目が覚めたら、『まどマギ』の美樹さやかの姉だった・・・ 作:黒い魔女
『魔法少女まどか⭐︎マギカ』とは、願いと引き換えに魔法の力を得た少女たちが、過酷な運命に向き合う物語である。
一見すると、特別な力を手にした少女たちが人々を守る作品に見える。だけど物語が進むにつれて、その力を与える仕組みの正体や、願いに伴う代償が明らかになっていく。少女たちは、自分の願いが本当に誰かを幸せにしたのか、他人のために自分を犠牲にすることは正しいのかという問題に直面することになるのだ。
物語の中心にあるのは、ある少女を救うために、何度失敗しても運命へ挑み続ける一人の少女の執念。その想いはやがて世界のあり方そのものを変えるほど大きくなり、二人は人間の枠を超えた存在になっていく。一方はすべての人を救おうとし、もう一方はたった一人を救おうとする。どちらも愛情から生まれた選択だけれど、その救い方は互いに相容れない。
TVシリーズが描いたのは、鹿目まどかという一人の少女が、すべての魔法少女を救うために自分自身を差し出す、完成されたビターエンドだった。『叛逆の物語』は、その結末に矛盾を突きつける。 暁美ほむらが鹿目まどかの意思をも無視した自らが望む世界を作り出す。これは大団円とは言い難いが、ハッピーエンドと呼んで問題ない類のものだと思う。
だが、次作『ワルプルギスの廻天』では無理やりハッピーエンドを作り出したことによる歪が表面化する。救済とは何か、という壮大なテーマの裏に、二人の少女のエゴの押し付け合いが続いていく。色んな捉え方ができる物語だとは思うが、この妙な寂寥感はまどマギらしい、と言っていいだろう。
全編見た感想としては、ハッピーエンドとは言えないけれど、物語として見るならとても完成度が高く素晴らしい、だろうか。
こういうのもいいよね。むしろ好み。
久しぶりに良いものを見れたと思う。
だけど、何でだろうな。あんまりいい気分じゃないんだ。
魔法少女が魔女になる、とか・・・物語の中の話なのに全然他人事に思えなくて・・・。
「―――えちゃん!」
ていうか、身体が凄くだるい。何だこれ。
「―――きて!」
誰かが私のことを呼んでる。いや、誰かじゃない。聞きなれた、私の可愛い妹の声・・・。
「すがめお姉ちゃん!起きてよ!」
「ううん・・・」
「やっと起きたー!!」
私はどうやら夢を見ていたらしい。
目を開けると、視界一杯に広がるのは青色だ。私の身体にまたがって顔を近づける妹、さやかが居た。
ん?
「さやか・・・私どうしたんだっけ」
「お姉ちゃん部屋で倒れてたんだよ!?びっくりしちゃったけど、眠ってるだけみたいだからベッドで寝かしてれば問題ない、ってお母さんが・・・」
「そっか・・・」
寝る前の記憶を思い出す。
確か、魔法の実験をしようとしたんだっけ。
それで魔力を使いすぎて倒れたのかな。
「起こしてくれてありがとうね。ちょっと体調がすぐれないから、今日は中学校休むってお母さんに言ってもらえる?朝ごはんももうちょっとしてから食べるよ」
「え・・・大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫。休めば元気になるよ」
「・・・分かった!しっかり休んでね!行ってきます!」
「いってらっしゃい」
妹は小学4年生。一年生のころにできた友達二人とよく遊んでいる。私はだいぶ歳が離れてるが、時々遊んであげることがある。二人ともいい子だが、特にさやかが仲のいい鹿目まどか、という子が可愛くて・・・。
あれ?
マンションの一室、二つのベッドがある全体的に青い部屋。
私とさやかが寝ている部屋だ。
リビングで両親とさやかが話している音を聞きながら、私一人だけになった部屋でだるさの原因を取り出す。
金色の装飾が付いた宝石。私のソウルジェムだ。本来なら深い藍色に輝いているはずのそれは、どす黒く濁っていた。
―――ああ。
いろいろ察したよね。
取り合えずグリーフシードを取り出そうと宙に扉を出現させて、その中に手を突っ込むが・・・ない。
あれだけあったのに・・・!?
ハッ、もしかして昨日の実験で全部使っちゃった?
調子に乗って次から次へとグリーフシードを使っちゃった記憶がある。
けどまさか全部使ってしまっているとは・・・。
血の気が引く。
やばいじゃん。
私の推測が正しいならば、このままだと私が魔女になってしまう・・・!?
慌てて窓を開け、だるい体を引きずりながらベランダから飛び降りる。
スタッと地面に着地すると、私は魔法少女に変身した。
上衣はノースリーブのハイネック。下衣は足首まで届くロングスカート。白い生地に、ソウルジェムと同じ藍色の幾何学模様が入っている。
同じ配色の肘まであるロンググローブを身に着け、腰回りには何本かのベルトが巻かれ、金色の鍵が無数にぶらさがっている。
へそのあたりには、ベルトをまとめるように扉のような額縁に入れられたソウルジェムがくっ付いていた。
うん。よく馴染む、いつもの魔法少女姿だ。
魔女の反応を探すと、運よく見つけることができた。
朝だから活発じゃないかと思ったけど、月曜の朝だし、憂鬱になる人も多いよね。
私もそうだ。
ちょっと理由は違うけど。
距離は二キロくらい離れてると思うけど、魔法少女にとっては大した距離じゃない。人目につかないように気を付けながら、今の身体で出せる全速力で魔女のもとに向かう。
「やあすがめ。ずいぶん焦っているようだけど、昨日の実験は上手くいったのかい?」
移動していると、並走する形でひょこっと現れたのはキュゥべえだ。
いやーな奴が出てきたな。これまではそこまで嫌悪感を抱いていたわけじゃないけど、今となってはコイツは敵だ。
けど、それを悟られるわけにはいかない。
「まあ上々ってとこかな」
「そうかい。君の固有魔法を応用して、第四の壁という概念を突破することで物語の中に入れるかもしれない、という内容だったね。魔力をずいぶんと消費したようだけど、成功したのかい?」
「そんなとこ!物語の内容をさっきまで夢で見てたよ」
ただし、それは私が想定していたものとは違っていた。
私は、漫画やアニメといった物語の中の世界に入れたり、登場人物とおしゃべりが出来たり、といったことを想定していた。
誰だって一度は思いつくような、そんな些細な夢。
けど自分に魔法の力があって、実現できるかもと思っちゃったらやるよね?
