少しずつ文字数が増えていくジレンマ。
「……えと、それはどういうことかな」
「そのまんまの意味!」
「……なるほど?」
天が困惑した様子でかぐやの言葉を咀嚼している。
「……彩葉」
「やりたいんだって。……ヤチヨの影響受けちゃって、さっきからずっと騒いでんの」
「にしたって急過ぎる……」
「……ヤチヨカップの参加条件がライバーであることなんだよね。だから、自分もライバーになるんだーって」
「……ヤチヨカップ?」
「うん、ヤチヨ主催の大きなイベント。優勝者にはヤチヨとのコラボライブの権利が与えられるの」
「……それで、自分もライバーになると」
顳顬辺りを軽く指で押さえながら、少しだけ疲れた様子で天は言う。
けど、かぐやのことには甘い天だ。そんな無謀な挑戦にも、彼は文句は言わない。あくまで、本人の意思を尊重するらしい。
……ほんとに、かぐやには甘いなぁ。
「……わかった、やるのは別に構わないよ」
「ほんとっ!?」
「うん。でも、一つだけ約束してほしいことがある」
「約束?」
「危ないことにだけは手を出しちゃダメだからね。……かぐや自身がそれを分からなくても、僕や彩葉がダメだって判断したら辞めること。いい?」
「うんっ!てんと彩葉の言う通りにする!」
「……ん、じゃあいいよ」
ライバー活動を認めてもらったかぐやは、嬉しそうに「ライバー!」と叫びながら天に抱きついて頬を押し付ける。まるで、おねだりを聞いてもらった娘と父親みたいだ。
……この場合、母親は私になるのだろうか。別に悪くない気もする。
「……えへへ」
「……嬉しそうだね」
「……うんっ!」
いや、違うな。
娘と呼ぶには少しだけ、天への想いが拗れている気がする。彼女も私と同様、彼に少なからず想いを向ける一人の少女なんだ。娘だなんて言葉で表すのは、あまり嬉しいものではないかもしれない。
「……はぁ、二人とも」
「「ん?」」
「そろそろ寝るよ、明日も学校なんだから」
「……そだね、そろそろ寝よっか」
「えぇ〜……かぐや、まだ遊びたいなぁ?」
「これ、我儘言わないの」
「はあい」
……大概、かぐやも天には甘いな。
いつも、なんだかんだ天が言えば、素直に従ってるのを見る。
「……あぁ」
私もあまり人のことを言えたものではないか。
天に頼まれたら、なんだかんだ受け入れてしまっているし、天相手にはついつい甘えてしまっている気がする。
……周りから見た私って、かぐやみたいなのだろうか。
「……っ」
「彩葉?」
「……な、なんでもない」
天への想いを誤魔化すつもりはない。
それに、態度だって変えるつもりはない。……けど、自分も周りからはあんなふうに見えていると思うと、少しだけ羞恥心が勝ってしまう。
「……あのさ」
「ん?」
「……ぎゅって、して……ほしい…………デス」
「声ちっさ……」
「かぐや、あんまりバカにしないの。……これでいいかな?」
「……うん」
でも、やめるつもりなんて一切ない。
羞恥心なんて、続けていればいつかは慣れていく。そんなものの為に、この温もりを自ら手放すなんて愚行にもほどがある。
……この温もりだけは、絶対に手放してたまるもんですか。
「……ずるい。彩葉ばっかりずるいっ!かぐやもぎゅーってするっ!」
「あ、急に抱きつかないでよ」
「知りませーん」
私を優しく撫でてくれる手が暖かくて気持ちいい。
天に触れられていると、私はここにいていいんだって思えてしまう。
この熱が、私の存在を受け入れてくれる。弱さを抱きしめてくれる。
「彩葉?」
「……なあに?」
「いや、ぼーっとしてるから大丈夫かなって……」
「だいじょうぶだよ?」
「……そ、そっか?」
もう、強さなんていらない。
誰かに認めてもらう必要も、一人でいる必要もない。弱さを見せて否定されることもないんだ。
本当の私を、ありのままで受け入れてくれる人がいる。認めてくれて、甘やかしてくれる。
「……えへへ」
独りは怖い。
けど、それを誤魔化す方がもっと怖い。いつか、独りになるんじゃないかって怯え続けないといけないから。……でも、今は天がいる。強さも弱さも肯定してくれる人がいるんだ。
強くある必要も、前を向く必要もない。
だって、弱い私でも受け入れてくれる人がいるから。
「彩葉ぁ、顔が溶けてるよー?」
「そうかなぁ……?」
全部を知ってほしい。
私の全てを知って、受け入れてほしい。
「……このまま、寝ちゃわない?」
「え、僕は別にいいけど……いいの?」
「うん、細かいのは明日起きたらするから。……だめ?」
「ううん、ダメじゃないよ。じゃあ、このまま寝よっか」
「真ん中はてんだよ!かぐやは右で、左は彩葉!」
「はいはい、夜も遅いから声のボリュームは下げてね……」
今日も私は、底のない沼に沈んでいく。
深い深い沼に全身を浸からせて、引き戻せないところまで。でも、後悔はない。
だって、この底なし沼こそが、私が求めていたものだから。
