俺のかわいい式神の猫又ちゃんが令和の社会で暮らせないので、異世界に住むことにした 作:黒おーじ
「やっぱり、霊力が増幅しているな……」
俺は砂ぼこりの向こうを見ながら、指先に残った霊力を軽く払った。
ドラゴンの存在力は完全に消えている。
「わー! スゴイにゃ! 玲斗さま!!」
ばんざいするセーラー服のさと子。
……ふふ、可愛いヤツ。
「ちょっと疲れたわ。とりあえず日本に帰ろう」
「にゃー!」
現代日本でもすぐにさと子の存在力が消えてしまうということはないだろう。
俺はさと子と手を繋いで、野原の方へ足を向けた。
「ちょ、ちょっと待て……!」
だが、その時。
槍を持った女が割って入ってきた。
さっきドラゴンと対峙していた女だ。
「な……なあに?」
「私はライラ、冒険者だ」
水着型のアーマーに、勇ましく割れた腹筋がミチミチと映っている。
改めて見ると、ずいぶんファンタジックな出で立ちだな。
「そなた……名は?」
「え、ええと。玲斗だけど……」
苗字は省略し、名前だけ答える。
金髪の前髪の下で、青い瞳がこちらを睨みつけてきた。
美人だが武人ッけがある。
なんか怒られそうだ。
「あの……すいませ……」
「礼を言う。ただいまの見事なうでまえ、素晴らしかった」
「は? あ……」
ちょっとビビっただけに拍子抜けする。
「いや。それよりキミ……ケガはない?」
「うむ、助かったぞ。まさかこのベールの森にグリーン・ドラゴンが出るなどとは思わなかったからな」
ひょっとしたらお節介かと思ったが、助かったんだったらよかった。
「よかったね。じゃあ、気をつけて」
「……待たれよ」
俺が去ろうとすると、再び肩をつかまれる。
「レイトさま。あのドラゴンの
骸?
そんなのが残るのか?
妖怪や悪霊は、妖力が消えれば消滅したもんだが……
「悪いけど遠くから来たからさ。魔物ってのの性質を知らないんだ」
「それほどの腕を持ちながら魔物を知らないのか……?」
ライラは少し考え込むが、「いや、詮索はよそう」と続けた。
「ならば、もしよろしければ、私があのドラゴンを解体し、魔石を取り出しておいてもよいぞ」
えー、大変そう。
「解体って……やった方がいいん?」
「うむ。強力な魔物の遺骸を放置すれば、また新たな魔物の発生源になってしまう」
マジか。
そりゃ厄介だな。
「それに、ドラゴン種の魔石なら高く買い取ってもらえるだろう。もちろん、売ったお金はヤツを倒したレイトさまのものだ」
お金……!?
と、貧乏性で飛び上がりそうになるが、抑える。
「じゃ……じゃあ、悪いけどお願いしようかな」
「まかせてくれ。ニ、三時間で済むと思う」
「そんなすぐにできちゃうん?」
「ああ。解体が済んだらイールの街まで売りに行くが……よかったら一緒に行こう。案内するぞ」
異世界の街か。
興味はある。
この世界にどれほどの文明があるのか。
俺みたいな現代人でも暮らしていけるのか確かめるにはちょうどいい。
明日はバイトもねーし。
「うん。連れていってくれると助かるな」
「うむ、承った!」
こうして握手をすると、ライラは筋肉をまとったお尻をぷりっとさせながら歩いていった。
◇
ライラがドラゴンの解体をしてくれると言うので、俺とさと子はひとまず日本へ帰ることにした。
異世界では昼間だったが、俺は一日バイトした後でヘトヘトなのである。
「この洞窟から戻れるんだよな?」
「ニャー!」
行きに通った洞窟をくぐっていくと、戸の裏側からかすかに光が漏れているのが見える。
戸を開けると、鴉丸の屋敷の物置空間に戻ってきた。
「もう夜11時か……」
時計を見てどっと疲れが出る。
「そういえば……玲斗さまはお一人でお住まいなのですか?」
「うん。独身だし、両親は蒸発しちまったからな」
さと子は「にゃー」と首をかしげる。
「それにしてもおかしいです。お屋敷の使用人もいません」
「……ああ。オマエは異世界にいて知らないかもしれんが、鴉丸家は没落しちまってな。そんなもの雇うカネはとっくにねーんだ」
「にゃんと……!?」
飛び上がるさと子。
「ううう……玲斗さま。ご心配なさらず! 私が来たからには必ずや名門鴉丸家を再興させてみせますニャ!」
「そ、そうかい……(汗)」
暑苦しいなあ。
戦国時代かよ。
「まあ……とにかく風呂に入って少し仮眠を取るよ。ライラのところへ行く前に倒れそうだ」
そう言って俺は風呂へ向かった。
湯舟が沸いていないが、シャワーだけでも浴びて汗を流す。
「ただいまー」
戻ると、さと子はソファーにちょこんと座ってテレビを観ていた。
さっきめちゃ燃えてたわりに、呑気なもんだ。
おもろいんだろうか?
「ニャー、テレビに色がついているニャー!」
別に内容が楽しいワケじゃないのか。
「テレビは知ってるん?」
「ニャ、玲斗さま。……ええ、白黒なら。ほんの60、70年でこんなに変わるものなんですね」
そういう発言を聞くと、こいつが妖怪なんだなって実感する。
見た目だけだとちょっと猫耳の生えたセーラー服の少女だからな。
「お楽しみのところ悪いが、風呂に入ってきてくれ。もう寝たいから」
「……」
さと子?
「ニャ、ニャ、にゃ~ん……♪」
「もしかしてオマエ、風呂が嫌いなのか?」
「……ギク!?」
ネコ丸出しじゃねえか。
「さと子、オマエを式神にするにあたって、ひとつだけ言っておくことがある」
俺はため息をついて言った。
「風呂キャンセルは許さん。毎日入れ」
「ニャ!? にゃ~ん……」
さと子はネコ耳を垂れながらも、風呂へと立ち上がった。
いい子だ。
さと子にシャワーの使い方を教えてやると、押入れから布団を出して畳にしいた。
「ふにゃーん……」
さと子が風呂からあがってくる。
濡れそぼった髪に、ちょっぴり元気がない。
「髪、乾かしてやるよ」
ドライヤーを持ってきて、おかっぱ頭に温風をかけていく。
「わー、気持ちいいです!」
「次はしっぽだな」
パジャマがないので俺のTシャツをワンピースのようにして着せていたが、その
「これでよし」
「にゃーん、ありがとうございます」
やれやれ。
「俺は少し寝る。ライラを待たせたら悪いし、1時間くらいたったら起こしてくれ」
そう宣言して布団に入る。
「にゃーん……」
意識が朦朧とする中、猫又が布団にもぐりこんでくる気配を感じた。
「おい、オマエまで寝ちゃったら誰が俺を起こすんだ……」
と思ったが、眠気でもうどうでもよくなってくる。
俺は小さなおかっぱ頭をサラサラなでながら、心地よくまどろんでいった。