私の名前はザンダー・カイタ・クワバラ、どうぞ気軽にザンタクとお呼び下さい 作:ザンダー・カイタ・クワバラ
今日は私の失態について説明させてください。
ブラックスワン殿のたっての薦めで向かったオンパロスという星系の存在に、なぜか既視感の様なモノを私は感じていました。
確かに記憶域に存在しているハズのデータにアクセスする事が叶わない、これらの特徴からオンパロスはザンダーが……或いは分体が何かしら関わっている事を推測しました。
つまり、
迷いました。
この開拓に私が関わるべきではないのではないだろうかと、だからこそ私は彼らがオンパロスへと向かう事を止める事が出来ませんでした。
焦燥感に駆られた私は、決して解くつもりのなかった記憶域のデータへとアクセスし……気付いてしまったのです。
このオンパロスという
・星穹列車 居残り組
知恵の星神を壊滅させる絶滅大君の誕生、その為の実験場。神話世界オンパロスの真実は、皇帝のセプターと呼ばれた遺物が生み出した無機質な数字によって構成された冷たく悍ましい物であった。
2人の天才であるヘルタとスクリューガムへの協力を仰いだ姫子は、ようやく連絡のついた星や丹恒との短い情報交換を終えて一息ついた。
ヴェルトも姫子も、もはや外側からオンパロスに何かをする事は出来ない。それが内側で今も必死に開拓を続けている星達に申し訳がなかった。
「……姫子」
「ん? 何かしらヘルタ」
「あなたの所のオムニックを呼んできて、大至急。理由を説明してる暇はないの」
何時もながら横柄な態度であるが、その裏にある焦りの様な物を感じとった姫子はヘルタの言う通りザンタクへと連絡を取った。
ラウンジへの扉を開けたザンタクは、こちらを見る天才のジメっとした視線を見て全てを悟ったのか大人しく姫子とホログラムのヘルタの前へと歩み出た。
それは死刑上に送られる罪人の歩みにも似ていた。
「私をお呼びでしょうか姫子殿」
「あのね「あなたを呼んだのは私。なんで呼んだか分かるよね? 私気が短いからここから先は言葉には気を付けてね。ねえ一人目の天才である
姫子の挨拶を跳ね除けヘルタは確信して目の前の存在へと尋ねた。
天才であるヘルタがここまで確信を以って呼ぶその意味、それを理解出来ないザンタクではない。虚偽は許さないという意志をありありと感じさせるその言葉に、ついにこの日が来てしまったのかとザンタクは軽く嘆息した。
「お察しの通りです。私はザンダー・ワン・クワバラを元に産み出された存在、改めてご紹介申し上げましょう、ザンダー・カイタ・クワバラと申します。よろしければザンタクとお呼び頂ければ」
不承不承ながら認めざるを得ない。
こと此処に及んで隠しておく意味はない、正体を断じるヘルタと意味の無い問答をしたとして時間の無駄でしかないのだ。
「そう、よろしくね大先輩」
しかもザンタクと呼ぶ気はない。
スクリューガムはあまりの事態に口を挟むことをやめて傍観していた。
「後学のためにいつ私の正体に気付かれたのかお聞きしても?」
「細かい理由は色々だけれど……ナナシビトのオムニックはその筋じゃそれなりに有名な話だからね、最初は気にもしてなかったんだけれどちょっと調べた。でも大先輩ってば明らさまに
その割には隠れ潜む気もないから誤魔化されたよね、と理由の一端を語るヘルタ。しかし全てを解説する気も残された時間もないので細かい理由はどんどん省かれていく。
提案:そこが最も聞きたいのですが……というスクリューガムの呟きは黙殺された。
