聖女様と悪魔の経典 作:スペカウ
神の気まぐれか悪戯か。男だったはずの俺は、金髪碧眼の可憐な美少女――「光の聖女」セシリアに転生していた。
内面はおっさんのままだが、求められるのは慈愛に満ちた完璧な聖なる存在。
今日も今日とて、魔物に脅かされていた辺境の港町へ赴き、大規模な浄化魔法を一発ぶちかまして仕事を完遂。
町長をはじめとする住民たちは涙を流してひれ伏し、惜しみない感謝を捧げてきた。
「おお……聖女様! なんとお礼を申し上げたらよいか……!」
「お顔をお上げください。神の光は、いつでも皆様と共にあります」
鈴を転がすような美声で微笑む。完璧だ。プロ聖女としての立ち振る舞いは板についている。
「ささ、聖女様! 我ら港町が誇る最高級の伝統名物料理をご用意いたしました!」
「まあ、お気遣い感謝いたします」
豪勢な食堂へ通され、目の前に運ばれてきた深皿。
給仕が自信満々に銀の蓋を開けた。
そこに鎮座していたのは――
(……は?)
どろりとした、蛍光塗料めいた怪しい緑色の液体。
その沼のような汁の底から、ぶつ切りにされた太いウナギの皮と白い身がヌラリと顔を出している。
見た目は完全に「緑色のゲロ」だった。
(いや待て待て待て!! なんだこの色は!? 毒沼か!? 芝生をミキサーにかけてドブ水で割ったのか!?)
「当町の誇る『ウナギの香草煮込み』でございます! 摘みたてのハーブをふんだんに使っておりまして!」
町長が胸を張る。周りの兵士も「うまいぞー!」と言いたげな笑顔だ。地元の最高のごちそうなのは間違いないらしい。
(ウナギはいいよ! 日本でも蒲焼きとか美味いからな! だがなんでよりによって緑のドロドロ煮込みにするんだよ!!)
逃げ場はない。断れば「聖女様が我が町の伝統料理を拒んだ」と大問題になる。
(……くそがぁぁぁぁぁ!!)
俺は心の中で般若のような顔で叫びながら、優雅な動作でスプーンを取った。
緑の粘液をたっぷり纏わせたウナギのぶつ切りをすくい、躊躇なく口の中へと叩き込む。
(ぶはっっっっっっっ!!!)
一口含んだ瞬間、脳内で警報が鳴り響いた。
(青臭い!! 青臭さが凄まじい!! 生の草をそのまま口いっぱいに詰め込まれた上に、ウナギ特有の強烈な生臭さとヌメリが追撃してくる!! 温かい泥草スープだこれ!!)
ハーブの爽やかさなんてどこへ行った。強烈な青草の苦味とウナギの脂が口内で悪魔合体し、胃袋が猛烈な拒絶反応を起こす。
激痛と吐き気が脳を突き抜ける。
だが、俺の顔筋は一切の乱れを見せない。
「……とても、野性味あふれる素晴らしいお料理ですね」
にっこりと、後光が射すような完璧な『聖女スマイル』を浮かべながら。
俺は噛むことを諦め、緑の悪夢をそのまま喉の奥へ流し込んだ。
☆☆☆TS聖女のバカでもわかるウナギの香草煮込みレシピ☆☆☆
【材料】
ウナギ(生):ぶつ切りにしたやつ
なんか雑草(ハーブ):大量(ほうれん草、パセリ、ミント、セージとか適当な緑の草を山盛り)
バター&エシャロット(玉ねぎでOK):適当
白ワイン&水(ブイヨン):適量
小麦粉、レモン汁、塩コショウ:少々
【作り方】
1 ウナギのぬめりを取る
塩でもみ洗いしろ。ぬるぬるしてキモいけど我慢。
2 玉ねぎとウナギを炒める
バターで玉ねぎ(エシャロット)炒めて、ウナギ投入。小麦粉をファサーって振りかける。
3 ワインで煮る
白ワインと水(スープ)をドバドバ入れて、蓋して15分くらい放置。ここまではまだ普通の料理っぽい。
4 草を大量投下(絶望ゾーン)
刻んだハーブ(という名の雑草)をアホほどぶち込む。緑色を保つために「火を止める直前に入れる」のがポイントらしい。一瞬で鍋が緑の地獄になるぞ。
5 塩コショウとレモンで完成
味を整えて完成。見た目は完全に「温かい緑のゲロ」。青臭い草と生のウナギの脂がぶつかり合う地獄のハーモニーを楽しんでくれ!