聖女様の『悪魔の経典 』~元おっさんが遺したクソ料理撲滅レシピ、数百年後に大バズりする~ 作:宙うし
ご注意ください。
不治山で聖剣を鍛え直した俺たちは、今度は魔王の封印調査のため、ヤッポンの帝都にある最高権力者『ミカド将軍』の御所に招かれていた。
「帝なのか将軍なのかどっちなんだよ」という俺の内心のツッコミをよそに、豪快な鎧姿のミカド将軍は、刀をバンバンと叩きながら満面の笑みで叫んだ。
「ようこそ聖女殿、勇者殿! 実はな、北の離島『オッキ島』にて、数百年前に魔王の手先となり初代聖女様に封印された……我が一族の恥晒し、第五代ミカド将軍・ゴダイゴの怨霊が暴れておるのだ! 先祖の不始末は現当主たる余の手で滅絶する! いざ共に出陣じゃぁぁぁッ!」
(……待て待て待て!! お前も行くんかァァァァい!!)
「おおおッ! まさに武士の鑑! 拙者もお供仕るでござるよ、ミカド将軍殿ッ!」
こうして、侍に完全に感化されたアホ勇者と、輪をかけて脳筋な現・ミカド将軍による討伐行が幕を開けた。
*
オッキ島の封印の祠に到着するやいなや、地響きとともに地面が割れ、雲を突くほどの巨躯を誇る大魔神のごときゴダイゴ怨霊と、その背後から無数の怨霊武者軍勢が押し寄せてきた!
『ぬはははは! 我こそは暗黒武芸の祖、第五代ミカド将軍・ゴダイゴなり! 出でよ我がツワモノども! 喰らうがいい、絶技・暗黒一文字――』
「シュヴァルツ流奥義・神聖一文字切りでござる!!」
「我が一族の恥晒しどもめ、まとめて成仏せいッ! 秘技・将軍一文字斬りぃぃぃッ!!」
「修道奥義・暗黒一文字突き〜♡」
ズババババババァァァァンッッ!!!!
生まれ変わった聖剣を大回しにするアルベルトの衝撃波、物理攻撃で先祖の軍勢をボコボコになぎ倒すミカド将軍、そしてなぜか手刀の突きでゴダイゴの膝裏に嫌がらせ攻撃を加えていくレヴィ。
自慢の奥義を繰り出す暇すら与えられず、三人による一文字攻撃ラッシュを浴びた大魔神ゴダイゴと軍勢の大半は、ものの3秒で跡形もなく粉砕・霧散・完全消滅した。
だが、祠の周囲にはまだ大量の怨霊武者が残っており、主を失ってなお、こちらへゾロゾロと押し寄せてくる。
「ハハハ! 実に爽快! 大将首は取ったでござる! さあセシリア様、残る軍勢の浄化と封印修復も……『一文字』で締めくくってくだされ!」
「うむ! 残党どもをまとめて成仏させ、封印も修復してこその完全勝利じゃ! 聖女殿の『一文字』、余もとくと拝見したいぞ!」
「聖女様ぁ〜♡ 『一文字』修復ですよぉ〜♡」
(……は??? 何その『お前も一文字で締めろよ』みたいな同調圧力!? 聖女の神聖魔法に 『一文字』なんて属性ねえだろがよ!!)
だが、脳筋二人の期待に満ちた視線と、レヴィのニヤニヤした視線を一身に浴び、引くに引けない空気。
俺は神域の顔筋コントロールで神々しい笑みを浮かべ、押し寄せる怨霊武者たちと祠の要石をまとめて狙い、杖をやけくそ気味に横へ一閃させた!
「聖天奥義・極光一文字修復……!!」
ドゴォォォォォンッッ!!!!
無駄に練り上げた白銀の神聖光が横一文字に炸裂。
残存していた怨霊武者たちは一瞬で跡形もなく消し飛び、祠の要石からはカチッという修復音が響いた。
……が、放たれた高濃度エネルギーはそこで収まらず、そのまま祠の背後に聳え立つ巨大な山を根元から横一文字に薙ぎ払い、丸ごと削り飛ばしてしまった!
(やっべえ、山がァァァァァ!! 島の地形まで変えちまったァァァ!!)
「「おおおッ! 見事な一文字修復でござる(じゃ)!!」」
「すごーい♡ 怨霊も山も綺麗さっぱり消えましたぁ〜♡」
(いや、すごーい♡じゃねえよ!! 山が消えたんだぞ!? なんで誰も気にしてねえんだよ!!)