「また、あしたね」
「……うん、おやすみ」
「おやすみぃ」
沈んで落ちていくこの感覚が、私には何よりも毒だ。
でも、薬でもあるんだ。
だから私はきっと、彼から離れられない。
ここ数日にしては珍しく、今日は朝から雨だった。
大きな雨粒が、歩く人たちの傘を震わせては弾けていく。一粒一粒、弾かれた雨たちが空を舞い、その様子が今日の雨雲の機嫌を教えてくれていた。
かくいう私も、傘を震わされているうちの一人であり、この雨の中を避けるように、目的地に向かっていた。
「ごめん、待たせた?」
「ううん、僕もさっき来たところだよ」
指定された席に向かうと、コーヒーカップを片手に外を眺める彼が待っていた。
ここに来る最中に、雨に打たれてしまったのか、髪がほんの少しだけ湿っていた。
「……彩葉は、いないの?」
「え、呼んでほしかったの?」
「いや、別にそういうわけじゃないけど……」
「そう?今日は、僕が個人的に用があって呼んだわけだし、関係ない彩葉を呼ぶわけにもいかないかなって」
それ、彩葉本人に言ったら卒倒するよ……。
天自身に悪気がないの合わさって、余計に彩葉が傷つくだろうなぁ。
「で、今日はどうしたの?」
「……こないだのことでね、少しだけ聞きたいことがあったんだ」
「……」
「聞きそびれたことがあったから」
「……うん」
先ほどまで店内に流れていた、陽気な音楽が急に耳に入ってこなくなった。
まるで、時の止まった世界に私たちしかいないみたい。
「綾紬さんさ、言ったよね」
「……何をかな」
「幸せになったらいなくなっちゃう……って」
「……っ」
「君が気配りが上手な人なのは知ってるよ。普段から、友達には人の異変に気づくのが早いって言われてたしね」
「……そうだっけ」
「うん、諌山さんがよく言ってたよ」
「……そっか」
私とて、何もあそこまで言うつもりはなかった。
けど、彼が変わりつつある現状を見て、いつも胸に抱いていた不安を吐き出さずにはいられなかった。
あんな幸せそうな顔をしながら、倒れた時の天は自分のことを許していない様子だった。
「……どうして、そう思ったのかなって」
「……そ、れは」
だから、怖かったんだ。
また、前みたいに全てを諦めてしまうんじゃないかって。せっかく、前を向いてくれたのに、そんな天はもういないんだ。
いつ、全てを放り捨てたっておかしくないじゃないか。
「……なんとなくかな」
「嘘だよ」
「……なっ、ん……で」
「僕が何を思ってるかとか、どうするかとか……それを一目見ただけでわかるなら、それはもうエスパーの領域だよ」
「……で、でもっ!」
「……それに、君は言ったよね」
「幸せになったらいなくなっちゃう……って」
「……ぁ」
「随分と具体的だなって思ったんだ。……僕について、かなり詳しいんだなって」
「……た、また……っ、ま……だ、よ?」
否定したいはずなのに、声の震えがそれを許してくれない。
まるで、肯定しているかのように。
「……僕さ、ある一定の記憶が曖昧なんだ」
「……ぇ?」
「過去のトラウマに対する、一種の防衛反応なんだってさ」
「……きゅ、急にどうした、の?」
「……綾紬さんって、たまに僕のこと名前で呼ぶよね」
「……っ」
「僕の記憶じゃ、僕たちは名前で呼ぶようなきっかけはなかったはずだよ」
「……そ、それは」
「……今から言うことはさ、もしかしたらあまり良くは思われない」
「……え?」
「最近の綾紬さんを見ているとね……少しだけ懐かしい気持ちになるんだ」
「——っ!」
「……本当のことを教えてほしいな。君が僕どう関係しているのか」
やめて、そんな真剣な目で私を見ないで。
「……君が抱えている、思いを」
お願いだから、私に優しくしないでよ。
「……ごめん」
……ほんとに、君はずるい。
綾紬さんは、口を閉じて伏せたままだった。
「……変なこと聞いた」
「……ううん、私が悪いから」
悲しそうに俯く彼女を見ると、どうしてか心が落ち着かない。
手を伸ばしたいと思ってしまう。彼女の方に寄ってあげたいとも思ってしまう。
彼女の辛そうな表情を見るのが苦しいのは、きっと勘違いなんかじゃないはずだ。
「……ごめん、言いたくない」
「そっか……」
「……理由とか、聞かないの?」
「ただでさえ、無理に問い詰めるようなことしてるからね。……無理だって言うなら、深くは聞かないよ」
「……うん」
「……ただ、一つだけ答えてほしい」
「なに……?」
「僕たちが、以前に知り合っていたのか。……それだけは答えてくれると嬉しいな」
「……拒否権は?」
「あるよ。……けど、そうやって聞いた時点で、答えなんて一つしかないと思うけど」
「……あはは、そうだね」
ようやく、彼女と目が合った。
久しぶりに見ることのできた彼女の表情は、先ほどまでの思い詰めたものではなかった。
多少の暗さは残ってはいるものの、明らかに明るさが見て取れた。
