俺のかわいい式神の猫又ちゃんが令和の社会で暮らせないので、異世界に住むことにした 作:黒おーじ
「おかしいな。このあたりのはずッスけど……」
ボウズが地図を見ながら、しきりに首をかしげた。
覗き込むと、地図には滝の絵が書いてあり、彼の指はちょうどそこを指している。
しかし、辺りには滝どころか、水の流れる音すらしない。
「やっぱり噂どおり、消えてるんじゃないッスか?」
「そうかもな」
俺はジッと目を細めた。
……やはり隠蔽結界か。
派手に破ってしまうこともできるが、同じ霊能力者が隠しているものを邪魔するのも気がひける。
「ボウズ。悪いがオマエはここで待っててくれ」
「へっ? なんで?」
そりゃそう言うか。
「見張りだよ。モンスターを通さないようにな」
「なるほど。お任せッス!」
テキトーな理由をこさえると、モヒカン頭は「ヒャッハー! ここは通さねえぜ!」と剣を掲げていた。
あいかわらずガラは悪いが、人のいいヤツだ。
「さと子、おいで」
「ニャ」
俺はさと子と手を繋いで、道から逸れた草木の方へ足を踏み入れた。
「やはり隠蔽結界だな」
「ええ。源蔵のものでしょう」
なかなかの結界だが、隠蔽結界には隙があり、その合間を縫うように行くと抜けられるはずだ。
――すー……
「よ……よし、イケそうだ」
俺は身をよじりながら結界を通り抜け、さと子の手を引いた。
「やった! ガランの滝ですニャ!」
猫又の視線の先には、滝が流れている岩場があった。
無数の水しぶきがあがり、清浄である。
そんな中、人が二人いた。
老人と少年。
おそらく少年の修業であろう。
彼からわずかずつ霊力の高まりが感じられる。
滝は霊力を磨くのに最適なパワースポットだからな。
「どうしますニャ?」
「邪魔しちゃ悪い。ちょっと待っていよう」
俺たちは岩影に隠れて彼らの修業を見守っていた。
やがて、老人の方が「よし、そこまでじゃ!」と言うと、少年がその場にへたりこんだ。
そこで岩影から出て、言った。
「キリがついたようだな。あんたが源蔵か?」
「むっ?」
白いヒゲがこちらを振り向く。
練れた人間の風格。
近ごろのチャラチャラした老人とは違って、久しぶりに『老人』という老人を見た気がする。
「む、何ヤツ! 結界はどうした……?」
「俺は鴉丸玲斗。こっちは式神のさと子」
「鴉丸……?」
老人は鴉丸に反応すると、さらに隣の猫又を見て目を丸くした。
「やや! さと子さま!」
「ニャー」
「それに鴉丸とおっしゃいましたな? もしやあなたは……中尉さまのご子孫でございますか!?」
中尉?
さと子を見る。
「源蔵は、清十郎さまの部下の息子ですニャ」
なるほど。
「家系図を見ると、俺は清十郎のひ孫にあたるらしいよ」
「おお……!」
源蔵は両手を合わせた。
「ありがたや、ありがたや……」
俺は仏像かよ。
「ささ、こんなところで立ち話もなんですから、どうぞ我が家へ」
こうして源蔵は俺たちを歓迎してくれた。
◇
源蔵が案内してくれたのは、滝の脇にある洞窟の中。
中は、ちゃんと人が暮らせるように部屋が作られているのだった。
ドア、床、椅子とテーブル……
マイ〇ラみてーだな。
「どうぞ」
少年が茶を持ってくる。
「ありがとなー」
と微笑む。
彼は一瞬だけこちらを見つめると、たたーっと源蔵の後ろへ逃げていった。
10歳くらいだろうか。
「小太郎と言いましてな。孫です」
「……そうか。幼いのにだいぶ霊能力を鍛えているみたいだなあ」
「いえいえ、まだまだでございますよ」
と言いつつ、「フヘヘ……」と嬉しそうな源蔵。
想像を絶するが、孫っていうのはさぞかし可愛いんだろうな。
「源蔵のオヤジさんも霊能力者だったのか?」
「いいえ、オヤジはただの軍人で、霊能力はまったく。ただ、ワシは幼い頃から中尉さまから手ほどきを受けておりましてな。多少の心得はあるのです」
「なるほどな……」
本題を切り出そう。
「実は頼みたいことがあって来たんだ」
俺は湯呑みを置いて続ける。
「源蔵は、霊力を魔力に変換する術を持っているよな?」
