俺のかわいい式神の猫又ちゃんが令和の社会で暮らせないので、異世界に住むことにした 作:黒おーじ
目が覚めると、すでに時計は深夜2時を回っていた。
「ヤバッ、寝すぎだ(汗)」
ライラはニ、三時間で解体が済むと言っていたから、もう待たせてしまっているかもしれない。
「さと子、起きろ」
「にゃーん……zzz」
起きないので、しっぽをつかんで「おい、さと子」と揺さぶる。
「きゃー! 玲斗さまのエッチ!」
あ、そうなん?
「悪い悪い。だけど起きてくれ。そろそろ異世界へ戻るぞ」
そう言って、また梯子下の物置空間から、次元を超えていく。
野原からさきほどドラゴンが出現した道の方へでると、骨になったドラゴンに腰掛ける女戦士が、遠くで槍を掲げた。
俺も「おーい!」と大きく手を振る。
「ごめんな。待ってた?」
「いいや。今終わったばかりだ」
ライラはドラゴンの骨から尻を降ろし、堂々とした胸の前にルビー色の大きな石を出した。
「それが魔石っつーの?」
「うむ。街へ行けばギルドが買い取ってくれるだろう」
たしかに、ただの石ではないな。
妖気とも霊気とも言えないオーラを感じる。
「街までどれくらいかかるんだっけ?」
「近道をする。数時間でイールの街に到着するぞ」
そういうワケで出発だ。
先頭のライラが木々の合間を素早く進んでゆく。
ムっとするような土の香り。
野性的なブルマ型アーマーの尻。
「玲斗さま……」
「ああ」
俺はさと子と目を合わせた。
妖気のような気配……
――ギャアアアス……!!
案の定、魔物だ。
コウモリ型で人間サイズほどの巨大なヤツ。
それも三匹いる。
「チッ、厄介な……祓ッ!」
俺はとっさに指を向け、霊力を放つ。
護符を使わないぶん威力が低いが、幸い一匹は堕とした。
あと二匹は……?
「やぁ!」
そう思って振り返ると、ライラが流麗な槍さばきで、巨大コウモリを一匹、二匹と打ち堕としていた。
――ギョエエエ……!!
「コウモリバットか。魔石だけで、骸は放っておいてよいだろう」
そう言って魔石をくり抜くと、ライラはまたスタスタと森を歩いていく。
「ライラ。けっこうやるな」
「そなたには到底及ばぬが……一応、このあたりの冒険者には遅れをとったことはない」
その言葉通り、彼女の森での動きは堂に入っていた。
道を阻む草木を槍先で上手にどけ、魔物があらわれれば撃退し、方位も決して見失わない。
「着いたぞ」
イールの街並みは、中世ヨーロッパと古代ローマを足して2で割ったような雰囲気の街だった。
石畳、馬車、噴水、甲高い声の子供たち、町娘……
時おり、妙な鎧を着こんだヤツとか、妖しげなローブに杖を持ったヤツとか、そーゆう奇抜なのとすれ違う。
「冒険者だな。正規兵はあんな鎧は装備しない」
確かに、ライラの鎧もずいぶん
「あのジイさんなんて魔法使いみてーだけど?」
「うむ、魔法使いだろう」
……やっぱそうなんか。
魔法とかある世界なんだな。
やがて、道にそんな奇抜な連中の濃度が高くなっていき、一つのレンガ造りの施設へ至る。
ライラはそこへ俺たちを案内した。
「お疲れ様です。冒険者ギルドへようこそ」
職員らしき女が受付をしていて、イカツいヤツらが背中を丸めて何か相談をしている。
紙やペン、ランプよりは性能の良さそうな灯り……
文明レベルは思ったほど低くはなさそうだ。
「わあ、すごい魔石ですね!」
俺たちの番が回ると、職員はそう声をあげた。
「グリーン・ドラゴンがあらわれたんだ」
「え? ベールの森に? 下位種とは言え、ドラゴンですよ!? ライラさんが倒したんですか?」
「まさか。やったのはこちらの御仁だ」
「はあ?」
受付は俺の顔を見つめ、首をかしげた。
「それほど強そうには見えないんですけれど……」
「すばらしい腕だぞ。私などは到底及ばん」
ライラはそう言ってガシっと肩を組んだ。
無造作な乳房が俺の腕にぽよんと跳ねる。
「またまた。ライラさんが倒したんでしょう?」
「違うと言っているだろう。まあいい……とにかく、魔石を換金しろ」
「かしこまりました。ええと……この大きさの魔石なら金貨10枚で引き取らせていただきます」
金貨10枚……!?
