SSSS.GRIDMAN 始まりの声 作:アレクシス同盟
家へと帰宅すると、両親が心配そうな顔をして近づいて来た。
僕の顔を見ると安心したのか、疲れた顔でリビングへと戻っていった。
リビングのテレビには、怪獣によって発生した被害の数々や負傷者、そして怪獣そのものを大々的に報道していた。
自室へと戻り、カバンを床へと放り投げると、ベッドへと横になる。
ズボンからスマホを取りだす。SNSを開くと、どこもかしこも怪獣の事で大騒ぎ。
そして、あの謎の機械の戦士の事も報道されていた。
動画配信サイトを開けば、宇宙人説や陰謀論・ウルトラマンの世界からやってきた怪獣が現れたなどと憶測に過ぎない配信が大量に並び、そこそこの視聴者を稼ぎ出していた。
「……怪獣、か」
一息つくと、先ほどまでの出来事が頭に浮かぶ。
怪獣が現れて、学校が燃やされて。裕太がグリッドマンに変身して、怪獣を倒して……本当に現実の出来事なのかと疑うくらいには、濃い一日だったのは確かだった。
メッセージアプリを開くと、裕太と内海の三人のグループが盛り上がっていた。
盛り上がっていた、といっても、内海が一人で興奮したように騒いでいる感じだったが。
気持ちは分からなくもないので、スタンプを一つ送っておいた。
スマホを閉じる。
窓を見れば、暗い世界が広がっていた。
怪獣がグリッドマンに討伐され、怪獣による火災なども鎮火されて来た頃合いなのだろう。
あの怪獣は何なのだろうか。
グリッドマンが首を飛ばした時に見えた、あの体内。
生命体とは思えない、血肉が通っていない空洞のような内部。
ただ叫んでいるような、意志が存在しないような雄叫び。
そして瞬きのない、怪獣の虚ろな目。
「……ねむ」
色々と考えていると、思考が鈍ってきた。
人という物は不思議な物で、あれだけの事があっても自然と体は眠くなる。
横になると、眠気に身を任せて目を閉じた。
部屋の電気を消していないとか、そういう事なども忘れて。
僕は意識を手放した。
「渚、学校遅れるわよ~」
親の声で目を覚ました。
スマホを見れば、時刻は七時半を過ぎていた。
急いで制服に着替え、スマホを取って家を飛び出した。
メッセージアプリを開くと、内海と裕太からメッセージが来ていた。
『先に行くぞ~』
とグループにメッセージが書き込まれていた。
『了解』
と返事を打つと、少しスピードを上げて走り出した。
ある程度走ると、歩きに切り替える。
ここからなら学校にも十分間に合う距離だ。
赤信号で止まり、スマホ画面を開く。
いつものルーティン通り、手がSNSを勝手に起動した。
SNSには有名な芸能人の結婚発表や、ある会社が不正をしたという記事がトレンドに上がっていた。
……あれ、怪獣は?
そう思った。
あれだけの事があったんだ。しばらくはテレビもネットも怪獣で大忙しだろう。
検索をかけても、昨日の怪獣に関する事は出てこなかった。
……そういえば、学校は?
今更そんな事を思い出した。
青信号に切り替わり、周りの人が歩いていく。
周辺のお店を見ても休んでいる所はなく、そしてみんな黙って仕事へと向かっている。
同じ制服を着た生徒も見かけた。
PC画面で見た、学校の体育館が燃えていた光景。
あれだけの事があるなら、学校はとりあえず休校になりそうな物だけど。
疑問は尽きなかった。
それでも自然と足は学校へと向かって歩き出す。
正常性バイアス、という奴だろうか。
とりあえず、学校へ向かえば分かるだろう、そう思った。
学校の前についた。
既に内海、裕太、六花さんが揃っていた。
三人はその場に立ちすくんで、校舎を見つめていた。
「おはよう、三人とも」
「あぁ、渚……おはよう」
「おはよう、渚くん」
「大田くんおはよ……」
言葉を発せずとも、四人が何を考えているかは丸わかりだった。
視線は燃えていた筈の校舎を見つめていたのだから。
「……学校、燃えてたよね」
「うん……」
「だよな……」
体育館はそのままだった。
昨日帰宅する前の、元の姿のまま。
明らかに異常な光景だった。
「グリッドマンが学校、治してくれた……とか」
「裕太がグリッドマンになったから、それはないと思う」
「でもさ、ウルトラマンだったら本人と一体化して一緒に戦うとかあるけど……」
内海の視線が裕太へと向く。
本人は本当に何かを隠している様子などなく、不思議そうな顔をしているだけだった。
「……ないな」
「ないね」
「さっきから何の話?」
六花さんが付いていけていなかった。
内海が必死に説明しているのを横目にスマホを取り出すと、内海に見せた。
「SNS見た?」
「まだ見てない」
スマホの画面を見せる。
映っていたのは、ただのトレンド欄。だけど、その異常さは内海にも分かったらしい。
「……怪獣の事、誰も騒いでない」
「あんな事があったのにふつー忘れる?」
「忘れるって言うか、これ……」
『なかった事にされている』。
それが正しいと思った。
元の学校。何もないように動く世間。
全てが異常だった。
キーンコーンカーンコーン。
チャイムの音が聞こえた。
気が付いて周りを見れば、生徒達は殆どいなかった。
三人もそれに気づいたようで、急いで学校へと入っていった。
席に座ると、周りを見る。
皆普通だった。
普通すぎて、自分が浮いているように感じた。
今まで自分が何となく感じていたものとは違う、『この世界そのもの』から浮いている感覚。
自分が記憶喪失になった時、周りはこんな感じだったのだろうか。
休み時間になる。
内海は他のクラスへ怪獣の事を聞きに行き、裕太はクラスの人達に色々と話を聞いている様子だった。
一人席につき、周りを見渡す。
転入して数日。
これが日常かは分からないけれど、得体の知れない恐怖感が襲って来た。
窓の外を見た。
転入初日に見えたあの怪獣はもう見えない。
怪獣が出現するのはあれで終わりなのだろうか。
グリッドマンの言う『危機』というのがあの怪獣ならば。
これからもまた現れる、という事なのだろうか。
どれだけ考えても答えは出ない事は分かっていた。
心地よかった『退屈』は、もう過去の物になりつつあった。
「裕太、渚。他のクラスの奴らにも聞いて来たんだけど、誰も怪獣の事を覚えてなかった。さっき渚が言った通り、SNSも動画サイトも、テレビも何もなかったかのように報道してる」
「俺もクラスで聞いてみたんだけど、誰も怪獣の事を覚えてなかった」
「なんでそんな事になってんの?」
六花さんも気になったようで、話に入ってくる。
「分からねぇ。町どころか、記憶自体リセットされてるみたいになってる」
「それは僕も感じてた。怪獣の事もそうだけど、出現したという事自体が無くなってる」
「それにさ、なんかクラスの机の数が少なくなってる」
「何その怖い話」
クラスを見渡す。
まだ転入したばかりの僕には分からなかったが、裕太と六花さんは机の数を数えて驚いていた。
「あれ……本当だ。問川とかといこ達の席が無くなってる」
「問川……とい、誰?」
「昨日ボールで遊んでた」
「あぁ、あの」
パンを潰したあの女の子達か。
そういえば今日見ていない気がする。
六花さんが、近づいて来た女子に話かけている。
話を聞いていると、その二人の事を『誰?』と返していた。
チャイムが鳴り、先生が入ってくる。
皆が元の席へと戻り、授業が再び始まる。
誰も人が少なくなった教室に違和感を抱いていない。
世界そのものが、彼女達を消していた。