聖女様の『悪魔の経典 』~元おっさんが遺したクソ料理撲滅レシピ、数百年後に大バズりする~   作:宙うし

1 / 10
聖女様と緑色の悪夢

神の気まぐれか悪戯か。男だったはずの俺は、金髪碧眼の可憐な美少女――「光の聖女」セシリアに転生していた。

内面はおっさんのままだが、求められるのは慈愛に満ちた完璧な聖なる存在。

 

今日も今日とて、魔物に脅かされていた辺境の港町へ赴き、大規模な浄化魔法を一発ぶちかまして仕事を完遂。

町長をはじめとする住民たちは涙を流してひれ伏し、惜しみない感謝を捧げてきた。

 

「おお……聖女様! なんとお礼を申し上げたらよいか……!」

「お顔をお上げください。神の光は、いつでも皆様と共にあります」

 

鈴を転がすような美声で微笑む。完璧だ。プロ聖女としての立ち振る舞いは板についている。

 

「ささ、聖女様! 我ら港町が誇る最高級の伝統名物料理をご用意いたしました!」

「まあ、お気遣い感謝いたします」

 

豪勢な食堂へ通され、目の前に運ばれてきた深皿。

給仕が自信満々に銀の蓋を開けた。

 

そこに鎮座していたのは――

 

(……は?)

 

どろりとした、蛍光塗料めいた怪しい緑色の液体。

その沼のような汁の底から、ぶつ切りにされた太いウナギの皮と白い身がヌラリと顔を出している。

見た目は完全に「緑色のゲロ」だった。

 

(いや待て待て待て!! なんだこの色は!? 毒沼か!? 芝生をミキサーにかけてドブ水で割ったのか!?)

 

「当町の誇る『ウナギの香草煮込み』でございます! 摘みたてのハーブをふんだんに使っておりまして!」

 

町長が胸を張る。周りの兵士も「うまいぞー!」と言いたげな笑顔だ。地元の最高のごちそうなのは間違いないらしい。

 

(ウナギはいいよ! 日本でも蒲焼きとか美味いからな! だがなんでよりによって緑のドロドロ煮込みにするんだよ!!)

 

逃げ場はない。断れば「聖女様が我が町の伝統料理を拒んだ」と大問題になる。

 

(……くそがぁぁぁぁぁ!!)

 

俺は心の中で般若のような顔で叫びながら、優雅な動作でスプーンを取った。

緑の粘液をたっぷり纏わせたウナギのぶつ切りをすくい、躊躇なく口の中へと叩き込む。

 

(ぶはっっっっっっっ!!!)

 

一口含んだ瞬間、脳内で警報が鳴り響いた。

 

(青臭い!! 青臭さが凄まじい!! 生の草をそのまま口いっぱいに詰め込まれた上に、ウナギ特有の強烈な生臭さとヌメリが追撃してくる!! 温かい泥草スープだこれ!!)

 

ハーブの爽やかさなんてどこへ行った。強烈な青草の苦味とウナギの脂が口内で悪魔合体し、胃袋が猛烈な拒絶反応を起こす。

 

激痛と吐き気が脳を突き抜ける。

だが、俺の顔筋は一切の乱れを見せない。

 

「……とても、野性味あふれる素晴らしいお料理ですね」

 

にっこりと、後光が射すような完璧な『聖女スマイル』を浮かべながら。

俺は噛むことを諦め、緑の悪夢をそのまま喉の奥へ流し込んだ。

 

 

――数百年後。

 

【聖教本部・公式】

 本日、聖教中央大書庫に保管されている『悪魔の経典』より、第一篇「ウナギの香草煮込み」を一般公開いたしました。

 光の聖女セシリアが西方の港町を訪れた際に記したものとされています。

 

『悪魔の経典』

第一篇 ウナギの香草煮込み

 

【材料】

 ウナギ(生):ぶつ切りにしたやつ

 なんか雑草(ハーブ):大量(ほうれん草、パセリ、ミント、セージとか適当な緑の草を山盛り)

 バター&エシャロット(玉ねぎでOK):適当

 白ワイン&水(ブイヨン):適量

 小麦粉、レモン汁、塩コショウ:少々

 

【作り方】

1 ウナギのぬめりを取る

 塩でもみ洗いしろ。ぬるぬるしてキモいけど我慢。

 

