今週の授業は殆どカリキュラムの説明であり、あっという間に土曜日の午後になっていた。
影浦さんに簿記について教えるのは今日の夕方から。
その前に風呂掃除のバイトの説明を受けに行かないと。
午前中の授業が終わって、怜と影浦さんに断って、先に帰ることを伝えると、バイトの説明を行なっている俺がいつも使っている大浴場とは別の浴場へと移動した。
既に俺以外にもバイト希望の男性陣が集まっていて、新人は6人ほど。
「あ、大きい人」
「あ、どうも」
度々大浴場に行くと出会っていた男にしては中性的な少年……同級生だから少年っていうのもあれだけど、俺が身長185センチ超えているのに対して、彼は身長155センチ程度で、俺とは30センチも身長差があった。
互いに裸を見ていたので、初対面ってことはないが、自己紹介をするのは初だ。
「俺は1年C組の森久保大翔。君は?」
「僕は1年E組の明智悟(あけち さとる)よろしく」
握手をするが、触れた瞬間に彼に魔法の才能があることが分かった。
俺を10とすると8くらいの才能であるが、結構魔法の才能がある方だ。
(こんなところにも原石が眠っているなんて)
人柄を知ってからになるけど、是非とも仲良くなって俺の仲間に組み込みたい。
そんなことを考えていると、2つ上……3年生の先輩からバイトについての説明が行われる。
朝の掃除でやることは浴槽や浴場の床掃除。
作業着は学校指定の水着。
洗剤とデッキブラシを使って、全体を擦ったら、水で全体を洗い流す。
それが終われば前日のリネン係が洗濯しておいたサウナマットをサウナ室に敷いて、風呂桶や椅子をブラシで磨いて並べる。
あとシャンプーとボディソープの補充をしてから、近くのボイラー室にいる係員に掃除完了を伝えれば完了となる。
流石にボイラーを管理している人は学生がやるわけにもいかないので、専属の係員が学校側から雇われているとのこと。
最初は先輩が付いて3人体制で掃除するが、慣れてきたら2人で掃除するようになるからとも伝えられた。
「早朝バイトだから新人がなかなか入ってこない。業者の人もいるけど、全部の大浴場を掃除するのは無理だから、俺達学生のバイトとなってる。一応慣れれば1人でもできる作業量だが、風邪を引いたり、体調不良で休む場合はパートナーの人に連絡を入れるように。あとバイト全体のグループチャットがあるからそこにも入ってくれ」
スマホで登録だけして、先輩が作業内容を実際の浴場を掃除しながら教えてくれる。
確かに頑張れば1人でもできなくは無いけど、1時間半という時間でやるには魔法を使わないと結構厳しいかも?
「じゃあグループ分けと場所決めをするが……」
俺と明智はいつも入っている自分達の寮に接続されている大浴場の掃除担当になった。
最初教えてくれる先輩も決まった。
人当たりの良さそうな人でよかった。
「じゃあ明智よろしくな」
「ああ、よろしく森久保!」
翌日から早速バイトが始まるので早く寝るようにって伝えられて解散となるのだった。
バイト説明が終わり、部屋の掃除をしたり、洗濯物を回して、洗濯し終えた物は乾燥の魔法で一気にふわふわ仕上げにしていく。
制服とかもクリーニングに出した様にシワ1つなくぴしっと決めて、クローゼットの中に入れておく。
そんな感じで部屋の整理をして、簿記関係の書類をネットから引っ張ってきて纏めていると、怜と影浦さんが部屋の前に到着。
「どうも~」
「お邪魔します」
「はいはい、どうぞどうぞ」
俺は2人を部屋の中に通すのだった。
「男の人の部屋……滅茶苦茶綺麗にされてる」
「そりゃ人が来るし、怜もよく来てるから他の男の一人暮らしの部屋よりは綺麗にしているよ。毎日掃除もしてるし」
「キレイ好きってこと?」
「いや? 人来るから綺麗にしているだけで、俺自身は結構ガサツだよ」
影浦さんとそんな話をしながら、早速簿記の勉強を始める。
と、言っても、簿記に必要な計算能力は、3級なら中学で習った範囲でなんとかなるし、最近だと会計ソフトを使えるようになれば、2級がなくてもなんとかなる。
実際俺と怜は2級の簿記の資格を持っているけど、使い道があるかって言われたら、高校生活では特に無いし……。
あ、この高専だと家計簿をつける時に楽かな。
それぐらいしか今は使わないけど……。
「簿記はまず参考書を読み込んで単語を覚えていくとこれから始めるから、1つ1つ覚えておこうか」
「はい!」
現金預金についてや小払現金とか色々単語があるが、まずは理解するところから。
公式じゃないけど、この勘定はこの計算をするってことを理解できれば簿記の計算はなんとかなる。
簿記3級で躓くのはどちらかと言うと文章問題。
〇〇口座から〇〇商社に〇〇円の手付金がーみたいなややこしい問題が出てくる。
あとは例題として実際の領収書を元に計算する問題があったり……。
俺は煮詰まってきた頃に魔法の練習として市販で売っている芳香剤を魔法で改良した物を取り出して、魔法の炎を灯す。
影浦さんは勉強に集中して気がついてないし、匂いもそんなにキツく無い。
頭をリラックスして学習効率を良くする芳香剤である。
魔法の力を使っているから量産はできないけど、効果は抜群で、ちょうど集中力が切れかかっていたところで頭をリフレッシュする。
俺と怜が交代で勉強を見て、途中から怜は夕食の準備に取り掛かり、影浦さんは2時間みっちり勉強をしたのだった。
「お疲れ〜影浦さん」
「つ、疲れました……でも滅茶苦茶頭に入ってきました。森久保君も八雲さんも教えるの上手ですね。何か教える経験が?」
「俺と怜も弟や妹に色々教えていたし、俺と怜同士も得意教科とかで教え合っていたからな。自然と教えるのを学んだんじゃないかな」
「なるほど」
あとは父さんの真似をしているのも大きい。
父さんも人に教えるのが得意だったから、それの真似をしていれば、ある程度教えるのも上手くなるって寸法だ。
「森久保君のお父さんも教えるのが上手なんですね」
「はい、じゃあ夕食にするから教材しまって〜」
怜は電子レンジに付いているオーブン機能を使って、大きな耐熱皿に肉とチーズを詰めたオーブン焼きを作っていた。
「北マケドニアで有名な郷土料理のクルシェヴォのグルネ……チーズと燻製肉の熱々土鍋オーブン焼きを作ってみました〜。燻製肉は挽肉で代用して、量をかさ増しするのに長芋を擦ったとろろを挽肉に混ぜて、そこにチーズを重ねることで、グラタンみたいな見た目になるね」
あんまり聞かない料理だけど、味付けは日本人に合うように、塩コショウと隠し味で醤油を少し混ぜているとのこと。
パンで食べるのもいいがご飯の気分なので、取り皿に切り分けて、食べていくと、流石怜が作った料理なだけあってめっちゃ美味しかった。
影浦さんも怜の料理に舌を巻いて、
「こんな料理が食べられるなら毎日通いたいです」
と、すっかり怜に胃袋をつかまれてしまうのだった。