SSSS.GRIDMAN 始まりの声 作:アレクシス同盟
どこか自分が、自分じゃないような。
そんな事を感じる事が最近増えた。
誰もが一度は考えるであろう、中二病という奴だろうか。
僕は既に高校一年生だし、遅咲きの病に伏しているのかもしれない。
それとも、自分という意識が、まだ薄いのが原因かもしれない。
「ついたぞ、渚」
親の声に、閉じていた目を開ける。
賑やかな登校風景と学校が目に入った。
制服を来た生徒の中に、私服を着た生徒がいるのが見えた。
緩い校則の学校なのだろうか。
ツツジ台高校。
それが僕が通う事になった学校の名前だった。
記憶は未だ戻っていない。
自分を送ってくれる父親も、どこか他人に感じる。
気まずい、という家族間の空気は、目が覚めてから数か月が経過しているというのに消えなかった。
両親と自分は、記憶が無くなる前もそれほどいい関係ではなかったらしく、送り迎えというこの行為も親としての体裁を守っているように僕には見えた。
「ありがとう父さん」
「ああ……楽しんでこいよ」
慣れていなさそうな笑みを浮かべる父に頭を下げる。
車が走り去り、学校の前には僕と登校中の生徒が残された。
学校、勉強、そして友達。
どれも、自分には何故か遠い物のように感じた。
最初に目に入ったのは、どこかの天井だった。
目に入ったナースコールのボタンを押し、やってきた先生の質問応えていく内、自分の名前が思い出せない事に気づいた。
記憶喪失、という奴だった。
事故に会い、数か月昏睡状態だったのだという。
それから両親が来た。
知らない人達。
僕の顔を見て、どこか不思議な反応を見せた。
嬉しいような、そうでないような。
覚えているのは、物の名前、食べ物の名前。図鑑、本などの記憶を無くす前に読んでいたであろう資料の内容。
そして……好きなアニメや特撮物のドラマの名前や内容だけだった。
「準備が出来たら呼ぶから。そこで待っとけ」
眼鏡をかけた、やる気のなさそうな男の先生に指示されるまま壁にもたれかかる。
ピシャリと扉が閉まり、ホームルーム中の先生の声が廊下に響いた。
廊下の窓から見える青い雲、その向こうに、大きな怪獣の姿が見えた気がした。
存在しない物が見えているなんて……壊れているのかもしれない。
必要とされていない存在で、何もないからっぽの僕。
ここにいる意味も、分からなかった。
「大田、入ってこい」
少し大きめな声で呼ばれた。
扉を開けると、クラス中から視線が降り注いだ。
「今日からこのクラスに転入する事になった、大田だ。太田、挨拶」
先生に促され、前へ出る。
視線を広げると、色々な生徒がいた。だるそうに眺める人、興味なさそうに外を見る人。転入生という肩書だけに興味がある人。ぼーっとどこかを見ている人。
その中で、窓側の奥の席に座る、一人の少女が目に入った。
つまらなさそうに外を見つめる少女。
何故だろう、どこか彼女の事が気になった。
「大田?」
いつまでも声を出さない僕に、先生が声を掛けた。
気を取り直し、クラスの中心を見つめて話し出した。
「大田渚といいます。よろしくお願いします」
頭を下げる。
可もなく不可もなくな、そんな挨拶。
席に案内され、座る。
隣の人達が話しかけてきて、無難に受け答えした。
「それじゃ、授業始めるぞ」
先生の声で授業が始まる。
退屈な世界で、退屈な授業。
それでも、今の何もない僕にとっては、この雰囲気が何よりも心地よかった。
休み時間。
周りから話しかけられる。
この時期に転入してきた生徒謎、珍しい存在に決まっているだろう。
ある程度の質問攻めを受け流し、落ち着いて来た昼の時間。弁当を出そうとした時、二人の男子が話しかけてきた。
「転入生、大田だっけ? 俺の名前は内海将。よろしく。それで、こっちが……」
「響裕太。よろしく」
「内海に、響。よろしく」
落ち着いている雰囲気の二人に、どこか気持ちが安らぐ。
テンションが高い人ばかりだったからかもしれない。
「お昼一人か? なら一緒に食べようぜ」
「いいの? なら一緒に」
「あー……僕お昼持って来てない」
「何? 飯忘れたの?」
「いや……学校の事で一杯一杯で……」
そういいながら、困ったように頭をかく、赤い髪の少年。響、だっけか。
「響くんは何かあったの?」
「いや……僕記憶喪失で、何にも覚えていないんだよね……」
「えっ、僕と同じ」
「え? 同じ? それどういう事だよ」
二人が驚く。
響くんと顔を見合わせる。
「僕も記憶喪失なんだ。数か月前、事故で。それまでの記憶がなくて」
「へぇ……不思議な事もあるもんだな。記憶喪失の二人が同じタイミングで学校に来て、それに一人称まで一緒なんてな」