俺は冷や汗をダラダラ流しながら、ドヤ顔の脳筋二人とクズ見習いに引きつった笑みを向けるのだった。
*
その日の夜、島民たちが集会所で盛大な感謝の宴を開いてくれた。
「聖女様、勇者様、そしてミカド将軍様! ゴダイゴ様の怨霊の脅威を退けていただき感謝に堪えません! ささ、我が島ならではの極上の珍味『べこ』をご用意いたしました!」
村長の手合図で運ばれてきたのは、水で満たされた大きな桶。
そこに漂っていたのは――
紫色の毒々しい液体を吐き散らしながら、ヌラヌラと蠢くグロテスクな大塊『アメフラシ』であった。
(でっけえ海ナメクジじゃねえか!! っていうかあの紫のは毒液か!? こんなもの食って大丈夫なのか???)
「ほう! これが『べこ』なる生き物か! なんとも愉快な姿をしておろう」
海の珍しい生き物マニアのミカド将軍が、目を輝かせて桶の中を覗き込む。
「……随分と、その、個性的な生き物でございますね」
「うむ! 実はな、これが食べられると聞いて余も楽しみにしておったのだ。……しかし、あれを煮るとこんなにも小さくなるのか!?」
給仕が恭しく運んできた大皿には、細かく刻まれ、甘辛く煮詰められて真っ黒に縮み上がった「濃縮された黒いゴムスポンジの醤油漬け」が鎮座していた。
(黒っ!! 小さっ!! どこからどう見てもブヨブヨしたタイヤの煮込みじゃねえか!!)
「さあ、勝利の饗応じゃ!」
ミカド将軍が豪快に声を上げると、村長をはじめ島民たちが一斉にこちらへ視線を向けた。自慢の郷土料理が国の最高権力者と異国の聖女にどう評価されるのか、期待と緊張で胸がいっぱいらしい。
(おいおい!! そんなキラキラした目で見つめるなよ!!)
「聖女様ぁ〜♡ 私、さっきの一文字攻撃で疲れちゃったのでぇ、お部屋で休ませていただきますねぇ〜♡」
レヴィが秒で退席。
(空気読めよ、このクズ見習いがぁぁぁ!! 一文字とか言ってたけど、お前ゴダイゴの膝裏をツンツン突っついてただけだろ! 何に疲れんだよ!!)
さっそく随伴機が一機離脱してしまった。
だが俺には、何でも美味いと言う頼もしすぎる『人間処理場』アルベルトがいる!
「セシリア様! 島の皆の心尽くし、拙者、武士としてありがたく頂戴仕るでござる!」
アルベルトは極上の笑顔で酒杯を掲げ、勇ましく箸を伸ばす。
島民たちの期待に満ちた視線が突き刺さる中、俺も覚悟を決め黒い塊を口へ放り込んだ。
(…………ッッッ!!!???)
ムニュッ。
歯を入れた瞬間、肉厚な弾力がぬるりと刃返しのように反発してくる。
噛み切ろうと力を込めると、ブヨブヨとした異様な弾性が歯を滑らせ、一向にブチリと切れてくれない。
(ムニュムニュすんなッ!! 噛んでも噛んでも旨味が出てこねえし、咀嚼の不毛感がヤバい!!)
そんな俺の横で、ミカド将軍とアルベルトが慎重に一口目を噛み締め……同時に首をひねった。
「……あまりよくないな」
「……左様でござるな。かなり不可思議な弾力でござる」
(!? 国のトップがまずいって言っちまったぞ! 俺、もう食わなくていいかな!?)
ところが、ミカド将軍は興味深そうに再び箸を伸ばした。
「しかし、島民がこれほど珍重するのじゃ! ミカド将軍たるもの、もう一口食べてみねば真価は分からん! 聖女殿も共に参ろうぞ!!」
「おおっ! まさに武道の探求心! セシリア様、拙者もお供仕るでござる!!」
(まずいって思ってんのに、俺を巻き込むなアホどもがァァァァァッ!!)
二人は二口目を口に運び、揃って真剣な顔でムニュムニュと噛み締めた。
「……やはり、あまりよくないな」
「……うむ。弾力が強すぎて噛み切りにくいでござるな」
「聖女殿はいかがかな!?」
「……ええ、なんとも武士らしい……手ごわい跳ね返し感でございます」
村長の顔からはすっかり笑みが消え、後ろに控える島民たちまで不安げに顔を見合わせている。二度も芳しくない評価を下したミカド将軍の口元を、全員が祈るような目で見つめていた。
すると、ミカド将軍とアルベルトはガシッと固い握手を交わし、三度目の正直とばかりに三口目をつまみ上げた!
