現代ダンジョン世界の魔物に転生したので、人に擬態しながら上位存在ごっこしてたら信仰された 作:どらどらー
俺は気がつけば洞窟の中でドラゴンになっていた。
見た目はかっこいい王道の西洋竜。
いわゆる人外転生と言うやつだ。
明らかな強種族への転生、前世のつまらない社畜生活と比べたら間違いなく勝ち組の生活だろう。
しかし一つだけ困ったことがある。
洞窟から出られないのだ。
明らかに入口は人間かそれに準ずる種族じゃないと出られない大きさで、俺が外に出ようと思った場合壁を壊すのは必須と来た。
そりゃいくらなんでもないだろうってことで、俺は別の方法を考えることに。
具体的には人化である。
人化警察が飛んできそうだが、奴らは人外になったことがないからそんな呑気なことが言えるのだ。
どう考えても人になれたほうが生活は便利になるだろう。
というわけで良い感じに修練を積んだ俺は、最終的に人間へと変身することができた。
一部だけ竜としての姿を保つこともできる。
手足を竜のそれにしたり、翼を人の背中に生やすことのできるのだ。
これが結構便利でね、人の姿で飛び回るのが楽しいんだよ。
というわけで、諸々の準備を終えた俺は早速外に出ることとした。
んで、色々あって出てみるとそこは現代。
どうも、いわゆる現代ダンジョンの存在する世界へ転移していたらしい。
現代の娯楽があるのはいいことだが、戸籍など諸々の面倒が発声してしまうのはマイナスだな。
とはいえ、そういった厄介な手続きを乗り越えて人権を手に入れると、いろいろなことが解ってくる。
当然といえば当然か、俺以外に人化した魔物は存在しないようだ。
そうなると俄然、自分自身の特別性を活かしたくなってくるのが承認欲求に侵された人間の性である。
俺は早速、ドラゴンとしての正体を隠さずに現代ダンジョンで活動を始めることにした。
それだと人としての生活大丈夫かって?
いい方法があるんですよ、俺の人化は性別以外ならどうも自由に操れるのだ。
後はまぁ……細かいことはまた今度話そう、結構長くなるし。
ともかく、そうして俺は人化ドラゴンのタツマとして行動を開始。
最初のうちは世間がだいぶ大騒ぎしたけれど、今はそこそこ落ち着いている。
ただまぁ、当初の俺としてはちょっとした上位存在として世間で存在感を出したいな、とかその程度の考えだった。
が、しかし。
なんかこう、最近はちょっと……信仰の域まで達しているんだよな……
まぁ、理由が理由なので、仕方ないところはあるんだけど。
○
――そこは、洞窟の中に存在する一つのエリア。
数十メートルの大怪獣が暴れまわってもなお余裕のある広さを誇るその場所に、一体の龍が鎮座していた。
すなわち、俺である。
赤と黒ベースの、王道かっこいい系。
それでいて結構デザインはごちゃごちゃしている。
カードゲーム主人公のエースドラゴンといえば、なんとなくイメージがつくんじゃないだろうか。
ここは俺がドラゴンになった時に目覚めたエリア。
おそらく本来は、ここで探索者を待ち受けるボスとなるはずだったのだろう。
というか実際、今も挑戦者が目の前にいる。
ただし――
「お会いしたかったですぅううううう! タツマ様ぁぁああああ!!」
やってくるのは信者ばかりなんだけど。
現在、複数人の女性探索者パーティが、俺に祈りを捧げている。
この人たち、結構有名な配信者だったとおもうんだけど、いいのかそれで。
というか、やっぱタツマって名乗るの早まったような気がするよな。
変にカッコつけるのも恥ずかしいとおもって本名名乗っちゃったけど、流石に締まりが悪いっていうか……
ともあれ、俺のやるべきことは変わらない。
『――よく来たな、探索者よ。此度の試練を受けるのは貴様たちか』
「はいいい、よ、よろひくおねがいしまふうう!!」
尊大な口調、エフェクトのかかった声、歓喜する探索者達。
なんか……思ってた上位存在プレイと違うっていうか……
俺がやろうと思っていたのは、たとえ勝てなくとも俺を打倒するべく立ち向かう勇者との対峙であって……
礼拝してきた信者に、愛想を降る巻くことではないと言うか……
なんかこう、もう少し人間讃歌を歌うタイプのドラゴンになりたかったんだけど、人生ってのは巧く行かないものだね。
いや、ドラゴン生か?
