第1話7月19日
まったくもって、運が悪い。
どっかのツンツンウニ頭少年ではないが、「不幸だー!」と叫ばずにはいられないような状況である。
それもそうだ。
後ろからはイカツイ顔をしてなにか痛そうな棒などを持ったスキルアウトたちが鬼の形相で追いかけてきている。その数、5人…いや、10人だろうか。なんにせよ大ピンチなことに変わりはない。
「どこでどう間違えたらこんな状況になるんだよ…」
前を走る少年、聖澤 聖真はそう呟いた。
「待てゴルァァァ!!!」
後ろから怒り叫ぶはスキルアウト。
思い返すは、20分前、午後8時ごろのことだ。聖真は、夏休みも近くテンションも上がっていたということで、レストランで友人、上条当麻と食事をしていたところだった。
そんなときに、彼らの眼前で、中学生の少女がスキルアウトに絡まれてるのが見えたのだ。
2人は、どうしようもないお人好しであり、しかもテンションも上がっていた。
だから、ついつい助けてやろっかなーという軽い気持ちが芽生え、かっこいい声で助けに入ったのだ。
それが、彼ら二人の運の尽きだった。
スキルアウトは2人程度と思っていたのが、驚いたことにトイレから8人ものお仲間が出てくるではないか。
あのトイレ8人も入るほどでかかったっけ?
そもそも男8人で連れションなんておかしくないか?
とか色々と突っ込みどころもあるのだが、そんなことを気にする暇もない。
すぐさま逃げ出し、夜の街で終わらない鬼ごっこが始まっのだった。
「はぁ…不幸すぎる。当麻のヤロウはどっか行っちまうし…中学生もどっかに消えちまったし…。ったく。逃げてないでさっさと片付けるかー」
聖真は、そんなことをつぶやくと逃げることをやめ、路地の行き止まりで立ち止まった。
「アァ!?大人しくする気になったかよ正義の味方さんよぉ」
「うるせぇ!ムサイ男どもとの鬼ごっこには飽きたんだよ!アホどもが!」
なんかゴチャゴチャ暴言を言ってる気もするが、イライラしてることもあるので無視して臨戦態勢をとる。
まず一人が殴りかかってきた。しかし、突き出してきた右手を左手で横にはじき、下から強烈なアッパーを顎にぶつけた。
とりあえず、1人。
「1人ずつじゃなくて、纏めてかかってこいや、不良ども。」
「んだと…?」
一人を倒したことによって、スキルアウトのイライラも増したのだろうか、叫びながら四人が襲いかかってきた。
振り回している棒を避け、一人の顔にパンチを入れる。蹴りを入れてくるやつには、足で受け止め、逆にキックを決める。そんなこんなで敵をさばいていると、いつしか敵の人数も二人になっていた。
「この野郎…ただもんじゃねえのか?」
「ま、この物騒な町だ。ある程度には鍛えてあるさ。」
余裕の表情で聖真は言葉を返した。
(後二人なら問題なく切り抜けられるかな…)
そんなことを考えていたが、その余裕はすぐさま消えることとなる。
「オラァァ!あんま舐めてんじゃねえぞぉぉ!!」
スキルアウト二人は、叫びながら手に何かを生み出し、聖真に投げつけてきた。
放たれたのは、炎。
手のひら大の、喰らえば火傷必死の炎の球であった。
「能力者かよっ!!」
間一髪で炎を交わした聖真だが、額には汗が垂れる。
ここは、学園都市。
230万人の人口の8割は学生が占めている、超巨大教育機関である。
ここでは、独自の研究や、学生に能力を目覚めさせる、能力開発を行っている。
それらのせいか、学園都市の外と中では、何十年もの科学の進歩の差が出ていると言われている。
その能力開発を受けた生徒が、スキルアウトにもいたのだった。
「発火能力者が二人…炎の規模からしてlevel2あたりか?」
さっきまでの優勢から途端にピンチへと変わる。それもそのはず、
聖澤 聖真は、level0。無能力者である。能力に目覚めていない、いわば落ちこぼれであった。
「さっきまでの威勢はどうした?」
スキルアウトはニヤニヤと笑みを浮かべながら、炎を手に発現した。
「これで終わりだぁぁぁぁ!!」
スキルアウトは炎を思い切り聖真に投げ込んできた。
「クッ…ソッ!」
当たるのを覚悟して、目を閉じたその瞬間、
バチチィィッ!!
と前方が突然光で覆われ、煙が舞った。
(電気音…か?誰だ…?)