「……うん、これ以上は聞かないようにするよ」
「そうしてくれると助かる……かな」
「……その上で、ちゃんと言っとかないといけないことがある」
「……?」
「……多分、僕は綾紬さんの望み通りにはなれない」
「……っ!」
「あんなに想ってくれていたのは嬉しかった。彩葉やかぐやだって、僕を大事に想ってくれている。……けど、これだけは譲れないんだ」
これだけは譲れない。
僕にとっての、最後の線引きなんだ。
「……そ、っか」
「……ごめん」
「ううん、謝らないで?……もしさ、その時がきたらさ」
「……うん」
「教えてね……?また、唐突にいなくなるのだけは嫌だから……」
「……それでいいなら」
「最後のときぐらいは、一緒にいさせてほしい……かな」
「それは……」
「……ううん、やっぱりやめとく。今の天には彩葉やかぐやちゃんがいるもんね」
「……そっか」
「二人には、言うの……?」
「……言うつもりはないよ」
伝える気はない。
言わなければ、いつか二人を傷つけるだろう。でも、言ったところで傷つけるのは変わらないんだ。なら、せめて最後の時まではそんな思いをさせたくはない。
……置いていこうとしている身で、随分の自分勝手なことを言っているのはわかっている。けど、曲げることのできない通りなんだ。せめて、これぐらいの形で彼女たちに還元させてくれ。
「……傷つけることになるよ?」
「わかってる」
「……一生の傷を背負うことになるかもしれないんだよ?」
「……わかってる」
「本当に何も伝えないの……?」
「……言ったところで、傷つけるのが早くなるだけだろ」
「そっか。……じゃあ、早めに伝える方がいいよね」
「……え?」
「その方が、何かが変わるかもしれないし……ね?」
「な、なにを言って……」
少し微笑んだ彼女が、スマートフォンの画面をこちらに向けてくる。
そこに映し出されていたのは、通話中の文字。
「……まさか」
「……うん、ちょっと前からね」
彼女がスマートフォンに触れていた場面なんてなかったはず。
……いや、顔を伏せていたあの時か。
「……嵌められのか、僕は」
「ごめんね。でも、今の私に思いついたのはこれだけだからさ」
「……全部、教えてね?」
瞬間、後ろから今一番聞きたくない声が聞こえてきた。
「……彩葉」
「かぐやも家で待ってるから」
「……」
「ごめん、芦花。細かいことはまた今度話すから、天連れてくね」
「……うん、あとは任せたよ彩葉」
「任せて」
何故だろうか、声色はいつもと変わらないのに。
彩葉の瞳が淀んでいるように感じるのは僕だけだろうか。
「私、怒ってるから」
……まぁ、いつかは向き合わなければならないことだったんだ。それが少し早まっただけのことじゃないか。
今傷つけるか、あとで傷つけるか。それが変わるだけのこと。
「……うん、ちゃんと話そうか」
自分自身が一番気づいている。
僕の身に起きている変化に。
変化に気づいているからこそ、いずれは終わらせなければならなかったんだ。
あれから、僕たちは住み慣れたアパートに戻ってきていた。
いつもと変わらないはずのアパートなのに、今日はなんだが階段がいつもよりも長く感じた。
「……」
「……」
交わされた言葉は一つもなかった。
それは、口に出す言葉がないのか。話しかけるのが怖いのか。自分にもよく分からなかった。
「……てん、おかえり」
「……ただいま」
家の扉を開けると、かぐやが待っていた。
底なしの明るさと天真爛漫な笑顔が取り柄の彼女にしては、珍しく暗さが目立って見えた。
言葉と共に吐き出された湿っぽい感情、目元に浮かぶ震えている心情。
「……とりあえず、座ろっか」
普段の鳴りを潜めた彼女の様子を見れば、自分が起こそうとしている行いの間違いさが、かえって際立つ。
「天はこっち、私とかぐやはこっちね」
「……うん」
普段と変わらない様子の彩葉だが、目元が据わっている。
僕の一挙手一投足を捉えては、決して離さないと言わんばかりの眼光。
まるで、監視でもされている気分だった。
「じゃあ、これから聞くことに素直に答えてね」
「……拒否権は?」
「うーん、答えるまでは粘るかな」
「……僕がずっと答えない可能性もあると思うけど」
「どうしても答えてくれないなら、どうするかわからないよ?」
「……脅しみたいなこと言うね」
「うん、脅しだよ。素直に答えてくれなかったら、目の前で首掻き切って死ぬよ?」
「は?」
「どうせ、天がいない世界に未練なんてないし。どうしても答えないって言うんなら、目の前で死ぬから」
さも当たり前かのように告げる彼女の瞳は、その言葉が決して冗談ではないことを物語っていた。
極端に少ない瞬き、光を一切受け入れない淀んで据わっている瞳。これらが、彼女の言葉が如何に嘘ではないかを示していた。
「……それだけはやめてくれ」
「うん、知ってた。天、私たちのことが大事だもんね?……それこそ、自分の命を捨てても守りたいほどに」