「ふむ! 三度食せば見えてくる境地もあるはず!」
「いざ! 参るでござる!」
口に入れた直後、アルベルトの目がカッと見開かれ、背後から黄金の悟りのオーラが立ち上った!
「……見え申した!! ついに見え申したぞ、この料理の神髄がッ!! この幾度噛み締めても跳ね返す弾力こそ、荒波に鍛えられし海の生命力!! 鼻を抜ける磯の香りは大海原の息吹、舌に残るほろ苦さは厳しき海を生き抜いた証!! そして、この奥ゆかしいまでに控えめな旨味……!! 美味いッ!! 拙者、今まさにオッキ島の海そのものを噛み締めているでござるゥゥゥ!!」
「「「おおおおおっ!! 勇者様が『美味い』と仰ったぞーッ!!」」」
集会所に島民たちの歓声が響き渡り、村長をはじめ全員がパッと表情を輝かせた!
(よしィィィ!! さすが何でも美味いバカ!! よくやったアルベルト!! 村長たちの笑顔が戻ったぞォォォ!!)
……と、安堵したのも束の間だった。
「……ふむ。やはり、あまりよくないな」
ミカド将軍が真顔で呟いた。
瞬間。
宴の会場に、ヒュッと冷たい風が吹き抜けた。
たった今まで歓喜に沸いていた島民たちの笑顔が、一斉に凍りつく。村長に至っては顔面蒼白となり、今にも泡を吹いて気を失いそうだ。
(このッ、ミカドと将軍のハイブリッドクソ野郎がぁ……!! 探求心だけで三度も食って民を絶望のズンドコに叩き落とすんじゃねぇよ!)
すると、追い詰められた村長が、他の島民たちが、最後の希望を求めるように次々と俺へ視線を向けてくる。
退路は断たれた。
俺は覚悟を決め、黒い弾力塊を二個同時に口へ叩き込む!
――ムニュォムニュォッ。
ぬるりと跳ね返すブヨブヨの弾力が二個同時に口腔内で暴れ回り、歯茎と顎筋が悲鳴を上げる。しかも、甘辛い煮汁の味が薄れるにつれ、妙な磯臭さが鼻を抜け、舌にはじんわりと苦味とえぐみが広がっていく。
だが俺は、その忌まわしい海のナメクジをどうにか喉の奥へ流し込むと、神域の顔筋コントロールで神々しい「大絶賛聖女スマイル」を浮かべた。
「……とても、磯の香り豊かな……噛み応えのあるお料理ですね」
「「「せ、聖女様ぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」」」
集会所に、島民たちの感動の嵐が巻き起こった。
涙を流して感謝する村長。大歓声を上げる子供たち。
(村人の笑顔は守ったぞ……!!)
こうして俺は、転生して初めて訪れた和風の国ヤッポンで、ついぞまともなものを食えぬまま、次なる国へと旅立つことになったのであった。
――数百年後。
【聖教本部・公式】
本日、聖教中央大書庫に保管されている『悪魔の経典』より、第十六篇「べこの甘辛煮」を一般公開いたしました。
光の聖女セシリアがヤッポン・オッキ島の封印修復の際に記したものとされています。
『悪魔の経典』
第十六篇 べこの甘辛煮
【材料】
べこ(アメフラシ):数匹(煮ると信じられないくらい縮む)
醤油、みりん、砂糖:適量(濃いめに味付けろ)
【作り方】
1 アメフラシを捕まえる(絶望ゾーン)
まずは食べても毒に当たらない個体を確保しろ。こいつは食った海藻の毒素を体内に溜め込むことがあるぞ。素人は絶対に手を出すな!!
2 内臓と卵を取り除く
内臓や卵にも毒が含まれる場合があり、煮ても焼いても消えないぞ。しかも、取り除けば絶対安全という保証もない。下処理を甘く見れば、食卓がそのまま墓場となる!
3 湯がく
湯に放り込むと、まるで洗剤をぶち込んだかのような恐ろしい量のアクが湧き出してくる。でも食器を洗っているわけではないから安心しろ。
4 醤油、みりん、砂糖で煮詰める
汁気がなくなるまでしっかり煮詰めろ。煮るほどに縮み、妙な弾性と粘り強さが増し、一見すると昆布の佃煮のような物体が完成する。
【戒め】
見た目はただの佃煮だが、その正体は甘辛いタレを纏ったブヨブヨのゴムスポンジである。噛めばサザエとアワビを十倍に薄めたようなペラい味が広がり、旨味の代わりにむにゅむにゅした弾力だけがしぶとく居座る、ミカド将軍公認のクソ料理である。後世の人類よ、さしてうまくもない料理に命をかけることなかれ。
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@聖女様ガチ勢
第十六篇キターーー!! 「さしてうまくもない料理に命をかけることなかれ」で草www
@一般信徒
何食わされたら料理の戒めが遺言みたいになるんだよwww
@オッキ民
おい!! べこはうちの島の立派な郷土料理だからな!? 独特の弾力が旨いんだよ!!
