夏にしては涼しい風がふく日だった。
「ねー夏油さま、これかわいい!」
「こっちもかわいい……です」
「うんうん、どっちも良いじゃないか。ほら、もっと見てきなよ」
「わーい!!」
文具屋「つがる」には、かわいらしいお客さんがやって来ていた。
「君が硝子と悟の言っていた色葉さんか」
ある日の店番の日、黒髪で長身の青年が店に来てそう言った。
両手には小さな女の子……恵くんより少し上の子っぽい……を連れて。
艶のある髪をお団子にまとめている彼は、夏油さんというらしい。
津美紀ちゃんが言っていた人だ。
両側にいるのは美々子ちゃんと菜々子ちゃん。ミミちゃんとナナちゃんはこの子たちだろう。
どうやら、津美紀ちゃんの家に行く前にうちに寄ったみたいだ。
「顔合わせと、なにか二人に手土産でもと思ってね。ここについては聞いていたし」
「ありがたいです。最近はあのお家に私もよく行っているので」
「絵が上手いんだよって津美紀ちゃんがきらきらしててね。良ければうちのミミナナとも仲良くしてもらえると助かるな」
「かわいらしい双子ちゃんですね〜」
美々子ちゃんと菜々子ちゃんはまとう雰囲気こそ違うものの、顔はそっくりだった。
ふたりともちょっとませていて、服や髪型に気を遣っているのがわかる。
女の子のきょうだいとなると、そこはよりこだわりが強くなりそうだと思った。
「それで、お土産は何か決まっている感じですか?」
「ふたりに選ばせようかと。おーい、津美紀ちゃんと恵くんも使うんだからねー」
「わかってますよぉ」
文房具といっても、専門的な画材なんかを除けば事務用品か子ども向けのたのしいお絵描きグッズなんかがほとんどだ。お土産も良いものが見つかると思う。
ミミナナちゃんは、色とりどりのペンの森や画用紙の反物を眺めたあと、特に鮮やかなあるコーナーに辿り着いていた。
色紙、折り紙コーナーだ。
「かわいいね、菜々子」
「うん、キラキラしてるね、美々子」
シンプルな一色のものから、和柄、花柄やどうぶつと、折り紙には様々な柄が印刷されている。
星座が蓄光するものや、ホロっぽく光るもの。台紙を剥がせばシールになるものと、遊び心が輝いている。
複数種入っているものも合わせると、柄の種類はそれこそ三桁に昇るだろう。
華やかな柄模様が、ふたりにはどれだけ宝の山に見えているか。
「折り紙、好きかな?」
「うん、好きー! あたしハート折るの得意なんだよ」
「クラスでね、お手紙回したりするの」
しゃがんで話しかけると、仲良く答えてくれた。
小学校で手紙を回す文化も、まだ途絶えていないらしい。ああいうのは、どこからか伝わっていくからなぁ。
「お姉ちゃんも折り紙好き〜。今日は一緒に津美紀ちゃんのところ行くんだ。よろしくね、色葉っていいます」
「あたし美々子!」
「菜々子……」
「気になる折り紙は見つかったかい」
夏油さんが棚を指差す。
いまの二人の身長だと、上の方は少し取るには高い。
配置を見直そうか心のメモにチェックしておいた。
ミミナナちゃんは、キョロキョロと棚全体を見渡す。
「これと〜、これ! あっちのも良いなぁ」
「これとか、良いと思い、ます」
「じゃあ買おうか、電子マネーって使えます?」
「はい、大丈夫ですよ〜」
二人が選んだ折り紙をカゴに入れると、夏油さんは爽やかに財布を出した。
私も、なにか合わせて持っていこうかな。
「では、商品をどうぞ」
*
「ちがうちがう、そこじゃなくて開くのはこっち!」
「えーこっち?」
「そっちは反対! もー、五条折り紙下手!」
「へたー」
「なんだよ! 折り紙がちいせーのが悪いの!」
「負け惜しみだ」
「負け惜しみですね」
そうして伏黒家に集まった私たちは、折り紙で遊び始めた。
ここまで回数を重ねると、もう勝手知ったるやつだ。
五条さんと夏油さんは、ミミナナちゃんにハートの折り方を教わっている
