映像を入れ替え、レナの説明とずれないところで繋ぐ。

 

 ここは考える時間が掛かる。

 

 映像だけ先に進んでしまうと、喋っている内容がひとつ前の作業を指している。声の方へ合わせると、今度は同じ手元を長く見せることになる。

 

 順番を変えて見直し、使う発言を選び直す。

 

 ようやく引っ掛かりが減ってきたところで、レナからメモが届いた。

 

 字幕へ反映し、材料を紹介する場面も確認する。文字の位置と色は、これまでのショートに合わせているので、そこではあまり迷わない。

 

 今までなら、材料の説明から画面の見た目まで、いっぺんに悩んでいたかもしれない。

 

 今日は映像の繋ぎ方へ集中できる。ほかの部分を支えるスキルも、揃えておくものだ。

 

 時計へ目を向けると、そろそろ夕飯を作る時間になっている。

 

 いったん保存し、椅子から立つ。

 

 画面の中では鶏肉が綺麗に焼けているが、自分の冷蔵庫にあるのは豚肉だ。昼から同じ映像を見続けたせいで、今日はねぎ塩の味にしたくなってきた。

 

「……まあ、豚でもいいだろ」

 

 レナから届いたメモをスマホで開き、自分が食べる分の夕飯を作ることにした。

 

 食後に戻って、最初から再生する。

 

 さっきまで何度も触っていた時には気にならなかったが、冒頭の説明がまだ長い。完成料理を見せた直後なのに、材料を並べるところで勢いが止まっている。

 

 説明の一部を調理中へ移し、冒頭を短くする。

 

 最後は、肉をつまんだレナの反応まで。炊飯器を気にする姿から一口食べるところへ繋ぐと、本人が最後まで米を待てなかったことも伝わる。

 

 完成した皿は、その前にきちんと見せてある。

 

 食べた後にまた同じ料理の映像へ戻ると終わりが伸びるので、そこは切って締めた。

 

 全体は12分40秒。

 

 字幕を追いながら1回、今度は画面全体を見るつもりでもう1回再生する。途中で目を離したくなるところが減り、料理が出来上がるまで一続きで見られる。

 

「……これでよさそうだな」

 

 作業を始めてからの時間を確かめる。

 

 食事で席を外した分を除くと、4時間と少し。

 

 素材を全部見て、試しに並べ、構成を直し、仕上げまで。ショートとは使う時間が違うが、週2本なら今の予定へ組み込めそうだ。

 

 平日は作業を分け、休日にまとまった時間を取る。レナのショートも同じ素材から作れば、確認の手間を共有できる。

 

 完成動画を書き出している間に、短く紹介できそうな場面も控えておく。

 

 今日いじった映像なので、どこに何があるかはすぐ分かる。

 

 本編を任せてもらうなら、ショートも今までより作りやすくなりそうだ。

 

 書き出しが終わり、保存された動画を開く。

 

 プレビューではなく、普通の動画として最後まで見てから、確認用のデータを送った。

 

 

ナオ:初稿ができました。12分40秒です。材料や工程の説明と、料理中の喋りを組み合わせてあります。確認できる時に見てもらえれば。

 

レナ:もうできたんだ。今ちょうど片づけ終わったところだから、見る。

 

 

 送った途端、さっきまで気にならなかったところが気になってくる。

 

 ねぎの独り言は長すぎないか。最後のつまみ食いを、本人は使ってほしいと思うだろうか。

 

 編集データを開き直しかけて、手を止める。

 

 先に返事を待とう。今から勝手に作り替えても、確認しているものと別になってしまう。

 

 飲み物を取りに行き、戻ってから机の上のメモを整理する。

 

 しばらくして、通知が鳴る。

 

 

レナ:見た。いい感じだからこのまま投稿したい。

 

 

 文面を読んで、もう一度目を通す。

 

 とりあえず大丈夫、ではなく、このまま使いたい。

 

 それなら、最初の1本としては十分な返事だ。

 

 

ナオ:ありがとうございます。気になるところはありませんでしたか?

 

レナ:ない。撮った順番と結構違うのに、こっちの方が作り方分かる。スープと肉のところ、自分で編集すると行ったり来たりしてたんだよね。

 

ナオ:途中で切り替えるところは、結構考えました。説明してるものと画面がずれないようにしたかったので。

 

レナ:あと、米が炊けてないところまで使うとは思わなかった。あそこ自分だったら切ってる。

 

ナオ:一口食べた時の反応がよかったんで。炊飯器を見てたところから繋ぐと、待てなかったのが分かりやすいかなと。

 

レナ:実際待てなかったから何も言えない。見てて自分で笑ったわ。

 

 

 料理の説明だけなら、もっと短くできる。

 

 今回は、その人の動画を見ている感じも出したかった。レナが笑ってくれたなら、その方向で合っているのだろう。

 

