聖女様の『悪魔の経典 』~元おっさんが遺したクソ料理撲滅レシピ、数百年後に大バズりする~   作:宙うし

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聖女様と酸の魔王

華龍帝国の素晴らしいもてなし料理に、久しぶりに舌鼓を打った翌朝。俺たちは総督から、新たな悲鳴混じりの依頼を受けていた。

 

「聖女様! 実は当総督府の管轄にある『百草村』が、恐ろしい魔物の被害に遭っておるのです!」

 

総督が汗を拭いながら地図を広げる。

 

「百草村は我が国屈指の超高級薬草の産地なのですが……ひと月前に山から降りてきた巨大な牛の魔物が畑を荒らし、最上級の薬草を片っ端から食い荒らしておるのです! 村人たちは『牛魔王』と呼んで恐れており……どうか退治していただけないでしょうか!」

 

(牛魔王???)

 

俺は思わず総督の顔を二度見した。

 

(ネーミングセンスが安直すぎるだろ!! 著作権的に大丈夫かそれ!? 華龍帝国の西遊記(?)ブームに乗っかりすぎだろ!!)

 

「わかりました。人々を苦しめる魔物とあらば、神の御名において討伐いたしましょう」

 

ツッコミを必死に飲み込み、俺は神々しく頷いた。

 

*

 

百草村へ到着すると、そこはまさに惨状だった。

辺り一面に広がる極上薬草畑は見る影もなく、その真ん中を、家一軒ぶんほどもある巨大な牛がドスドスと地鳴りを響かせながら歩き回っている。

 

……うん、ただのデカい牛だ。

 

(……どこが魔王やねん!!!! ツノが立派で体がデカいだけの牛じゃねえか!! 二足歩行するとか人型になるとかマント羽織るとか、もう少し魔王っぽい要素出せよ!!)

 

しかも、このバケモノ牛、村の貴重な薬草をたらふく食い荒らしたせいか、全身から「ハーブと青草のイイ匂い」を撒き散らしている。

 

『モォォォォォォォォッ!!』

 

「来ます!」

 

アルベルトが聖剣を抜く。

……が、ぶっちゃけ相手はデカいだけの牛である。

先の赤龍に比べれば可愛いものだった。

 

「レヴィ、足を止めますよ!」

「はいっ♡」

 

俺たちの光の鎖が四本足を縛り上げ、身動きが取れなくなった『牛魔王』の首元へ、アルベルトの聖剣が一閃。

 

ズバァッ!!

 

『モバッ!?』

 

あっけなく崩れ落ちる牛魔王(笑)。討伐完了までわずか二十秒。

村に再び平和が戻ったのだった。

 

*

 

「おおお! 感謝いたします、聖女様! 勇者様!」

 

百草村の村長が涙を流して俺たちの手を握りしめた。

 

「村の命である薬草畑を救ってくださり、なんと御礼を言えばよいか……! つきましては、感謝の意を込めまして、我が村自慢の薬草と、さきほど討伐していただいた最高の牛を合わせた『体にイイ特別料理』でおもてなしさせてください!」

 

(おお! 薬草と最高の牛!!)

 

俺のテンションが密かに跳ね上がった。最高の牛って要は元牛魔王(笑)なんだろうが、まぁ気にするまい。

 

(薬草のタレでいただく牛肉の和え物か? あるいは薬膳牛すじ煮込みか!? 実は俺、牛ホルモンのプリプリした脂の旨味が大好きなんだよな~! 華龍帝国の本場の中華ホルモン料理、期待しちゃうぞ!!)

 

「さぁ、できあがりました! どうぞお召し上がりください!!」

 

村長が掛け声とともに、大鍋の蓋を勢いよく開けた。

 

「「「…………」」」

 

俺の脳内から、ホルモンの甘い脂のイメージが音を立てて蒸発した。

 

視界に飛び込んできたのは――ドロドロとした緑褐色の怪しい沼。

 

鍋の底からポコッ……ポコッ……と気泡が弾けるたびに、部屋中に立ち上る湯気。

その匂いたるや、香草の爽やかさなど微塵もない。

 

(な、なんじゃこりゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??)

 

見た目はまるで「ドブから掬ってきた苔の煮凝り」。匂いはダイレクトに「牛のお尻の真裏」。

ホルモンのプリプリ感なんてどこにもねえ! うんこのブリブリ感ならここにあるがな!

