私の名前はザンダー・カイタ・クワバラ、どうぞ気軽にザンタクとお呼び下さい 作:ザンダー・カイタ・クワバラ
貴方がたの来訪を心から歓迎いたします。
さて、何処から話したものでしょうか。
そうですね……私のオリジナルがあの
あの
アキヴィリが殞落するのは予想外でしたがね。
言い遅れましたが貴方がたの基準でいうVer.4.4迄のネタバレを含んでおります、ご注意を。
え? タイトルの時点で既にガッツリネタバレしているだろうと?
それに関しては私の不徳の致すところです、本当に申し訳ありません。
今こうして私が貴方がたの物語に対する体験を損ねる事でさえ
つまり全ての既知に関しての責任は全て知恵の星神に帰属します。
よって私に罪はありません。
フフフ……失礼、ジョークですよ。
いくら望んでいなかったとはいえ、アレを産み出ししまったのは私です。子の責任を取るのは親の責務。
故に此処に誓いましょう。
私は必ず贖罪を果たすと。
・星穹列車 倉庫
その日は姫子にとって何でもない一日となるハズであった。新調したコーヒーマシンを使う前に、古いコーヒーマシンや幾つかの器具を梱包して倉庫へ仕舞いに向かった先で彼と出会わなければ。
いや、仮に今日此処に来なかったとしても何時かは出会っていたのだから時間の問題でしか無かったのだろう。そう、これもまた運命の一部。
「初めまして、そして就任おめでとうございます新たなナビゲーター殿。私の名はザンダー・
「あ……はぁ、どうも」
素子との涙無しには語れない別れを告げ星穹列車で宇宙へと旅立ってから早数ヶ月。
1人と車掌一匹(?)で過ごす事にも慣れ始めていた姫子も何れは銀河の何処かで新しい乗客と出会うのだろうと想像していたが、その相手が既に列車内部に居たとは予想外であった。
警戒心強めで少し引き気味に返事をした。
まあ仕方ない事だ。
倉庫の隅に放置されていた物言わぬ人形と思っていた存在が突如として起動して、一人のオムニックとして語り掛けてくるとは流石に予想しろと言うのが無理である。或いはこの出会いも開拓の運命の成せる御業なのかもしれない。なるほど。
……なるほど?
どうやら姫子は少し困惑しているらしい。
「ええと。初めましてザンタクさん。私の名前は……あー、姫子よ。ただの姫子。好きに呼んで頂戴」
「では姫子殿と。それと私の事は呼び捨てで結構です。ナビゲーターに畏まった呼び方をされる程の者ではありませんので」
じゃあどういう者なの!?
推定不審者でしかない目の前の存在に対して喉まで出かかったこの言葉を抑えた姫子の胆力は讃えられて然るべき偉業である。
「そう、なの? ええと…………うん、じゃあザンタク。コーヒーは飲めるのかしら?」
「無論です。残念ながら栄養素として吸収する機能はありませんが、嗜好品として味を
「本当? じゃあ是非飲んでみてね!」
先程まで抱いていた警戒心を秒で捨て去った姫子は慣れた手付きでコポコポと
1人でコーヒーを飲むのも好きだが、やはり誰かに飲んで貰える方が嬉しいものである。コーヒー好きとして当然の感覚だ。
「これはご丁寧に、では……???」
コーヒーの抽出工程を眺めていたザンタクからして一連の動作におかしい所は無かった、何かを仕込む余地など以ての外である。にも関わらずザンタクのセンサーが
ふとカップから視線を外し
これはただ善意からの施しなのである。
新たな
考えるまでもない、結論は明らかだった。
「良い香りです、私が今まで飲んできたどのコーヒーとも
しかし分かっていながらもほんの僅かほど逡巡し、ようやく覚悟を決めクイっと
味覚センサー異常
痛覚センサー遮断
動力炉異常
ERROR
ERROR...
