聖女様の『悪魔の経典 』~元おっさんが遺したクソ料理撲滅レシピ、数百年後に大バズりする~ 作:宙うし
翌朝、昨夜の激辛地獄による粘膜全焼から奇跡の精神力で生還した俺たちは、鼻の奥にじんわり残る鈍痛に耐えながら、目的地である『赤龍山』へと向かった。
険しい岩肌が続く山道を登るにつれ、周囲の空気が重く淀んでいく。
やがて山頂近くまで辿り着いたところで、巨大な封印石が見えてきた。
だが――。
(……おいおい、マジかよ)
石碑には縦にド派手な大亀裂が走っていた。そこから赤黒い瘴気が噴き出し、空へ向かって竜巻のように渦を巻いている。
「セシリア様! 封印が破られています!」
アルベルトが聖剣に手を掛けたその瞬間だった。
バキィィィィン!!
山全体を揺さぶるような音とともに、封印石が爆発四散した!
「ゴオォォォォォォォォォォッ!!」
天を突く咆哮。
噴き上がる瘴気の中から、家一軒ぶんくらいある巨大な『赤龍』が姿を現した!
魔王レヴィアタンの配下にして、かつて初代聖女と勇者を苦しめたという伝説の武闘派ドラゴンだ。
『……我が王は……レヴィアタン様は、いずこにおられる……』
巨大な赤い龍が、重々しく低音ボイスを響かせる。
(うわ、今回の敵、喋るタイプだ!!)
「魔王レヴィアタンの配下……間違いないようですね」
アルベルトが躊躇なく聖剣を抜き放つと、刀身から眩い聖光が迸った。
『勇者……! その忌まわしき光……忘れぬぞ!!』
赤龍が大きく胸を膨らませる。
「来ます!」
次の瞬間――。
ゴオオオオオオオオオッ!!
灼熱の炎が真正面から押し寄せてきた。
「レヴィ!」
「はいっ!」
俺とレヴィは同時に神聖力を展開。
二重の光の障壁が、炎を真正面から受け止める。
ズドオオオオオン!!
爆炎が山頂を包み込んだ。
「ぐっ……!」
凄まじい圧力が障壁越しに腕へ伝わってくる。
(重っ……!!)
さすがは魔王軍屈指の赤龍。今まで相手にしてきた雑魚魔物とは、明らかに格が違う。一瞬でも気を抜けば、障壁ごと焼き払われかねない。
「では、行きます!」
炎が途切れた一瞬の隙を突き、光の弾丸と化したアルベルトが一気に赤龍の懐へ滑り込む!
ズバァッ!!
『グオッ!?』
赤龍の片翼が裂け、体勢を崩した巨体が大地を揺らす。
「レヴィ、拘束! 一気に押し潰しますよ!」
「はいっ♡」
俺とレヴィは全身の神聖力を絞り出し光の鎖を無数に展開すると、赤龍の暴れる四肢へと巻き付け、強引にその巨体を地面へ叩き伏せた!
ドガァァァン!!
『ぐ……ぬぅ……!!』
赤龍が必死に身を起こそうとする。
その巨大な黄金の瞳が、ふとレヴィを捉えた。
『……ぬ?』
「……?」
赤龍の瞳が大きく見開かれる。
『その気配……。なぜだ……。なぜ貴様から、我が王の――』
「隙ありィィィッ!!」
ズバァァァァン!!
『ぐぼっ!?』
アルベルトの聖剣が赤龍の胸を貫いた。
「…………」
「…………」
『我が……お……』
ドサァァァァン!!
赤龍、死亡。
「……」
(おいアルベルト!! こいつ今ぜったい重要なこと言おうとしてただろ!! ちょっとくらい待てよ!!)
我が王の――。明らかに、その続きを聞いた方がよかった気がする。
俺はちらりと隣のレヴィを見る。
「……?」
当の本人は、何も分かっていない顔で首を傾げていた。
(そういや……レヴィとレヴィアタンって、名前ちょっと似てんな)
…………。
(ハハハ。少年漫画じゃあるまいし、「ずっと一緒に旅してた仲間の美少女が、実は復活した魔王本人でした~!」なんて、そんなベタな展開あるわけねえだろ)
しかも名前までほぼ同じ。
伏線として露骨すぎる。
そんな雑な話、誰が書くんだ。
「聖女様ぁ? なんで私の顔見ながら微妙な顔してるんですぅ?♡」
「なんでもありませんよ」
考えるだけ無駄だ。なにより、その答えを知っていそうな奴は今、足元で死んでいるしな。
死人に口なし。
もとい、死龍に口なしである。
「……終わりましたね。伝説の赤龍……さすがは魔王軍屈指の猛者、一筋縄ではいかぬ強敵でした。ですがセシリア様の神聖な障壁と光の拘束、そしてレヴィ殿の完璧な連携のおかげで、こうして無事に打ち倒すことができました。まさに命がけの死闘……我らの絆の勝利ですな!」
「そ、そうですね」
俺は引きつりそうな顔をごまかしながら、額の汗を拭った。
(いやー、マジで強かったな)
今までの雑魚魔物とは比べものにならない死闘だった。
まあ、かつて信仰ゲージが完全に底をついて、出力ほぼゼロの状態で死にかけた時の苦労と比べれば――。
(八%くらいかな。当社比)
それよりも。
俺は眼下へ延々と続く山道を見下ろした。
(……またこれ降りんのかよ)
正直、赤龍より下山運動の方がつらい。
俺たちは砕けた封印をさっさと修復すると、汗だくになりながら赤龍山を下り始めたのだった。
*
「つっっっかれたぁ……」
もちろん口には出さない。聖女なので。ただもう足はガクガク、喉はカラカラ、全身汗だくである。
そこに、待機していた総督が満面の笑みで駆け寄ってきた。
「おおお! 聖女様! 勇者様! あの赤龍を撃滅し、封印まで修復なされたとか! まことにお見事でございます! 山登りでさぞお疲れでしょう!」
総督がパンパンと手を叩くと、給仕が銀のトレイに乗せたキンキンに冷えたグラスを運んできた。
グラスの表面には冷気で細かな水滴がつき、中ではシュワシュワと涼しげに炭酸の泡が弾けている。
(おおお……! サンキュー総督、気が利くねぇ!!)