@料理好き
べこはアメフラシの地方名ですね。甘辛い煮汁と独特の食感を楽しむ料理ですが、個体や部位によっては有害成分を含む場合があります。加熱しても安全になるとは限らないので、素人の採集・調理は避けてください。
@グルメレビュー転載bot
「オッキ島の旅館でいただきました。甘辛い醤油の味がよく染みていて、噛むほどに磯の風味が広がります。独特のむっちりした歯応えが癖になりますね。お酒のつまみにもぴったりで、また食べたいと思いました!」★4.0
@グルメレビュー転載bot
「オッキ島の居酒屋で食べました。口に入れるとブヨブヨで、噛んでも旨味がほとんどなく、薄い苦味と磯臭さだけが残ります。三回食べてみましたが、やっぱり美味しくありませんでした」★1.0
@一般通過信徒
低評価レビューの奴、なんで律儀に三回も食ってんだよwww
@再現料理部二号
部長がまたやらかしました。自分で捕まえたアメフラシを煮て食べたところ、激しい嘔吐で病院送りに。今は回復中ですが、「悟りが開けなかった」と悔しがっております。もう二度とアメフラシには触らせません。
@一般信徒
経典に「命をかけることなかれ」って書いてんだろォォォ!! なんで身をもって戒めを実証してんだよwww
@歴史専攻
ちなみに、ヤッポン史には『オッキ島ゴダイゴの合戦』という事件が記録されています。第五代ミカド将軍・ゴダイゴの怨霊たる大魔神とその軍勢が復活し、当時のミカド将軍と聖女セシリア一行が討伐。その際、祠の背後にあった巨大な山が平坦になり、現在の『一文字平原』が生まれたと伝えられています。
@オッキ民
ちょっと待て!! あの『一文字平原』って聖女様が作ったのかよ!? 学校じゃそんなこと教わってねえぞwww
@レヴィ研究会
『レヴィ伝』には、見習い聖女レヴィ様の武勲も記されています。「魔神ゴダイゴの死角へと潜り込み、秘奥義『暗黒一文字突き』をもって膝裏の急所を幾度となく攻め立て、その巨躯の動きを封じたり。勇者と将軍の勝利を陰より支えし功績、比類なし」
@一般通過信徒
暗黒一文字突き……!? 妙な名前だな……?
@勇者研究会
アルベルト様の『極東東行記』には、その夜の宴についても記録があります。「オッキ島にて珍味『べこ』を食す。拙者は三度目にして海の滋味を悟り、大いに賞賛仕る。されどミカド将軍殿は三度食されしも、ついぞ御口に合わず、島民は悲嘆に暮れたり。ここにセシリア様、民の嘆きを憐れみ、供されしべこを一片も残さず召し上がられたり。その御尊顔には慈愛の微笑みが満ち、島民は皆、感涙に咽びたり」
@一般信徒
ミカド将軍、三回食って不味い認定かよwww 当時の村民は死を覚悟したんじゃねぇのかwww
@聖女様ガチ勢
民を悲しませまいと、クソ料理を積極的に食べて絶賛されたのか……!! やっぱり聖女様は慈愛の化身だよ!!
@旅動画勢
【炎上覚悟】ヤッポン史書に残る「ミカド将軍の試食」を完全再現!! オッキ島の老舗旅館でべこを食って「まずい」を三連発したら、宴会場の空気が凍りついて大炎上wwwww #聖女巡礼 #クソ飯体験 #べこ #ミカド構文 #歴史再現
@オッキ民
迷惑系配信者として通報したわ。二度とうちの島に来んな!!
@オッキ島観光協会【公式】
『悪魔の経典』第十六篇公開記念!! ミカド将軍が三度食して、三度とも御口に合わなかった伝説の郷土料理を、まさかの三個セットで発売開始!!その名も『べこ・三度目の正直セット』!! 皆様もぜひ、ミカド将軍と同じ境地をご体験ください!! ※三個食べても美味しくなる保証はございません。 ※地元料理人が適切に調理した商品です。
@一般通過信徒
美味くないことを売りにすんなwwwww
昭和天皇も認めた不味さ、経典入りでよろしいですよね!
作者多忙につき、これからは月3か4回の更新ペースに落ち着くと思いますが、よろしくお願いします。