蜂の巣と属性十倍の間で命乞いをするだけの簡単なお仕事です 作:翔田美琴
猛吹雪の吹き荒れる雪山エリア8。
ジェシカとユウキは、凍てつく岩肌に這いつくばりながら、涙と鼻水まみれで鉄ピッケルを打ち下ろしていた。
「ひぐっ、うぅぅ……! 手が動かない、感覚がないわよぉ……! 死ぬのはいやぁぁぁっ!!」
「寒いぃぃ! 難しいことわかんないし、お腹空いたぁぁ! ヒイィ、ごめんなさい、ごめんなさいぃー!!」
昨日から何度繰り返したかもわからない、語彙力ゼロのワンパターンな命乞いと悲鳴。
岩陰で見張るエリオット隊長が「……やってられるか。耳が腐る」とクロームレイザーの柄に手を置き、レンブラント氏が「蜂の巣にして静かにさせるか」と夜砲の銃口を向けかけた、その瞬間だった。
ふわり、と雪山にはあり得ない異次元の気配が揺らいだ。
「…………はぁ」
吹き荒れる暴風雪を完全に無視して、空間の裂け目から静かに姿を現したのは、この物語の創造主――翔田美琴だった。
モンハン世界の物理法則も、ルージュ機構の厳格な冷気も、彼女の周囲だけは平然と遮断されている。
「な、なによあんたぁ!? どこから湧いて出たのよ!?」
「だ、誰!? 助けて! あたしにおいしいご飯頂戴よぉ!」
突然の闖入者に、地雷女二人が反射的に喚き立てる。
だが、美琴は二人を一瞥すらすることなく、心底うんざりしたような冷え切った眼差しを向けた。
「断末魔、ワンパターン。あんたらもっと芸術的に叫べ」
容赦のないメタ視点からのダメ出しが、吹雪を切り裂いて突き刺さった。
「『死ぬのはいやぁ』だの『ごめんなさいぃー』だの、何回同じ台詞擦ってんの。語彙の引き出しが空っぽすぎる。プロファイルに『溢れ出す下品な精神は芸術的』って書いてやったのに、叫び声のバリエーションが貧相すぎて作品の質が下がるんだけど」
「は、はぁぁぁ!? なによそれ! あんた何言ってんのよ!?」
ジェシカが訳も分からず喚き散らすが、美琴は完全に無視して腕を組む。
「エリオット、レンブラント、レム判事」
美琴が名を呼ぶと、それまで絶対零度の威圧感を放っていた三人が、即座に居住まいを正した。
「……創造主。お見苦しいところを」
レム判事がジャッジメントコートを翻して一礼し、エリオットもクロームレイザーを納刀して視線を伏せる。レンブラントは静かに煙草の煙を散らした。
「別にいいけど。こいつらの更生、手加減いらないから。……おい、青髪と0円女王様」
美琴の冷たい視線が、再び雪まみれの二人に突き刺さる。
「次に『死ぬのはいやぁ』とか『難しいことわかんない』ってワンパターンに喚いたら、その薄っぺらいプライドごとテキストから抹消して、ただの肉片素材としてギルドに納品させるから。もっと身を削って、読者がスカッとするような芸術的な悲鳴を上げなさい」
「ヒッ……!?」
「な、なに言ってるか全然わかんないけど……なんか一番ヤバい奴が出てきたぁぁぁっ!?」
これまでのハンターたちとは根本的に次元の違う「世界の創造主」の圧を本能で察知したのか、ジェシカとユウキは完全に言葉を失い、恐怖で歯の根をガチガチと鳴らした。
「じゃ、あとはよろしく。もっと派手に泣き叫ばせてね」
美琴はそれだけ言い残すと、現れた時と同じように忽然と虚空へと消え去った。
残されたのは、氷点下の採掘場と、創造主の言葉を受けてさらに冷徹さを増した三人の規格外ハンターたち。
「……創造主直々の視察だ。これ以上の無様な茶番は見せられんな」
レム判事が鬼哭斬破刀の柄に手をかけ、エリオットが属性の暴力を纏ったクロームレイザーを引き抜き、レンブラントが夜砲の銃口をガチャリと向けた。
「ひ、ヒィィィィィッ! お、お許しをぉぉ! 我が愚行を悔い改めますれば、何卒、何卒お慈悲のパトスをぉぉぉっ!!」
「ご、ご容赦! 脳髄まで凍てつく反省の嵐が吹き荒れておりますぅぅぅ!!」
語彙を絞り出そうとして完全に崩壊した二人の絶叫が、猛吹雪の雪山に木霊した。