蜂の巣と属性十倍の間で命乞いをするだけの簡単なお仕事です 作:翔田美琴
足元に転がされた無骨な鉄ピッケルを前に、ジェシカとユウキの顔は屈辱と恐怖で引きつっていた。
「な、なによこれぇ!? こんな重い鉄くず持たせて採掘!? 冗談じゃないわよ、私のネイルが割れたらどうすんのよ!」
ジェシカは泥まみれのドレスの裾を引っ張りながら喚き立て、いつものように責任転嫁の台詞を並べ立てた。
「大体さぁ! 私が露店を脅したのも、新米から素材取ったのも、全部あいつらがノロマで無防備だったのが悪いのよ! 世の中うまく立ち回ったもん勝ちなの! 私をこんなとこに閉じ込めるあんたたちの方が公然侮辱で逮捕されるべきよ!」
一方、床に突っ伏していたユウキも、相手が暴力に訴えてこないと見るや、持ち前の浅知恵を働かせ始めた。
(……チッ、どうせ口だけのハンターでしょ? 適当に下手に出て、おどけて謝っとけばそのうち油断するに決まってるじゃん)
ユウキはのそりと起き上がると、両手を頭の上でパタパタと振り、ふざけきった甘ったるい裏声を張り上げた。
「あは〜ん☆ ごめんなちゃ〜い! ぜーんぶユウキちゃんが悪うございました〜〜っと! てへぺろ☆ これで手打ちってことでいかがっすか〜? 難しいことわかんないし、雪かきも採掘もパスで! あたし、あったかいミルクティーとお肉が食べたいな〜!」
舌をペロッと出し、小首をかしげてふざけ倒すユウキ。
ジェシカもそれに悪乗りし、鼻で笑いながら腕を組んだ。
「そうよそうよ! 謝ってやったんだから感謝しなさいよね! ほら、さっさとユクモのあったかい温泉に戻しな――」
カチャリ。
極寒の石室に、乾いた金属の噛み合う音が響いた。
「…………」
紫煙をくゆらせていたレンブラント氏の目が、氷点下の吹雪よりも冷たく細められた。
白シャツの襟元、金のバックルをきしませながら、彼は一言も発することなく、腰だめに構えていた『夜砲【黒風】』の重厚な銃身――漆黒のロングバレルを、音もなくユウキの眉間へと突きつけた。
「ひ…………?」
ユウキのふざけた笑顔が、ピシリと凍りつく。
皮膚に触れる銃口の冷たさは、雪山の外気よりもなお冷徹だった。覗き込む銃腔の奥からは、火薬の焦げた匂いと、機構の呪いによる異様な魔力の奔流が渦巻いている。
「ギャグか? ……笑えんな」
レンブラントの声は、低く、低く、石室の床を這うように響いた。
反動軽減+3、フルリロード、そして――弾薬無限。機構の規格外の力を秘めたヘビィボウガンが、微かな唸りを上げる。
「貴様らの下劣な茶番に付き合う気はない。反省の弁を述べる口がそのように軽いのなら、二度とふざけた音を出せぬよう、鉛の弾丸で喉笛の隙間を埋めてやってもいいのだぞ」
「ヒッ……! ヒイィィィッ!!」
ユウキの顔面から急速に血の気が引き、土気色へと変わる。
「ご、ごべんなざいぃぃぃ! じ、冗談、冗談ですぅぅ! ふざけました、調子乗りましたぁぁぁ!!」
プライドなど一瞬で消し飛び、ガタガタと全身を痙攣させながら床に額を激突させて土下座した。
レンブラントは無表情のまま銃口をスライドさせ、今度は青ざめて後ずさりしていたジェシカの鼻先にピタリと据え付けた。
「ひっ……死ぬのはいやぁぁぁっ!!」
「次は貴様だ。他責思考を吐き散らかすその舌ごと、蜂の巣にして雪山に撒き散らしてやろうか?」
「や、やめてぇぇ! 謝る、謝るからぁぁ! なんでもします、なんでも言われた通りにしますからぁぁっ!!」
ジェシカは偽物のシャネルバッグを投げ捨て、みっともなく尻餅をつきながら涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして絶叫した。
「……レンブラント、そこまでにしろ。処刑場ではなく更生施設だ」
腕を組み、冷ややかな視線を送っていたレム判事が制止の声をかける。
「とはいえ、口先だけの反省すら成立せん下等生物であることは証明されたな。エリオット、連れて行け」
「……やってられるか」
大剣クロームレイザーの柄に手をかけた
エリオット隊長が、深く長いため息をつきながら二人を冷たく見下ろした。
「無駄口を叩く体力はあるようだな。なら予定を変更し、ノルマを倍にする。……拾え、ピッケルだ。拾わん奴の足首から順に、属性の暴力で叩き折る」
「ひいいいっ! 拾いますぅぅぅ!!」
二人は転がるように這いつくばり、凍てつく鉄ピッケルにしがみついた。もはや傲慢の欠片も残っていない。レンブラントの銃口が背後から向けられる中、極寒の地獄の労働へと追い立てられていった。