「……自分で言うんだね」
「うーん、むしろそうじゃないと許さないって言うか……」
何故だろう、目の前にいる彼女が初対面の人のように感じるのは。彼女の放つ言葉や視線、行動の全てが今までの彼女とは大きく異なっていた。
少なくとも今の彼女は、僕の知る酒寄彩葉という人間の人物像から大きく逸れている。
僕が共に過ごした彼女は、もう少し弱さを抱えた孤独が嫌いな寂しい少女であった。
少なくとも、自分からその身を捨てる選択肢を躊躇いもなく選ぶほどの強さは持ち得ていなかったはずだ。こんな、自分を犠牲にするような選択を彼女が選ぶわけがない。
だからだろう、目の前の彼女に対して多少の畏怖を抱いてしまうのは。
未知への恐怖に近い感情を、僕は彼女に抱きつつある。
「それじゃあ、いい?」
「……うん」
「じゃあ、一つ目。幸せになるといなくなるってのはどういうこと?」
「……」
視界の端で、薄い青が混じった茶髪が揺れている。
彩葉からの威圧感で、すっかり彼女しか見えていなかったが、この部屋にはかぐやもいたんだった。
かぐやも彩葉同様に、据わった瞳をこちらに向けている。瞬きを忘れたのではないかと言わんばかりに見開いた目を、こちらに向けては一切逸らそうとしない。
彼女もまた、僕のことを監視しているように見える。
「……説明が難しいな」
「一言で説明して?細かいのは、その後に質問するから」
「一言……?」
「そう、結論だけ教えてよ。いなくなるってのが何を指すのか」
今の彼女の放つ言葉たちには、端々に妙な圧がある。
一歩でも間違った選択肢をすれば、取り返しのつかないことになりそうな危険性を秘めているように感じる。
「……それは」
「それは?」
「…………死ぬつもりだった」
「そう。じゃあ、幸せになったらってのは?」
「……聞かないんだね」
「いいから、答えてよ」
僕の戯言は一切、聞き入れる気はないようだ。
許された発言以外は、まるで発言権が存在していない。
「……死にたくないって思えるほどの幸せになったら、死ぬつもりでいた」
「なんで?」
「……それが苦しんで死ねる方法だと思ってたから」
「なんで?」
「……なんでって」
「なんで?」
「い、彩葉?」
「なんで?」
まるで、壊れた機械のように言葉を繰り返し呟く。
瞬きも呼吸も、何もかも忘れたように緊迫した様子で一歩一歩詰め寄っては訪ねてくる。
なんで、と。言葉の投げかけられる速さと、声の強さが彼女の想いを表しているかのようだった。
「なんで?なんで?なんで?なんで苦しんで死なないといけないわけ?死なないといけないの?苦しまないといけないの?私たちを置いて死ぬ必要があるの?ずっと一緒って約束した。約束したじゃん、破るの?それとも最初から守る気はなかったってこと?嘘ついてたわけ?うそつきなんだ。うそつきうそつきうそつきうそつきうそつき……私の側にいてくれるって言ったのに。かぐやのこと責任もって面倒見るって言った。私たちの側にずっといてくれるんじゃないの?私の日常をあげるって約束したよね?天の日常を貰うって約束したよね?なんで?ねぇ、おかしいよ。なんでなの?私のこと独りにするんだ?ずっと一緒にいるっていったのに?うそつきだ。ひどいよ……ひどい。うそついたんだ私に。私天のことならなんでも受け入れるのに。辛い過去も思いも、全部全部全部全部全部全部全部全部全部全然ぜーっんぶ受け入れるよ?天が辛いなら横にいるよ。寂しいなら抱きしめてあげる。思い出して辛くなるなら、大丈夫だって私が慰めてあげる。お腹が空いたら暖かいご飯を作って一緒に食べるし、何処かに行きたいなら手を繋いで一緒に行くよ?孤独も後悔も、痛みも全部一緒に分かち合えば辛くないよ?私ならなんでも受け入れてあげるんだよ?全部頂戴ってのはそういうことだし、私の全部をあげるってのは何もかもを分かち合うってことだと思うな。私たちを置いていくの?なんで?なんで?私、天となら何処にだって着いていくよ?どんなに辛い場所でも。地獄だって着いていくよ。天がいれば、それだけで十分だって何度も言ってるのに。天にとって、私たちはそんな存在じゃないの?そう言ってくれたよね。大事だって思ってくれてるんでしょ?傷つけたくないって思ってるんでしょ?……ならなんで置いていこうだなんて思うの?連れていってよ。いいよ?何処にでも着いていくから。生きるのが辛いなら、私も一緒に死んであげるよ。……だめ?私が側にいるのはダメなの?側にいるって言ってくれたじゃん。勝手に置いてくなんて許さないよ。許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さないゆるさない……ゆるさないよ?何処にいくにしたってずぅっといっしょだよ?私が怒ってる理由わかってる?死のうとしたことに怒ってるんじゃないんだよ?