この瞬間、ザンタクは黄金の血を滴らせるとある星神の一瞥を受けたのかもしれない
───再起動完了。
「……とても
「本当! 嬉しいわ♪」
生身のザンダーであれば即死はしないものの、暫くは立ち直れない程のダメージを受けていただろう未知の味をマイルドに講評するザンタク。
そこには新しいナビゲーターに恥をかかせない思いやりがあった。
この機械の身体も後でセルフメンテナンスは欠かせないだろうが、今はこの新たなナビゲーターがコーヒーを通じて魅せてくれた
尚、この不用意な一言で今後も姫子からの善意の
ええ、そうです。
彼は良心に負けたのです。
・X年後 星穹列車内、ラウンジにて
「ザンタクさん、貴方から見て開拓の運命とはどういうものなのだろうか。俺はまだこの道を歩み始めて間もない、
「フム……ヴェルト殿、それは私なりの開拓の運命に対する解釈を聞いて貴方の中にある開拓に対するスタンスを整えたい、と。そういう解釈で宜しいでしょうか」
「ああ、そうだ。貴方はとても賢いから、こうして俺自身が把握していない気持ちも巧みに文章化してくれて有難いよ」
「ご謙遜を。ですが、そこまで褒めて頂いた以上は何としてもお力になりたいですね」
次の星へと跳躍し到着するまでの僅かな時間を男同士の内緒話に華を咲かせる事にした2人はリラックスした様子で開拓に対する所見を語らっていた。
「そうですね、先ずこれを申し上げておかなければ結論がおかしな事になってしまう。故に恥を承知で申し上げましょう、私にとって開拓とは私の目的を果たす上での代替手段に過ぎなかったのです」
「それは意外だな。貴方は何というか、そう……言葉を飾らなければ開拓という運命を崇拝している様に思えたから」
「間違ってはおりませんよ。今の私にとって開拓は信念であり未来を託す希望であり願いでもあります。それらの言葉を崇拝と纏める事に些かの不足もありません。
なに、大したことではありません。過去の私は、己の本当の過ちに未だ気付いていなかったというだけの話です」
自身の過ちを正す為の手段として結果的に開拓の道へと進んだだけで、当初は開拓の信念も何も持ち合わせてなど居なかった。
当時のナビゲーターが乗車を許可しなければ、或いは別の
しかしいざ開拓の道をナナシビト達と歩むにつれ、彼の心に徐々にある変化が生じていった。
無機質な数字の羅列による演算ではなく、人と人とが出会い結ばれ別れを繰り返す営みを共にする内に……何時しか彼の心の中に芽生えていた
しかしその事に長年気付くことなく、結果的に無駄な時間を過ごしてしまう。
彼にとって生きると言うことは贖罪でした。
己の犯した過ちにより産み出してしまった神が定義した限界から人々を解放する為に、知恵ではなく開拓の運命を利用するつもりだった。
『探索』『理解』『構築』『連係』
それらを頭で理解した気になっていた。
ふとした瞬間に乗車し何時しかそれぞれの道へと進み降りていく仲間たちを見送り、新たな乗客を迎える。そうした循環の中でふと気付いたのだ、開拓という道を共に歩む他のナナシビト達と違い己だけが一歩足りとも
停滞していた。あの日、己を最初の天才と定義された日から一歩たりとも
未知を既知に変える開拓の旅は素晴らしいものだった。しかしそれすらもやがて世界の限界という壁にぶつかり、アキヴィリが殞落し星穹列車のナナシビト達がバラバラになりシケンが何とか崩壊しそうになった彼らを繋ぎ止めていた頃。
彼もまた降りることを考えていた。
考えただけだ、実際には降りなかった。いや、
開拓の運命そのものに対して表現しようのない感情を抱え込んでいたその時、彼の背中を押したのはパムであった。
『お前は物事をなんでも難しく考えすぎじゃ、何も考えずに走ってみろ!』