どっちでもええわ。
『であれば、命を賭けてかかってくるがいい! 人間!』
――何にしても、俺は洞窟の中を飛翔する。
大怪獣が空を飛んでも余裕のあるスペース、流石はダンジョン、スケールが違う。
ダンジョン内は空間が歪んでいるそうだけど、自分の拠点にドラゴン形態で戻ってくるとそれを実感するな。
で、今の俺が何をしているかといえば、ドラゴンとして探索者の挑戦を受けているのである。
月に一度、満月が空に浮かぶ時だけ挑戦を受け付けるとかいって、時期を指定して挑戦を募っているのだ。
『征くぞ!』
叫びながら、ブレスを地面に叩きつける。
鋼鉄だろうと軽く溶かす灼熱が、エリア全体を覆い尽くした。
普通なら、これだけで人は簡単に死ぬ。
回避も不可能、開幕クソ技である。
あるいは、
「……ああ、滅殺の熱線……やはり戦闘開始時にこれを使ってくださるタツマ様の慈悲深さが……染み渡るようですわ……」
――しかし、対峙している探索者は全員が生存している。
俺は必ずこのブレス――通称”滅殺の熱線”を使用するのだ。
これに耐えられないようでは、俺に挑戦する権利はない。
そういう意味での一撃。
ただ、最近はだいたいの挑戦者が耐えられるようになってしまった。
ともあれ、俺は続けざまに恍惚とした表情の探索者達に飛びかかる。
フライングボディプレスとでも言うべきか、全身をそのまま地面に叩きつける攻撃。
こちらもまた、非常に厄介。
しかし――
「回避――!」
彼女たちは、最初から解っていたかのように俊敏に回避行動を取る。
というか、実際解っているのだ。
俺の行動はパターン化しているから。
そこからも、ある程度予測できる行動を、ちゃんと予備動作を入れながら攻撃していく。
探索者たちもそれがよく解っているので、器用に攻撃を対処する。
ちまちまと反撃も入れてくるので、結構痛い。
そしてある程度ダメージを受けたところで――俺は行動を起こす。
『見事だ人間! しかし、この程度で俺を斃せるなどと思い上がるなよ――!』
行動をおこすというか、行動パターンが変化する。
いわゆる、第二段階。
行動のパターンが複雑になり、予備動作も少なくなっていく。
ここまでくると、いくら優秀な探索者といえど連携にほころびが出てくる。
体力の回復が間に合わなくなり、最終的には致命傷を負ってしまうのだ。
『くらうがいい!』
「く、ああ!」
そうして俺は、ためらわずに探索者の一人を鉤爪ですりつぶす。
もし仮にこれを防ぐ手段がなければ、人間がミンチになってしまう勢い。
こんなもの、いくら俺が人外化したとはいえ、元人間が躊躇いなくぶっぱなしていいものではないだろう。
――これで相手が死んでしまうなら、の話だが。
俺が探索者を踏み潰そうとしたその瞬間、その体が光に包まれた。
そして一瞬だけ俺の攻撃を押し留めると――その場から消失する。
『――まずは、一人』
「くっ……みんな陣形を立て直して、まだ諦めてはダメよ!」
リーダーらしき少女が気丈にそう呼びかけるが、彼女たちの士気が低下しているのは見ればすぐに分かる。
実際、第二段階で一人乙ってしまうようでは、到底この後の俺には敵わない。
それでも俺が人の輝きを望んでいると知っている彼女たちは諦めず戦い――
――そして、リーダー一人を残して全滅した。
『終わりだな』
「……くっ」
体中をボロボロにしながら、悔しそうにするリーダーの少女。
俺はそれを空中から見下ろしつつ、ずずんと地面に着地する。
そうして俺は人形態になると――ワイルド系のイケメンだ、せっかくなのでそういうビジュアルにした――少女にあるものを差し出す。
「お前たちの実力はまだまだだ、しかし、俺の全力を多少であれ引き出したことは称賛に値する。よって、これを授けよう」
「これは……!」
「
「……あ、ありがとうございますっ!!」
手のひらからこぼれる血を、少女はすぐに懐から瓶を取り出して受け取る。
そうして、手に入れた血液をどこか危ない目で見つめながら、はぁはぁと荒い息を吐きつつ――光りに包まれて姿を消した。
こわいよぉ。
――さて、先程俺が戦っていた探索者を殺しかけた際、発動したものは何か。
薄々察しがついているかも知れないが、アレは緊急脱出装置だ。
そして、この緊急脱出装置――EDSというのだが。
コンプラが厳しい現代において、下手したら死ぬかも知れないダンジョン探索において緊急脱出用の保険は必須。
これがもうちょっと使用者が意識して使用しないと発動しないタイプなら、安価に作れる。
しかし即死級の攻撃が飛んできても、それを受ける前に脱出できるという完璧な脱出装置は、ボスの素材からしか作れない。
とはいえ当然、ボスというのは貴重な魔物だ。
取れる血液は限られており、EDSは高級品だった。
俺が現れるまでは。
――そう、俺は人としての意識を持ち、人類にたいして友好的だ。
血液は多少流したくらいなら、すぐに再生するため補充できる。
なので、人類に色々と理由をつけて血液を提供した。
というか今も継続的にしている。
今回の儀式も、挑戦者の頑張りに応じて血液を配布するイベントのようなもの。
まぁ、大抵の挑戦者はEDS発動まで戦ってしまうので、差し引きはトントンになるんだけど。
それでも、安定供給には変わりない。
――つまり、俺は現代のダンジョン事情に革命を起こしてしまったのである。
そりゃまぁ、信仰の一つもされますよね。
今にして思えば、当然である。
でも当時は、何気なく血液を提供しただけだったんだ。
うーん、上位存在というのは難しいものである。
それにしても、なんだって俺はこんな信仰されてしまっているのか。
少しこれまでの流れを振り返ってみますかね……?