2 玉ねぎとウナギを炒める

 バターで玉ねぎ(エシャロット)炒めて、ウナギ投入。小麦粉をファサーって振りかける。

 

3 ワインで煮る

 白ワインと水(スープ)をドバドバ入れて、蓋して15分くらい放置。ここまではまだ普通の料理っぽい。

 

4 草を大量投下(絶望ゾーン)

 刻んだハーブ(という名の雑草)をアホほどぶち込む。緑色を保つために「火を止める直前に入れる」のがポイントらしい。一瞬で鍋が緑の地獄になるぞ。

 

5 塩コショウとレモンで完成

 味を整えて完成。見た目は完全に「温かい緑のゲロ」。

 

【戒め】

 青臭い草とウナギの脂がぶつかり合う地獄の悪夢。もし出された場合は噛むのを諦め、そのまま喉の奥へ流し込め。そして後世の人類よ。こんな狂った料理を未来へ引き継ぐことなかれ。

 

♡ 21.7万 ↻ 8.9万 返信 3.8万

 

 

 

@聖女様ガチ勢

 待って。これ本当に聖女様が書いたの?

 

@歴史専攻

 聖教本部公式が出してるんだから諦めろ。

 

@港町民

 朝起きたら郷土料理が大聖女に「緑のゲロ」扱いされてた。

 

@グルメレビュー転載bot

 「『悪魔の経典』で聖女様が『緑のゲロ』とまで言っていたので覚悟して港町の名物店で食べましたが、普通に美味しかったです! 香草の爽やかさとウナギの脂がマッチしてます。聖女様、単に草が嫌いだったのでは?」★5.0

 

@一般信徒

 それハーブ減らした近代改訂版だろ! 当時の再現版食ってから言え!

 

@グルメレビュー転載bot

 「見た目については聖女様に全面的に同意。料理が運ばれてきた瞬間、テーブルに毒沼が召喚されたかと思った」★2.0

 

@再現料理部

 つくレポ書いてみた! レシピ通りにハーブ山盛りで作ってみたら口の中が凄惨な事故現場になりました(笑) 子供は一口で泣き出しました。

 

@再現料理部二号

 「アホほどぶち込め」を忠実に守ってみた。聖女様は正しい! 口の中が大草原で草。

 

@港町民

 だから「アホほど」は調理指示じゃなくて悪口だろ。

 

@グルメレビュー転載bot

 「『意外といける』って言ってる上のレビュー信じて食った俺に謝れ。口の中が全滅した。ただの温かい草原だぞこれ」★1.0

 

@旅動画勢

 【聖地巡礼】例の港町で古式再現版のウナギ香草煮込みを実食! マジで緑の悪夢すぎたwww #聖女巡礼 #クソ飯体験 #港町グルメ

 

@港町老舗食堂公式

 当店では、聖女セシリア様が召し上がったと伝わる当時の香草比率と直筆レシピの工程を可能な限り忠実に再現しております。皆様のお越しをお待ちしております。

 

@一般信徒

 だから忠実に再現すんなって言ってんだろwww

 

@港町民

 子供の頃から普通に食べています。聖女様には申し訳ないですが、我々にとっては今でも最高のごちそうです。

 

@郷土料理保存会

 現在では香草の種類や配合を調整したものも広く食べられています。昔ながらの作り方だけがすべてではありません。

 

@一般信徒

 聖女様の願い叶ってるじゃん。

 

@料理好き

 クソ料理は後世で改善しろ

 ↓

 数百年後、本当に改善される

 聖女様の『悪魔の経典』、仕事してるな。ヨシ!

 

@歴史専攻

 ちなみに「噛むことを諦め、そのまま喉の奥へ流し込め」って記録されてるけど、信仰落ちたら奇蹟使えなくなるから当時の聖女様にとってはガチで命懸けの完食だった模様。

 

@聖女様ガチ勢

 聖教史書には「聖女セシリアは当地の料理を慈愛の微笑みとともに召し上がった」って書いてあるんだけど。

 

@歴史専攻

 食ってる最中は笑顔で耐えて、裏で「緑のゲロ」って書いてたんだよ。

 

@聖女様ガチ勢

 プロ意識の塊すぎる……聖女様泣きながら食べてくれたんやな……。

 

@旅人

 でも『悪魔の経典』読みながら食うとめちゃくちゃ面白い。味より聖女様がどんな顔で飲み込んだかを想像して笑ってしまうw

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。