マリスビリーと暁美ほむらは宇宙規模の恥知らず 作:あばなたらたやた
ドガジャーン!
重厚な扉が、あまりにも無作法に跳ね上げられた。その唐突な破壊音に、部屋にいた三人が同時に顔を上げた。
マリスビリー、クリプター、そしてセルマ。静寂を破って立ち塞がったのは、これ以上ないほど胸を張り、ドヤ顔を浮かべたワスだった。
「マルグリートに会いたいですわ!!」
開口一番、それである。
あまりにも堂々とした、一切の遠慮がない要求。世界の命運を左右する密談の場に乗り込んできた人間とは、到底思えない暴論だった。
マリスビリーは片目を細め、静かに可笑しそうな笑みを浮かべる。
「会いに行けばいいんじゃないのかな?」
「それができれば苦労はしませんわ!」
ワスはガバッと腰に手を当て、不満をあらわに叫んだ。
「あの悪魔が邪魔をしますでしょう!? 私とマルグリートがゆっくりお話しする時間を、あいつは絶対に作ってくれませんもの。ならば! あの悪魔を引き剥がす必要がありますわ!」
「なるほどね」
マリスビリーは思考を巡らせる。彼女が求めているのは、勝利ではない。マルグリートを殺すことでも、悪魔ほむらを打倒することでもない。
ただ話がしたい、それだけだ。だからこそ、目的の邪魔になる障害だけを退けようとしている。
問題は、そのためにどこまでやるかだった。
「なら、悪魔が放置できない情報を流せばいい」
「……?」
「これは方法の一つだが、名塚底根をリークしたらとうだろう」
マリスビリーは淡々と言った。
「悪魔からすれば、自分の認知の外で異変が起きることになる。情報源が不明であっても無視は不可能だ。君がマルグリートと話したいなら、悪魔に『それどころではない問題』を与えてしまえばいい」
脇からセルマが口を挟んだ。
「敵を倒すんじゃなく、向こうから離れていくように誘導するってこと?」
「そういうことだね」
マリスビリーは満足そうに頷く。
戦略とは、必ずしも力を叩きつけることではない。相手の意思決定そのものをコントロールし、自分にとって都合の良い選択肢をとらせる。それは銃より静かで、刃より鋭い誘導の技術だ。
「名・案ですわ!」
ワスが両手を大きく広げた。
「では、そうしましょう! 名塚底根をみんなに知っていただきましょう!」
だが、そのやり取りを見ていたクリプターは、背筋に嫌な冷や汗を覚えていた。
「……待って。今の話、妙に聞こえが良いけど、具体的にはどうやって引き剥がすつもり?」
「簡単ですわ」
ワスは無邪気に、しかし酷く楽しそうに笑った。
「全勢力に、宣戦布告しますわ!」
「…………」
「…………」
「…………」
静寂が部屋を支配した。
「……どうしてそうなるの」
クリプターが頭を抱え、痛む眉間を押さえる。
「だって、悪魔だけを動かすために不自然な情報を流したら、怪しまれるでしょう?」
「だから……?」
「全員を巻き込んで敵に回せば、とっても自然ですわ! というか破神同盟と私とセルマがいるので、大丈夫ですわ! 勝てる勝てる! 余裕余裕! 平気平気!」
「それはそうなのよね」
あまりにも力技。あまりにも乱暴。だが、極論だからこそ成立する狂気の理屈でもあった。
特定の一人だけを釣ろうとすれば罠だと見抜かれる。ならば、敵も、味方も、第三者も、すべての駒を同時に同じ盤上へ叩き込めばいい。
全員に自分の意思で動き出したと思い込ませるのだ。
ワスには一切の悪意がない。
彼女にとって重要なのは会いたい相手と話すことただ一つ。
その目的のためなら、世界がどれほど騒がしくひっくり返ろうと知ったことではなかった。
「それに私は、自分の意思をどこまでも貫く人が大好きですもの」
「……だから試すの?」
クリプターが苦々しく顔をしかめる。
「ええ。そうですわ。みんながどこまで自分の意思を貫けるのか、ですわ」
ワスは事もなげに言い放った。
「自分で決めたなら、最後までやり抜けばいいのです。途中で誰かに邪魔されたからって諦めるなんて、つまらないではありませんか」
