モブ令嬢に転生したみたいですが私は推しカプの幸せを見守る以外に興味ありません 作:九ツ森とむ
「突然呼び出してすまない、ミーネ。調子を崩したりはしていないかい? 大丈夫?」
「とんでもありません殿下」
生徒会室に呼び出された私は、執務机の向こうに座る殿下と相対していた。
今日は生徒会活動はお休みの日なので、いつもいらっしゃる殿下の護衛の方が机の横側に控えているだけで他の役員のみなさんんはいない。部屋には、私と殿下と護衛の方の3人だけだ。
それに王族からの呼び出しで一日前ならそれは全然突然じゃないよ、配慮してもらってると思う。
王子は本当になんでもそつなくこなすし完璧イケメンなんだよなぁ……仕事もできるし優しくて顔がよくて隙がない。本当にすごい。
「昨日ミーネの様子が少しおかしかったように感じたから……私の気のせいならいいんだが」
「昨日ですか……? ああ……」
そうかぁ。昨日はリカルド君とユリアの婚約報告に感動のあまり嬉し泣きからの結局お手洗いで号泣してしまって、泣き腫らした顔で席に戻れなくて……そのまま医務室に行ったんだったわ。
それで、体調を崩したと思ったのかな?
「全くなんともございませんわ。ご心配をおかけしたのでしたら、申し訳ございません」
「その…………言いにくいが、リカルドのことは…………残念だったね」
ん? 今、殿下、なんていった?
聞き間違えてなければ、残念……って言った?
「…………?」
あまりにぽかんとした顔をしていた私を見て、今度は殿下が慌てている。
おや、いつも穏やかな殿下が珍しい。
「だって、その、ミーネ、君は…………リカルドを、好いていたのではないのかい?」
「……!?」
思わず、は!? と叫びそうなところを私はすんでのところで抑えた。
偉い。令嬢としてのマナー教育が成功している!
いや、成功していたら驚かずに平静としているべき?
それは無理だったわ。だって、さすがに、…………ない。
「…………あの、殿下……。申し訳ないんですが、それは殿下の思い違いですわ。私、確かにリカルドさんのことは、役員の後輩として、そして友人ユリアさんの義弟としてとても気にかけております。大層努力家ですから仕事の教え甲斐もあり、私には勿体ない後輩ですわ。ですが…………」
「好いているわけではない、と。つまり……異性として見ているわけではないんだね」
「はい、その通りです」
「…………そうだったのか。私はてっきり…………」
あぁ~……なるほど。もし私がリカルド君を異性として好きだったらと仮定したら、そりゃ……ユリアとの婚約報告はものすごく辛いわなぁ……。
殿下は勘違いして、そんな心配をしてくれてたってこと?
勘違いされたことについては迷惑だけど、でも善意だな、これ。
「あの……ですね。私がリカルドさんやユリアさんに向ける感情は……例えるならば、歌劇の登場人物や役者を応援しているような、そういう感覚なのです。もちろん二人とも共に生きている人間ですので少し失礼な表現になるかもしれませんが、あくまでたとえ話として聞いていただけると助かります」
「ほう? ……詳しく聞かせてもらっても?」
「私は、もちろんリカルドさんには好感を持っておりますよ。好いているか嫌っているかで言えばもちろん好いております。ただ、自分が彼と婚約したいとか、ユリアさんが羨ましいとか……そういう感情は全くないんです。むしろ、恋愛ものの歌劇のラストシーンを特等席で見せていただいたような、そんな気持ちです。むしろリカルドさんは以前から私にユリアさんへの気持ちを打ち明けてくださっていて、私は密かに二人の仲を応援していたほどですから」
まさか王子殿下に『リカルド君は
私なりにだいぶ翻訳して言ったつもりなんだけど、伝わったかな……。
「では、昨日の涙は……」
「ああ、やはりお気づきになっていたんですわね、お恥ずかしいことですわ……。……ええ。ショックを受けたわけではなく、感動の嬉し涙を流しておりましたの」
「………………なるほど?」
笑顔で応えた私に、少し疲れたような笑みを返してきた殿下。
その反応の意味がわからず、私は思わず小首をかしげる。
「…………ミーネは、私とイザベラの婚約解消の話は知っているね?」
「ええ、それはもちろん……。国から正式に発表のあったことですから、存じ上げておりますわ」
発表もそうなんだけど、そもそも今貴族学院はその話で持ち切りだしねえ……。
知らない人はいないと思うよ。
「隣国の王女であるイザベラと私は、お互いが幼い頃に国同士の友好のために婚約したわけだが……彼女には、自国に想い合う相手がいるんだそうだ。そう私に打ち明けてきたときの彼女は、本当に決死の覚悟をした表情だった」
そうなのか……。私の知っているゲームでのシナリオでは、殿下の元婚約者イザベラ様は駆け落ちしちゃって捕まってそれで向こうの有責になって……という話だったはず。
この世界線の彼女は駆け落ちをするまで思いつめる前に、ちゃんと殿下に相談したんだね。そして殿下も、その真摯な気持ちをお受け入れなさったということなんだろう。
「世間で色々な憶測が流れているのは私も把握しているけれど、私も彼女もお互いに納得した上での円満な婚約解消だよ。そもそも私たちが婚約を決めた頃には不安定だった国際情勢も落ち着いているし、今更私たちが婚姻を結ぶ必要性も薄いんだ。それに今回私が彼女の意図を汲んで引き下がったことは重々向こうの王家もわかっているはずだから、かの国に大きな借りを作ることもできたしね?」
少し悪い顔で微笑んだ殿下は、一転少し表情を曇らせる。
「だが、今回の私の婚約解消によって、国内貴族の令嬢や令息たちを騒がせてしまっていることについては大変申し訳なく思う。例えばリカルドとユリア嬢のような……私の件が刺激になったことで幸せな結末を迎えたパターンもあるだろう。しかし、親が自分の娘を私と婚約させるためにもう決まっていた婚約を無理に解消させる……なんていう事態も起こっているらしくてね」
あ~……それは……。
確かに殿下は直接は悪くないけど、もし自分の娘が王太子妃になれる可能性があるのならそういう強硬手段に出る貴族もいそうだなぁ……。やな話だねえ。
「だから、ミーネ。私の妃となってはくれないかい?」