 チャットには、続きが届く。

 

 

レナ:本編も週2本でお願いしたい。やっぱ自分でやるより、こっちの方がいい。

 

ナオ:分かりました。次からは1本1万2000円で、週2本ですね。撮影した素材をまとめてもらえれば、投稿予定に合わせて進めます。

 

レナ:それでお願いします。今日の分も支払いするから、いつもの請求のやつ送って。

 

 

 試作の1本が、そのまま投稿用に決まる。

 

 完成版を納品し、今回の1万円分をまとめる。次からの本編は週2本、ショートは今までどおり週3本だ。

 

 作業予定へ新しい枠を入れると、レナの名前が占める範囲が広くなる。

 

 以前は、5日働いて給料日を待つ以外に、金を増やす方法を持っていなかった。

 

 今は、4時間ほどかけて作った動画を見てもらい、その場で次の依頼まで決まっている。

 

 手元の仕事が増える感覚より、できることに値段がつく感覚の方が強い。

 

「……本編まで来ると、結構な金額になるな」

 

 週2本なら、本編だけで2万4000円。

 

 同じ1週間の仕事でも、ショートだけの時とは数字が違う。これを今より短い時間で仕上げられれば、かなり余裕が出そうだ。

 

 レナからも、来週撮る予定について連絡が来ている。

 

 

レナ:編集がなくなったら、撮りたかったやつ何本かできそう。あと配信も増やせるし。

 

ナオ:素材は今までどおり撮ってもらえれば大丈夫です。分量のメモも一緒にあると助かります。

 

レナ:了解。前は撮っても編集待ちで溜まってたから、そこまで頼めるのありがたい。

 

 

 撮影したい人と、編集を引き受けたい人。

 

 話が噛み合うと、仕事は随分やりやすい。

 

 来週の投稿予定を確認し、受け取る素材の順番を決める。これで、今の3人からの依頼を一度整理できた。

 

 ひと区切りついたところで、システムを開く。

 

 《映像制作》はレベル5。

 

 本編を作ってみて、今の腕でも仕事を受けられることは分かる。映像の順番を考える時には何度も手を止めたし、通して見てから切り直した場所もある。

 

 あそこに使う時間が減ったら、もう少し楽になるはずだ。

 

 詳細から、次の強化を開く。

 

 

《映像制作 Lv:5 → Lv:6》

 

 強化に必要なSPは50。

 

 

「次はこれだな。今度こそ」

 

 先に目標にはしている。

 

 その後で《立体造形》を見つけ、モデルを仕上げる時には《デザインセンス》も上げた。ルゼは売れているので、使った分の手応えはある。

 

 今度は、受ける仕事の方が広がった。

 

 ここで映像制作を上げれば、レナの本編にも、ハルトやゴウのショートにも、自分の商品を宣伝する時にも使える。

 

 50SP。

 

 数ポイント貯まるたびに取得一覧を覗いていると、また別のものが欲しくなる。今月は先に、この分をまとめて用意したい。

 

 お気に入りを開く。

 

 安い技能も、面白そうな異能も並んでいるが、今日は値段を見比べるのをやめる。《映像制作》を一番上へ動かし、ほかの項目は閉じた。

 

 レベル5でも、初めての本編を今日中に仕上げられる。

 

 その先の一流がどんなものなのか、今はかなり気になっていた。

 

「4時間がどのくらいになるんだか。早く試してぇな」

 

 今夜の作業時間をメモへ打ち込む。

 

 レベルを上げた後、同じくらいの素材を編集すれば比べられるだろう。

 

 そこまで済ませたところで、レナからもう1通届く。

 

 

レナ:あと、概要欄に編集者として名前載せていい? ショートも含めて、誰にお願いしてるか書いときたい。

 

ナオ:ナオ名義と仕事用のアカウントなら大丈夫です。

 

レナ:じゃあ入れとく。伸びた動画だけ見た人に、編集まで自分でやってると思われるのもあれだし。

 

 

 返事を打つ前に、またチャンネルのページを開いてしまう。

 

 登録者2.9万人。100万回以上見られたショート。

 

 次にそこへ並ぶのは、今日作った12分40秒の動画だ。

 

 レナの顔だけでなく、料理の手順も、独り言も、最初から最後まで自分で組んだものになる。

 

 完成版をもう一度再生すると、冒頭で肉の焼ける音が鳴った。

 

 その後に映るレナは、相変わらず眠そうな顔をしている。

 

『今日はもう、鶏肉焼けばいいでしょ』

 

「こっちは結構頑張ったんだけどな」

 

 画面へ言い返してから、チャットに了承を送る。

 

 次の動画も、投稿されたら見に行こう。

 

 今度は編集者としてではなく、何人に見てもらえたか確かめるために。

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