俺のかわいい式神の猫又ちゃんが令和の社会で暮らせないので、異世界に住むことにした 作:黒おーじ
ドアが開くと、宿の婆さんがお盆を持って入ってきた。
「お夕飯ですじゃ」
「わーい!」
「腹減ったッスよ~」
さと子とボウズはさっそく料理の前に陣取り、俺は「ありがとな」と声をかける。
婆さんはペコリとお辞儀をして部屋を去った。
「パンとシチューッスか。まあ、携帯食よりマシかなぁ」
そうブツブツ言いながらもシチューをすするボウズ。
俺もいただくとする。
「むっ……」
「玲斗さま?」
なるほど、これは……睡眠薬か。
「うっひょー! このシチューうめえッス……ぐーZzzz」
対面のボウズが見事にひっくり返った。
遅かったわ。
「たしかにコイツはウマい。なあ、さと子」
「にゃ、にゃ……」
ちなみに俺にはこの類の薬は効かない。
鴉丸家の修業では、あらゆる毒を毎日少量ずつ食して耐性をつける……なんてこともフツーにやってたからな。
「うーん、なんか眠たくなってきたなあ……」
俺はさと子と目を合わせながら横になった。
すると、言いたいことが通じたらしく、さと子も「にゃーン」と言って横になる。
妖怪であるさと子も、人間用の睡眠薬など通じるはずがないのだけどね。
「ぐー」
「……」
「ねむねむニャンコだにゃーん……」
こうしてしばらく横になっていると、ドアが開いた。
薄目を開けて見ると案の定、婆さんではなく、先ほどの四人組である。
「くっくっく。よく眠っていなさる」
赤ら顔の中年が笑う。
痩せた瓜顔がボウズをつつきながらいった。
「問題ないようだな。ちょうど村長がお帰りだ。オレは報告してくるから、そいつらを牢屋へぶち込んでおいてくれ」
「おう」
瓜顔は去った。
残るは小柄坊主と、無精ひげ大男と、赤ら顔中年の三人である。
「やれやれ……モヒカンは炭鉱奴隷かな?」
「だろうな。いいガタイだから高く売れるだろう」
「猫耳はそういう趣味の貴族に高く売れるだろうが……こっちの男はなあ」
「安いだろう」
「銅貨1枚ってところだな」
言いたい放題いいやがる。
「よし、運ぶぞ」
そう言って赤ら顔の中年男が寄って来た時。
俺はコイツの奥襟を取り、そのまま背後へ回った。
「な……!」
同時に、さと子は大男をネコパンチでノックアウト。
「うっ! うぐぅ……」
「ニャニャーン!」
驚きおののく小柄な坊主頭。
さと子はそのまま小柄坊主の背後へ回り、首根っこを捕まえた。
「な……なんだオマエら!」
「眠ってなかったのか!?」
意識があるのは二人。
でも、一人いれば十分だな。
俺はポッケから催眠用の護符を取り出して、「ほら、これを見ろ」と後ろから中年の男の前に差し出した。
「ひい、ふう、みい……」
数秒で、中年は目を回してその場に倒れ込んでしまう。
彼のポッケにナイフが入っていたので、そいつをスっと抜いてみる。
「さあ。案内はオマエだ」
俺はひとり残ったチビ坊主へナイフを向ける。
「ひッ、ひイ……」
「今度はインチキ宿じゃねーぞ。ボス……いや、村長ってヤツのところへ案内しろ」
◇
「こ、ここですぜ……」
チビ坊主は、村のはずれの家の前で立ち止まった。
「ここに村長ってヤツがいるんだな?」
「……へえ」
よく見ると、他の家よりも柱も太く、頑丈そうだ。
俺はチビ坊主に猿ぐつわをし、両手足をふん縛って転がすと、家の窓からそっと中を覗いた。
暖炉に火が灯り、趣味の悪い虎の毛皮の絨毯が敷かれた部屋が見える。
「村長。冒険者どもを捕らえましたぜ」
さっきの痩せた瓜顔の男だ。
ヤツの前には、スキンヘッドに傷のある男が座っている。
「そうか。よくやった。女戦士ライラは?」
「へえ。牢屋で寝てましたが、先ほど目を覚ましました」
「よしよし、連れて来い」
スキンヘッドに命じられると、瓜顔は部屋を出て行った。
しばらくして戻ると、ヤツは鎖を引いていて、後ろから手枷、足枷を嵌められたライラがやってくる。
「くっ……どういうことだ? 手錠を外せ! 誰だキサマは!」
金髪を振り乱して暴れる女戦士。
スキンヘッドや瓜顔、そして周りの連中は、「ケッケッケ……」と愉快そうにほくそ笑んでいた。
「申し遅れました。ワシはここの村長をやっておりますガイゼンといいます」
