マリスビリーと暁美ほむらは宇宙規模の恥知らず   作:あばなたらたやた

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第八幕:私の知らない魔法少女達

 

 魔法少女は巴マミ、佐倉杏子、美樹さやか、桃江なぎさ、そして暁美ほむら(悪魔)。

 ワスは考える。

 自分は何がしたいだろうか?

 自分は何を求めているだろうか?

 自分はどうしてここにいるのだろうか?

 自分は、他人は、人類は、何をするのが正解なのだろうかと。

 その答えはとてもシンプルだった。

 まずは、腹立つ悪魔を殴ってから考えよう。

 

「おはようございます、こんにちは、こんばんは。皆さんと宿命の貴方。初めまして、魔法少女の皆さん。私はこの歪んだ世界を修正する者。チーム代表して、『貴方』に通達します。繰り返します。旧人類最後の一人になった『貴方』に宣戦布告します。これからの歴史は、完全な円環の理によって紡がれることを! ここから先は未来なき世界!」

 

 その言葉を正しく受け取ったのは『悪魔ほむら』だけだった。他の魔法少女は記憶を改竄されいる上に、ワスへの違和感は少なめだ。

 

 悪魔だけが、この世界のイレギュラーの怖さを正しく認識できていた。だからこそ、今を大切にしたいと願う悪魔ほむらは行動することができない。

 それをすると『この世界の歪みが露見する可能性』が大きく上がってしまう。

 巴マミはシンプルな質問した。

 

「貴方は何者なの?」

「我が名は魔法少女! 希望を願い、希望を繋げ、絶望を撒き散らした旧世界の残り滓。ああ、悲しき運命。その絶望のピリオドを救いに変えた女神を取り戻すため、冥府の底より舞い戻った者ですわ!」

「……なるほど。よくわからないけど、よくわからないなりに理解できたわ。貴方、やるわね」

「ふ、ふふふふ。巴マミ。そちらこそ、理解せずとも納得する。やりますね」

 

 マリスビリーは言った。

 

「バカみたいな会話だ」

「ティロ・フィナーレ!!」

「マリスガード!」

 

 凄まじい攻防の末、少なからぬダメージを負ったマリスビリーは、ボロボロになった身体を引きずるようにして帰宅の準備を始めていた。だが、それをワスが見逃すはずもない。

 

「待ちなさいな!」

 

 ガシッ、とマリスの襟首を身も蓋もない雑さで引っ掴むと、ワスは彼をそのままダイナミックにぶんぶんと振り回し始めた。人道の欠片もない扱いを受けるマリスの悲鳴が空を切る。

 

「廻・天」

 

 凛とした叫びとともに、ワスが眩いばかりの光に包み込まれた。光が弾けたあとに現れたのは、少女の愛らしさを凝縮したかのような可憐な姿。

 

 白を基調とし、細部に繊細な金色の刺繍があしらわれたシスター服風のドレス。そしてその手には、可愛らしい装飾のステッキが握られている。

 

「魔女っ子スティックワンドモード!」

 

 どこからともなく溢れ出す、無駄なまでにキラキラとした光のエフェクト。戦術的には何の意味も価値もない演出。けれど、だからこそ圧倒的に煌びやかで、見る者の目を嫌応なしに惹きつける狂気の華やかさがあった。

 

 理不尽なフィジカルに、悪魔の力、そしてこの脈絡のない変身。目の前の存在が纏う底知れぬ異質さに、巴マミは額に冷や汗を滑らせ、ごくりと息を呑むことしかできなかった。

 

「これが……彼女の本当の姿……魔法少女ではなく魔女っ子なんて……あの光も、自分で発生させている……精密な魔力操作だわ。みんな、気をつけて。強敵よ」

「いちごケーキ、ブルーベリーゼリー、チーズケーキ、そしてコーヒー。ご馳走がたくさん用意してくださって……ああ、全く、素晴らしい限り。ゆっくりと味見させていただきましょう」

 

 先制攻撃を仕掛けたのは、ワスだった。

 身構える隙すら与えない、理不尽なまでの力任せな一撃。解き放たれた単純な衝撃波の渦が、対峙していた魔法少女たちをそれぞれ別々の方向へと豪快に吹き飛ばす。だが、ただ一人、巴マミだけはその暴風に呑まれなかった。

 

 瞬時に弾き出された無数の黄色いリボンが、空中で複雑な軌道を描きながら衝撃波を絡め取り、相殺。間髪入れずにワスへの迎撃態勢へと移行する。

 