私たちに黙って消えようとしたことに怒ってるんだよ?置いていくのはダメだよ?だーめ、絶対にそれだけは許さない。ねぇ、独りにしないでよ。……ううん、独りが嫌なんじゃない。天がいないのはやだ。いなくなっちゃやだよ。ずっと私の側にいてよ。抱きしめて?ずっと横にいて、抱きしめて頭を撫でて欲しい。朝起きた時は隣にいて、一緒に一日を始めたい。ご飯を食べる時は横で笑い合いながら一緒に食べたい。外に出る時も手を繋いで、何処にだって一緒に行きたい。生活の中で常に天がいてほしい。私の日常と天の日常が一緒であってほしい。……それぐらい、天のことを想ってるんだよ?私のこと嫌だった?嫌じゃないって言ってくれたじゃん。重くても受け入れてくれたじゃん。私たちのこと、何よりも大切だって言ってくれたじゃん。なのになんで、いなくなっちゃうの……?いやだよ、いなくなっちゃやだ。置いていかないでよ……」
「……いなくならないでよ」
かつて、僕の人生の中でここまで想ってくれた人間がいたのだろうか。
過去がない僕には、確かめようがないだろう。けど、仮に覚えていたとしても、彼女ほどの人間がいたとは思えない。
「……」
だってそうだろう。
僕の逃げるための選択肢を全て潰していくかのように、彼女は僕の全てを肯定していく。文字通り、僕の全てを。
死を望むのなら、共に朽ちていく。その言葉が嘘ではないことぐらい、彼女の表情や言葉を見れば一目瞭然だ。嘘ではないからこそ、その言葉に込められた意味が大きくなっていくのだ。
「……彩葉」
けど、それでも。
どれだけ、彩葉を傷つけても。どれだけ、かぐやを泣かせてしまうことになっても。
僕は、譲るわけにはいかないんだ。
「……一緒には逝けないよ。君を死なせることは絶対に許容できない」
「じゃあ、一緒にいてよっ!……置いていかないで」
「……それは無理な話だなぁ」
「なんでっ!」
「話したって、君にはわからないよ」
「……そんなこと」
「あるよ。断言する、君には絶対に理解なんて出来やしない。……いや、君だけじゃない。誰にだって僕の気持ちを理解することなんて出来やしないんだ」
「……な、んで」
わかってたまるもんか。
僕の空虚は、誰にもわかるはずがない。
人として生きてきた者たちに、わかるはずがないんだ。
「……君にわかるかな。僕の空虚がさ」
「……ぇ?」
「本当は、別に苦しんで死ぬとかどうでもいいんだ」
「……ぁ」
もう、全部が壊れてしまってもいい。
継ぎ接ぎだらけだったんだ、今更構わないだろう。
「……気づいてるとは思う、僕が過去を持ち得ない空っぽな人間なことは」
「……空っぽなんて言わないでよ」
「空っぽだよ。僕には、何にも残ってないんだ」
「……そんなことない」
「そんなことあるんだよ。君はわかってない、過去を失うってのがどういうことなのかを」
「……なにが」
僕は、過去を失ったんだ。
思いも何もかも。全てを、そこに置いてきた。持ち続けた物なんて何一つとしてない。
残ったのは、たった一つだけだった。
「事故のあと、僕は病院で目覚めた。目覚めと同時に、病院の人や警察の方々には、色々なことを言われたよ。家族の安否や、事故当時の状況について。……けどさ、そんなこと言われたって僕には困ることしか出来なかった」
「……ぇ?」
「目が覚めたときには既に、僕はもう過去を失っていたんだ。何にも覚えてないよ。自分がどうしてここにいるかとか、何をしていたとか、一切覚えてないんだ。なのに、周りの人はそんな僕なんか気にも留めずに、説明ばっかを急ぐんだ」
事故当時について、家族について。
口を開けばそればっかりだった。そんなこと言われたって、覚えていないんだから、どうすればいいかなんてわかるわけがないってのに。
「……散々言われたからかな、後になって思い出したよ。当時の家族のことだけはさ」
思い出すことは、出来たんだ。
けど、遅かった。
「……実際にそうなってみないわかんないんだけどさ。記憶がない状態で暫く過ごしてさ、漸く思い出したっていつも通りにはなれないんだよ」
「……な、んで」
「記憶を失ってる期間が多かったからかな、思い出しても他人事のように感じたよ」
思い出すのが遅すぎた。
記憶を取り戻す頃には、藤原天という人間が既に出来上がっていた。
「でも、助かったよ。記憶のない僕からしたら、過去もなければ、自分もないんだ。本来の自分を取り戻せるんなら、それだけで儲けってもんだよ。……けどね、上手く馴染まなかったんだ」
戻る努力はした。
本来の自分と、今の自分の乖離を埋めては元に戻そうとはした。
けど、上手くいかなかった。
「……なんとか、自分を取り戻すことには成功したよ。家族への感情とかは少しずつだけど馴染んできたんだ。でも、僕が記憶を失ったのはトラウマから来るものだった。僕自身が覚えてなくても、心が思い出すことを拒むんだ」
家族のことを思い出せても、心がそれを強く拒む。
