聖女様と悪魔の経典   作:スペカウ

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聖女様と甘酸っぱい腐敗の罠

豪華な聖女生活を守るためには、絶対に破ってはならない鉄の掟がある。

 

(……二度と、あんな思いはゴメンだ)

 

かつて俺は、ある村で出された怪しげな郷土料理を、丁寧かつ穏やかに「少々お腹がいっぱいでして……」と断ったことがある。

 

するとどうだ。村人たちは「聖女様は我々の料理を馬鹿にされた」「田舎者の飯など食えないのだ」と激しく落胆。その噂は一気に広まり、俺への信仰心はガタ落ちした。

 

直後に現れた雑魚魔物との戦い。いつもなら一瞬で焼き払える聖光魔法が、まさかの不発に終わった。治癒も浄化も出力ゼロ。本気で死にかけた。

 

そう、聖女の奇蹟とは、人々の信仰と感謝を燃料にするエンジンなのだ。

だから俺は心に決めている。どれほど狂った料理が出されようと、笑顔で完食すると。

ふかふかの羽毛布団と専属馬車と、己の命のために。

 

 

今日の仕事は、のどかな農村を脅かしていた『土掘り大トカゲ』の群れを討伐し、荒らされた畑を聖光の浄化で復元することだった。

仕事自体は五分で終わった。俺の圧倒的な聖女パワーの前には造作もない。

 

「おおお……! なんという奇蹟! 枯れかけていたサツマイモの畑が、一瞬で瑞々しさを取り戻した……!」

「聖女様! 聖女様ぁあああ!」

 

村長をはじめとする農民たちが、涙を流して地面にひれ伏している。

 

「お顔をお上げください。神の恵みは、常に勤勉な皆様と共にあります」

 

鈴を転がすような美声を響かせると、村中に感動の嵐が巻き起こった。よし、信仰力ゲージがぐんぐん上がっている手応えがある。

 

「聖女様! ほんのお礼と言ってはなんですが、我が村の最高の名物をご用意いたしました!」

 

村長の手合図で、大きな深皿が運ばれてくる。

先日、港町で出された『緑色のゲロ(ウナギの香草煮込み)』のトラウマが頭をよぎり、俺は無意識に身構えた。

 

だが、皿の上に載っていたのは――

 

(……ん? 普通だ)

 

そこにあったのは、輪切りにされた綺麗な黄色のサツマイモ。甘く煮詰められた蜜のようなタレが光り、透明感のあるレモンの輪切りが添えられている。

 

(う、ウソだろ……!? ガチで普通に美味そうなデザート系おかずじゃねえか!! 毒々しい色もしてないし、ドブの臭いもしない!! 勝った!! 今日の俺は勝ち組だ!!)

 

安堵のあまり、内心で小躍りする俺。

 

「では、感謝を込めていただきますね」

 

俺は優雅な所作でスプーンを取り、輪切りのサツマイモを一口、口へと運んだ。

 

――次の瞬間。

 

(――ッ!??!?!?!)

 

脳内で鳴り響く警報。全細胞が絶叫を上げた。

 

(腐ってる!!? いや、腐ってない!! でも酸っぱい!! 暴力的なまでに甘いイモの甘みと、レモンのエグみを含んだ酸味が口内で壊滅的な喧嘩をしてる!!)

 

温かいサツマイモのもっさりした食感と、イモ特有の野暮ったい臭い。そこに、強烈なレモンの酸味が突き刺さる。

甘いのか!? 酸っぱいのか!? どっちかにしろ!! 爽やかさを狙ったであろうレモンの香りが、イモの青臭さと悪魔合体して『真夏に三日間放置されて酸毒化した腐敗イモ』の風味を完璧に再現していた。

 

(酸っぱいイモってこんなに恐怖を感じるのかよ!! 脳が『これを呑み込んだら死ぬ』って警告を出してる!!)

 

「聖女様、お口に合いましたでしょうか……? 我が村特製の『サツマイモのレモン煮』でございます……!」

 

村長が不安そうに覗き込んでくる。

ここで吐き出せばどうなる? 「聖女は我々の飯を腐っていると拒絶した」と噂が広まり、俺の奇蹟は封印され、羽毛布団も馬車も失う。

 

(……羽毛布団!! 今夜の羽毛布団のために喰うんだよ俺はぁぁぁぁぁ!!)

 

脳が発する猛烈な拒絶シグナル。

だが、俺の顔筋は神域のコントロールを見せる。

 

「……とても、甘酸っぱくて、味わい深いお料理ですね」

 

後光が差し込むような、完璧な『聖女スマイル』。

俺は噛むのをやめ、舌の味蕾を麻痺させながら、酸毒化した塊を喉の奥へと強引に流し込んだ。

 

こうして俺は、地味に胃を蝕むモヤモヤ感に耐えながら、村人たちの万雷の拍手を浴びるのだった。

 

 

 

 

 

☆☆☆TS聖女のバカでもわかるサツマイモのレモン煮レシピ☆☆☆

 

【材料】

 

サツマイモ:1本(ずっしりして甘そうなやつ)

レモン:1/2個(薄い輪切り)

砂糖:大さじ2〜4(イモの甘さにさらに追い打ち)

水:イモが浸るくらい

塩:ほんの少し

 

【作り方】

 

1 サツマイモを切る

 厚さ1cmくらいの輪切りにして、水にさらしてアクを抜く。この時点ではまだ普通にうまそうだ。

 

2 レモンを切る

 薄い輪切りにする。爽やかないい匂いがする。ここで別々に食えば幸せだった。

 

3 鍋にぶち込んで煮る(絶望ゾーン)

 鍋にサツマイモ、水、砂糖、塩、レモンを全部ぶち込む。イモが柔らかくなるまで10〜15分ほど煮ろ。

 

4 完成

 黄色く艶のある、いかにもうまそうなイモが完成する。見た目は綺麗な黄金色でめちゃくちゃ美味そうに見えるのが最大の罠だ。見た目に騙されて口へ入れると、甘いホクホク芋の中からレモンの酸味が殴りかかってくるぞ。

 

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