美々子ちゃんが特に教えたがりで、見本の彼女作のハートがいくつも散らばっている。
夏油さんは家でも作っているのか、すんなりとハートを完成させて、進まない五条さんの折り紙を眺めている。
「色葉ちゃん、好きな数字言って」
「んー、6」
菜々子ちゃんはそうそうに五条さんを放置して、私にかまい始めた。
両の人差し指と親指で操る「パックンチョ」で、占いをしてくれるらしい。
これも、私が小学生の時にもあった文化だ。流行って巡るものなんだなぁ。
いち、に……とパックンチョをパクパクさせていくと、結果が出る。
「色葉ちゃんの、今日のラッキーカラーは赤色!」
「おおー、じゃあ赤色で何か作ろっかな」
赤い、花柄模様の紙を手に取る。
といっても、私にはあまり折り紙のレパートリーというものが無かった。
パックンチョや、簡単な方のバラとか、王道なものばかりだ。
なんとなく手を動かして、方向性を決める。
女の子が多いし、手裏剣よりかわいいものがウケそう。
「え、なんか恵がすごいの作ってるんだけど」
「あ、ほんとだ。切り絵?」
五条さんが手元から顔をあげてそう言った。夏油さんの同意に、私も視線を向ける。
そこには、たくさんのどうぶつが切り絵のガーランド風に連なっていた。
折り紙を折って、鋏で切ることによる切り絵ガーランドやリースが量産されている。
シンプルながら、ひげや耳のぐあいにこだわりが見えた。
「そんなハサミうちにあったっけ」
「あ、私が渡しました。小学生用の小さいやつです」
今回、折り紙で遊ぶにあたり、あったほうが便利かなと小学生用の先が丸くて安全なハサミを用意させてもらった。
この家、ハサミは大人用のけっこう大きいやつしか無かったので。
グルーレス加工という、ノリやシールが付きにくい工作向きの刃を持っているし、持ち手が太めでフィットしやすい。
大人用ハサミは私が使っていた。
「そっちはそっちで量産してるし」
「つい簡単に作れるので……」
私は、折り紙を細長い帯状に切って作る立体の星を量産している。
指で押して形を整えると、丸っこいかわいい小さな星になるのだ。
何個もあったほうが小さくてかわいいので数を作っていたら、菜々子ちゃんと津美紀ちゃんがいつのまにか真似して作っていた。
作り方は教えていないけど、たぶん手元を観察して覚えたのだ。子どもの観察眼ってすごい。
「これね、箱の中にいれて梱包材にするとかわいいプレゼントボックスが作れるよ」
「いいなー! 美々子も作る!!」
「えっ俺のハートは」
「かってに作ってて!」
かわいそうに、五条さんが見捨てられた。女の子の損切りは早いのだ。
「か、簡単なのでこれなら五条さんも作れると思いますよ……」
「半笑いじゃねーか。良いもーん俺も恵と切り絵作るから」
「あ、ハサミどうぞ。こっちは手で切っても作れるんで」
「慣れてるねぇ」
さっき菜々子ちゃんに言ったみたいに、一時期梱包材として量産していた時があり、星の作り方はすっかり手に馴染んでいた。
紙一枚でお星様は四個くらい作れる。
ちまちまとした作業は幼いときはもっとやりやすかった。
津美紀ちゃんたちの手は、当時の私の手のサイズだったのだろう。
小さくて爪が短い指たちが並んでいる。
「この星、夏油さまの箱に入れたげるね!」
「こんぽーざいだから、本命はお楽しみ」
「ふふ、楽しみだね」
夏油さん曰く、この子たちは孤児になった所を夏油さんが保護したそう。
だから、さま付けが自然になってしまったそうだ。
この子たちもこの子たちで、苦労してきたんだろう。
でも、今星の海の中笑顔でいてくれていることに、私は外の人間ながらホッとしていた。
「これね、応用するとハートもできるよ」
「え!? 美々子そっちにする!」
「わたしも……」
「津美紀は星もっと作りたい!」
女の子に囲まれて、私は小さな星とハートを作り続けた。
帰る頃には、指先がすっかり疲れていたのだ。