モブ令嬢に転生したみたいですが私は推しカプの幸せを見守る以外に興味ありません 作:九ツ森とむ
季節は冬の終わり。
私やユリアは二年生の終わり頃、そして一学年上の王子殿下が卒業パーティーを迎えるその少し前に貴族学園には衝撃的なニュースが駆け巡った。ハルトムート王子殿下が、幼い頃からの婚約者と婚約解消をしたという正式な発表が国からあったのだ。
詳しい経緯などは発表されず、生徒会の活動で直接の関りがある私たちの前でも殿下はそれには特に触れず普段通りの表情だ。
周りの役員……例えばリカルド君なんかは何か気遣うような言葉を探しているようだったが、うまく言葉にできず飲み込んでいた。
まあ、私はゲームの展開で知っているんだけどね……というのも、これは王子殿下ルートに進んだ時に起こるイベントだから。
彼の婚約者は隣国の王女。国同士の友好を深めるための政略的な婚約であり、殿下も王女もそれに納得していたはずだった。
しかし、王女には自国の貴族子息に想い合う相手がいて……王子の卒業パーティーで正式な婚姻が発表される前にと、駆け落ちをして、捕まった。
その一連の事件を咎めたこちらの国が、向こうの有責で婚約を解消した、というのが真相だった。
王女の駆け落ち未遂については全く噂にならなかった。その代わり、貴族学院では別の噂で持ち切りになる。
それは『卒業パーティーまでに王子殿下が次の婚約者を探している、エスコートを申し込まれたらそのまま王太子妃確定らしい』というものだった。
当然野心のある令嬢やその家族は殿下との接触ルートを血眼になって探っていた。 実際、これまでそこまで親しくなかった令嬢に『ヘルミーネ様は生徒会役員でいらっしゃるんですわよね?』とか言われて、王子殿下とのお茶会をセッティングしろだの言われたこともある。まあそもそも私が王子殿下をお誘いするとかできないと断ったよ、なんで私がそんな面倒なことしなきゃならんのよ。
同時に、想いを寄せる令嬢がいる令息たちは皆すごく焦ったみたい。
『万が一でも王子殿下の婚約者になってしまっては困る』と、それまで行動に移していなかったけれど思い切って想い人にエスコートを申し込んでそのまま告白しちゃう令息たちが続出した。
その結果例年よりもかなりの数、それも卒業生だけでなく在校生カップルがいきなり乱立する事態になって、学園内はこれまでにない甘いムードに染まっていた。
「ミーネ先輩……。その、一つお伺いするんですけど……姉って、今度の卒業パーティーでのエスコートしてくださる相手って決まっているんでしょうか……?」
そんな折に、生徒会執務室で他のメンバーがいない間に小さな声でリカルド君に問われ、私は目を瞬かせた。
「いえ、特には聞いてはいませんけれど……」
そもそも在校生は出席もエスコート相手も必須ではない。
もちろん、出席した方が社交の練習にもなるしいい経験になるとは思うけどね。ユリアも、あまり興味を示していなかったはずだ。
ゲーム原作では、ルートによっては攻略対象にエスコートされて出席したりもするよ。
「俺、思い切って姉にエスコートを申し込もうと思っているんです。もし応じてもらえたら、その時は……自分の気持ちをちゃんと打ち明けたいなって……」
決意を称えた瞳が少し潤む。
もしかしたらユリアはリカルド君のことをただ家族と、弟と思っているだけかもしれない。告白をしたら、その関係が壊れるかもしれないんだ。
だからものすごく勇気がいることだと思う。偉い、偉いよ!
「……そのご決断、素敵ですわ。どうか、お二人が笑顔でいい結果をお聞かせくださることを、心からお祈りしております」
「…………先輩、ありがとうございます」
どうか、どうかうまくいってほしい。
私は神に祈るような気持ちで、彼の言葉にうなずいた。
その数日後、生徒会室に現れたリカルド君から少し遅れて、ユリアが入室してくる。
もう、二人の表情を見ていれば……告白の結果はわかるよ。お互いを見つめる視線が、本当に幸せそうだもの。
元々仲もよくていつも笑い合っている二人だったけれど、そこになんともいえない
手を取り合った二人は共に王子殿下の前へと歩を進め、リカルド君が両親……ユリアの両親にも、リカルド君の実の両親にも了承を得て、ユリアと婚約を決めたことを報告した。室内で執務をしていた役員たちも、仕事の手を休めてその言葉に微笑み暖かい拍手を送る。
リカルド君の傍らではにかむユリアは本当に幸せそうで、拍手を送る私と目が合うと、少しだけ照れたように微笑んだ。
「王子殿下をはじめ、生徒会役員の皆さまには本当によくしていただいたので……一番にご報告したくて」
「そうか……よかったな。リカルドおめでとう」
「ありがとうございます……!」
「ありがとうございます」
リカルド君とユリアが揃って王子殿下に礼を述べた。
その後部屋から退出するユリアを部屋の出口まで送ったリカルド君の後ろ姿、そしてユリアの本当に嬉しそうな笑顔……。私の胸に、熱いものがこみ上げてきた。
……はぁ~……私はこれを見たかったんだよ~……。
ずっとこの光景を見るためにがんばってきた。
もちろんここが二人のゴールじゃない。この後、二人の人生にはきっといろんなことが待っているとは思うけれど……それでも今こうして二人の想いが通じ合ったこと、そしてリカルド君が破滅の道を選ばずちゃんと報われたこと。それが嬉しくて嬉しくて、思わず視界がぼやける。
私はお手洗いに行くと言い残して席を立った。
その日の夕方、侍女が私あての手紙を持って来る。
その差出人は、ハルトムート王子殿下。内容は、呼び出しだった。