蜂の巣と属性十倍の間で命乞いをするだけの簡単なお仕事です 作:翔田美琴
「石室で処理しないで衆目の目に晒して恥をかかせてから逝け」
美琴の冷たい一言が、雪山深奥の石室に下された。
ただ肉体を処分するだけでは生ぬるい。彼女たちがこれまで見下し、脅し、搾取してきた被害者たちの前で、その薄っぺらな虚栄心を完膚なきまでに叩き潰す――それこそが創造主の下した更なる鉄槌だった。
「……なるほど。被害を受けたユクモやポッケの民の前で、己の無様さを晒し上げろ、と」
レム判事がジャッジメントコートを翻し、紫の瞳に冷徹な賛意を灯す。
「良き判断です、創造主。法と秩序を蔑ろにした者が、最後にいかなる惨めな末路を辿るか……見せしめとしての教育的価値も極めて高い」
「……やってられるか。だが、死ぬより惨めな公開処刑がお似合いだな」
エリオット隊長がクロームレイザーの柄を鳴らし、虫ケラを見るような目で二人を見下ろす。
「自称『うまく立ち回った勝ち組』と『0円女王様』の正体を、村人全員に指差して笑わせてやる」
「ふっ、ならば私の役目は、逃げ出さぬよう背後から銃口を突きつける檻番といったところか」
レンブラント氏が紫煙を吐き捨て、夜砲【黒風】のバレルをカチリと鳴らした。
「い、いやぁぁぁっ! そんなの絶対いやぁぁぁ!!」
ジェシカが泥まみれの青髪を振り乱し、血走った目で絶叫した。
「あんな底辺の村人どもに! 私が土下座して晒し者にされるなんて、死んだ方がマシよぉぉぉ!!」
「恥ずかしいのは無理ぃぃぃ! 私を見てって言ったけど、そんな無様な姿見られたくないぃぃぃ!!」
ユウキも床に爪を立て、なりふり構わず泣き叫ぶ。
金もない、知性もない、あるのは肥大化したプライドだけ。それを大衆の前で剥ぎ取られることは、二人にとって物理的な死以上の激痛だった。
「あんたたちに拒否権なんてないの」
美琴は冷ややかに見下ろし、吐き捨てるように踵を返した。
「連れて行きなさい。ユクモの広場のど真ん中へ」
「御意」
レム判事の手袋が、二人の襟首を無慈悲に掴み上げる。
逃げ場を失った二匹の害毒は、自業自得の恥辱が待つ公開処刑の舞台へと引きずり出されていった。
湯煙の立ち込めるユクモ村の中央広場。集会所前の石畳には、大勢の村人やハンターたちが何重もの人垣を作っていた。
その中心で、冷たい石畳の上に無様に引き倒されたのは、ボロボロの青髪を泥にまみれさせたジェシカと、鼻水を垂らしガタガタと震えるユウキだった。かつて威張り散らしていたパリピ風のドレスは擦り切れ、偽物のシャネルバッグは泥水に浸かり、誇るべきものは何一つ残っていない。
背後には、藍色のコートを纏ったレム判事、クロームレイザーを携えたエリオット隊長、そして紫煙を燻らせ夜砲の銃口を低く構えるレンブラント氏が、逃走を許さぬ絶対の檻として仁王立ちしていた。
「見ろよ、あの威張り散らしてた女たちだ!」
人垣の最前列から、真っ先に怒号が飛んだ。かつてジェシカにナイフで脅迫され、売上金を奪われた露天商の老人だった。
「あんだけ偉そうに『ノロマが悪い』だの『世の中立ち回ったもん勝ち』だの喚き散らしておいて、なんだその惨めな姿は!」
「そうだ! 新米ハンターを闇討ちして素材を横取りした泥棒女! ギルドの面汚しめ!」
「温泉の湯治客に暴言を吐いて、ただ飯ばかり食らってた穀潰し! 恥を知れ!」
村人たちの軽蔑と怒りの罵声が、容赦のない礫となって二人に降り注ぐ。
以前ジェシカに顎で使われ、傷口を蹴り飛ばされた新米ハンターも、包帯を巻いた腕を握りしめ、侮蔑を込めた目を向けていた。
「金持ってるから私を見ろ、だっけ? 財布に一銭も入ってないただの無能が、どの口で受付嬢を猿呼ばわりしたんだ!」
「ポッケ村でも雪かきから逃げ出したんだろ! 生きてる価値もない寄生虫め!」
「ひっ……! や、やめなさいよぉ……! 見ないで、私を見ないでぇぇっ!!」
ジェシカは両手で顔を覆い、屈辱に顔を真っ赤に染めて叫んだ。己が見下し、踏みにじってきた「底辺」と蔑んでいた村人たちから、指を差され、嘲笑され、唾を吐きかけられる。その事実が、肥大化した虚栄心を粉々にすり潰していく。
「あ、あたしは悪くないもん……! 難しいことわかんないしぃぃ! 誰か助けてよぉぉぉ!!」
ユウキも石畳に額を擦り付け、みっともなく泣き叫ぶが、助け舟を出す者など一人としていない。返ってくるのは、冷酷な嘲笑と野次ばかりだった。
「……やってられるか。あれだけ他者を踏みにじっておいて、いざ自分が同じ立場になればその無様さだ」
エリオットが心底吐き気を催したように呟き、銀ブーツを踏み鳴らす。
「己が蒔いた種だ。大衆の前でその醜悪なプライドを剥ぎ取られ、永遠に嘲笑の的となるがいい」
レム判事の冷徹な声が広場に響き渡る。
かつて傲慢を誇った二人の地雷女は、村人たちの容赦なき嘲弄の渦の中で、ただひたすらに頭を抱えて震え続けるしかなかった。