目が覚めたら、『まどマギ』の美樹さやかの姉だった… 作:黒い魔女
高校受験があると言ったね。
確かにある。
けど、さらに差し迫った問題が一つ。
部活だ。
「美樹さん、体調は大丈夫?最後の中体連まで、もう少ししかないのよ。体調管理にはくれぐれも気を付けてちょうだい」
「はい・・・すいません」
顧問の先生に心配と、お小言をいただいた。
私が契約したのは、中学一年生の春。というか、登校二日目なんだけど。
魔法少女として戦う宿命を背負った私は、扉という固有魔法と武器で魔女に戦いを挑んだ。
そして扉の角でガスガスと魔女を叩きながら泥臭く戦い、かろうじて勝利するという初戦を経て、このままじゃダメだという結論に至った。
毎回こんなことしてたら、普通に死んでしまう、ってね。
今にして思えば、初戦で魔女を倒せたのは割と上出来な方ではあるのだ。
大半の魔法少女は、契約して願いを叶えた後、初戦でその命を散らす。
いきなり殺し合いの世界に身を置くわけだから、それも当然だ。
幾度となく魔女退治を成功させて、経験を積んでいくことで戦闘にも慣れが生じていく。
大体半年くらい生き残れば、街中で魔女や使い魔、他の魔法少女を見かけた時に脳みそがシームレスに殺し合いモードに移行するようになるよ。
少なくとも、私はそうだった。
ま、さやかは初戦でカッコよく魔女を倒してたけどね。
相性もあるとは思うけど、流石さやかだ。私の妹最強かも・・・?
冗談はさておき、このままじゃダメだと思った私は剣道部に入ることにしたのだ。
理由?
なんか戦いが強くなりそうだから。
まあ実際、魔女との戦いに活かせる部分もあったよ。
特に剣はそうだ。
剣道での剣の振り方と、魔法少女としての剣の振り方は全く違うけど・・・それでも、基本となる部分は一緒だ。
力の抜き方、手首の使い方とかね。
それと、純粋に素の体力を向上させてた方が魔法少女になっても強いし。
大半の魔女は、特殊能力というより異形による物理攻撃が主体なのでゴリラ力があれば大抵のことは何とかなる。
というかあって困ることがないし。
あとはまあ、心構えとかもかな。
苦しい練習を乗り越えることで、魔女との戦いの辛さを乗り越えてこられたのかもしれないね。
まあそんなこんなで、かれこれ2年以上続けてきたわけだけど。
ついに最後の大会が迫っているのだ。
勉強も大事だけど、こっちも大事。
やるからには大会出場メンバーに選ばれたい・・・なーんてことはないんだけどさ。
私は、大会とかに出る気はない。
魔法少女との兼ね合いで忙しいのもあるが、理由はもっと別にある。
魔法少女である私が、一般人の試合の場に入り込むのは不公平だからだ。
私たち魔法少女は、魔力で身体能力を強化できる。単純に膂力や強度だけにとどまらず、視力や聴力といった五感もその対象だ。動体視力とかもそうだね。
魔女との戦いでは必須なんだけど、それを一般人相手に向ければどうなるか?
当然、一方的な蹂躙になる。
魔法少女もピンキリではあるけれど、単独で魔女を討伐できるような魔法少女ならば、大の男でも赤子の手をひねるように制圧できてしまうだろう。
人並み以上に素質があって戦闘のセンスもあるような、いわゆるベテランと呼ばれる領域になるとその差はもっと広がっていく。
まあつまり、間違ってもただの中学生相手に使う力じゃないってことだ。
使わなければいいじゃんと思うかもしれないが、ある程度魔力に慣れると無意識に身体を強化してしまう。
変身しなくても、マンションから飛び降りるくらいは平気なのはそういう理由だ。
最初は大会だって嬉々として出ていたけれど、簡単に負かした相手の努力量を知って自分が恥ずかしくなった。
完膚なきまでに負かしてしまった相手の、その努力に対して何か極めて不誠実なことをしている気になった。
だから、部活自体には本気で取り組むけど、大会とかそういうのには出たくないんだ。
他人の一度きりしかないような機会をズルをしている私が潰すようなマネはしたくないし、かと言って手加減するなんて相手を侮辱しているようなマネはもっとしたくない。
「すがめ、あんたなら絶対団体戦のメンバーに選ばれるよね~!女子は副部長が大将やるとして・・・すがめは先鋒?それとも副将かな!?」
「美樹先輩なら、絶対勝てますよ!私、応援してますから!」
「男子も負けねぇからな!?どっちが上まで進めるか勝負だな」
「美樹さん、あなたはこの見滝原中学剣道部でもひと際優秀な部員です。期待していますよ」
「いや、私、出たく・・・はぁ」
でも、仲のいい友達の信頼も、可愛い後輩からの応援も、部活の仲間との絆も、いつも気にかけてくれる先生の期待だって、裏切りたいわけじゃないんだよ。
出来ることなら、団体戦のメンバーとして皆と一緒に勝ち抜きたい。
二年生の大会で例の子に勝って以来、私は何かと理由をつけて公式戦を避けてきたけど・・・中学最後の大会まで逃げるってのは出来そうもないね。
見知らぬ他人より、身近な人を優先する。
いつもの私ならそうする。
だから、そんなに気にせず出ちゃえばいいとは思うんだけどさ。
でも、私のやってることを私自身に突きつけるきっかけになったあの子の涙と視線は、今でもときどき頭をよぎる。
大事な仲間と自分の後悔。
その二つの間で板挟みになりながら、どうするかを決められずに今日も黙々と稽古をする。
でも、仕方がないでしょ?