「村長だと? 村長が何故こんなことを……?」
「クックック。この村も、元は普通の村だったんですよ。かなり過疎が進んでほとんど人は住んでいませんでしたがね。しかし、数年かけてジワジワと移住者が現れましてな。今では百人弱の人口まで盛り返してきている」
「それがなんだ」
「気づきませんか? その移住者が、すべて盗賊だったのですよ……お前が探していた、な!」
村長のガイゼンは慇懃な態度をヤメ、「がはははは」とスキンヘッドを光らせた。
「そ、そんなことが……」
「ふふふ。オレたちも、宿屋の婆さんもグルさ。メシに眠り薬が入っていたんだよ」
「……くっ。卑怯者!」
瓜顔の男に噛みつかんとするかのように暴れるライラ。
村長はそんな彼女の顎を無造作につかみ、言った。
「くくくッ。いかにお強いライラさまだろうと、その手枷足枷は魔法封じの魔道具だ」
「なんだと!?」
「強化魔法を使えない女戦士に、鉄の枷を引きちぎる力はあるまい。このままおめえは奴隷市送りよ。が……まあ、とりあえず今晩はオレたちが遊んでやるとするか」
「ひゅー」
「さすが親分!」
ライラを囲んでいく盗賊たち。
「やれやれ……」
外から眺めていた俺は、ため息をつく。
だいたい状況はつかめた。
もういい。
「これくらいかな……?」
俺は霊力を魔力に変換する。
ライラまで巻き込んでしまったらイヤなので、コントロールして……
衝撃魔法を放った。
――どん! バキ……メキメキ、バキイイ……!!
衝撃で、村長の家の太い柱が折れ、壁がひしゃげ、窓枠が吹き飛び、屋根が大きく傾いた。
一瞬のうちに半壊である。
「やりすぎですニャ(汗)」
「いけね……」
でもまあ、角度的にライラは無傷なはず。
「ひー!」
「な、なんじゃこりゃあ」
一方、盗賊どもが半壊した家から外に出てくる。
「よお。ご苦労さん」
「何だキサマ!」
「あ……てめえらは! 眠っていなかったのか!?」
瓜顔の男が俺とさと子に気付いた。
「くそ、てめえの仕業だな? 野郎ども、出て来い!」
――ピイイイ……!
同心が吹くような甲高い音の笛が鳴る。
すると、他の家からも一斉に盗賊が出て来た。
百人弱はいるか。
「観念しろ!」
「いやあ、すまんすまん」
「ぁあ!?」
「今さら謝っても遅えぞ!」
なんか勘違いしているようだ。
「すまんが殺してしまうかもしれない。コントロールがまだ難しいんだ」
「へ……?」
衝撃魔法。
一発で二十人ほどが吹っ飛ぶ。
「な、なな……」
「……そんな」
こりゃ便利だ。
霊力では人を殺傷できないからな。
でも、やっぱりコントロールが難しい。
死んじゃいねえだろうが、ニ、三人、腕や足がひん曲がったヤツがいる。
「でも、先ほどよりはコントロールできていますニャ」
「マジ?」
「はい。イイ練習になりますね」
セーラー服のリボンを揺らしてほほえむさと子。
「じゃあ、ここは俺に任せてライラを頼む」
「ニャ」
さと子は返事をすると、ネコのように素早く走っていった。
「よし、もう一発……」
衝撃魔法。
今度はもっとコントロールできて、十人ほどが倒れたのみだった。
次は七人、その次は四人だ。
よしよし。
だんだんコントロールのコツがつかめてきたぞ。
「怯むな! ヤツの魔法の威力が減ってきているぞ」
「疲れているんだ!」
「かかれー!」
なんかまた勘違いして突っ込んでくるけど。
バカばっかだ。
しょうがねえなあ。
次は十人ほどでコントロールして、少しビビらすか。
そう思った時である。
「動くんじゃねえ……!!」
ドスの効いた声が村に響く。
振り返ると、盗賊村長ガイゼンがこちらを睨んでいた。
ヤツはスキンヘッドを光らせ、ライラへ向けてナイフを突きつけている。
「レ、レイトさま。私にかまうな!」
「黙ってろ! ケケケ……降参しな。女の顔に傷が入るぜ?」
「やれやれ」
俺はため息をついて言った。
「オマエは自分の立場がわかっていないな」
「あ?」
スキンヘッドの表面に、ツツーと汗が滴る。
そう。
盗賊村長ガイゼンの喉笛に、さと子のナイフのような爪がかかっていた。
「俺の式神だよ。オマエのナイフが髪一本ライラに近づけば、その喉笛から血が噴き出ることになる」
「……わ、わかった。わかったよ」
ガイゼンの手からナイフがこぼれた。