頭痛や眩暈、酷い自己嫌悪たちが僕が前に進むことを許してくれなかった。
「ちょっとずつだけど、取り戻しつつある自分とは別に、全てを失ったままの僕も確かにいたんだ。……だからかな、僕には素直に前を向く気力が湧かなかった。家族を覚えていたはずの俺は、辛い過去から目を逸らし続けていた。だから、俯瞰しているもう一つの自分でいることを選んだんだ」
「……俯瞰」
「その結果がこれだよ。母さんたちのことは今でも覚えている。僕に優しくしてくれたことや、僕を受け入れてくれたこと。全部とまではいかないけど、確かにこの胸にその記憶が刻まれている。……けど、何もない僕も確かにいた。流されるがままに、家族や家族に対する想いを受け入れて、それを自分だって飲み込まなきゃいけなかった」
気持ち悪かった。
矛盾した自分が、空っぽな自分が。
「……解離性健忘ってね、症状が悪化していくと自分への他人感が強くなっていくんだって。まさに、僕のことだよね。自分への離人さを感じ続けていくばかり。その一方で、全部が全部他人のように感じてるわけでもなかったんだ」
全てを、他人のように俯瞰できたらどれだけ楽だっただろうか。
全てを、ちゃんと自分のものとして思い出せたらどれだけ良かったことか。
「……過去への罪悪感や自己嫌悪だけはね、どれだけ自分を俯瞰して見るようになっても、消えてくれないんだ。なんなら、僕が覚えていないときの負の感情も合わさって、なんでかわからないのに、辛くて辛くて仕方がないって状況だったよ」
僕が、背負ってきた何かを。
心までは忘れてはいない。だからこそ、その傷が全てを忘れた今でもずっと痛むんだ。
「……僕はね、ずっと空っぽだ。何もしてないんだ、何も覚えてないんだ。なのに、自分のせいだって自分を責め続けてばかり。止めどなく溢れる自己嫌悪が、すごく苦しかったよ」
痛かった。
苦しかった。
辛かった。
「……僕は、生まれたばかりの赤ちゃんと何も変わんないんだよ。何にも残っちゃいないんだからさ。なのに、忘却された過去たちが僕を戒めるんだ、お前へのせいだって。かろうじて、思い出した記憶が僕に強制するんだ、お前はこういう人間だって。喋り方も、感情の表現も何にも覚えてない。人への接し方だって、思いやる方法だって、人を傷つける方法だって僕は覚えてないんだよ。……箸だって、最初はまともに持つことができなかったんだ。当たり前を当たり前として行うことができないぐらい、自分を失ったんだ。そんなの実質、赤ちゃんと何も変わらないはずだ。……なのに、僕の心は僕であることを強要してくる。思い出した過去の思い出は、僕の形を強要してくる」
「……て、ん?」
「……どうすればいいんだよ。……わかんないだろ!どれだけ頑張ったって別の人のようにしか感じないんだぞ!それなのに、どうやって受け入れろって言うんだよっ!喋り方だって覚束なかったんだぞ!?俺はどうすれば俺でいられるんだよ……!喋り方は兄さんのを真似たよ。数少ない記憶に印象深く残ってる人間だったから!喋り方も笑顔も、歩き方も何もかも全部だ……!人としての形は亡き兄を模倣していただけなんだ。僕には何にもない。ただ、生きてるだけだ。生きる意味もないまま、ずっと……。ずっと、苦しくて苦しんて仕方なかった!生きる意味も見つからない、生きるためには誰かを真似していくしかない。……素直に生きようとしたら、過去の後悔が僕を縛り続けるんだ。ひどいだろ……?赤ん坊と何ら変わりないのに、苦行ばかりを背負わされるんだ。生きたいと思うか?生きてて良かったって思うか?思うわけないだろ……!死にたいから死ぬんじゃない、生きたくないから死ぬんだ。解放されたいんだよ、僕は。意味もなくこの世に生まれて、意味を見つけれないまま苦しみ続ける今の現状から……」
ずっと、空っぽだった。
自分を持ち得ない俺には、人であるためには兄を模倣し続けるしかなかった。人としての形を真似て、人の真似事をしていく。
僕はそうやって生きてきた。そうやってしか、生きてこれなかった。
「……母さんたちのことは、今でも辛いよ。けど、この感情を自分のものであると認識できると同時に、他人の感情を見ているかのように感じる僕もいるんだ。過去への後悔を感じる俺と、他人越しに後悔を感じる僕。二つが常に混ざって、自分がわからなくなる。なのに、痛みだけはずっと変わらないんだ」
痛いよ。
心が痛いんだ。でもそれが、今の自分に対する思いから来るものなのか、過去の後悔から来るものか分からないほど心が痛いんだ。
「……幸せになって死ぬ。それは多分、元々俺が願っていたことだとは思う。いつも誰に対してかも分からない懺悔の気持ちに見舞われる。その都度思うんだ、僕が苦しんで死ねば少しは贖罪になるかなって。誰かの幸せを奪ってしまったんなら、僕だって幸せの最中でその幸せを失ってしまうことへの絶望を味わいながら死ねば、少しは贖罪になるんじゃないかって思ったことは何度もある」