人間は間違える生き物だ。だから失敗することは仕方がないけれど、一度してしまった失敗をもう一度繰り返したらそれはもう愚か者だろう。
私は、愚か者にはなりたくない。
『自分』を押し通して仲間が離れていくことも、あの涙を前に後ろめたさを感じることも、二度としたくはないんだよ。
「お互いに―――礼!」
「「「ありがとうございました!」」」
稽古終わり、先生から連絡があった。
「来週の土曜に、風見野中との合同稽古があります。練習試合もあるので、その内容を大会メンバー選考の際の判断材料の一つとします。三年生の皆さんは、頑張ってくださいね」
風見野かぁ。
『まどマギ』では、佐倉杏子の縄張りとしてしか出てこない場所だ。
実際に出てくるのなんて杏子の生家である教会だけだし、名前の印象でなんとなく覚えてるってだけの場所。
けど私にとっては、一年ほど前に方向性の違いで仲違いした魔法少女のチームメイトの縄張りだ。
そして、例の私が負かしてしまった子―――真壁つるぎが所属する学校でもあるのだ。
悩みが増えるなぁ。
お気楽に生きたいよホント。
悩みを忘れるためには、可愛い妹との交流が不可欠だ。
夕方、部活が終わって家に帰ると、さやかが頬を膨らませて待っていた。
「お姉ちゃん!遅いよ!今日はわたしと遊ぶって約束だったじゃん!」
「そうだっけ?ごめんね」
今朝そんな会話をしたようなしないような。
私は朝が弱いので、起きた直後に何を喋ったかはよく覚えていない。
さやかは早起きなので、いつも起こしてもらっているのだ。
妹の声が目覚ましがわりなんて、私なんて贅沢なんだろう。
「このゲームしよ!はーやーくー!」
「もう晩御飯の時間だよ。ご飯を食べ終わってからにしよう。寝るまでの時間、ずっと遊んであげるからさ」
「えー、今したい」
「ダーメ。今食べないとお姉ちゃんが全部食べちゃうぞー?」
「それはやだ!お母さん!早くご飯持ってきて!」
皆でいただきますをして、小さな口を忙しなく動かしながら晩御飯を詰め込むさやか。
少し強情なところはあるけど、やっぱり素直な子ではあるのだ。
自分が正しいと思ったことを素直に飲み込み過ぎて、それを簡単に曲げようとしないから他人とよく揉める。
実際、『まどマギ』ではそれが仇となり魔女となってしまったんだったね。
けど、私はそれを直すべき欠点とまでは思っていない。
嫌な話だけど、小さな失敗や絶望を積み重ねて現実を知り、理想と現実の自分の乖離は小さくなっていく。
理想が下がっていくのもあるけど、今を生きる自分だって少しづつでも成長していき、いつかその差が0になるのだ。
私だってまだ自分が自分にとって理想的な人間だとは思ってないけど、魔法少女を始めたばかりの時よりはうだうだと悩むことが少なくなった気が・・・する?