だから私がやっちゃったのは仕方のないことなのだ。
ちょっと後先考えなさ過ぎたな、とは思うけどね。
話してるうちに魔女の結界に着いた。
すぐに飛び込むと、結界の奥に魔女がいるのを探知する。
「かなり強力な力を持った魔女のようだね」
「それでいいよ!」
結構強い・・・けど、逆に好都合。
高確率でグリーフシードを落としてくれるからね。
わらわらと群がってくる使い魔どもを避けながら、私は自分の固有魔法を使う。
いつもだったら使い魔を殲滅してから向かうところだけど、魔力に余裕がない今ちまちま相手していられない・・・!
私の目の前に扉が現れる。
あんまこだわってる暇はなかったから質素な感じだけど、しっかりと魔法の力を備えた夢の扉だ。
ドアノブに手をかけ扉をくぐると、そこは結界の最奥。
クレヨンで描かれたような不気味な空間の中央に鎮座するのは魔女だ。
できれば楽しくやりたい・・・けど今は、グリーフシード優先だ。
扉の縁取りを掴むと、扉はガチャガチャと音を立てて変形する。
四角い縁取りは一直線に伸び、マジカルな装飾がつけられたことで私の身長の二倍はある巨大な剣となる。蝶番だった部分が剣に凹凸を作り出し、斬られたら結構痛そう。
自分が斬られたことないからわかんないけどさ。
『ウキュキュキュキューーー!!』
奇妙な鳴き声を上げながら襲い掛かってくる魔女の攻撃を掻い潜り、懐に潜り込んでから一閃。
数拍遅れて、魔女は真っ二つになった。
結界が崩壊するのを見届けてから、落ちてくるグリーフシードを掴みホッと息を吐く。
自分のソウルジェムにグリーフシードをくっつけると、穢れが浄化されていくと同時に身体のだるさも取れてきた。
「そのグリーフシードはもう使えなさそうだね。僕が回収するよ」
キュゥべえのセリフにグリーフシードを見ると、先ほどまでの私のソウルジェムのようにどす黒く濁っていた。
確かにもう無理そうだ。
「はい」
キュゥべえの背中にグリーフシードを突っ込むと、あらためて安堵感が押し寄せてきた。
グリーフシード一個を完全に使い切るくらい濁ってたのか私。
私が結構強い部類の魔法少女であることを加味しても、マジで魔力が限界だったらしい。
危なかったぁ・・・。
「無事で何よりだよすがめ。もう少しでソウルジェムが濁り切るところだった」
どの口で・・・。
と言いたいが、落ち着いた頭で情報を整理する方が優先だ。
私の名前は美樹すがめ。
中学三年生で14歳だ。もう少しで15歳になる。
両親と妹が一人の四人家族。
そして、中一の時に契約したベテラン魔法少女である。
昨晩私は、自分の固有魔法の探求の一環として第四の壁という概念を突破できないか試したのだ。
それは結果的に成功した。
ただし、私が舞台の中に入るという形ではなく、私が暮らすこの世界が既に舞台だった、と気づかされる形で。
私は一時的にこの世界を抜け、『魔法少女まどか☆マギカ』という舞台を読者目線で体感することになった。
それが先ほどまで見ていた、夢の内容・・・。
こんなことがあっていいのかと叫びたいが、もちろん誰にも言えるわけがない。
私の魔法が作った創作という可能性もあるが、それにしては妙な具体性があったし・・・それに、なんとなく分かるのだ。
私は先ほどまで、この世界を超えていた、ってことがね。
ただの魔法少女にそこまでのことができるかという疑問はあるが、私が貯蔵していたグリーフシードは百個以上あったし、それらすべてを消費して行使した魔法の結果が、世界を超えたとしても上の世界に干渉することはできず、本来の目的である物語への介入まで届かず、ただ閲覧するだけに留まったとすれば、採算は合う気がする。
介入に関しては、私がもともとこの世界の住人である以上叶えられたも同然だしね。
いろいろ不明瞭なまま、膨大な魔力で無理やり魔法を行使しようとしたせいで発生したバグ、と考えれば説明できないこともない。
じゃあ今後どうするかって話なんだけど。
さやかが魔法少女になって失恋して魔女になって死ぬ?
そんな物語、求めてない。
当然だよね。
私が、私がさやかを守って見せる。
友達のまどかちゃんだって、未来の後輩たる巴マミ、佐倉杏子、暁美ほむらだって同じだ。
私がなんとかして見せる!
そう決意して変身を解除した私は、携帯が鳴っているのに気づいた。
やば、お母さんだ。
「もしもし・・・」
『ちょっとすがめ!体調悪いって言ってたのにどこに行ったの!?制服も家に置きっぱなしで・・・早く帰ってきなさい!!』
「ごめん今から帰ります!」
回復した魔力で家までの扉を形作ると、私は即座に飛び込んだ。