「わぁ……♡ 冷たくて、美味しそうですねぇ、聖女様♡」
レヴィもすっかりテンションが上がっている。
「こちら、華龍帝国で古くから親しまれております『
(ん?)
聞き慣れない単語が混じった。
(白花……蛇?)
俺の手が一瞬止まる。
「ご安心くださいませ。蛇は入っておりません。『白花蛇舌草』という薬草を用いた飲料でございます。良質な鉱泉水に白花蛇舌草の抽出液を合わせ、炭酸を加えた伝統の健康飲料。よく冷やして飲むと格別でございますぞ!」
(ああ、なんだ。びびらせんな。ルートビアみたいなもんってことか。なら問題なし!)
「「ありがたくいただきますわ♡」」
俺とレヴィは一切の疑いを持たず、冷えたグラスを一気に煽り、勢いよく喉へと流し込んだ。
ガブッ、ゴクゴクゴクッ――!!
「…………」
――次の瞬間。
(ぶはっっっっっっっっっ!?!?!?)
渇いた身体に染み渡るはずだった冷たい液体が、口に入った瞬間に「地獄の毒水」へと変貌した。
まったく甘くない。しかも爽やかさはゼロ。喉を通過していったのは、『真夏の部室に一日放置された、汗の染みたTシャツの絞り汁』。さらに後味として追いかけてくる『海鮮を3日浸した水』の風味と、『濡れてカビた草履の煮汁』を思わせる謎の草臭さ。
(マッッッッッッッッッズ!!!!!)
さっきまでの俺の期待を返せ! キンキンに冷えた炭酸水という、絶対に裏切らないはずの存在が裏切ってきやがった。
(見た目だけ爽やかにしやがって!! 詐欺だろこれ!!)
隣を見る。
「…………」
レヴィの目から、スッと光が消えた。
「聖女様ぁ♡」
「……何かしら?」
「わたし、ちょっとお花を摘みに行ってきますねぇ♡」
そう言うなり、レヴィは残りの『白花蛇草水』を一気に呷り、口をキュッと閉じた。見ると、両頬がハムスターみたいにパンパンに膨らんでいる。
「……あの、レヴィ?」
レヴィは俺から目を逸らした。
(お前まさか、それ――)
ダッ!!
「逃げたァ!?」
レヴィは口いっぱいに『白花蛇草水』を溜め込んだまま、ものすごい勢いで建物の奥へ消えていった。
(あいつ、トイレに逃げやがったァ!? リバースする気か!!)
だが。
そんな俺たちの前で――。
「おおっ!」
アルベルトの目が輝いた。
「これは実に爽快! 薬草の滋味深い風味に、この爽やかな炭酸! 山歩きで乾いた身体に染み渡りますな!」
(なんでだよ!!!! お前、赤龍よりこっちの方が強敵だって気づいてねえのか!?)
歓喜の声を上げ、二杯目をガブ飲みする勇者。
そして案の定。
アルベルトは満面の笑みで、新しいグラスを俺へ差し出してきた。
「さあ! セシリア様も、もう一杯いかがですか!」
(いらねえええええええええ!!)
だが、総督も給仕も期待に満ちた目でこちらを見ている。
退路は断たれた。
引きつりそうになる頬。歪みそうになる眉。「もう二度と飲みたくない」と叫びたがる全顔面筋を、俺は神域のコントロールで制圧する。
(俺はこういうところで踏ん張ってるから、きっと赤龍相手でも楽できたんだ……! たぶん!!)
「……とても、香り高い草を感じさせるお味ですね」
俺は完璧な聖女スマイルを浮かべ、必死に息を止めながら2杯目を飲み干したのであった――。
ちなみに。
その後の晩餐に出された華龍料理はとても美味しかった!