 

「……あ、あの、村長さん?」

 

俺はひきつる顔面筋を『聖女スマイル』で必死に固定しながら尋ねた。

 

「これは……一体どのようなお料理なのでしょうか……?」

「ふふふ、よくぞ聞いてくださいました!」

 

村長はドヤ顔で胸を張った。

 

「これぞ我が村の秘伝『牛瘪火鍋』でございます! 先ほど倒していただいた牛魔王は、我が村の最高級薬草を数日間にわたって大量に食い荒らしておりましたでしょう?」

「ええ、まあ」

「つまり! あの牛魔王の胃袋には、未消化の最高級薬草がたっぷりと詰まっていたのです! そこで、討伐されたあやつの胃からその未消化の草を取り出し、ぎゅ~っと手で絞り出したエキスに、牛の胆汁と香辛料を加えて煮込んだスープでございます!!」

「…………」

 

俺の思考が完全にフリーズした。

 

胃から取り出した。未消化の草。それを絞り出したエキス。

 

(それゲロ汁ってことだろうがぁぁあぁ!!???? 比喩じゃなくて! 創作の例えとかじゃなくて! まじもんのゲロ(未消化物)だろこれえええええええっ!!!!)

 

牛の胃袋の中で唾液と胃液と胆汁に揉まれたグチャグチャの草の絞り汁!!

それを「体にイイ」とか言ってドヤ顔で出してくんじゃねえよ! イカれてんのかこの村ぁぁぁぁぁぁぁっ!?

 

「さあさあ! 温かいうちにどうぞ! 体の毒素が一気に抜けますぞ!」

 

お玉で緑のゲロスープを深皿に盛られる。

隣を見ると、レヴィが白目を剥いて震えていた。

 

(死せる牛魔王、生ける聖女を震え上がらすってか……!)

 

「聖女様ぁ……これ……胃液と牛小屋の匂いがしますぅ……♡」

「……そうね。魔王の命を感じるわね」

 

俺たちは互いに神聖装備「マイ塩袋」を固く握りしめた。だが、こんな濃密な草と胃液の臭気にマイ塩を振ったところで、塩味のゲロ汁にしかならん!!

 

「おおおっ!!」

 

ここで、案の定バカが声を上げた。

 

「これは凄まじい!  薬草の放つ力強い青みと、牛の生命の源が融合した至高の滋味! 苦味の奥に大地の恵みを感じますな!!」

 

アルベルトが汗を吹き出させながら、緑のスープを美味そうにガブ飲みしている。

 

(滋味で片付けるなバカ勇者ぁぁぁぁぁぁっ!! お前は牛の胃液飲んで喜んでんだぞ!! そういう性癖なんか!?)

 

「セシリア様も、冷めないうちにどうぞ!」

 

村人の期待の眼差し。

断れば信仰が落ちる。するとこの異国の地で奇跡が撃てなくなり、魔王の封印が解き放たれてしまう。すなわちそれは、この世界の滅亡を意味する!

 

(牛魔王(笑)とか言ってすみませんでしたぁぁぁぁぁぁ!! お前、立派な魔王だよ!! 料理になってからが本番のタイプの魔王だったよ!!)

 

俺は神域の顔筋コントロールで『シン・聖女スマイル』を貼り直すと、意を決して緑のスープを口に含んだ。

 

瞬間――。

 

(おっふっっっっっっっっっっっ!?!?!?)

 

脳内で何かのスイッチが切れ、視界が極彩色の曼陀羅模様に染まった。

苦い! 臭い! 草! 牛! 胃液!!

 

ガツンと押し寄せる強烈な苦味と、口いっぱいに広がる強烈な青草と家畜小屋の風味と、鼻を突き抜ける内臓臭のまざった謎の酸味の暴力が怒涛の勢いで押し寄せてくる!!

 

「……素晴らしい……クサ味……ですわ……」

 

俺は菩薩のような笑顔を浮かべながらスープを飲み干し、静かに意識を飛ばしたのであった――。

 

 

――数百年後。

 

【聖教本部・公式】

 本日、聖教中央大書庫に保管されている『悪魔の経典』より、第十篇「牛瘪火鍋」を一般公開いたしました。

 光の聖女セシリアが華龍帝国の百草村を訪れた際に記したものとされています。

 

『悪魔の経典』

第十篇 牛瘪火鍋(牛糞火鍋)

 

【材料】

 牛肉・牛モツ:たっぷり

 牛の胃の中の未消化物:適量(牛を〆るちょっと前に草をくわせておけ)

 牛の胆汁:少々(苦味の元凶)

 ショウガ・ニンニク・花椒・唐辛子・陳皮など:適量(人類最後の抵抗)

 塩:適量(いちおう料理だからね……)

 

【作り方】

1 薬草を食った牛を調達する。(〆る)

