蜂の巣と属性十倍の間で命乞いをするだけの簡単なお仕事です   作:翔田美琴

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第17話 ポッケ村公開処刑

ポッケ村の広場中央、巨大な氷塊の前に特設された処刑台。

猛吹雪が吹き荒れる中、集まった村人や歴戦のハンターたちの冷徹な視線が、壇上に引き据えられたジェシカとユウキへと集中していた。

逃亡防止の重い鉄鎖で氷の柱に繋がれた二人の前には、粗末な木札が掲げられている。

 

 

『前科累々・虚栄の盗賊:ジェシカ・フローベル』

『無能の極み・虚飾の0円女王:ユウキ・ナガサト』

 

 

「これより、ポッケ村および全ギルドの秩序を冒涜した両名に対し、ルージュ機構による公開懲罰を執行する」

 

レム判事の凛とした美声が、凍てつく寒空に響き渡った。

藍色のジャッジメントコートを風になびかせ、手袋を嵌めた手で腰の『ロイヤルローズ』の柄を静かに押さえる。耳元のルージュピアスが淡く輝き、紫の瞳には一切の情けが宿っていない。

 

「ひ、ひぃぃっ! 処刑!? 嘘でしょ、死ぬのはいやぁぁぁっ!!」

 

ジェシカは凍りついた青髪を振り乱し、鉄鎖をガチャガチャと鳴らしながら絶叫した。

 

「私はただ、ちょっと要領よく立ち回っただけじゃない! なんでこんな田舎者たちの前で殺されなきゃいけないのよ! 馬鹿を馬鹿と言って何が悪いのよぉぉっ!!」

「難しいことわかんないぃぃっ! 金がすべてでしょ!? 今は持ってないけど、言うこと聞くから許してぇぇぇ!!」

 

ユウキも氷の床に額を激突させ、みっともなく涙と鼻水を垂れ流して喚き散らす。

だが、広場を埋め尽くしたポッケ村の住民たちから返ってきたのは、慈悲の欠片もない怒号と嘲笑だった。

過酷な極寒の地で命を削り合って生きる彼らにとって、他人の食糧を掠め取り、労働を拒否して威張り散らす寄生虫は、凍傷よりも許しがたい存在だった。

 

「……やってられるか」

 

溜め息と共に歩み出たのは、エリオット隊長だった。

背負った大剣『クロームレイザー』を無造作に引き抜く。抜刀の瞬間、機構の力による『属性強化10倍』と『攻撃力2倍』の重圧が暴風となって吹き荒れ、処刑台の周囲の吹雪を一瞬で薙ぎ払った。

 

「ポッケ村の連中は俺をドドブランゴだのラージャンだのと恐れるが……これほど下等なゴミを処理するのに、古龍並みの労力を使わせるな」

 

エリオットが大剣の切っ先を二人の足元へ突き立てると、凄まじい衝撃波が氷盤を粉砕した。破片が容赦なく二人の頬を切り裂く。

 

「ひいぃっ!?」

「顔が、顔がぁぁっ!!」

「騒ぐな、まだ首は飛んでいない」

 

紫煙を吐き捨てながら、黒系軍服のレンブラント氏が夜砲【黒風】を構え直した。

カチカチと超高密度で装填される機構特有の『弾薬無限』の機構音が、二人の心臓を直接握り潰すように響く。

 

「創造主・美琴様からの仰せだ。『衆目の目に晒して恥をかかせてから逝け』とな。……村人たちよ、存分に見届けるがいい。己の非を認めず、他者を踏みにじってきた者の哀れな末路を」

 

レンブラントの指がトリガーに掛けられ、レム判事の太刀『鬼哭斬破刀真打』から黄金の雷光が迸る。

 

「主文――貴様らの肉体、およびその空洞のプライドに対し、極刑を以て清算とする」

 

白銀の雪山に、逃げ場なき三人の規格外ハンターによる処刑の閃光が炸裂した。

 

 

吹き荒れる雪風を切り裂き、処刑台の中央へ進み出たレム判事は、藍色のジャッジメントコートを翻してポッケ村の群衆を見渡した。

静寂を促すように掲げられた黒革の手袋。紫の瞳に研ぎ澄まされた法官の冷徹さを宿し、白銀の短髪と整った口髭を凍てつく風に晒しながら、凛とした美声が広場全域へと響き渡る。

 

「ポッケ村の同胞たちよ、静粛に。……これより、この二匹が雪山と集落の平穏を踏みにじった全容を、法と機構の名において正式に開示する」

 

レム判事は懐から機構特製の罪状調書を広げ、氷柱に縛り付けられたジェシカとユウキを冷ややかに指弾した。

 

「ただの怠惰、ただの口汚い暴言と見做すことなかれ。この者らが犯したのは、狩猟社会の根底を破壊する明白なる重罪――殺人未遂や盗賊行為をしたのだ」

「さ、殺人未遂……!?」

「盗賊行為だと!?」

 

広場の村人たちから、怒りと驚愕のどよめきが波のように広がる。

 

「被告人ジェシカ・フローベル。この者は己の虚栄心と課金ゲームの浪費を満たすため、過酷な狩猟から帰還した新米ハンターを背後から闇討ちし、致命傷を負わせた上で素材を強奪。さらに生活の糧を得る露店商に対し、刃物を突きつけ売上金を略奪した。奪う側の浅ましい利己心のために、他者の命を平然と天秤にかけた凶行である」

 

レム判事の告発に、ジェシカは凍りついた青髪を振り乱して叫ぼうとした。

 

「ち、違う! あいつらがノロマで――」

「黙れ」

 

レム判事の視線の一閃が、ジェシカの言葉を喉奥へ叩き落とす。

 

「さらに被告人ユウキ・ナガサト。極寒の地における生存の基盤たる雪かき作業を放棄し、共有財産たる食糧を無断で貪り食い、忠告を与えたギルド職員や集落の民に対し『殺してやる』と公然と脅迫を重ねた。一銭の価値も生み出さぬ空洞のプライドのために、過酷な雪山で助け合うべき人命の輪を意図的に断絶せしめた罪、弁解の余地なし」

「う、嘘よぉぉ……! 難しいことわかんないし、あたしは悪く――」

 

ユウキの泣き言も、村人たちから湧き上がった怒号の嵐にかき消された。

 

「殺人未遂の盗賊だと!?」

「そんな危険なクズを野放しにしてたのか!」

「ポッケの雪を汚すな!」

 

雪玉や氷片が容赦なく二人の足元へ投げつけられ、広場は完全な断罪の熱気に包まれた。

 

「……やってられるか。村人の言う通りだ。これほどの凶悪犯を前に、温情などただの猛毒だな」

 

エリオット隊長がクロームレイザーの巨大な刀身を氷盤へと叩きつけ、凄まじい地鳴りを轟かせる。

 

「ふっ、盗賊と殺人未遂犯にふさわしい結末を用意してやろう」

 

レンブラント氏が夜砲【黒風】のバレルをカチリと鳴らし、黒煙混じりの紫煙を吐き捨てた。

レム判事は調書を懐へと収め、腰の鬼哭斬破刀真打の柄に手をかけた。

 

「集落の法を舐め、他者の血肉を啜ってきた寄生虫よ。村人たちの目の前で、己が積み上げた大罪の対価を、その身をもって支払う刻だ」

 

退路を完全に断たれた処刑台の上で、二人の地雷女の顔面は、雪山よりも白く絶望に染まりきっていた。

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