中学入学から1週間後。
パシャリ
風呂場で、水を生み出すことを念頭に考えながら、湯船に浸かっていながら、手を掲げて魔力を流すと、手から水が溢れ出してきた。
「お、おお! 遂にできた!」
手から溢れ出す水を球体にするようにイメージするが、流石にそこまでは上手くいかずに、手からダラダラと水が流れ続ける。
勿論手を器の様に両手を合わせれば多少は水を溜めることができるが、水を生み出すことができるといえど、今できることは多少口を潤すか手や頭を洗った際の泡を洗い流すくらいしかできないが。
「お父さん、水を生み出すことできたよ!」
「おお、思ったよりも早かったな。和人と恵はどうだ?」
「まだできない」
「難しい……でも大兄がやれてたからイメージは掴んだかも」
実際、2人も数日以内には水を生み出す魔法を習得することができる。
「さて、大翔が先に進めたことだし、次の練習を始めよう」
するとお父さんは空の2リットルペットボトルを俺に渡してきた。
「水を生み出し続けるのだったら風呂を溜めて温めるで事足りけど、更に一歩進んだトレーニングをすると、ペットボトルの中に水を生み出して、それに味や色をつけてみろ」
お父さんによると、物質を挟んだ状態で内部に水を出現させる練習をすれば、空間魔法に対する感覚をつかむことができ、中の水の色や味を変化させることで、状態変化の魔法の感覚をつかむことができるらしい。
「とにかく最初は基礎から順番に覚えていこう。算数でも最初は足し算から始まって引き算、かけ算、割り算って進んだろ。それと一緒だ」
「うん!」
着実に進歩しているというのは成長を感じてすごく楽しい。
魔法を習うって言われて、最初は疑問が大きかったけど、どんどんできることが増えてくるとゲーム感覚で楽しくてしょうがない。
(おっと、お父さんは楽しむのは良いけど、調子に乗って多くの人にバレるようなことになれば、迫害を受けると思うって言われているし、鍛えるのは楽しいけど、落ち着かないと)
ふぅ……と、呼吸を整える。
ペットボトルの中に水で満たすイメージをするが、最初は上手くできない。
ペットボトルの周りをびちゃびちゃにするだけで、なかなか中に水が湧き出てくれない。
結構難しい。
「焦らなくていいから、ゆっくりやろう」
「はい!」
その後も練習を続けるのだった。
中学校では授業が始まり、まだ序盤ということもあって、小学校で習ったことの延長線。
新しい漢字を覚えたり、アルファベットを全種類書けるようにしたり、マイナスのかけ算について勉強したり……。
中学1年生で習う初歩も初歩。
でも魔法を覚えるのもそうだけど、新しく何かを覚える、できるようになるっていうのは楽しい。
小学校ではどれもそこそこにはできたけど、周りの雰囲気に流されて、何をやりたいとかの目標とかも無かったけど、魔法を使えるようになって、和人と一緒に異世界からの侵略者から日本を守るっていうのを考えるようになると、何でもできたほうが良い。
それこそ勉強や運動も。
魔法の練習を始めてから俺の中での意識が確実に変わってきている気がする。
それも良い方向に。
キーンコーンカーンコーン
「はぁ……終わった〜」
「んん~お疲れさん」
5時間目の授業が終わって八雲さんもお疲れ。
ただ今日の6時間目の授業はここから体育かつ、体力テストとなる。
普通に疲れる授業が続く。
「インドア派だから体育は苦手なんだけどな〜」
「頑張ろうぜ」
女子は更衣室に、男子は教室で着替える。
二次成長期が早い子もいるが、俺はまだ身長が伸びる気配が無い。
お父さん曰く、ハーフエルフだから普通の人間と成長期がズレることはあるかもしれないけど、20歳くらいには同じくらいになるから大丈夫だとも言われている。
自分の体を見るが、全体的に線が細くて、肉付きも悪い。
腹筋が割れているというより肉が無くてあばら骨が浮いている。
別に食事は食べていないわけじゃないんだけどなぁ……。
体操服に着替えてグラウンドに移動する。
女子も合流して体力テストを始めるが、初っ端から50メートル走。
しかも1人2本走るし、その後にうちの学校はシャトルランじゃなくて持久走になっている。
男子は1500メートルを走らされるので結構キツイ。
「よーい……どん!」
順番になり、50メートル走を走るけど、タイムは8秒8。
うちのクラスの男子の平均タイムが7秒9だったから1秒近く遅い。
そのまま持久走を走るが、7分20秒。
速い奴だと6分20秒とかで走りきっていたから、1分も差をつけられてしまった。
(あれ〜小学校では普通くらいだったんだけどなぁ……)
それもそのはず、俺の中学校は田舎の学区だから野生児がやたらと多い。
ゲームよりも空き地に集まってサッカーや野球をやっていたり、クラブチームに参加していた子が多かったので、小学校でのほほんと過ごしていた俺より運動量は彼らの方が多かった。
何なら50メートル走のタイムはインドア派って言っていた八雲さんに負けてるし……。
ちょっと恥ずかしいな。
(いやいや、魔法の練習しながら鍛え始めたんだ! これからぐんぐん伸ばす! 伸び代が高いって考えれば悪いことじゃないはず!)
気持ちを切り替えてポジティブに!
体力テストというイベントを終えていくのだった。
学校が終わって今日はちょっと寄り道。
中学校近くは田舎だけど多少は栄えている。
ハンバーガー屋やラーメン屋、文房具も売っている本屋と100円ショップが内包してある中規模のスーパーマーケット。
うちのお母さんもここのスーパーによく買い物に来るので、俺も小学生の頃からよく来ていた。
ただ今日はスーパーが目的ではなくて、本屋が目的。
高校を良い大学に進みやすい、進学校に通うなら、塾に行くのが手っ取り早い……というか普通なのだが、田舎に住んでいると、申し訳ないけど塾に通うのが距離的に難しい。
両親の財政的に塾に通いたいって言えば通わせてくれるだろうが、駅近くの塾に行くのに車で片道30分もかかる。
それでも行く価値があるなら行ったほうがいいかもしれないけど、お父さんは普通に中高生の勉強くらいなら教えてくれるし、お母さんも高校卒業して専業主婦やっているけど、中学生くらいの勉強は教えられるって言っていた。
なので、無理して塾に通わなくても良いかなって思いながらも、勉強はしないと学力は上がらないので、予習を兼ねて、本屋で英語と数学の自主学習用の教材を購入。
ついでに魔法について考えるためや、普通に流行っているからクラスの話題についていくために、漫画を購入。
「あ、森久保君!」
「八雲さんも寄り道?」
「うん!」
学校の帰りにたまたま八雲さんと本屋で再会した。
八雲さんはラブコメって言われている文庫の小説を数冊手に取ると、パラパラって軽く眺めてから購入を決めたらしい。
「森久保君は部活動するの?」
学校では今週から体験入部が始まっている。
俺は魔法の練習があるので直ぐに帰れる帰宅部をチョイスしようと思っていた。
「普通に帰宅部かなー、運動系に進もうとは思ってないんだよね」
「私はどうしようかな。文芸部が良いのが無かったから……図書委員とかになって図書室の本でも漁ろうかな」
「それはそれで楽しいかもね」
そんな話をしながら、八雲さんはレジに向かったのを見て、彼女が買ったラブコメの文庫本をせっかくだからと俺も1冊購入するのだった。