蜂の巣と属性十倍の間で命乞いをするだけの簡単なお仕事です 作:翔田美琴
「美しい血で贖いなさい?」
創造主・美琴の口元に、冷酷極まりない愉悦の笑みが浮かんだ。
その一言が落ちた瞬間、雪山の吹雪すら息を呑むように静止する。
「ただの雑魚の返り血なんて、私の世界のキャンバスには一滴も要らないの。あんたたちが奪ってきた他人の尊厳、踏みにじってきた汗と涙の重み――その全部を、一番鮮やかで無駄のない鮮血で清算しなさい。……前科の分だけ、たっぷりね」
美琴の冷たい宣告を受け、レム判事はジャッジメントコートを優雅に翻した。
手袋を嵌めた指先が『鬼哭斬破刀真打』の柄を滑らかに撫で、紫の瞳に研ぎ澄まされた処刑人の光を宿す。
「仰せのままに、創造主。……薄汚れた肉塊から、紅蓮の贖罪を抽出するとしよう」
パチ、と弾けた紫電が夜の闇を裂く。
その横ではエリオット隊長が「……やってられるか。だが、創造主のオーダーなら美しく叩き割るしかないな」と、十倍の属性圧を孕んだクロームレイザーを音もなく構え直す。
レンブラント氏もまた、煙草を燻らせながら夜砲の照準をミリ単位で二人へロックした。
「ふっ、キャンバスを汚さないよう、一滴残らず精密に弾丸で散らしてやろう」
「ひっ……!?」
「ち、血って……贖うって……なんなのよぉぉぉ!!」
逃げ場はどこにもない。
自らの犯してきた浅ましい罪のツケが、規格外ハンターたちの容赦なき刃と銃口となって、ジェシカとユウキの喉元へと容赦なく迫っていた。
「うるさい。逝け」
創造主・美琴の手が、無慈悲に振り下ろされた。
その刹那、機構の三人が同時に動いた。
キィィィン――ッ!
レム判事の『完全見切り』による神速の抜刀。紫電を撒き散らす『鬼哭斬破刀真打』の切っ先が、ジェシカとユウキの退路をミリ単位の狂いもなく断ち切る。不可視の刃風が二人の足元を撫で、立つことすら許さぬ檻を形成した。
「……やってられるか」
エリオット隊長の低い呟きと共に、十倍の属性を宿した『クロームレイザー』が地表へと叩きつけられた。爆砕する氷塊と暴威の奔流が、二人の逃げ場を完全に消滅させ、その薄っぺらな虚栄心を大地ごと圧殺する。
「終わりだ。蜂の巣の味を、魂まで噛み締めるがいい」
レンブラント氏の指先がトリガーを絞り切る。『夜砲【黒風】』から放たれた無数の弾丸が、雪嵐を裂いて閃光の暴風雨へと化す。
「ヒィィィィィ――ッッ!!」
「あ、頭が、プライドがぁぁぁぁ――ッッ!!」
二人の喉から絞り出された、飾り気も虚勢も剥ぎ取られた本物の絶叫が、雪山深奥の闇へと吸い込まれていった。
「叫ぶ元気があるんだ。レンブラントの弾幕フルボッコパーティーにでも加わる?」
美琴が冷ややかな視線を向け、小馬鹿にするように首を傾げた。
その言葉を合図に、レンブラント氏の口角がつり上がる。
咥え煙草の先が赤く輝き、夜砲【黒風】の重厚なバレルが軋みを上げた。機構の規格外能力である『弾薬無限』と『反動軽減+3』が真価を発揮し、機関部からカチカチカチと超高密度の装填音が鳴り響く。
「ほう。創造主からパーティーの許可が下りるとはな。……おい、前科者ども。私のフルバーストは、モンスターの硬質な甲殻すらミンチに変える。人間ごときの肉と空洞のプライドが、何秒原形を留められるか試してみるか?」
銃口が放つ威圧感は、もはや単なるボウガンの域を超えていた。照準が眉間に吸い付いた瞬間、ジェシカの喉からひび割れた息が漏れる。
「ひ……っ! パ、パーティーって……そんなの蜂の巣祭りじゃないのよぉぉぉ!!」
「い、いやぁぁぁ! 弾幕とか意味わかんないし、痛いの絶対無理ぃぃぃ!!」
ユウキは雪の中に顔を埋め、両手で頭を抱え込んで小さく丸まった。
だが、逃げ場など最初から存在しない。
「……やってられるか。まだ騒ぐか、クズどもが」
エリオット隊長がクロームレイザーの腹で二人の背後を塞ぎ、退路を完全に断つ。
「美琴様の仰る通りだ。余計な肺活量があるのなら、鉛の弾幕を全身で浴びて、呼吸の仕方を忘れるまで踊り狂うがいい」
レム判事が冷酷に宣告し、太刀の切っ先を雪原へと突き立てた。
漆黒のバレルが火を噴く直前、二人の瞳には、逃れ得ぬ「弾幕フルボッコ」の絶望的な閃光だけが焼き付いていた。