今うだうだ悩んでる私が言っても説得力ないかもしれないね。
まあでも、必要なのは時間だよ。どんなに絶望しても、生きてくしかないっていう時間。それを使って自分と向き合うことができれば、大概の絶望は乗り越えられると思う。
そのために必要な時間は人それぞれだけどね。
杏子とかは短いタイプだろう。多分私もそうだ。
「おかわりしよっと」
「あ!わたしもおかわりー!」
ま、内心でうだうだ考えるのもいいけど、今は家族との時間を楽しまなきゃな。
一生懸命ご飯をほおばるさやかに負けないよう、私も新たにご飯をよそう。
部活で疲れてるし、魔法少女は飢えだって魔法でどうにかできるとはいえ、胃に何も入っていないって状況がすでにストレスだし。
感覚遮断は戦いのとき以外にやると人間味を失いかねないから、人間として生活できるときはその通りの生活を心がけよう。
お腹いっぱい食べたら、ごちそうさまをして片づけをする。
お母さんに言われ風呂に入ったさやか。やたら上機嫌なようで鼻歌まで聞こえてくる。
台所で皿洗いをしながら、それを聞いているとお母さんが話しかけてきた。
「もう、あんな約束しちゃって大丈夫なの?勉強は?部活の方もあと少しでしょう」
「大丈夫だって・・・。勉強は明日からやる。部活の方はまあなんとかなるでしょ・・・」
「高校はもう決めたの?そろそろ決めないといけないわよ。できれば家から通える場所にしてほしいけど・・・」
「まだだけど・・・どうして?」
「あのね。お父さん、まだ海外から帰って来られないみたいなの。それで、お母さんも向こうに行って生活を手伝ったほうがいい、ってことになってて・・・。すがめが高校に入ったら、しばらく家のことは友達の家政婦さんにお願いすることになりそうなの」
「そっか。どれくらいになりそうなの?」
「あと数年、って聞いてるわ。もしかしたら、すがめが高校を卒業するまでに帰ってこられないかもしれないわね・・・。もちろん、ちょこちょこ帰ってくるつもりではあるのよ?けど、すがめもしっかりしてるし、さやかもすがめの言うことはちゃんと聞くでしょう?お家のこと、頼んでいいかしら。それか、家族全員で海外に行くって案もあるけれど・・・」
「それは嫌かな。きっとさやかもそうだよ。・・・わかった。さやかのことは、任せて。旅行気分でお父さんと楽しんで来てよ」
「ごめんね」
いきなりだったけど、なんとなく納得がいった。
この人は『まどマギ』でさやかの異変に気づかなかったのではなく、気づけなかったのだ。
お母さんは厳しいけど、よく私たちのことを見てくれる良い人だ。
魔法少女のことを隠すのが大変なくらいにはね。
そんな人が、恋愛なんて女子中学生にありふれた悩みを、例え魔法少女なんてオカルトめいたものが関わっていたとしても気づけないなんておかしいと思ったんだ。
さて、それで、私はどうするべきだろうか。
未来を知ってしまった以上、さやかの傍を離れるなんてもってのほかだ。
少なくともこの家で一緒にいて、毎日様子を見てあげないといけない。
なら、答えは決まってる。
「私は家から通える高校に行くよ。二人がまだ帰ってこないなら、大学もそうする。さやかのこと放っておけないもんね」
「そう・・・?すがめがやりたいことがあるなら、全然そっちを優先してもらってもいいのよ?すがめはお姉ちゃんだけど、それ以前に私の娘よ。何だって応援するわ」
「やりたいことはあるけど、それは家から通っててもできるから大丈夫。将来のことは、まだわかんないけど・・・」
ありがたいけど、魔法少女のあれこれを知られるわけにはいかない。
この状況は、むしろ好都合だ。
悩みは増えたけど。
お母さんの目を気にせず動けるようになるし、扉があれば大抵のことはなんとかなるはず。
「お姉ちゃーん!タオルー!」
「はいはーい!じゃ、そういうことで」
お母さんとの話を切り上げると、さやかの元へタオルを届ける。
髪を乾かしてあげながら、今日一緒にやりたいことを楽しそうに話すさやかを眺める。
「9時には寝れるようにするんだよ」
「えー」
「あと二時間もあるよ。ほら、ちゃんと服を着る!」
「うん!早く遊ぼう!」
着替えるや否やリビングに走り出し、ゲーム機の用意をし始めるさやか。
もうちょっと女の子らしい遊びを・・・と思うけど、私もゲームは大好きだから何も言えないや。
特に小学校高学年くらいになると、そういう遊びが楽しくって仕方がないよね。
私もそうだった。
魔法少女になってからはあまりできていないけれど。
「あちゃー、負けちゃった」
とはいえ、こういうのは経験がものをいう。さやかが私に勝てるはずがないので、勝敗が対等になるようにある程度手加減をする。
でも、毎回・・・。
「あー!お姉ちゃんまたわざと負けたでしょ!」
「いやぁ、そんなことはないけど」
「した!わたし、手加減されるほうがやだからね。本気でやって!」
「本気でやったら泣いちゃうかもよー?」
「泣かないもん!絶対いつか勝つし!」