って言っても、どれだけのもんかわかんねーけど。
「ありがとうございました。そちらのお兄さんも、もし冒険者ギルド登録がまだでしたらウチでしてくださいね♪」
……強そうじゃなくてもよかったらな。
施設を出ると、さっそくライラに尋ねる。
「金貨10枚ってどんな価値なんだ?」
「うむ。1枚でおおよそ城の兵士の給料一か月分だな」
は?
ってことは、10枚で給料10か月分?
人の年収に近いカネってことだ。
「冒険者って儲かるんだなぁ……」
「そうでもない。ドラゴン種など滅多にあらわれないし、これを倒せるパーティなどこの街にはいないぞ」
そんなもんか。
「それよりも、金貨では何かと不便だ。一枚くらい銅貨や銭貨に両替しておいた方が良い」
ライラは親切にも両替商も案内してくれた。
さらに、街で買えるモノを調べておきたかったので尋ねると、道具屋や武器屋、食品商店街などを一つ一つ案内してくれたのである。
「わーい! お魚ニャ!」
「オマエ、やっぱり魚が好きなんだな……」
こうして色々回ったが、中でも魔道具屋というのが興味深かった。
この世界には魔法があるらしいが、魔法使いではなくても魔道具があれば魔法の力を借りることができる。
「そのエネルギー源にあの魔石が使われるのだ」
「なるほど……」
思ったより文明レベルが低くないのもそのおかげかもしれない。
店には洗濯機のようなモノや、冷蔵庫のようなモノ、はたまたエアコンのようなモノすらあった。
もっとも、そうした精密系魔道具は金貨何百枚もするけれど。
限られた階級のための高級品なんだろうな。
「ありがとう。おかげでこの世界の……街のことをよく知れたよ」
やがてイールの街の門まで戻ってくる。
ライラは胸の前で俺の手をぎゅっと握って言った。
「また会おう。街に来たときはギルドに言づてをくれ」
「ああ。またな」
こうして街を出た。
しばらく歩いて、ふと振り返ってみる。
遠くではライラがまだ大きく手を振っていた。
◇
俺とさと子はイールの街を出ると、墓のある野原まで戻って来た。
そこでふと日本へ帰る洞窟を見上げて思う。
「つーか、これ。なんとかしねーとな」
「ニャ?」
そう。
俺たちには便利な洞窟だが、異世界の人間やモンスターがここから日本へ迷い込んだらヤバすぎる。
「これは……ひいじいさんの結界か」
地面に、縄の切れ端のようなものが落ちていた。
術者が死んで、効力が切れたのだろう。
「はい。清十郎さまは隠蔽結界を張っていました」
「じゃあ同じのを張っておくかな」
俺はいったん日本の屋敷へ行って道具を持ってくると、洞窟の入口上部へ
「絶、影、鎮、戒……」
霊力を込めれば完成だ。
「よし、これで俺とオマエ以外にはこの洞窟は見えなくなったぞ」
「にゃー!
「コイツはここだ」
そう言って、竹と和紙で作った
こっちは防護結界だ。
「せっかくオマエが作ってくれたのに、魔物や獣に荒らされたらイヤだもんな」
「玲斗さま……」
猫耳のおかっぱをなでてやると、さと子はニャーとしっぽを振っていた。