「それは別に関係ないでしょ……」
内海くんに突っ込む響くんのやり取りを見て、少し笑った。
意識が戻って、自然と笑えたのは久しぶりな気がした。
「二人とも、仲いいね」
「そうか? まぁ四月に友達になったってのはあるけど……裕太また記憶喪失だから友達やり直しって段階なんだけど」
「それに関しては申し訳ない……」
「まぁ、これから仲良くしてくれると嬉しいよ。記憶喪失同士、仲良くできる物があると思うから」
そういうと、少し疲れていた様子の響くんも少し元気になった様子だった。
「……そうだね。それと、僕の事は裕太って呼んで。皆そういうから」
「俺は好きな方でいいぜ。内海って呼ばれる事が多いけど」
「分かった。裕太、内海。そう呼ばせてもらうよ」
友達のいなかった僕にとって出来た初めての友達だった。
「じゃー私は、アカネって呼んでー?」
机の上に、パンが置かれた。
購買で買ったのだろうか。顔を上げると、一人の少女がこちらを見降ろしていた。
紫色の髪で、赤色の瞳。
眼鏡をかけて、紫色のパーカーを着崩した、可愛いらしい少女。
挨拶の時に外を見ていた、なぜか気になった、あの。
「新条アカネ。まだ大田くんには挨拶してないなーって思って」
「あ、うん。新条さん。よろしく」
「堅いなーもう」
新条さんが裕太へと視線を向ける。
「裕太くんも。記憶喪失って本当みたいだね。誰って顔してるよ。なんだか転入してきたみたいな感じ? 太田くんと同じだね。転入生が二人かぁ~」
「いや、ほんとに何も覚えてなくて……」
「ほら、裕太くん。スペシャルドッグあげる。お昼ないって言ってたでしょ?」
目の前で二人がやり取りしているのを脇に、内海が話しかけてきた。
目線は新条さんへ行っていた。
「そういや、大田は何か好きな物とかある? ベタな質問で悪いけど」
「えっと、そうだね……。特撮とか好きだよ」
覚えていた記憶の中で、一番僕を支えてくれた記憶。
孤独と退屈を紛らわせてくれた、唯一の宝物。
「えっマジで? 俺も特撮好きなんだよ。ちなみに何が好きなの?」
「ウルトラマンとか、かな……」
小さい頃、テレビに座って見ていた……のかもしれない。
見たという記憶だけはある。だけど、どこで見たかはまったく覚えていない。
「マジか! いやー、俺もウルトラマン好きなんだよなー! ちなみに、誰が好き?」
「誰?」
「ウルトラマンだよ。初代マンか、セブンかーとか、色々あるじゃん?」
テンションが高くなった内海に少し押されながら、ふと前の二人を見た。
裕太は新条さんと何やら話している様子だったが、アカネの目がチラッとこちらを向いた。
直ぐに視線が戻り、裕太と楽しそうに話をしている。
……いけない、今は内海と話をしていたんだった。
「ウルトラマンじゃなくて、僕は怪獣派かなぁ」
「怪獣? どうして? いや、気持ちは分かるけど……」
どうして。そういわれると難しい。
でも僕は、昔から正義のヒーローよりも、悪役の方にロマンを感じるタイプだった。
どんな悪役にも美学があり、活躍があり、そして正義のヒーローと戦うための力もある。
怪獣だってそうだ。
色々な姿があり、活躍があり、そして華がある。
時には圧倒的な力を示す事だって。それがカッコいい、と思う少年だったというだけの話だ。
「色々と理由はあるけど……」
視線を感じ、横を見る。
眼鏡をかけた新条さんの赤い目が、僕の目をじっと見ていた。
さっきみたいな、クラスメイトに話しかけるような目ではなく。
少し気になるおもちゃを見つけたような、そんな感じの――
バンッ!
っと、目の前でボールが跳ねた。
クラスが静まり返る。
僕の机の上に置かれていたパンが潰れていた。
「ごめん、マジでごめん!」
「大丈夫?」
「さっきから危ない場面あったでしょー。気を付けなよー」
クラスの中でボールで遊んでいた女子達が近づいて謝ってきた。
俺達三人には何も被害はない。
「大丈夫、大丈夫」
「怪我とかはないから」
地面に落ちたパンに視線が行った。
ボールの痕で、少し凹んでいる。
パンを拾い上げると、裕太に渡した。
「ちょっと潰れただけで、全然食べられるよ。アカネさん、裕太に渡してもいい?」
先ほどあげると言ってはいたけれど、本人に一応の確認を取る。
「……え? あ、うん。いいよー。最初からそのつもりだったし」
「ほら、裕太」
「ありがと」
見られているような感じがして、新条さんの方を見た。
彼女もこっちを見ていたらしく、目が合った。
赤い目が驚いたように開いていた。
そして、にこ。と可愛らしい笑顔で笑った。
彼女が何故笑ったのかは分からなかった。