やっと開けた目の前の風景を見てみると、そこに居たのは倒れたスキルアウト二人と、
「まったく、随分と情けない正義の味方ね」
レストランで助けた、少し苛立ったような笑みを浮かべる、中学生の少女だった。
ーーーー
少女は、静かに聖真に近付いてきた。
「ったく…能力もないのに、スキルアウトから助けようとするなんて、ただのバカかよっぽどのお人好しね、アンタ。」
呆れたような顔をして、少女は言う。
「私が来なかったらアンタ今ごろ丸焦げよー」
今度はため息を吐きながら、少女は言った。
聖真はじっと少女の顔を見るだけで、何も言わない。
いや、突然の状況に、言葉を失っているのだろうか。とにかく、聖真は立ち止まっているだけだった。
「ってか………」
少女は口を開く。
「助けてもらったんだら何とか言いなさいよアンタ!!!」
ついに我慢が出来なくなったのだろうか、少女は超巨大な電撃の槍を聖真目掛けて放った。
「うおっ!!あっぶねっ!危なすぎだろその電気!当たったらどうすんだよ!」
間一髪でよけた、いやよけさせられ
たのか、聖真はようやく口を開き叫んだ。
「アンタがなんも喋んないのが悪いんでしょーが。なんでなんも喋んなかったのよ」
そう、自分より何歳も年上のスキルアウトを軽くあしらったことや、超巨大の電気を放つその能力強度よりも、聖真は少女について気になる場所があったのだ。
「お前…」
「な、何よ…」
真剣な表情の聖真の迫力に、少女は少しだけ気圧されながら、聖真の言葉をじっと待つ。
「お前………」
ゴクリ…
息を呑む少女、一体どんな事を言われるのだろうかと緊張した耳に入ってきたのは…
「お前、なんで短パンを履いているんだっ!!!!」
あまりにもバカげた変態少年の叫びであった。
何も言わずに、少女は電撃の槍を聖真に放つ。
「ぐわっはー!悪い悪かったって
助けてくれてありがとう!!!」
「うるさい!この状況でアンタはどんなとこに集中してんのよ!アンタやっぱタダのバカね!!」
顔を真っ赤にしながら少女は連続で電撃を放つ。
「いやだって!巻き起こる風の中お前の短パンだけが目に入ってきたんだよ!てか純粋な高校生の夢をぶち壊したお前こそ謝れ!!」
「前言撤回!!アンタ大大大大大バカね!」
そんな不毛なやり取りが少し続いた。しかし、やっと落ち着いたのだろうか、聖真が口を開いた。
「悪い悪い。いきなり過ぎて俺も頭の中がパニクってたんだよ。ありがとな、助けてくれて、」
「わ、わかればいいわよ…」
突然真剣な表情になった聖真に少し顔を赤くしながらも、少女は答えた。
「そういや、まだ名前言ってなかったな。俺の名前は聖澤聖真。お前は?」
「私の名前は御坂美琴よ。変態野郎。」
「ひどいいいようだな短パン少女。」
「…アンタはまた電気ぶっぱなされたいの?」
顔は笑っていても、目は笑っていない美琴に恐怖を覚え、すぐさま謝る聖真。
「おっそろしい中学生だな…ところで、さっきの電撃とその短パ…じゃなくてその制服、もしかして常盤台の超能力者ってお前のことか?」
再びちゃちゃを入れようとしたものの、体を纏った電撃をみてすぐさま言葉を訂正して尋ねる聖真。
「ええ、そうよ。私が常盤台のLEVEL5の一人よ。」
なるほど。と心の中で納得する聖真。
先程の電撃は、明らかにLEVEL3やLEVEL4のそれではなかった。たまに人助けで電気使いの能力者と一戦交えることもあるが、あれほどの電撃は一度も見たことがないのだ。
学園都市では、その能力の強度によってLEVELの格付けをされる。
LEVEL5は、学園都市内に7人しか
いない230万人の頂点であり、単独で軍隊と戦うこともできる、まさにチートのような能力者なのだ。
聖真は、それと完全に対極の存在である、LEVEL0。学園に落ちこぼれの烙印を貼られた、無能力者である。
(LEVEL5か…)
聖真も、この学園都市にいる以上は、上のLEVELを目指す一学生である。やはり、LEVEL5と言われる目の前の少女には、尊敬の眼差しを向けるのも無理はない。
……が。
「やべっ!もう九時じゃねえか!早く家帰って明日の提出課題やんなきゃいけねえんだよ!!」
聖澤聖真は、能力にはあまりこだわりがない少年である。この少年にとって重要なのは、LEVEL5の少女に色々と話を聞くことではない。明日の課題を終わらせることであった。
「んじゃっ!!御坂!助けてくれてありがとな!機会があったらまた会おうぜ!!」
と言葉を残し、そうそうに駆けていく聖真。
しかし、
「ちょっと!まだ行っていいなんて言ってないでしょーが!!」
電撃を放ちながら美琴が追いかけてきた。
「ンゲェッ!!なんだよ!さっきわかればいいわよとか言ってたじゃねえかよ!」
「でもそんな軽く帰られると後味悪いでしょーが!」
「何だお前は!わがままか!わがまま短パン少女か!」
「どうやら本格的にぶっ飛ばされたいようね…」
怒りの形相で追いかけてくる美琴。
それを後ろ目に見ながら全力疾走で逃げる聖真。
「なんで俺が!!こんな目にーーーーー!!!!」
どうやら、彼の鬼ごっこはまだまだ終わらないようだった。
人物紹介
聖澤聖真(ひじりさわせいま)
上条当麻と同じ高校で同じクラス。クラスのデルタフォースの一人に数えられている。身長は170前半で黒髪で整った容姿をしている。幼い頃の記憶はなく、両親のことも全くわからない。体を鍛えているため、格闘能力は非常に高い。