SSSS.GRIDMAN 始まりの声 作:アレクシス同盟
建物が崩壊する。
車が蹴飛ばされ、踏みつぶされ。
炎上し、人々が逃げ惑う。
そんなウルトラマンの中の光景が、現実に起きていた。
その光景を理解するのに時間がかかった。
「……怪獣?」
転校初日。
窓の外に怪獣を見た気がした。
妄想が生み出した産物だと、いつものように思っていた。
それがまさか本当だと、誰が思うだろうか。シルエットが違うようにも見えるけれど、その存在がこの町を襲っているのは事実だった。
「なんだあれ……本当に怪獣じゃん!」
双眼鏡のような物を取り出し、怪獣を見ている内海。
どこから取り出した、そしてなぜ持っている――色々聞きたい所ではあるが、そんな些細な事は今はどうでもいい。
内海から借りると、自分も覗いた。
二本の角、長い首、赤と青が混じった体。
よく見ると、体から皮膚が剥がれて落ちているようにも見えた。
「あれが響くんの言ってた怪獣?」
「分かんないけど……」
「直前で鳴き声を聞いたらなら、あの怪獣しかないんじゃ?」
「それに関しても色々あって……」
「てか、ここからじゃ良く見えない! 大通りに出ないと……」
「いや、危ないって!」
怪獣が顔をこちらへ向けた。
奴の口の中が、赤く染まっていくのが見えた。
まずい、これは怪獣という存在ならお馴染みの……
「あっつっ!」
火球が放たれた。
上空を通過すると、まるでボールのように跳ねながら飛んでいき、そして炎上した。
もしブレスタイプだったら、僕達は死んでいただろう。
思わず唾を飲み込んだ。
「……学校の方だ」
視線の先にあるのは、今まで通っていた学校の方角に燃え上がる炎柱。
この時間帯なら人は少ないだろうけれど、まだ残っている人もいるかもしれなかった。
「とりあえず逃げないと。奴から離れるようにして……」
言葉を言いかけた。
裕太を横目で見ると、何かハッとした表情を浮かべていた。
「グリッドマンが呼んでる……!」
そういうと、再び家の中へ走って戻っていく。
三人で顔を見合わせ、裕太を追って戻る。
そうして店の扉をくぐった時、さっきのPCに吸い込まれていく裕太の姿が見えた。
「裕太!?」
「えぇ何あれ!」
「……これ現実だよな……」
記憶が消える前より、消えた後の方が濃い経験をしているのは確かだった。
思わずその景色を見てしまう。
町を荒らしながらずんずんと進む怪獣は、どこへ向かっているのだろうか。
気が付くと、二人は隣にいなかった。
PCの前で、画面を食い入るように見ていた。
「どうした、何か映っ、て……」
先ほど何も映っていなかった画面に、裕太と謎の機械の戦士が向かい合って立っていた。
「……俺もなんか見えた……」
「……私も見えちゃった……」
「……信じていなかった訳じゃないけど……実際みると……」
外が緑色に光る。
大地が揺れた。
怪獣が出現した時の揺れとは違う、ずしん、と響くような揺れが一回。
すぐに外へ出ると、何かが立ち上がったのが見えた。
「あれが、グリッドマン……」
怪獣を前に立ちふさがる、大きな機械の戦士。
ここからでは良く見えないが、それがウルトラマンのような存在だという事は明白だった。
「ここからじゃ良く見えない……!」
「内海くん、大田くん! これ……」
二人でPCの前に戻る。
そこには、グリッドマンを映したどこかの映像が流れていた。
どこのカメラだよ、と突っ込みたくなる気持ちを抑えた。
非日常感でどこか気持ちがおかしくなっているのが、自分でも分かった。
『止めなきゃ。この怪獣を……俺が!』
画面の中のグリッドマンが、怪獣へ向けて動き出した。
移動する怪獣を正面から受け止め、崩壊した町へと投げ返した。
これ以上被害を出さないようにするための行動。間違いなく、裕太とグリッドマンが一体化していた。
首を殴り、蹴とばし、起き上がった怪獣の動きを封じながらダメージを与えていく。
その様子が、PCにリアルタイムで表示されていた。
「裕太がグリッドマンになって戦ってるんだ。怪獣からこの町を守るために……!」
どこか興奮した様子で、内海が呟いた。
誰かに向かって言っている訳ではなかった。
その存在が、現実の物として動いているという事に、感動している様子だった。
怪獣が首を回し、グリッドマンへと叩きつけた。
体が吹き飛び、地面へと投げ出される。
マンションが崩れ、その上に倒れ伏すグリッドマン。
怪獣が口を大きく開いた。
炎が沸き上がり、球体としてボン、ボン、ボンと空へと打ち上げられる。
跳ねるように飛んだ炎の塊は、連続してグリッドマンへと着弾する。
爆発の衝撃が、ここまで伝わってくるようだった。
PCの赤いランプが点灯する。
バチッ、バチッという音と共に、PCから火花が散った。
「うわっ、ジャンクが!」
「昔のパソコンってすげーな!」
「言ってる場合か!」
PCには、倒れたグリッドマンへゆっくりと近づく怪獣の姿が映っていた。
まずい、このままではグリッドマンが……いや、裕太が危ない。
「もしかして……このジャンクと裕太が連動してるのか!?」
「裕太が吸い込まれたPCだから……その可能性はあると思う」
「何、響くんがヤバいって事!?」
「……うん。まぁ、そういう事」