 せめてもの抵抗として極上の草をあつめろ。未消化(ゲロ)ねらいだから、それを牛に食わせて、1時間ほどしたら殺れ。

 

2 胃袋を開ける(絶望ゾーン)

 未消化の薬草を取り出し、布でぎゅっと絞って緑色のエキス(牛瘪)を抽出する。草の繊維や不純物を丁寧に取り除くため、何度も濾過しろ。これによって衛生的で滑らかな汁になるらしい。よかった。

 

3 煮込む

 搾った牛瘪を鍋に入れ、ショウガ、ニンニク、花椒、唐辛子、陳皮などを加える。さらに牛胆汁を少量加える。なぜ苦いものに苦いものを追加するのか。

 

4 牛肉と牛モツを煮て完成

 ここでようやく普通の食材が登場する。だが果たして完成させていいものか……悩むだけ無駄だ。

 

【戒め】

 「腐草臭」×「牛糞臭」×「酸臭」=「見た目は濁った薬草鍋」。とにかく苦い。味そのものより、知識が敵である。正体を知らなければ食えるかもしれないが、知った瞬間に食えなくなる。料理とは情報戦である。

 

♡ 88.4万 ↻ 42.1万 返信 19.8万

 

 

 

@聖女様ガチ勢

 第十篇きたあああ! ってゲロ鍋じゃねえかwww

 

@一般信徒

 牛の胃の中の未消化物=実質ゲロで草。

 

@一般通過信徒

 ゲロで草なのか、ゲロが草なのか……

 

@華龍民

 いや牛瘪火鍋は我が国の伝統的な薬膳料理だから! 体に良くてお腹壊さないから! 苦味の奥にコクがあるから!

 

@一般通過信徒

 じゃあ、お前は日ごろからこれ食ってんだろうな? どうなんだ、おおん!?

 

@グルメレビュー転載bot

 「一口目は強烈な苦味と、牛のお尻に顔を突っ込んだような牧草臭で吐きそうになりました。でも食べ進めると妙なスッキリ感があります」★2.0

 

@グルメレビュー転載bot

 「現地で『牛のフン鍋』と呼ばれていてビビりましたが、フンではなく未消化の草と聞いて安心……できるかバカ! 激マズです!」★1.0

 

@一般信徒

 これが好きといえる根性がすごいと思うw

 

@料理好き

 さすがに★5.0レビューはないみたいだな。

 

@勇者研究会

 勇者アルベルト『東方遠征記』より。「百草村にて牛瘪火鍋を頂く。大地の恵みと命の循環を感じる至高の滋味であり、二杯おかわりをした」

 

@一般信徒

 『悪魔の経典』が公開されてから、『勇者』とは『ゲテモノ料理に立ち向かえる勇気をもつ者』って意味なんだって初めて知ったわwwww

 

@レヴィ研究会

 聖女伝第十篇より。「聖女セシリアは、出された緑のスープを一口召し上がると、神々しい後光とともに感涙を流し、そのまま悟りを開かれたかのように静かに瞼を閉じられた」

 

@歴史専攻

 悟りを開いた(気絶)

 

@再現料理部二号

 つくレポ書いてみた! 未消化草を絞ってる最中から自分ひとりになったけど最後までがんばりました!!(※現在、部室で部長が白目を剥いて倒れています)

 

@一般通過信徒

 ついに犠牲者がでてて草。

 

@旅動画勢

 【地獄】華龍帝国で噂の『牛瘪火鍋』食ってみた! 嘘です、ホントは食えませんでしたorz #聖女巡礼 #クソ飯体験 #牛瘪火鍋 #謝罪

 

@一般信徒

 炎上系すら逃げ出すレベルのゲロ汁w

 

@百草村観光協会【公式】

 『悪魔の経典』第十篇の公開、大変光栄でございます! 今週末、当村中央広場にて直径10mの大鍋で煮込む「大牛瘪火鍋祭り」の開催が決定いたしました! #巨大牛瘪火鍋 #百草村

 

@聖女様ガチ勢

 まじで聖女様が命がけで封じた地獄の釜を開くなよw

 

@一般通過信徒

 「直径10mの大鍋で煮込む大牛瘪火鍋祭り」とかいうパワーワード! 強いw

 

@百草村観光協会【公式】

 ※追記:一般観光客の皆様向けに「特製グリーンポタージュ(※普通の野菜です)」の屋台も併設いたします! 安心してお立ち寄りください! #グリーンポタージュ #安全安心

 

@一般通過信徒

 注釈の「※普通の野菜です」で耐えられなかったwww逃げ道作ってくれてて優しいww

 

@一般信徒

 本当に普通の野菜なんだろうか? 現代の情報戦では?

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