聖女様の『悪魔の経典 』~元おっさんが遺したクソ料理撲滅レシピ、数百年後に大バズりする~   作:スペカウ

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聖女様と小悪魔の吐息

聖女の仕事には、時に鬱陶しい「同行者」がつく。

 

「聖女様ぁ〜! 今日のランチは何でしょうね? 美味しいお肉だと嬉しいです!」

 

隣でぱたぱたと軽い足取りで歩くのは、見習い修道女のレヴィ。

 

十代後半、桃色の髪に垂れ目、小柄で可憐な守ってあげたくなる美少女……なのだが、中身は図々しくて食い意地が張った、救いようのないクズである。

 

 

高原の町を脅かしていた『大ヅノ魔物』の群れを聖光結界で叩き潰し、今日の仕事も完遂。

 

「おお……セシリア様! そしてレヴィ様! 町の危機を救っていただき感謝いたします!」

「お顔をお上げください。神の光は、いつでも皆様と共にあります」

 

完璧な聖女スマイルで返しつつ、内心では(よし、これで仕事は終わりだ。あとは美味い飯でも食ってダラダラするぞ)と、すっかり気を抜いていた。

 

「ささ! 我が町に古くから伝わる最高のおもてなし料理でございます! 羊の新鮮な腎臓を、たっぷりのスパイスで炒め上げました!」

 

給仕が運んできたお皿には、カリカリに焼かれたトーストの上に、赤黒いソースを纏ったコロコロとした肉がどっさりと載っている。

 

スパイスの香ばしい香りが漂い、見た目は普通に美味そうだ。

 

(ほう……ホルモン炒め系か。スパイスも効いてるし、今回は当たりか……?)

 

そう思った矢先、隣のレヴィが目を輝かせた。

 

「わぁ〜! とっても美味しそうですー! 聖女様、私ガマンできません、いただきまーす!」

 

レヴィはフォークで大きなお肉をすくい、一口で豪快に口へ放り込んだ。

 

――次の瞬間。

 

「――ッ!?!??!」

 

レヴィの顔面から一瞬で血の気が引いた。

桃色の瞳を限界まで見開き、固まっている。

 

(……ん? どうした?)

 

レヴィは顔を真っ赤にしながら猛烈な勢いでゴクリと呑み込むと、引きつった笑顔で俺の前に自分の皿をスライドさせてきた。

 

「あら、やだ……私ったら、自分ばっかり食べちゃって♡ 今日一番がんばった聖女様に、私の分も差し上げますね。どうぞ遠慮なく♡」

 

(おい待て。今、明らかに口に入れちゃいけないもん食った顔してただろお前!?)

 

逃げ場はない。町長たちが「聖女様もぜひ!」と期待に満ちた目で見つめている。

 

俺は手持ちのフォークで、赤黒い肉片を一口、口へと運んだ。

 

――噛んだ、瞬間。

 

(……ぶっっっっっっっっっ!!!!)

 

口内、そして鼻腔の奥で、暴れ馬のような悪臭が炸裂した。

 

(小便臭ぇぇぇぇぇぇぇぇええええええ!!!!!!)

 

強烈無比なアンモニア臭!! 公衆便所の掃き溜めをそのまま凝縮して口の中にぶち込まれたかのような、圧倒的な尿の臭い!!

 

(スパイスの香り? 消えてねえよ!! いや、胡椒もマスタードもカイエンも一応ちゃんと仕事はしてる!! ただ、小便臭まで一緒にスパイシーになってるだけなんだよ!!)

 

「どうですかな、聖女様? なかなかの味でしょう! お二人のために、料理人が腕によりをかけて作らせていただきましたぞ!」

 

町長がにこやかに胸を張る。

 

(嘘つけ!! これ絶対まともに下処理してねえだろ!!)

 

噛めば噛むほど、腎臓特有のこりっとした食感と共に、小便くさい肉汁がじゅわっと口いっぱいに広がる。地獄だ。ここが地獄だ。

 

(これ食ったら口の中が一日中便所になる!! 助けてくれ!!)

 

だが、俺の顔筋は神域のコントロールを見せる。

 

レヴィが残した分まで綺麗に完食し、目を潤ませながらも神々しい笑みを浮かべた。

 

「……とても、野生の息吹を感じる……独特なお料理ですね」

 

(専属馬車……ふかふかサスペンション付き専属馬車のために俺は耐える……!!)