内海が頭を搔き、PC画面を見つめる。
「あぁークッソ、ウルトラシリーズならなぁ、怪獣に弱点とかあるのに!」
「何の話?」
『クソ、体が重いっ!』
PCから声が聞こえた。
裕太の声だった。
「裕太、聞こえる? 渚だ。裕太?」
返事はない。ただ画面が動いているだけだった。
「こっちからは会話できないみたいだ」
「じゃあ怪獣の弱点に気づいた所で、伝えられないって事かよ……ッ!」
『学校が燃えてる!』
画面が切り替わる。
燃えた学校。
そして一番ひどい体育館の映像だった。
「え、嘘!」
「さっきの火球、やっぱり学校に着弾してたのか……」
「……首の所が綻んでる。あそこを攻められれば、勝てるかもしれない……。でも、どうやって伝えれば!」
内海の言った通り、良く見ると怪獣の首からぽろぽろと皮膚が落ちていた。
さっき双眼鏡で見た光景が思い浮かぶ。思えば、グリッドマンと戦う前から首から落ちていた。
「……そうだ。パソコンなら、キーボードとかで伝えられないかな」
「このパソコンで?」
六花さんが、パソコンの前に座る。
今まで一歩引いてみていた彼女が、自分から椅子へと座った。
「……私、やってみる。内海くんと大田くんの言葉を、伝えてみる」
覚悟を決めた表情だった。
キーボードを叩く。
カタカタと音が高速で響く。
「打つのはえぇ」
「……元々PCを触ってたのかな」
黙々と打ち続け、エンターボタンを叩いた。
映像に映っているグリッドマンの頭が緑色に光った。
まるで何かを受信しているかのように。
『聞こえた……。皆の声。聞こえる。聞こえる!』
近づいていた怪獣を蹴り飛ばす。
声を上げながらたたらを踏む怪獣。
ゆっくりとその場から立ち上がるグリッドマン。
再び怪獣へと体を向けた。
「……通じた」
怪獣の口内が燃え上がる。
赤く光り輝き、その弾はグリッドマンに殺到した。
手を強く握る。
腕を引き、そして拳を火球へと叩きつける。
火球が潰れ、半分になって逸れる。背後で大爆発を起こした。
勢いを付けて走り出したグリッドマンは、そのまま怪獣の首を抑え、そして首を引きちぎった。
「いけ、グリッドマン!」
二人もグリッドマンを応援していた。
僕の目は冷静に、怪獣へと向けられていた。
引きちぎられた怪獣の首元は、どこか電子管の溢れる配線のような物が体内に広がっていた。
肉、そして血となる物が、あの怪獣には存在しない。
そしてパソコンを介して話す戦士。無関係のようには思えなかった。
『グリッド……』
グリッドマンがクロスした両腕を大きく上に広げた。
左腕についている機械が大きく光り、左腕を突き出した。
『ビーム!』
眩い光線が放たれた。
ビームは怪獣に命中すると、大きく爆発を起こす。
煙が晴れた場所に、怪獣は存在しなかった。
「グリッドマンが……勝ったぞ!」
内海が興奮しながら手を突き上げた。
それと同時に、PCが青く光り、店の中へと注がれる。
裕太が再び姿を現し、画面が元の画面へと戻った。
「……た、ただいま」
「すげーよ裕太! 怪獣と戦って勝っちゃうなんて!」
裕太へと近づく内海を宥める。
怪獣と戦っていたんだ、疲労は僕達の非じゃない。
「大丈夫か、裕太。……裕太?」
「……あ、ごめん」
「グリッドマンが何か言ってるのか?」
「……うん。使命を果たせって」
「……今、果たしたんじゃ?」
「始まったばっかりだって」
「……本格的にBOTだな」
グリッドマンBOT。嫌すぎる。
正義のヒーローがBOTなんて。ウルトラシリーズ好きとしては、心から認めたくない。
「……でもさ、俺達三人と、グリッドマンで怪獣に勝ったんだぜ! こーいうのは名前があった方がいいよな、グリッドマン同盟とかそういう」
「ちょっと、待って……」
興奮冷めやられぬ内海の言葉を遮るように、六花さんが眉を揉みながら頭を下げた。
色々あったんだ、そうなるのも当然だと思う。
僕だって、学校の事も気になるし、あの怪獣の事だって気になる。
現実にこんな事が起きるなんて、記憶喪失の前でも同じことが起きていたのだろうか。
ここにいる皆が初めて見たような反応をしていたから、そういう訳でもないのか……と、色々と考えてしまう事だって多い。……でも、今はとりあえず。
「まぁ、帰ろう。外も暗いし、いい時間だよ」
「……そだな」
「……うん」
男三人で頷くと、立花さんに挨拶して店を後にした。
空を見上げる。
怪獣とグリッドマンが暴れたというのに、星はいつも通りに輝いていた。
警察やら消防車やら、あちこちで音が聞こえた。
学校方面からだった。明日は休校かもしれない。
「裕太、体は大丈夫?」
「うん。ちょっとだるいけど」
「正義のヒーローだぜ? もっと胸を張って歩けよぉ!」
「内海、なんかテンション高いね……」
怪獣被害も気になる。
炎上した学校、崩壊した町。
スマホを取り出す。
親から連絡が複数来ていた。
メッセージを開き、無事だという事を伝える。
……怪獣被害が起きた時、真っ先に親を心配しなかった僕は薄情者だろうか。
これだけの事があったのに、僕はどこか他人事のように感じた。
自分も、世界も。
空想上の存在が現実にあるという事を、まだ実感できていないのだろう。
それは二人も、同じだと思う。
……思いたい。