幼く、あまりにも身勝手な思考。しかし、それは反論を許さないほど恐ろしく純粋だった。成熟した人間ならば、自ずと考えを巡らせる。相手の都合、社会への波紋、周囲との関係、失敗した際の損失。
ワスはそれらを想像できないのではない。すべてを理解した上で、己の欲望を最優先に置いているのだ。
善でもなければ悪でもない。己の意思を極限まで純粋に扱っているからこそ、手に負えない。
それは光に狂っていると表現しても良いだろう。
「本当に台風ね、貴方は」
クリプターの吐き捨てるような言葉に、ワスはくすくすと笑った。
「台風は自然災害。人は多くの犠牲が起こる。だけど同時に備え、対応してきた。人間ならそれができる。戦うことこそが人間の可能性なのだから」
煽るような挑発。だがその根底には、揺るぎない彼女の『思想』があった。
強い者が正しいのではない。圧倒的な強者に対しても、なお己の意思を曲げずに立ち向かう存在。
それこそを彼女は愛し、評価しているのだ。だからこそ彼女は、自分自身をもその実験台に投げ打つ。
目的を果たすために世界を敵に回す。それでも意思を捨てないならば、それ自体が彼女の思想の証明となるのだから。
その歪な美学を感じ取り、マリスビリーは口元を歪めた。
「さぁ、派手に参りましょう!」
こうして、世界に一つの名前が解き放たれた。
◼️
マリスビリー・アニムスフィアが通達する。
我々は全人類に通達する。
この惑星はこれより、新しい世界に生まれ変わる。
神と悪魔の支配下での文明は正しくなかった
我々の成長は正解ではなかった。
よって、私は決断した。
これまでの人類史、円環の理と悪魔の支配に叛逆すると。
To Nobles Welcome to the Earth
◼️
全勢力に対する挑戦状。あまりにも唐突な宣戦布告。そして同時に流された、名塚底根の情報。意図的に投じられた一石は、波紋となって静かな水面を激しく揺らしていく。
円環の理。悪魔ほむら。巴マミ。佐倉杏子。百江なぎさ。そして、その他の思惑を持つ者たち。
誰もがそれぞれの理由で動き始めた。
掲げる正義も、守りたいものも、恐れている危機も全く違う。だからこそ、誘導は容易かった。
『マリスビリーを止めなければならない』
ただその一点だけを共有させ、彼らの足並みを揃えさせる。
かくして戦場は四つに分断された。
ビル街ではセルマと、巴マミ。
公園ではクリプター、マリスビリー、そして百江なぎさ。
海岸ではゴムの魔女と、佐倉杏子。
そして、最深部である『名塚底根』――。
名もなき魔法少女と悪魔ほむら。
「……なんでマリスビリーがやったことになっているのよ」
配置を聞かされたクリプターは、心底げっそりとした顔で天を仰いだ。
「言ったでしょう? 自ら選び戦う者が好ましいと」
ワスは当然と言わんばかりの顔で胸を張る。
「みんなの心を」
「頭の中に広大な宇宙が広がってるわね。マリスビリーがなんで言ったことになっているかって聞いてるの」
「私、名前がわからないですから」
「この女……!」
クリプターは深い溜め息をつき、遠い目をした。その横で、マリスビリーは何も言わず、ただ静かに広がっていく戦場を見つめている。
この戦いに、明確な善悪など存在しない。誰もが己の守るべきもののために引き金を引き、己の正しさを信じて足を踏み出す。
だからこそ、争いは避けられない。
人間とは、己の価値観を抱えて生きる生き物だ。そしてその価値観を否定されれば、どれほど正当な理由があろうと抵抗する。
ワスが見たいのは、まさにその瞬間だった。
人が意思を持つということ。それがどれほど尊く、愚かで、酷く美しいものなのか。
それは趣味の話。
ワスにとって一番大切なのはマルグリートと話すこと。
そのためであるならば世界がどれほど無残にひっくり返ろうと、彼女には何の関係もないことだ。
マリスビリーと一緒にいるほむらの呼称について
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クリプターほむら
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クリプター(のみ)