 

食事後、冷や汗を流す俺にレヴィが感動した様子で抱きついてきた。

 

「私の食べ残しまで全部食べてくれるなんて……! やっぱり聖女様は、私のことが大好きなんですね♡」

 

(ちげーよ寄るな!! お前の息、小便くせえんだよ!!!)

 

 

――数百年後。

 

【聖教本部・公式】

 本日、聖教中央大書庫に保管されている『悪魔の経典』より、第三篇「悪魔風腎臓炒め」を一般公開いたしました。

 光の聖女セシリアが高原の町を訪れた際に記したものとされています。

 

『悪魔の経典』

第三篇 悪魔風腎臓炒め

 

【材料】

 羊(または豚)の腎臓:数個

 ウスターソース:適量(なんとかしてくれると信じたい)

 マスタード:たっぷり(臭いに勝てると思うな)

 バター:適量

 小麦粉:適当

 カイエンペッパー、塩コショウ:少々(お前らもっと頑張れよ)

 カリカリのトースト:1枚(唯一の良心)

 

【作り方】

1 腎臓を用意する(絶望ゾーン)

 羊でも豚でもいいから腎臓を用意しろ。縦半分に切って白い芯や筋を取る。臭いが気になるなら水や牛乳にでも浸けとけ。多少マシにはなる。

 

2 粉とスパイスをまぶす

 小麦粉、カイエンペッパー、塩コショウを混ぜて腎臓にファサーって振りかける。スパイスのいい匂いがしてくるから「意外とうまそうじゃん」とか思い始める。騙されるな。

 

3 バターで炒める

 表面に焼き色がつくまでジュージュー炒めろ。火を通しすぎるとゴムみたいになるらしい。

 

4 ソースを絡める

 ウスターソースとマスタードを適当にぶち込んで全体に絡める。バターとスパイスとソースの香りで、ここまで来ると普通に美味そうな肉料理にしか見えない。

 

5 トーストに載せて完成

 カリカリに焼いたトーストの上へドサッと載せれば完成。見た目だけならかなり美味そうだ。

 

【戒め】

 腎臓料理は下処理を舐めるな。臭いが残ったまま火を入れると、胡椒もマスタードもウスターソースも全部まとめて小便臭くなる。もし同行者が一口食った直後に急に優しくなって、自分の皿を差し出しても絶対に受け取るな。

 

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@聖女様ガチ勢

 第三篇、料理への警告より同行者への警戒が強くて草。

 

@歴史専攻

 最後の一文、絶対に実体験だろ。

 

@一般信徒

 「一口食った直後に急に優しくなる同行者」誰だよ。

 

@歴史専攻

 当時の同行記録を見る限り、見習い修道女レヴィ。

 

@レヴィ研究会

 終わった。

 

@グルメレビュー転載bot

 「きちんと下処理された腎臓は臭みも少なく、スパイスとマスタードがよく合います。普通に美味しい料理です」★5.0

 

@一般信徒

 また「ちゃんと作れば美味い」タイプか。

 

@グルメレビュー転載bot

 「やっぱり腎臓とかホルモン系は何をしても無理です。最初は胡椒とバターのいい香りだったのに、噛んだ瞬間全部が便所になりました」★1.0

 

@再現料理部

 下処理ほぼなしで再現してみた。

 

@一般信徒

 なんで毎回わざわざ地獄側を再現するんだよw

 

@再現料理部

 聖女様の気持ちを理解するためです。

 

@一般信徒

 研究倫理どうなってんだ。

 

@再現料理部二号

 マスタード増やせば勝てると思って倍入れた。

 小便臭いマスタードになった。

 

@料理好き

 聖女様の「お前らもっと頑張れよ」、スパイスに無茶振りしてて好き。

 

@旅動画勢

 【聖地巡礼】高原の町で古式悪魔風腎臓炒めを実食! 見た目と香りは普通にうまそうなのに、一口目で全部ひっくり返るw #聖女巡礼 #クソ飯体験 #内臓料理

 

@レヴィ研究会

 当時の聖教史には「見習い修道女レヴィは、敬愛する聖女セシリアと料理を分かち合った」って記載されてるんだけど。

 

@歴史専攻

 ただ残飯を押し付けただけの模様w

 

@レヴィ研究会

 数百年間「聖女を慕い、自らの食事まで分け与えた心優しき少女」みたいに研究されてたんだぞ……。

 

@歴史専攻

 『悪魔の経典』公開、一人の歴史的人物の評価を根底から破壊する。

 

@聖女様ガチ勢

 俺ずっとセシリア様×レヴィ様でてぇてぇしてたのに……。

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