「ライコスと呼ばれるオムニックの情報を収集していくに連れとてもおかしい事態になってね、何故かライコスとして登録したデータと
元々何かしらあると疑っていたザンタクと、ライコスと呼ばれるオムニック、セプターを掌握するその手腕や不可解な同一性。一つ一つの要素には法則性の欠片もない理由から真実を探り当てた彼女の才覚を疑う者はこの場に居ない。
共同で調査していた自分にはいち早く教えて欲しかったとスクリューガムは思ったが口には出さなかった。
「ま、それでも99%の推論でしかなかったけど。確信したのはさっき、その
これが一番言いたかったのだろう、ふんっと上機嫌にドヤ顔をキメるヘルタにザンタクは肩を竦めるしかない。
どれもこれも全くもって反論する余地のない事実だからだ。
「あのね大先輩、そもそも私があの時
もっと早くライコスの正体に気付けていたら、私たちが取る手段も変わっていたんだから。セプターを直接ハッキングしたりね?」
「…………………………」
「だんまりはやめて貰える?」
「……手厳しいですね、ヘルタ殿は」
天才への罪悪感で強く出れないザンタクと唯我独尊のヘルタ、両者の
「二点ほど注釈を。1つ、今私は
「知ってる? そういうの屁理屈って言うんだよ、大先輩が人として生きてた頃には存在しない概念だったかな。それなら謝るけど。そもそもザンダーの不始末はあなたの不始末でしょ?」
「…………………………」
「大先輩が今するべきなのは御託を並べる事じゃなくて事態の解決に尽力する事じゃない?」
幾ら親愛なる大先輩が相手でもこれ以上私の貴重な時間を無意味に使われるのは流石に迷惑なんだけれど? と言葉を締めた。
ぐうの音も出ないというのはこの事である。
何もかもザンダーの仕業であれば、それはザンタクの責任でもある。正論が痛い。
「ええっと……話が見えなかったのだけれど、つまりザンタクはオンパロスの元凶と何らかの関わりがあるって事なの?」
やっと口を挟めた姫子がおずおずと訊ねる、言いたいこと言って満足した
「全てヘルタ殿の仰る通りです。どうやら私も覚悟を決めなければならないのでしょうね。姫子殿、ヴェルト殿。しばし
「ザンタク……あんた」
「ご安心を。
この短いやり取りで姫子とヴェルトは気付いた。
彼は文字通り、これから命懸けの開拓をする事を決めたのだと。
「……分かったわ。行ってらっしゃいザンタク、あんたが本当は何者なのかなんて私たちにとっては重要じゃないわ。覚えていて、あなたは私たちの仲間……星穹列車のナナシビトよ。忘れないでね」
「そうだ、お前も俺の故郷に来てくれるって言っていただろう。男同士の約束、忘れるなよ」
「……感謝します」
キュウン。
姫子たちの激励を受け全てのリソースをオンパロスのファイアウォールの解析へと向ける、ヘルタとスクリューガムという2人の天才を以ってしても簡単に突破する事が叶わないソレにザンタクは
・セプターδ-me13 管理室
ファイノンが星へと託した希望、世負いの救世主の座は引き継がれ33550356回目の永劫回帰は終りを迎え新しい
神話の外側と称すべき場所でファイノンにより頭部を切断されていたハズのライコスは元の姿を取り戻し、新たな変数によって変化していく永劫回帰を今度こそ終わらせ
その孤独で冷徹で空虚な空間へと
「まさか、侵入者ではなく客人をお迎えする日が来ようとは想定していませんでした。ですが心より歓迎致しましょう、ようこそオンパロスへ。
:リュクルゴス?
→:どう見たってザンタクじゃん?
:あんたもオンパロス観光してんの?