その思いは嘘ではない。
実際に、そんなつもりがなかったわけじゃない。
けど、それ以上に解放されたかったんだ。
この痛みから。……生きるっていう、地獄から。
「……それでもまだ、僕を理解できるって言うのかな。普通に人としての生を謳歌してきた君にさ」
「……ぁ」
「……記憶を失ってから数年しか経ってないんだ。本当に僕は赤ちゃんみたいなものだろ?そんな僕の気持ちを、十数年生きてきた君が理解できるのか?僕の辛さをどうにかできるのか?なぁ、教えてくれよ」
「……ご、め……っ、なさ……ぃ」
譫言のように、彼女は謝罪の意を口にする。
僕がこうしたんだ。彼女の心を砕くようなやり方をしたからだ。
……僕が、彼女を傷つけたんだ。
「……ちがうもん」
「え?」
「てんの言ってることちがうもんっ!!」
「……か、かぐや?」
「てんは空っぽなんかじゃないっ!……だって、笑ってたもん!」
「……それは」
「かぐやたちのこと大切だって言ってくれたよ?嘘だったの?ちがうじゃん……!過去のこととか、難しいことはかぐやにはわかんないよ。でも、今は少なくともかぐやたちがいるよ。私たちを傷つけたくないって思ってたてんがここにいるもん!」
彩葉やかぐやが大切なのは事実だ。
二人を傷つけたくないのも事実だ。
……だからこそ、これ以上僕の愚行に付き合わせるわけにはいかないだろ。
「……てんはさ、捻くれてるんだよ。苦しみから解放されたいって言う割には、かぐやたちのこと随分と気にかけてるし」
「……」
「てんにとって、自分は空っぽだって思うかもしれない。今までの日々が空っぽだって思うかもしれないけど。……けど、彩葉と過ごした日々は?かぐやと一緒にいた日々は?思いは?全部全部ぜーんぶ大切にしてたじゃん!なら、今のてんは空っぽなんかじゃないよっ!」
「……っ」
「空っぽだって思うんなら、埋めちゃえばいいんだよ!過去のことなんて知らない!新しく埋めて作っちゃえばいいんだよ!てんっていう人間をね!」
「……埋める?」
「過去のてんなんて関係ない。辛かったことは全部忘れちゃえ。自分のことも、大切だった人も全部忘れちゃえばいいんだよ。無理に思い出す必要も受け入れる必要ないんだよ!てんはてん!かぐやたちにとって、今のてんが全てだよ?」
「……ぁ」
「辛いって思うんなら、かぐやが抱きしめてあげる!彩葉だっているよ?そんなの忘れちゃえばいいんだよ!辛い思い出も忘れたくない思い出も、もう全部忘れちゃえばいいんだよ。……今のてんには、かぐやたちがいるから。それで全部埋めちゃお?自分が他人のように感じるならさ、新しくてんって言う一人の人間になればいいんだよ!過去の自分は別の人っ!てんには、かぐやたちがいる、空っぽなんかじゃない。完全に埋まりきってないんなら、もっと埋めれるようにかぐやも頑張るからさっ!……だから」
「……かぐや?」
「……置いて、いかないで……。……何でもする、から……。……お願い……」
僕は間違っている。
そんなの、最初から分かりきっている。
自分のエゴのために彼女たちを傷つけようとした。解放されたいなんて、結局のところ自己矛盾ばかりの自分を捨てるための都合の良い言い訳に過ぎやしない。
全てを捨てて楽になりたかっただけなんだ。そんな行いのために、過去の自分が願いすら利用して、それっぽい理由をつけて消えようとしていた。
「……そ、うだよ」
「……っ、彩葉」
「天……には、私たちが……っ、いるも、ん」
「彩葉……」
「……苦しんで死ぬ必要も、全てを放り捨てる必要もないよ。楽になりたいのはわかる。でも、私たちを捨ててまでそうなりたいの……?」
「……そんなわけあるか、二人を捨てたいと思うほど軽いわけがない」
「なのに……捨てようとしたよ?」
「……それは」
「……空っぽなのが辛いんだよね。何もないのが嫌なんだ、なのに纏わりつく過去が痛い。ならさ、かぐやの言う通りだよ。私たちがいるもん。空っぽになんてさせてあげない。過去なんて捨ててあげるもん。というか、私がいるのに過去がどうとか知らないし」
彩葉が手を差し伸べてくる。
僕に、この手を取る権利なんかあるのだろうか。
「……矛盾だらけでも、大丈夫だよ。私だって矛盾だらけだからさ」
「……いろは」
「一個ずつ、向き合っていこうよ。……弱さは受け入れてなんぼ、でしょ?」
「……おれは」
「過去の天にもいつか向き合えばいい。でも今はさ、過去なんて捨てて私たちだけを考え続ければいいんだよ。そしたらきっと、空っぽだなんて考えなくなるよ?」
彼女の手から伝わる熱が、妙に温かく感じる。
「……いっしょに、よわくなろ?」
ずるい誘いだ。
僕が彩葉のことを拒めないこと、彼女はよく知っている。
「……いいのかな」
「うん、いいんだよ」
「……それでも、苦しくて死にたくなるかもしれないよ」
