マリスビリーと暁美ほむらは宇宙規模の恥知らず 作:あばなたらたやた
豪邸にて、ほむら、ワス、マリスビリーは一通りリラックスしていた。
「さて、クリプター」
「なに?」
「失礼」
「は?」
ワスはほむらに近づき、歯茎を見た。
ほむらはパンチした。
「失礼で済ませて良い奇行ではないけど?」
「ごふっ、思ったり力が強い。ゴリラですか貴方。ただの健康診断なのですけど?」
マリスビリーが補足する。
「年代はわからないけど、歯茎を見るとことで健康診断する、というは真っ当な価値観だ。壊血病は歯が抜けて衰弱死する。現代では珍しいけど、まともな食料が得られない時代なら死活問題というわけだね」
「そ、そういうことなのね。確かに魔女になったタイミング次第ではそういう様相が変わることがあるのは当たり前よね。ごめんなさい、ワス」
ほむら素直に頭を下げて、ワスの頬に手を当て、治療した。
「貴方の善意を無碍にしてしまった。そこは素直に反省するわ」
「…………!!」
ワスはキラキラと目を輝かせ、ほむらの手を取り、ダンスを踊り始めた。
「ああ、愛しのマルグリート。貴方を求めてここまできた。けれど貴方を思う友人もなんて素晴らしい!! 不器用だけど優しい人! クリプター。貴方は一人ではないわ、私という姉がいるのだから!」
「姉……?」
「そう! 女神を愛する者として、先に生まれた私が、貴方とマルグリートを必ず守るとしましょう! マルグリートの心と、それを縛る全てのしがらみを破壊しようとする貴方の、良き隣人として」
「あ、ありがとう。ワス」
「違うますよ、クリプター」
ワスは、ぴっ、と指先をほむらに向けて言った。
「ワスお姉ちゃん、ですッ!」
こいつ殺すか?
ほむらは時を止めて、捻り潰すことを考えたが、それこそ善意を無得にするというものなので、静かに受け入れた。
「ワスさん」
「ワスお姉ちゃん」
「ワスさん、これからについて話を」
「ワスお姉ちゃん」
「…………」
「あれれー? 私の声が声が聞こえていないのでしょうか? ハッ、まさか何か異常が!? すぐに検査をしなくては! 失礼しますね」
「ひえっ、やめて、やめて!!」
「暴れないでください! 服が脱がせにくいでしょう!!」
「こいつ……ッ! このッ! 暁美パンチ!!」
「ぐはっ」
再びほむらからのパンチを喰らって、ばたり、と倒れるワス。同じ顔をしているせいか本当に姉妹が喧嘩しているようにしか見えない。
明るくパッションに溢れた暁美ワスと、暗くクールな暁美ほむら。
マリスビリーは頷く。
「良い家族になれそうで何よりだ」
「貴方って実はポンコツだったりしない? これを見てそういう感想を抱くなら目が腐っているわ」
「鏡を見ることをお勧めするよ」
「誰がポンコツだというの?」
「はい、鏡」
「くっ、私の美しすぎる美貌で目が……ッ!」
「そういうところがワスとそっくりなのが何故わからないのか」
ジリリリリン、ジリリリリン。
突如として静寂を切り裂き、不気味なトカゲの形をした電話が召喚される。
これは悪魔ほむらが構築した仕掛け。俗称ではあるが『タイミー魔法少女システム』の端末だった。
欲しいタイミングで、欲しい人材を、欲しい時間だけピンポイントで雇用できる即席の戦闘力。
報酬の正体は明確ではないが、魔法少女として己の力を解き放ち、暴れ回ることによる歪んだ全能感と快楽、それこそが対価だ。
戦いの記憶は事後に全て消去される。言わば、依存性を排した精神的麻薬。その代償として、彼女たちは命を危険に晒すことになるのだが。だが、そんな危険なシステムが、なぜ今この場に出現したのか?
戦う人材が要求された。つまり、近隣に魔獣やナイトメアといった脅威が発生し、それを殲滅するための自動処理が働いたということだろう。しかし、これは悪魔が仕掛けた罠という可能性も捨てきれない。
ほむらは受話器に伸ばしかけた手を止め、しばし固まったように思案を巡らせた。それを横から割り込んだワスが、受話器を手に取った。
「はい、もしもしワスですわ」
「馬鹿なの? 馬鹿ね? 馬鹿だよね?」
「はい、はい、そういう感じで、はい、なんか色々と覚悟とかありましてよ。この世界を破壊できるなら」
唖然とするほむらを横目にマリスビリーはくすり、と笑う。
「アグレッシブな人だね、君の姉は」
「姉じゃないんですけど? どうなるのかしら、これから」
「様子を見守ろうじゃないか、きっと彼女にも何か考えがあるんじゃないかい?」
通話を終えたワスを、眩い魔力の光が包み込む。解き放たれた光の渦が収まると、そこには魔法少女へと変身を遂げた姿があった。
大元の潜在能力もさることながら、悪魔から強制的に引き出した力がシステム経由で上乗せされているのだろう。
その全身から溢れ出すパフォーマンスと魔力の密度は、先ほどまでとは比べものにならないほど跳ね上がっている。
ワスは軽やかにくるりと振り返ると、極上の笑顔を浮かべて言い放った。
「では参りますよ、クリプター! マリス!」
「え」
「僕達もかい?」
「もちろんです! さぁ、派手に行きましょう! 派手に! 派手に! 派手に! 愛しのマルグリートが気付くまで!」
「テンションが高い。苦手だわ」
ワスは空を踊るように走る。ほむらとマリスビリーもそれに続いていった。