さやかは気づくんだよね。
そんなわざとらしく手加減しているつもりはないんだけどな。
そして、私にボロ負けして不貞腐れるまでがワンセットだ。
「むーーっ」
「ふふ、私に勝とうなんて4年くらい早いよ」
「それくらいすぐだよ!!」
「そのころには私はもっと強くなってるよ」
「むーーっ」
四年後か。私はそれまで、生きていられるかな。さやかは魔法少女にならず、平和に暮らせてるんだろうか。
きっとこれからの選択次第で、いろんな未来があるんだろう。
致命的な間違いをしないようにしないとね。
「そういえば、お姉ちゃん高校はどこに行くの?」
不貞腐れているかと思えば、急にケロッとした声で聞いてくる。
こういう切り替えの早さは私と似てる気がする。
「まだ決めてないよ。家から通えるところにはするつもりだけど」
「そうだよねー!良かった!遠くに行っちゃったら遊べなくなるもん!」
どうしようかな。
魔法少女をやってる手前、将来のことなんて考えられないのが実情だ。
けど、先のことを考えないといけないのも事実。
あー、めんどくさい。
悩みがどんどん増えてくこの感じを考えると、中学生以降の魔法少女が少なくなっていくのも納得だね。
さやかとだらだら話しながら、内容を変えながら二人で遊ぶ。
今日あったことを楽しそうに話すさやかは、やっぱり可愛い。
ずっとこうしていられればいいんだけど。
「お姉ちゃんは、剣道の大会出るよね?」
唐突に嫌な質問がきたなぁ。
「いや・・・どうかな。出ると決まったわけじゃないよ」
「嘘!絶対出れるよ!だってお姉ちゃん剣道好きだし、いつもすごく頑張ってるもんね!」
「・・・そうだね」
好きだからこそ、誠実でいたいだけなんだけどな。
「お姉ちゃんかっこいいもん!私も剣道やってみようかなー」
「・・・さやかは剣、似合うと思うよ」
それはもう、嫌になるくらいにね。
さやかと一緒に魔法少女として戦うのは、さぞかし楽しいだろうなぁ。
さやかを魔法少女になんてさせるわけないけどさ。
「じゃあ教えて!」
「ふふ、いいよ」
壁に立てかけてある私の竹刀を振ってみようとするさやかを、夜が遅いからと諫めつつ遊びを切り上げる。
楽しい時間は一瞬だ。
ぐずるさやかに、今度振り方を教えてあげる約束をした。
翌週の週末。
部員の皆と一緒に、バスに乗って風見野へ向かう。
一つ気がかりなことがある。
風見野の魔法少女・・・私のかつてのチームメイトである朝倉なずなに縄張りに入るという連絡を入れてたんだけど、一向に連絡がつかないんだ。
「・・・」
キュゥべえに確認すればすぐに何故かわかるだろう。
けど。
それでもし、なずなの死が確定してしまったら。
・・・やっぱり自分で確認しに行こう。
バスの屋上から、見滝原市の街を眺める。
だいたいの場所は魔女退治で駆けずり回ったけど・・・建物も新興都市らしく新しくでき続ける。
人も魔女も魔法少女も現れては消え、短い間に移ろっていく。
気づいたのは偶然だった。
いや、ずっと探してはいたんだけど。
広い三車線の道路、その反対側。
小さなコンパクトカーの、後部座席に座る黄色い髪の女の子。
間違いない。
マミ・・・!
思わず身を乗り出してしまう。
「ちょ、美樹さん!?」
周りが騒ぐがそんな場合じゃない。
どんどん離れていくその姿を強化した視力で捉え、確信する。
とりあえず、扉によるマーキングを施した。
私の扉は特定の個人のもとへは開かない。けど、魔女が狙った人間に魔女の口づけを施すように、私の魔力でマーキングして座標を捕捉し続ければ、いつでもその人物のそばに駆け付けられるようになるのだ。
ただしこれは結構難しくて、常に魔力を消費し続けるのでソウルジェムの穢れに気を遣わなくてはならないという難点もある。
マーキングした座標が動き続けるのが問題なんだよね。
にしても、車か。
もしかして、マミの契約するきっかけの交通事故って今日だったりする・・・?
考えすぎかな。
小さな扉を繋げて逐一監視して、なんとか阻止できればいいんだけど・・・。
「美樹さん、危ないから席に座りなさい!」
「・・・はい」
考えることが多い。
何を優先すべきだろうか・・・。
マミの契約を阻止するのなら、絶対にマミの近くに張り付いていた方がいい。
けど、なずなの状況も確認したい。剣道部での合同稽古はこの際どうでもいいけど、もしもなずながまだ生きていて、誰かの助けを求めているような状況だったら・・・?
マミの契約は今日とは限らない。
けど、なずなとの連絡が取れなくなったのは一昨日。魔女に手ひどくやられたとしたら、魔法少女でも生きていられるかはギリギリのラインだ。
・・・よし、決めた。マミの監視をしながら、風見野でなずなの魔力を探そう。
優先順位は、これで間違いないはずだ。
すがメモ
すがめは魔法少女として超上澄み。
魔女相手だと絶好調マミと同じくらい強く、マミ相手だと相性で普通に勝てるくらいには強い。
おまけに週5で夕方まで部活をやりながら、魔法少女も両立している。