モブ令嬢に転生したみたいですが私は推しカプの幸せを見守る以外に興味ありません 作:九ツ森とむ
「ミーネさん、遅くなって申し訳ないわ」
私がユリアの声に気づいて振り返ると、彼女の横にはリカルド君が立っていた。
今日は食堂でユリアと昼食を共にする約束をしていたので、先に席について待っていたんだけどね。 同じクラスなのに、一緒に食堂に行かず『先に行っていて』っていうから何かと思ったらリカルド君を呼びに行ってたのか。
「改めて紹介させてもらえるかしら。今年入学した、義弟のリカルドよ。あなたとは、うちのお茶会で一度だけ面識があるとは思うのだけれど」
「ええ、リカルド様には秋頃のお茶会でご挨拶をさせていただいたわ。ユリアさんがとても優秀なお義弟さんだとその時に仰っていたのを覚えているもの」
「覚えていていただいて恐縮ですジルバー様。改めてシュテルン家の子息、リカルド=シュテルンと申します。ジルバー様には、姉のユリアがいつもよくしていただいていると聞き及んでいます。以後どうぞお見知りおきを」
うっわ~リカルド君、生リカルド君だ!! と興奮する気持ちを抑えつつ、私は令嬢らしくゆったりと微笑んで挨拶を受ける。
「ご丁寧なご挨拶、ありがとう、リカルド様。私とユリアさんの仲です、そしてあなたはその義弟ですもの。どうか私のこともミーネとお呼びになって」
「恐れ多いことですが……よろしいのですか?」
「リカルド、ミーネさんがそう言っているのだもの。あまり遠慮しても逆に失礼にあたりますよ」
「そうですね、姉さん。では、失礼でなければ……ミーネ先輩とお呼びしても?」
「ええ、ええ! もちろんですわ」
ミーネ先輩っ! 先輩呼びだ!?
えっ、どうしよう、可愛い、嬉しいー!
「それならミーネさんもリカルドのこと、様なんてつけて呼ぶのはおかしくないかしら? いっそリカルド、と呼んだらいいと思うわ」
「えっ」
思わず私はユリアを二度見してしまった。
いやいや、まさか、私がリカルド君を呼び捨て? ないないない、それは私の心臓が持たない!
「私はそれで構いませんが……」
「い、いえ。で、ではその……リカルドさん、でどうかしら」
リカルド君はその言葉に、少しはにかんでうなずいて応えてくれた。
それにしても、私が知っているゲームでのリカルド君はもう少し……冷たいというか、人を寄せ付けないクールというかダークというか、そういう雰囲気のあるキャラクターだった。
それもそのはず、彼が入学してくる時点では2年生であるユリアは、既に何かしらのルートに入っていてハルトムート王子をはじめとしたイケメン攻略対象のうち誰かとの恋愛が進展している状況なのだ。
それを祝福できないリカルド君は周りに心を閉ざし、そして悪意のある大人に心を絡めとられて破滅してしまう。
でも、私が知っている限りでは現状ユリアはまだ誰とも恋愛が進展していない。
ハルトムート王子殿下の他にも、あのいつも私とテストで学年トップを争っている天才眼鏡イケメンや、騎士志望のさわやかイケメン、それから若くて優しいイケメン教師など、何人か攻略対象が学園に存在しているのは把握している。ただユリアが彼らと接触しているのは確認できても、彼女が特定の誰かと仲を深めている様子はないんだよね……。
実際可愛くて優しいユリアは学園内での人気は結構高いみたいなんだけど、積極的に声をかけてくるような男子生徒はいない。
…………あ、もしかして。ずっと私と一緒にいるからか? イケメンたちが入る隙がないとか?
そういうこと?
とにかく、リカルド君がまだ闇落ちしてないのは確実っぽい。
今の彼は大好きな姉ユリアと同じ学園に通えることになって、しかもこうして一緒に行動して友人を紹介してもらえて、本当に心の底から嬉しいという表情だ。
……守りたい、この笑顔!
絶対にあなたを闇落ちなんかさせないからね……!!
「それでね、ミーネさん。リカルドは生徒会役員に興味があるらしいのよ。だからあなたのお話が聞きたいって言っていて……」
「あら、そうなのね。リカルドさんは、役員に自己推薦をなさるおつもりなのかしら?」
うん、まあね、知ってたけどね。
「ええ、私は将来は父の役に立ちたいのです。書類の取り扱いなど、領地経営の勉強になると……是非挑戦してみてはどうかと父に勧められたのです」
リカルド君は、ユリアと血のつながっていない義弟だ。
正確に言うと遠い繋がりというか、遠い親戚だね。具体的には、ユリアの祖父の妹の孫なので……つまりユリアの
この国では貴族家の爵位は基本的に男性が継ぐ決まりなので、ユリアとその姉の二人姉妹のシュテルン家に後継者として下位爵位の親族の中から特に優秀なリカルド君を養子として引き取ったという経緯なんだね。
だから彼が言う『父』はユリアの実父のことで、伯爵の期待に応えてユリアの役に立ちたい、と言っているわけだよね。はぁ……うん……本当に、いい子なんだよ……。
「ミーネ先輩は生徒会ではどのようなお仕事をなさっているんですか? たくさんお聞かせいただけると嬉しいです!」
「そうですわね、まず……」
思ったよりもぐいぐい来るリカルド君の新たな一面に驚きつつも、その横で嬉しそうににこにこしているユリアの笑顔にほっこりしつつ。
私はこの二人の幸せを守ることに全力を注ごうと、改めて強く決意した。