SSSS.GRIDMAN 始まりの声 作:アレクシス同盟
玄関で靴を脱ぎ、家へと上がる。
その辺にカバンを投げ捨て、二階へと上がる。
大きく広い家の中には、彼女一人しかいなかった。
自室の扉を開けると、体力のゴミ袋が入り口から漏れだして撫でれ込むように外へと溢れる。
電気をつける。
部屋の中には体力のショーケースが置かれ、その中には様々な種類の怪獣達のフィギュアが置かれていた。
足で無理やり押し込むとゴミ袋の上を通る。
タイツを脱ぎその辺に放り投げると、いつも通りPCの前へと移動した。
二つあるPCの内、右側のPCは彼女がいない間も光輝いており、電源が入ったままだった。
ヒビの入った眼鏡を手に取る。
いつも彼女が家にいる時に掴う眼鏡だった。
イスに座り、ヘッドホンを身に着ける。
「ただいまアレクシス」
肘を付きながらモニターを見つめる。
学校で見せるような笑顔ではなく、疲れたような、鋭い視線をPCに落としていた。
『やあおかえり、アカネくん。また何か嫌な事があったんだねぇ』
モニターに映る、黒い人型の生命体。
顔だけを映し、表情も変わる事のない謎の人物に、彼女は友達と話すように語りかけた。
「……でも収穫もあったよ」
『うん? なんだい?』
「お客様の事。グリッドマンっていうらしいよ」
『ほお、グリッドマン』
青く四角い歯が点滅する。
お客様、それは前の怪獣騒ぎで現れた正義のヒーロー。
アレクシスは彼の事を『お客様』と呼んでいた。
「うん。しかも、記憶が消えてなかった子が四……いや、あの子はどうなんだろ。とりあえず、三人いるっぽい」
『ほお、興味深いねぇ』
「でしょ?」
何か新しいおもちゃを見つけたように、新城アカネは笑みを浮かべた。
誰もが見惚れる可愛い笑み。
アレクシスは不思議そうに聞き返した。
『四人といいかけていなかったかい?』
「あー……それはなんというか、その子達と仲が良い子、というか……よく分かんないんだよね」
転入生として突如現れた男の子。
この世界では、彼のような人は珍しかった。
「昨日転入してきたばかりの子なんだけど、不思議だよね~。この世界に転入生なんているんだって思って」
『確かにねぇ。珍しい事もあるものだ』
「今日少し話したんだけどね、普通の子だったよ。なんか記憶喪失らしいけど、その辺にいる子って感じ。今日はあの三人と一緒に居ないみたいだったし、無関係なのかも」
廊下で一人だったのを覚えている。
あの三人が話していた「グリッドマン」という言葉に、彼は関係ないのかもしれないとアカネは考えていた。
それよりも大事なことが彼女にはあった。
昨日怪獣を作り出した理由がそれだった。
タブレットを開くと、ドローンを飛ばす。
飛んだ先は、一件の中華料理屋。
窓の外から中を覗くと、一つの写真が飾ってあるのが見えた。
ニンマリと笑みを浮かべると、机を叩いてはしゃいだ。
学校にいる時よりも、年相応の姿があった。
「よっし、よっしっ! 死んだぁっ!」
『いや~ハッハッ、良かったねぇ~』
ガッツポーズで喜ぶ。机がガタッと揺れた。
その写真は、先日ボールを飛ばしてきたクラスメイトの少女の写真だった。
つい先日まで一緒にいたというのに、彼女が死んだ事を心の底から喜んでいる様子だった。
気分良く椅子に座り直すと、傍にあったカッターナイフと工具、そして色々な道具を机に並べた。
鼻歌を歌いながら、楽しそうに準備をしていく。
「人様に迷惑をかける人達なんて、死んじゃえばいいよね」
『その通りさ。アカネくんは素晴らしい考えを持っていると思うよ』
骨組みを立てると、表面に元となる粘土を付けていく。
カッターナイフなどを駆使して、形を自分の思う通りに作り上げていった。
恐ろしく、そして不気味で……そして、全てを破壊する存在。
『それは怪獣かい? 何に使うんだい?』
「うちの担任、殺そっかなって思って」
楽しそうな声で口から出た言葉は、とても物騒な事だった。
ほお、とアレクシスが相槌する。
「人にぶつかっといて謝らないのは、非常識だよ」
『良くないねぇ~』
確かに非常識かもしれない。
その考えはどう考えても行きすぎだった。
しかし、この場に彼女を止める者はいない。
アレクシスは止める事をせず、ただ彼女に同調するだけだった。
「…………」
怪獣を作る手が止まる。
その後に思い浮かんだのは、さっきの話にも出た転入生だった。
地味で目立たない、どこにでもいるような普通の少年。
自分がこぼしたジュースを拭いてくれただけはなく、一緒に先生の不満を語ってくれたあの子。
彼女が怪獣が好きだと言うことを知らず、自分に媚びるために言った嘘ではなく、本心からそう思っているであろうあの怪獣への熱意。
普段なら記憶にも残らない。
優しくされて、ちやほやされるのはこの世界なら当たり前。
ただの普通の、クラスメイト。
趣味が同じだからと言って、興味が沸くわけでもない。
確かにインペライザーはカッコいいけれど。
無機質で、全てを破壊し蹂躙する兵器。
もし現実に存在したら、全てを滅ぼしてくれるだろう。
……それでも、私以外はどうでもいい、筈。
それなのに。
どうしてか彼の事が記憶に残った。
『どうしたんだい?』
「……ううん。何でもない」
この世界で同じ趣味を持つ人を始めて見つけたからだろうか。
些細な事だ。
その事など直ぐに忘れ、怪獣の制作へと戻っていった。
『…………』
画面に映る黒い影。
白く揺れる炎のような物を出しながら、紫色の空間に佇むアレクシスは、静かにその様子を見つめていた。
そして、数時間後。
怪獣が完成した。
机の上には、色のついていない粘土で出来た怪獣が立っている。
真ん中に穴のような凹みがあり、岩のような肌が穴を中心として広がっている、二足歩行の怪獣。
完成した怪獣を見ると、カッターを閉まって手を伸ばした。
彼女の大きな胸が、その伸びに合わせて広がっていた。
「見て! 新作!」
その怪獣は、棚に飾られていたどの怪獣にも当てはまらない物だった。
『いいねぇ、素晴らしい!』
「じゃあ、よろしくぅ~」
彼女の言葉に、アレクシスは軽く返事をした。
友達の頼みを聞くような、そんな感じで。
彼女の創作物に命が吹き込まれた。
『インスタンス・アブリアクション!』
世界が揺れた。
作り出したフィギュアが光輝き、大きな災害となって町へと降臨した。
その様子を、新城アカネがドローン越しにワクワクした様子で見守っていた。
自分の怪獣がこの世界を壊す所を。
そして自分の担任が、自分の怪獣によって殺される所を。