蜂の巣と属性十倍の間で命乞いをするだけの簡単なお仕事です   作:翔田美琴

12 / 21
第12話 三流劇団以下のダニ

「ああ。創造主の御意向だ。もっとも、あの下等生物どもの喉から出る音は、芸術どころかただの耳障りなノイズにすぎんがな」

 

レンブラントは煙草を新たに咥え直し、夜砲【黒風】のバレルから立ち上る熱気を冷ますように鼻で笑った。

藍色のジャッジメントコートの裾を翻しながら、レム判事は冷徹な視線を雪まみれの二人に向けたまま、静かに言葉を継ぐ。

 

「スライスされた毛髪と衣服の破片だけで悲鳴を上げるようでは、プロファイルに記された『溢れ出す下品な精神』の片鱗すら発揮されていない。……エリオット、もう一度奴らの頭蓋を冷気で引き締めろ。次は手加減なしだ」

「……やってられるか」

 

エリオット隊長は極寒の空気の中で息を白く染め、クロームレイザーの柄に手をかけたまま低い唸り声を漏らす。属性の暴力を孕んだ冷気が、周囲の吹雪をさらに激しく逆巻かせた。

 

「芸術的な悲鳴とやらを聞かせてみろ。……さもなければ、その薄汚い命ごと、この雪山の深奥に永遠の沈黙を刻んでやる」

 

「……やってられるか。旧時代の粗悪な三流劇団でも、もう少しマシな台詞回しをするぞ」

 

エリオット隊長はクロームレイザーの柄を無造作に握り直すと、冷え切った銀髪の奥から底冷えのする視線を突き刺した。

ルージュピアスの呪いによって徹底的に冷却されたその声には、怒りや苛立ちすら混ざらない、完全なる虚無と侮蔑だけが宿っている。

 

「『ひぇえええ』だの『きゃあああ』だの、化石のように擦り倒された旧時代の悲鳴を垂れ流すな。耳障りなだけでなく、聞いているこちらの知性まで削られる。……創造主が求めたのは芸術だぞ。貴様らのその薄っぺらいプライドと、中身ゼロの頭蓋が軋み折れる、極上の絶望の響きだ」

 

エリオットがステンレス製の銀ブーツを一歩踏み出すと、大剣から漏れ出る十倍の属性圧が雪原を揺らし、ジェシカとユウキの足元の氷盤を粉々に砕いた。

 

「ひ……っ!?」

「あ、足が、足が沈むぅぅぅ!!」

「ほら見ろ、またそれだ」

 

レンブラント氏が紫煙を吐き出しながら、夜砲【黒風】の銃口を二人の眉間に寸分違わず据え付ける。

 

「語彙が貧困すぎるな。知性なき猿の断末魔のほうが、まだ獲物としての哀愁がある。……次、その古臭いテンプレ悲鳴を漏らした瞬間、エリオットの属性で両足を凍結させた上で、私の弾幕で細切れの芸術作品にしてやるよ」

「……男の私を女と見紛う節穴の眼球と、謝罪すら定型文で誤魔化す錆びついた舌だ。これ以上の猶予は美意識に反する」

 

レム判事が鬼哭斬破刀真打の鍔を冷ややかに弾き、紫電の火花を散らした。

雪中に膝をつき、凍てつく刃と銃口に包囲されたジェシカとユウキは、叫ぶことすら許されない絶対零度のプレッシャーに、ただガタガタと青ざめた唇を震わせるしかなかった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。