「ええ。中尉さまが得意な術でございましたから」
さと子が言っていたとおりだ。
やっぱり、ひいじいさんはだいぶ魔法の研究に熱心だったらしい。
「……実は、ひいじいさんには会えず仕舞いでさ。その経路を通してもらいたくて来たんだ」
「そうでございますか。わかりました、引き受けましょう。ただし……」
源蔵がヒゲをなでながら続ける。
「我々日本人は、本来、魔力を体内へ蓄えておくようにはできておりません。変換した魔力を長く身体へ残しておくと害になります」
なにそれ、ヤバ……(汗)
「じゃあ、どうすりゃいいの?」
「簡単なこと。変換した魔力を、使ってしまえばよいのです」
ああ、なるほど。
理屈は簡単だ。
変換した魔力を体内に保持していたらマズイってんなら、すぐさまその魔力を使ってしまえばいい。
「と、いうわけで。まずは一つ、魔法を覚えていただきましょう」
源蔵はそう言って立ち上がった。
◇
「では、始めると致しますかのう」
俺たちはそろって、再び滝の前に来た。
源蔵が俺の背中へ手を当て、「むんッ!」とゴツい声を上げる。
――ぬぅウウ……
すると、体内の霊力が、波のように揺らめくのを感じる。
「うっ、キモ……」
「我慢ですぞ」
やがて、いつの間にか俺の霊力の波のごく一部が、熱っぽいエネルギーに変わっているのに気づいた。
「出来上がりです。魔力エネルギーを感じ取れますかな?」
「ああ。なんとなくな」
霊力より輪郭のハッキリした、実体に近いエネルギーっぽい感じがする。
「では、簡単な衝撃魔法を覚えていただきます。手を滝へ向けてくだされ」
「こう?」
「はい。まず、魔力を手のひらへすべて集めて……」
魔力を扱うのは初めての経験だが、思ったよりもイメージで動いてくれる。
右手へ、さっき変換された魔力を集める。
「……放て!」
「むッ!」
刹那、右手から空気圧のようなものが放出される。
そいつが滝へぶつかった衝撃で、一瞬、水飛沫が白く広がった。
――ばしゃーん……!!
「ニャーン(泣)」
さと子に水がかかってしまった。
俺はあわててタオルを取り出して、おかっぱ頭とセーラー服を拭いてやる。
「ごめんごめん」
「にゃー……でも、衝撃魔法は成功です。おめでとうございますニャ!」
成功なん?
しょぼかったけど。
「さすが鴉丸家のお方。一発で成功してしまうとは……」
成功らしい。
「そして、今ので変換した魔力はほぼ使い切りましたぞ」
「そうなんだ?」
「ええ。このように、魔法を使う直前に必要なぶんだけ魔力へ変換し、そのまま使い切ってしまうのです」
そっか、魔力が残っていると人体に害なんだもんな。
ってことは、霊力から魔力へ変換するスピードも重要になりそうだ。
「たしか、一度やってもらえば魔力変換の経路を身体が覚えるんだったよな?」
「そうですニャ。次はご自分でやってみては?」
ふーん。
やってみるか。
ええと、霊気の波動の一部を、こう実体的なエネルギーに……
あっ、できた。
と、思ったがさっきと比べてちょっと魔力エネルギーの感じが違う。
いや、一緒かな?
ちょっと熱い感じがするけれど。
「れ、玲斗さま……?」
何故か、さと子の声が引きつっている。
――チュイイイイイイイン……
「ええと。変換した魔力はすぐに使い切った方がいいんだよな。じゃあ、滝へ……」
「だ……ダメですじゃ! 滝がなくなりますぞ!」
滝がなくなる?
なにそれ。
冒険者ギルドの噂じゃあるまいし。
「玲斗さま! あちらですニャ!」
さと子が指差す。
滝とは逆側に、小高い岩山が見える。
「よしきた」
右手を向ける。
さっきと同じように……
魔力エネルギーを空気圧にして放出する!
――ツオオオオオオッ……!!!!!
手から突風のような衝撃波が伸びていく感覚。
一瞬の後。
まるでブルドーザーかなんかがビルをぶっ壊すような轟音が聞こえたかと思えば……
岩山の上半分が無残にも吹き飛んでいた。
「…………」
「…………」
「…………ニャ」
余波の風が勢いよく返り、さと子のセーラ服をパタパタと揺らしている。
「……あとはコントロールですな」
みたいだね。