蜂の巣と属性十倍の間で命乞いをするだけの簡単なお仕事です 作:翔田美琴
ユクモ村の集会所前、普段なら観光客や湯治客が憩う広場は、一瞬にして冷徹な空気に塗りつぶされていた。
木製の長机が三つ並べられ、中央に座すのは藍色のジャッジメントコートを纏ったレム判事。左脇には、クロームレイザーの柄に手を置き、怠そうに視線を落とすエリオット隊長。右脇には、パイプ代わりの煙草をくゆらせ、漆黒のヘビィボウガンを机脇に立てかけたレンブラント氏が控えている。
「な、なんなのよあんたたち! コスプレごっこなら他でやりなさいよ!」
縛り上げられたわけでもないのに、周囲を取り巻く威圧感から逃げ出せず、ジェシカ・フローベルは青髪を振り乱して甲高い声を張り上げた。
「ちょっと綺麗な顔してるからって調子乗んじゃないわよ、このオカマ! 女のくせに髭なんか生やして気色悪い!」
ピシリ、と広場の空気がさらに冷え切る。
レム判事は眉一つ動かさず、手元の羊皮紙をめくった。耳元に光るルージュピアスの呪いにより、初対面の者が彼を女と誤認するのは日常茶飯事だが、その侮辱すら調書に淡々と記録されていく。
「……男だ。貴様のような下劣な輩に訂正するのも愚かしいがな。これより、ルージュ機構による臨時法廷を開廷する」
「はぁ!? 臨時法廷ぃ!? ふざけんじゃなわよ!」
隣で地べたに座り込んでいたユウキ・ナガサトが、鼻の穴を膨らませて喚き立てた。
「金もないくせに偉そうに! 私を誰だと思ってんの!? 0円女王様とか呼んだ奴らは全員ころしてやるんだから! 難しいこと言ったってわかんないし、あんたら全員クビよ、クビ!」
「やってられるか」
エリオット隊長が心底うんざりしたように吐き捨て、ステンレスの銀ブーツを床に鳴らした。
「罪状の読み上げすら理解できん知能か。ポッケ村でラージャン呼ばわりされる俺のほうが、まだ知性的に見えるぞ」
「同感だな、エリオット」
レンブラント氏が紫煙を吐き出し、金のバックルをきしませながら冷ややかに笑う。
「知性がないなら、蜂の巣にして肉片の数を数えさせたほうが早いかもしれんが……まあ、機構の形式だ。判事、判決を」
レム判事は立ち上がり、灰色のハイネックの首元を正すと、黒革の手袋をはめた指先で二人を指し示した。
「被告人、ジェシカ・フローベル。新米ハンターへの闇討ち及び素材強奪、露店商への恐喝、私的奴隷化。
被告人、ユウキ・ナガサト。集落業務の怠惰放棄、食糧の無断搾取、公然侮辱。
両名ともに、反省の情は皆無。自己愛と他責思考に依存し、社会秩序を著しく損なう害毒と認定する」
「はっ、謝るわけないでしょ! あんたたちが謝りなさいよ!」
「そうよ、金持ってる奴が正義なの! 持ってないけど!」
喚き散らす二人の言葉を、レム判事の冷酷な宣告が断ち切った。
「主文――両被告人を、ルージュ機構の監督下における『強制狩猟労働刑』に処す。執行場所は極寒の雪山、および危険地帯。自らの肉体をもって労働の重みを刻み込むまで、恩赦の一切を認めない」
「な……っ!? 雪山!? 重いの無理だし寒いのも無理ぃ!!」
「ちょっと、死ぬのはいやぁ! 誰か助けなさいよ、馬鹿ぁ!!」
絶叫する二人の首根っこを、エリオットとレンブラントが無造作に掴み上げた。逃れ得ぬ再教育の地獄へ向けて、更生執行の幕が上がった。