アナクサゴラスとアグライアのよる討論そっちのけで質問攻めにして来た
そう、オンパロスにおいて己をアンティキシラ人のリュクルゴスと名乗り中立の立場で
「ファイアウォールの各種暗号プロトコルの癖を直されることを推奨します、生体認証を加えていたのは明確に失態でしたね。これさえなければ私でもあと半システム時間はアルゴリズム突破に時間が掛かった事でしょう」
これはヘルタやスクリューガムよりザンタクが優れていたという事ではない。
「ふふ、ご冗談を。たとえ何があろうと私が
「拝見致しましょう」
一切隠し立てすることなくライコスによって提示されるセプターδ-me13の詳細データをザンタクは具に眺め、その憎悪と執念を見届けた。壊滅による知恵の殞落……鉄墓の存在やその驚異は既に銀河に知られているが、それがこれ程に具体的かつ現実的な段階に達しているとは。
これは確実にヌースへとその刃が届く。
この宇宙の全てを巻き込んで。
「……なるほど、凄まじい成果です。驚嘆致しました」
「ありがとうございます」
これら全てを記録したザンタクは直ぐにこの場から
恭しい態度を崩さない神礼の観衆は、こちらの思惑を正確に受け取り口を開く。
「残念ながらお帰り頂くにはまだ早いかと、歓迎の宴すら開いておりません。聖都オクヘイマでの観光などいかがでしょうか? 神悟の樹庭で思索に耽るのもよろしいかと。どうぞ、オンパロス観光をごゆるりと」
「素晴らしい提案ですが、これでも忙しい身でして。ここで中座させていただきます」
「残念ながらそれは叶いません。あなたも理解しているはずです、他ならぬ己の身なのですから。あなたは私の許可無くこの世界から出られない事を」
大袈裟に腕を広げライコスは天を仰いだ。
「誤解しないで頂きたいのは……私は尊敬申し上げているのです、知恵の
「…………………………」
「本来のあなた
「……大変遺憾ながら、あなたの言う通りです。ですがこうも理解しているのでしょう? 私は
知恵の恩寵そのものを捨て去り開拓の道を歩むザンタクと、知恵を以って知恵を壊滅せんが為に数多の演算で鉄墓を育成してきたライコス。
始まりを同じくする者達である彼らは、もはや同一人物でありながら全くの別人である。故にこと
「無理はなさらない方がいい……もし、この場で外界との接続が絶たれてしまったら
「…………………………」
「我々は共に
ファイアウォールの再突破の為に全リソースを注ぎ込むザンタクの脳裏にふと、かつての忠告が蘇る。
───あなたは今後あなた自身と対峙することになり、2つの未来をその手で選べるだろう───
「ええ、ここで私と
───だが注意した方がいい、あなたがどちらを選び取ろうとも未来に待ち受けているのは───
運命に背くとは簡単に済む問題ではない。
何故ならそれは星神すらも死へと至らしめる
かつて壊滅の運命へと背を向けた一族が代々その身に風化の呪いを刻んだ様に、ザンタクの
開拓の運命の力で辛うじて頭部ユニットにしがみ付いているだけの
彼を彼たらしめているのは開拓の意思、ザンダー・カイタ・クワバラとして刻んだ開拓の運命そのものたる
今ザンタクは非常に脆い剥き出しの状態で
だがここで、己の保身を選ぶ選択肢はザンタクに存在しない。何故ならここで諦めない選択こそがザンタク自身の“開拓の信念”だからだ。
「この身が開拓の一助となるのならば、私は何も恐れはしません。私がここで得た情報を外に伝えられるのならば……それが仲間たちの手助けとなるならば。此処が私の終点となったとしても、知恵の殞落を見届ける事が出来なくとも。僅かな後悔もありません」
───あなた自身の死だ───
オンパロスの運命、そしてこの宇宙そのものの運命を決定付ける鉄墓との最終決戦。そして私の生死については次の機会に。
お恥ずかしながら私自身は自らの存在を維持する程度の開拓エネルギーしか生み出せません、故に星穹列車が墜落した折……私は最低限の機能だけを維持して機能停止し新たなナビゲーターの到来をお待ちしていました。
そう、姫子殿が星穹列車を再び旅立たせた……あの時まで。
あれから15年、とても素晴らしい開拓の後輩たちに恵まれました。鉄墓の完成はこれまでのどの開拓の旅よりも遥かに大きな危険性を伴っております。
今ここに2つの選択肢が生まれました。
よって抗うとしましょう。
私の後輩たちがいつか群星に辿り着くと信じて。