そうして遂に彼は開拓の道への一歩をようやく踏み出した。何も考えずに走る……ただそれだけの簡単な事を、最初の天才は生まれて初めて経験した。
そして直ぐに理解した、いややっと気付いたのだ。もはや己にとって開拓は手段ではなく自分自身を定義する信念となっていた事に。
この時、ザンダーから別れた分体ではなく開拓の意思を胸に宿したザンダー・カイタ・クワバラが生まれたのだ。
「───話が長くなってしまいましたね。
私にとって開拓とは、進むという事です。ヴェルト殿が姫子殿に対して特別な感情をお持ちなのは察しておりますが、それに囚われ過ぎて身動きが取れなくならないようにして欲しい。これが開拓の先達としての私からのアドバイスです」
「なるほど……ありがとうザンタクさん。やはり貴方に相談して正解だったよ、そうだな……立ち止まっていては何も出来ない。もっと姫子と話をしてくるよ」
「ええ」
跳躍終了のアナウンスが流れる中、姫子が居るであろう客車へと向かうヴェルトの背中を見送るザンタクの表情はとても上機嫌だった。
・XX年後 星穹列車 ラウンジにて
いつも陽気な三月なのかと言えど偶には気分が滅入ってメランコリってしまう時もある。ミルクティーは最高。
これはそんなとある日の出来事。
「ザンちゃんもウチの過去のこと知らないんだよね?」
「残念ながらそうですね、なのか殿と似た雰囲気の女性なら何人も知ってはいますが……どれも一琥珀紀以上は前の人物ですので」
「んーウチが何時から生きてるか分かんないけど、流石にそんなおばあちゃんみたいな昔の人と一緒の扱いは嫌かな〜?」
ウチは美少女だからね〜という独り言に首肯するザンタク。それは間違いない、ザンタクは己のデータベースの中に存在する人物を検索しなのかと類似する特徴を持つ女性を調べ上げた上でそう断言する。
姫子はもう美少女という歳ではなくただ美女である。いいね?
「次の星に着いたらさ、ウチと丹恒と一緒にショッピング行こーよ?
オムニックの人も服とか着られるんでしょ? あ、ていうかザンちゃって女性? 男性? あとあと、苦手な服とかデザインとかある?」
「私の自認は男性ですが、服装に拘りはありませんよ。なのか殿が選んで下さる衣装でしたら喜んで着用致しましょう」
「わあ! じゃあ丹恒とも合わせて3人でお揃いコーデにしようよ、きっと楽しいよ!」
「素晴らしい提案です。謹んでお受けいたしましょう」
姫子と合わせるとどうしても大人っぽいデザインになっちゃうからな〜それはそれで良いんだけど、でもウチら美少女組としてはやっぱり年相応の格好があるもんね?
楽しそうにそうやって今後の展望を語るなのかを微笑ましく眺めながら、ザンタクは己の格好を自己分析してみた。
この身体になってから今まで衣服に関して無関心を通り越してもはや必要とすら思っていなかったから、なのかの誘いは新たなる
断る道理など見付からない。
「そろそろツッコミを入れても良いだろうかザンタクさん、三月」
「あ、おはよー丹恒。今日は遅いんだね」
「お前が珍しく早すぎるだけだ。それと、俺は次の星では降りないから勝手に仲間にいれるんじゃない」
「え〜!? どうして、ウチらの仲じゃん?」
「…………ふむ」
星穹列車に乗車してはいるものの、何処かよそよそしい雰囲気を醸し出し人と関わろうとしない丹恒と、記憶も何もないのに人懐っこく甘えてくるなのかを見比べ、ザンタクのお節介が発動する。
「しかし丹恒殿、あまり列車内に留まり続ける事は健やかな精神や肉体を育てる為にはあまりよろしくない事です。ここは一つ気分転換の一種だと思って我々と同行しては頂けないでしょうか?」
「そうそう、ウチらと一緒に制服お揃で着よう♪」