「なら、今度こそ一緒に死ねばいいんだよ」
「……随分と重いね」
「当たり前じゃん、天のこと好きだから」
「……は?」
「好きな人と一緒にいたいって思うのは、乙女の特権だよ……?」
「ちょ、え、急になにを……」
「好きだよ、天。……誰よりも好き、他の人に触れさせたくないほど」
改めて告げた彼女の瞳は、先ほどと同様に据わったままだった。
けれど、瞳の中には確かな光があった。
「……私のこと、好き?」
「あ、ずるいっ!彩葉だけ答えるのナシだよ!かぐやもっ!」
「……この混沌としている現状はなんなんだ」
「「答えてくれないの?」」
「……まだわからないよ、好きとかそういうのはさ。でも、二人のことを他の人に渡したくない気持ちは……確かにある」
「……っ、じゃあ……!」
「……返事だけはもう少しだけ待ってほしい」
「……うん、待つよ。いつまでも待つから、答えはYESだけだからね」
「NOって言ったら怒るからねっ!」
先ほどまでの緊張感はどこに行ったのか。
気がつけば、目の前にいる彼女たちは普通の女の子に戻っていた。
「……僕がこの生を、ちゃんと受け入れられるようになって」
「……うん」
「過去に対して向き合うことができたら、答えを返したい」
「向き合うって、具体的には?」
「……僕のスタンスは変わらない。幸せの中、苦しんで死にたいって気持ちは今もそうだ。過去への懺悔も消えることはない」
「……うん」
「……でも、彩葉たちと一緒にいようと思うんだ」
「……っ」
「だから、そんな思いと決別できた時にちゃんと答えを返したい」
「うん……!」
「待たせてしまうかもしれない……それでもいいなら、ちゃんと答えを返すよ」
「……だいじょうぶだよ、ばか」
「……相変わらず、辛辣な返事で」
空っぽで矛盾だらけの自分を、僕は許せなかった。
知らないはずの過去や痛みを、僕は受け入れられなかった。
それでも忘れたくない過去を、僕は手放せなかった。
結局、僕が甘かったんだ。
何もかも中途半端で、そんな人間だから彼女たちを傷つけてしまった。
彼女たちを大切にしていたんだ。少なくとも、僕には彼女たちがいたはずなんだ。なのに、何もないみたいに被害者ぶってたんだ。
「……ありがと」
「……うん」
「うんっ!」
僕の矛盾がなくなったわけじゃない。
きっと僕は、これからも自分を許せないだろう。幸せを噛み締めながら朽ちていくことを望んでいることだろう。
多分、空っぽさを受け入れただけで他のものはそのままだ。……けど、彼女たちを受け入れることができたんだ。いつか、生きていたいと思えるようになるだろうか。
過去を取り戻したとき、彼女たちと共に前を向いていられるかはわからない。でも、前を向けるように彼女たちが僕の側にいてくれる。
——せいぜい、苦しんで死ね。
「……出来る限り、苦しんで死ぬようには努力はするよ」
……まぁ、側にいる彼女たちがそれを許してはくれないだろうけど。
僕は浸かり過ぎたんだ。
捨てるにはしては、長く浸かりすぎた。この、底のない沼に。
許せなかった僕自身の変化を、受け入れてもいいと思えるのはきっと彼女たちのせいだろう。嫌だったこの日々が、今では愛おしく感じるのもきっと、彼女のせいだろう。
まだまだ、矛盾だらけの僕だけど。
この矛盾を、彼女たちが解いてくれると言うのであれば。
俺は、彼女たちと共に在ることを誓おう。
「……彩葉、かぐや」
「……なあに」
「どしたの?」
「……俺と、一緒にいてくれてありがとう」
「「……!」」
「……こっちこそありがとだよ!」
「……うん、私こそありがとう」
変わったのは、空虚な自分だけ。
けど、この変化が俺に少しだけど生きたいと思わせてくれたんだ。
……だから、もう少しだけ彼女たちと生きていたいと思う。
最終回か……?
全然、続きます!なんなら、これがスタートラインまである。
ちゃんと、わからせ案件がすぐ来ますから!
・クソボケ
自己矛盾の塊。矛盾した考え方とそれを裏付ける二面性、書いてる側まで頭おかしくなるかと思うぐらい。苦しんで死にたいし、とりあえず死にたいって考え方から、とりあえず死にたいって考えがある程度なくなった人。まだまだ死ぬ気満々だぞ。
・超人様
眼光と圧がもはや人じゃないレベル。愛しの彼と、正真正銘すべてをさらけ出し合って,たぶん人生で今が一番幸せ。
・たけのこの里
超人様に続いてクソボケに告白した、正直よくわかってないし半分ノリ。けど、クソボケを渡したくない気持ちは誰にも負けないぞ。
・8000歳ばあちゃん
たぶん、感情が溢れて泣いてる。……おばあちゃん、落ち着いてね。
・おはなちゃん
なんか扱いが雑になってきた気が……?仕方がないんだ、この子が絡むパートは全部シリアスになるんだ。毎度、友人の超人様にいいところを持っていかれる可哀そうな子。多分、しばらくはそんな扱いばっか。けど、本人がそう願ったんならしょうがない。