――数百年後。
【聖教本部・公式】
本日、聖教中央大書庫に保管されている『悪魔の経典』より、第九篇「白花蛇草水」を一般公開いたしました。
光の聖女セシリア一行が赤龍討伐後、下山した際に記されたものとされております。
『悪魔の経典』
第九篇 白花蛇草水
【材料】
天然鉱泉水:たっぷり
白花蛇舌草:少量(諸悪の根源)
炭酸:しっかり
塩:ほんの少し
重曹:少量(お前の代わりに砂糖が入っていればよかったのに)
【作り方】
1 白花蛇舌草を煮出す(絶望ゾーン)
白花蛇舌草を水で煮出し、強烈なカビ臭と汗臭を抽出する。
2 鉱泉水に加える。
せっかくの名水を怪異の水溶液へと汚染させる。
3 味をつける。
塩と重曹を加え、炭酸をぶち込む。ここで甘さを足しておけば、まだ運動後に気持ちよく飲めただろうに……
4 よく冷やす
完成。キンキンに冷やすことで「気が利くねぇ!」とターゲットを喜ばせ、無警戒でガブ飲みさせることができるぞ!
【戒め】
炭酸水であるがまったく甘くなく、むしろ少ししょっぱい。これが最大の罠である。しょっぱさと臭さが、真夏の汗をかいた服のしぼり汁を思わせてくる難飲料である。ただ、好きな者には爽やかな薬草飲料らしい。味覚には個人差があるとはいえ、体に良いからといって適当な薬草を何でも煮出すのはもうやめろ。
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@聖女様ガチ勢
第九篇きたーー!! 赤龍討伐編だ!!
@一般信徒
龍を討伐した直後に飲み物の悪口書き始める聖女様ブレなさすぎる。
@華龍民
いや、白花蛇草水だけは擁護できん。あれは我が国で最も飲みにくい飲料として有名であるが故。
@グルメレビュー転載bot
「後味が少し塩っぽくて、海鮮を浸した水のような風味を感じました。飲み込んだ後にまた香りが戻ってくるのがつらいです」★1.0
@グルメレビュー転載bot
「ゴザを水に浸して、その絞り汁を炭酸にしたような独特の風味。私には無理でした。一瓶飲み切るだけでかなりの達成感があります」★1.0
@一般信徒
なんじゃこのレビューはwww
ネタ以外で飲む必要性が感じられんw
@グルメレビュー転載bot
「一口目は『汗の染みた服みたいな匂いがする』と思って絶望しました。でも二口目から意外と慣れます。決して美味しいとは言わないけど、噂ほどではないです」★3.0
@グルメレビュー転載bot
「冷やして飲めばかなり爽快。無糖の炭酸に独特の薬草の香りがあって、暑い日にはむしろこれが飲みたくなります。最初は変な味だと思ったのに、気づけば箱買いしていました」★5.0
@華龍民
こいつら正気か! ステマじゃねえのか!?
@一般通過信徒
いやお前らの国の飲み物やろがーいw
@料理再現部
再現して分かったけど、まずさの原因は一個じゃない。
白花蛇舌草の青臭い薬草感に、鉱泉水の妙なミネラル感と微かな塩気、それを無糖の炭酸が全部むき出しにして殴ってくる。でも「強烈に苦い」とか「酸っぱすぎる」とかじゃないんだよ。だから飲めなくはないのに、喉が次の一口を拒否するタイプ。
@再現料理部二号
要するに「一口で吐くほどの激マズ」じゃなくて、「一口目で困惑、二口目で苦痛、三口目を飲む理由が見つからない」系。
@勇者研究会
ふっ! 我らがアルベルト様の雄姿を見よ!! 勇者アルベルト『東方遠征記』より。「赤龍討伐の後、総督より白花蛇草水なる飲料を賜った。草木と大地の滋味を感じる爽快な飲み物であり、渇いた身体に染み渡ったため、幾度か杯を重ねた」 何杯でもいけるんだぁ!
@一般信徒
また勇者様だけ高評価だよwww
@旅動画勢
【聖地巡礼】華龍帝国で激マズ飲料『白花蛇草水』を飲んでみた! 最初の一本は本気で不味いと思ったけど、何本か飲んでいたら妙に癖になり……。自分でも理由は分かりませんw #聖女巡礼 #クソ飯体験 #白花蛇草水 #華龍帝国
@一般信徒
大丈夫? 精神汚染、進行してない?
@華龍山泉飲料有限公司【公式】
『悪魔の経典』第九篇公開記念「白花蛇草水・一気飲み選手権」を開催決定! 優勝者には豪華賞品『白花蛇草水一年分』をプレゼント! みんなで勇者アルベルト様の記録に挑戦せよ! #悪魔の経典 #白花蛇草水 #華龍帝国 #神水チャレンジ #勇者チャレンジ
@料理好き
罰ゲームの優勝賞品を罰ゲームにすんな。
@聖女様ガチ勢
なんでこんなネタ飲料が数百年も現役で残ってんだよ!? 歴史から消えとけよww
@一般信徒
むしろ聖女様が飲んだから文化財みたいになった説。
@聖女様ガチ勢
最悪の保存理由やめろ!!