「……ザンタクさんの発言は最もな部分がない訳ではないが、三月はただ面白がっているだけだろう?」
「あは、バレた? でもでも、丹恒とザンちゃんの3人で遊びに行きたいのは本当だよ。ねえ〜どうしてもダメぇ?」
(精神的に)比較的若い2人に囲まれすっかり感化されてしまったザンタクのどうでもいい会話はその後、ふらりと現れたヴェルトが俺も一緒に着いて行こうか? と発言したことにより、裏切られた気持ちになった丹恒が頭を抑えながら退室するまでワイワイと続いた。
そして三月なのかは何時の間にかメランコリーな気分でもなくなっていた。
・XX年後 宇宙ステーション・ヘルタ内部、星穹列車発車前にて
「星核ハンターによって星核を埋め込まれてしまった、ですか。それは何と申し上げたら宜しいのか……星核の危険性は火を見るより明らかであり、本来ならば手にする事さえ厭われる物なのです。それを人体に対して使用するなど、恐らくロクな者ではないでしょう」
「ふーん」
星核ハンターに対する所見を語るザンタクに、理解してるのかしてないのかよく分からないまま頭を振っているのはこの度新しく星穹列車の一員となった灰色の髪をした少女だ。
分体とのリンクを切断して久しいザンタクは自分自身でありながらそうではない存在から、将来とんでもない大きさで投げられぶつかってくるブーメラン発言をしながらも今は知る由もなく。
迷える少女へと開拓の先輩としてその身を案じていた。彼の手元にあるコーヒーは勿論
→:そうなんだ
:でもバブみがあったよ
「そうなんだ、怖いね」
ほへぇ〜とした顔で自分の中に存在する星核に対する薀蓄を
星が星穹列車の新たな一員として銀河に旅立つ前に全員と軽くお喋りを交わし、最後に立ち寄ったのが彼とのこの対話の場であった。
とある
「しかし、あの
「うん。だいたい
:ありがとうザンタク
:不安だったけど安心したよ
→:そんな事よりザンちゃんの昔話してよ
「そういえばザンタクって何時から星穹列車に乗ってるの? なのかや姫子に聞いた話だと、かなり昔から乗ってたらしいけど」
「おや、年寄りの昔話に付き合って頂けるのですか。光栄な事です、そうですね……私が初めて星穹列車に乗った時まだ
「へぇ〜」
開拓の信念に身を投じた事に間違いはなかった、それは例え其が殞落したとしても何ら変わる事のないザンタクが手にした開拓の精神そのものであった。
シケンらと共に墜ちた星穹列車を再び旅立たせる事に尽力し、ファルケンの良き友として復活した星穹列車の一員として共にあり永きに渡ってその時々のナビゲーターや仲間たちと共に開拓の道を歩み続け───遠い未来、姫子が星穹列車を蘇らせるその時まで倉庫で機能停止し長時間の休息に入っていた。
「私にはとある目的がありました。その為に私は星穹列車の一員として歩んできたのです。ですが、今はそんなことよりも貴方が歩むであろう未来を非常に楽しみにしております」
「そっか。ザンタクは開拓が好きなんだね」
「ええ」
→:良い話を聞かせて貰ったよ
:年寄りは話が長いね
:私に惚れちゃってもいいんだぜ
「とても参考になったよ。じゃあ次の星で私の初めての開拓を見届けてね」
「ええ、お約束します」
新たな開拓の同志の誕生。
何度経験しても良い事だと、コーヒーを嗜みながらザンタクは微笑んだ。
私たちが次に辿り着いた星、ヤリーロVI・ベロブルグで経験した出来事はまたの機会に語る事としましょう。
私はもはや
開拓はいつか未踏の領域へと辿り着くと信じています、恐らくオリジナルのザンダーに足りなかったのはこの心の衝動に突き動かされる青臭さだったのではないでしょうか?
知恵の運命から背を向けた私にはもはや証明不可能な論理ですが。
それでは天外の読み手よ。
貴方がたに開拓の加護がありますように。