マリスビリーと暁美ほむらは宇宙規模の恥知らず 作:あばなたらたやた
ビルの屋上には暁美ほむらと、マリスビリー・アニムスフィアがいる。
「これからについて話そう」
ほむらは即答した。
「そうね、まどかを助ける為に具体的な手順を教えなさい」
「まずは『鹿目まどかの人格部分の保護』が最優先。そして『魔女の治療』をしていき、『暁美ほむらが一番最初に行ったループの阻止』という流れだ」
「方法については未来技術だからと棚上げにするとして、魔女の治療とループの阻止の理由は?」
マリスビリーは即答した。
「魔女を治療する、つまり絶望から希望の相転移を引き起こすことで、人為的にエネルギーを発生させる」
「エネルギーだけで解決できる問題ではないわ。むしろ奴らを喜ばすだけ」
「大切なのは、その行き先を突き止めること。エネルギーが送信されたら追跡し、宇宙延命に使われるポイントを観測する。観測すれば干渉できる。干渉できれば制御できる」
ほむらは顔を顰めた。それはインキュベーターと同じ話をされたからだった。やられたからやり返す。
ムカついたから、ぶん殴る。シンプルだが、効果的で、人間らしい野蛮な発想だ。だからこそ感情なき者達の上をいく。
「宇宙を収縮させ、逆流するエネルギーで人類は宇宙を必要としない世界を作る。その世界にある円環の理は、苦しみを一人に背負わせるのではなく、大多数の凡人によって運行するものになっている」
「それは、まどかが生きている世界」
円環の理という機能と、そこに存在する鹿目まどかの人格を同じものとして扱う必要はない。
鹿目まどかは円環の理が起動するのに必要ではあるが、それ以降は単純にシステムとエネルギーの問題。
エネルギーはループによる因果集積や、宇宙の資源化によって解決する。システムについては、そのままコピーしてしまえばいい。
「暁美ほむら。君は鹿目まどかを助けたいだけであって、円環の理の破壊したいわけではない」
「ええ、私は鹿目まどかを取り戻したい」
「そしてそれは、既に成している」
マリスビリーはほむらを見る。そしてほむらは、悪魔なった時のことを思い出す。そして今この世界には『人格』がある。
「円環の理から奪い返すのは難しい。しかし、ここは悪魔がいて、その結界の中だからね。そしてその時の悪魔ほむらは、鹿目まどかの人格を保有している。だからワルプルギスの夜や、他の魔法少女が奪いに来た」
「この時代の私から、鹿目まどかを託してもらう?」
「それが理想的だ。でもそれを阻むものはたくさんある。それを解決する方法を僕は持ち得ない」
「なぜ? 遥か未来から計画的に来たんでしょう? 問題を解決する用意はあるはずよ」
マリスビリーは首を振る。
「歴史の教科書を開いて、偉人が何をしたかはわかるが、偉人が何を思い会話したのか、細かな人間関係はわからない」
「未来の私と一緒にいたんでしょう?」
世界を変える共犯なら、話していそうなものだが。ほむらの予想は裏切られる。
「残念ながら、話してくれなかった」
「なのに命を捨てたの?」
「彼女は信頼できるからね。僕も特に過去は話していないし」
いいのか、それで。二人とも。
ほむらはマリスビリーに同情し、未来の自分が少し情け無くなった。
話してあげても良かったのでは?
「多感な時期をループで過ごしたせいか、発想力や想像力が貧弱な部分が素晴らしかった。物事を知識と経験でしか語れないから、研究者に適している」
「ブチ殺すわよ」
「短絡的な部分もそっくりだ。やはり振る舞いがクールぶっているだけで、その精神的に未成熟な部分は暁美ほむら博士だと実感するね」
「教えてあげるわ。人のことを上から目線でわかった気になられるのは極めて不愉快なの。やめてくれるかしら」
「わかった。気をつけるよ」
鹿目まどかの人格を確保する。
エネルギー回収のために魔女を治療する。
それだけでは終わらない。
最後の大仕事、暁美ほむらのループ阻止について話題が映る。
具体的には、ほむらが時間遡行するより前に、ワルプルギスの夜を空想樹という独立した異空間に封じる。
「ワルプルギスの夜を? 私が何度も繰り返す原因を消す、と言うこと?」
「消すんじゃなく、閉じ込める」
「空想樹とかいうのに?」
「うん、そしてそこからも観測する」
ほむらが眉を寄せる。
「倒さないの?」
「倒す必要がない」
「……」
「君は何度もワルプルギスの夜と戦った。その結果、何が起きた?」
「……敗北し、失敗し、ループした」
「それだけ敗北したなら、もうそれは変えることは難しい事実として固定化されてしまっている。戦闘での排除は不可能。だったら倒すのではなく、異空間に隔離すれば、ワルプルギスの夜は倒せないまま被害が出ないのでループも起こらない、という状態が成立する」
「……なるほど」
ほむらが初めて、少しだけ口元を緩めた。
「合理的な作戦だわ。未来の私の考えと、その私が開発した技術はさすがね」
「うん、すごいすごい。暁美ほむらをループさせちゃいけない理由は……あ、痛い痛い痛い。何で、何かな、何なのかな? 首を絞めないで」
「私を子供扱いすると殺すわよ」
ほむらは首絞め終えたマリスビリーを地面に優しく置いた。
「で?」
「若い暁美ほむら博士はやんちゃだ。少し驚いている」
「で?」
「特別な理由はない。だけど、ループしている時点で鹿目まどかが死んでるから、そういう死ぬ因子を次の世界に持ち越すのは不安だ、というリスク管理や予防的な意味合いが強い」
「必要だからやるのではなく、できたら嬉しいからやるのね。確かにまどかの不幸は少しでも消しておきたい」
そして二人は、最大にして、最重要の条件を確認する。
『インキュベーター』
「やつらに情報を渡さない」
ほむらが言う。
「契約にも干渉させず、まどかにも接触させず、魔女にも細工をさせない」
「彼らは抵抗するだろうからね。そこは頑張っていきたい」
「インキュベーターより先に、世界そのものをこちらの手に置く」
マリスビリーは静かに頷く。
「これは主導権の奪い合い。宇宙の在り方をかけた綱引きだと表現するのも良いかもしれない」
「負けられないわね」
マリスビリーは微笑む。
「勝つ必要もない」
「?」
「僕たちは目的を達成すればいいんだ」
ほむらは笑う。
「そうね。私にとって宇宙や人類なんて、まどかの愛に比べたら些細な問題。愛を貫く」
二人は、同じ夜景を見下ろす。
一人は、一人の少女を取り戻すために。
もう一人は、人類の未来を保障するために。
ふと、気になってほむらは訊ねる。
「色々と時間や世界に手を加えるけど、タイムパラドックスとか、因果とか、貴方のいた未来とか、そういうの全体的にどうなるの?」
「気にしなくても大丈夫。世界を二度も改変している時点で今更だし、歪みや軋轢でイレギュラーは当たり前に起こるから、心の準備だけしておくのが健全だろう」
「そう」
ほむらは少しだけ切ない気分になる。まどかが恐怖を勇気でこじ開けた世界は、やはり救いはなくて、苦しくて、悲しくて、辛くて。
それでも魔女を救済する願いは尊く、涙が出そうで。それを否定する者や、歪みによって産まれる絶望はあって。
世界はどうしてこんなにも上手くいかないのだ、と嘆かずにはいられなかった。