 ワスの強みは、あまりにも規格外な純粋なフィジカルだ。対する巴マミの真骨頂は、戦況を完全にコントロールする総合能力の高さにあった。

 

 張り巡らされる仕掛け、視界を惑わすデコイ、そして寸分の狂いもないマスケット銃の連射。

 

 マミは縦横無尽に戦場を駆けながら、ワスへ着実にダメージを蓄積させていく。だが幾重もの砲火を浴び、絶え間なく衝撃を叩き込まれてもなお、ワスは鬱陶しそうに身を揺らすだけだった。

 

 底知れない耐久力と異常な基礎性能が、与えられた傷すら瞬時に無効化していく。

 

 あらゆる戦術で完璧に上回っているはずのマミの攻撃が、まるで効いているように見えない。圧倒的な個の暴力が戦場の理を反転させている。

 

「美しく、儚く、凛々しく! あらゆる全て地の底へ。あらゆる例外は天へ羽ばたけ! 蝋の翼は溶けず、荘厳なる極点は自壊する! さぁ、さぁ、さぁ! 私はここにいる! 私はここで戦っている! 私を名を呼んで! 愛しのマルグリート!」

 

 巴マミは強い危機を認識する。

 経験、知識、感覚、理論。あらゆるセンサーで、彼女はここで倒さなければならない、と理解する。

 

「やるしか、ない」

 

 このままではみんな死ぬ。生きると願った自分に、仲間を助けて死ぬなどなんと幸せな事だろう。

 彼女達は孤独だった自分に人の暖かさをくれた。誰かのために戦う気持ちを強く思い出させてくれた。背中に友がいる心強さを教えてくれた。

 

 さあ、今こそあの時に願った奇跡を後続へ託す時。死に場所を定め、己の覚悟を完了させたその瞬間、戦場にたったひとりの「ただの人間」が殴り込みをかけた。

 

「そこまでよ」

 

 鳴り響いた軍靴の音は、まさしく鋼鉄が奏でる洗練された重奏だった。顔の見えぬ黒いベールと喪服を纏いながらも、その姿は最高位。

 

「クリプター……?」

 

 そう、もはや惨劇の幕は引き落とされたのだ。涙の出番など二度と訪れはしない。

 さあ括目せよ、いざ讃えよ。その立ち姿に、打ちひしがれた民は再び希望を見出すがいい。

 ここから幕を開けるのは、どこにでもいる「ただの人間」が泥泥の執念で紡ぎ出す、新たなる世界なのだから。

 ただその姿を現しただけで、荒廃した舞台の全存在感を奪い去り、完璧な主演として立ち塞がる。

 

『銃』『バズーカ』『ロケットランチャー』『手榴弾』『閃光弾』『煙幕弾』『時間操作の魔術』『記憶改竄の魔術』『ドッペルとして従えし魔女』『幾重ものギロチン』『狂乱する魔女の手下』

 

 王道と、邪道。

 正統と、我流。

 機械が誇る冷徹な合理性と、命ある生物が秘める底知れぬ可能性。本来ならば決して相容れぬはずの対極の要素が、狂おしいまでの理想形となってその肉体に融合していた。

 完璧すぎて、視界が眩む。想像を絶する、という陳腐な言葉すら、目の前の圧倒的な存在感を形容するにはあまりに掠れて見えた。

 クリプター暁美ほむらは、目の前の開放者に向けて死の刃を向ける。

 

「貴方は今、ここで止める」

「あら、あらら? 愛しの尊妹ですわね。遊びに来たのですか? 一緒に女神を手に入れましょう! あの悪魔から!」

「貴方の自由にはさせない。いや貴方を自由にさせない!」

 

 お前、何してんの? 過去の私が困っているじゃん! もっと友好的に接して、まどかの人格をもらえるように交渉したかったんですけど!! 喧嘩売るなよ!! めちゃくちゃだるい感じになっちやってるよ!

 

 テンションあがって楽しくなっちゃってつい。あと巴マミの反応が気持ちよくて。まぁ、なんとかなる、なんとかなる。ノリと勢いでやりましょう! もしかしたらマルグリートに名前呼んでくれるかもしれないし!

 

 そんな事態になったらもうおしまいだっつーの!

 

「貴方に失望した。もう期待しない。イレギュラー要素は抹消する。消えなさい!」

「プロローグ……いや、エピローグの始まりですわ!」

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