僕と契約してお嫁さんになってよ!   作:ゆでたまごやき

10 / 10
短いです


閑話  共有

 

 

 

 

 

 

 街に夜の帳が下りる。欠けた月に掛かる雲は、月の光をぼやけさせ、闇を燻らせている。ビルに備え付けられた電灯が妙に怪しく輝き、その輪郭をハッキリとさせる。

 

 物音は少なく、風が横切る後だけが嫌に響く。春の暖かな季節とは思えないほど、肌寒く、機械の油と鉄とが混じった匂いが辺りに漂っている。

 

 人によっては不気味とも感じてしまう夜。そんな中、鉄塔の上、おおよそ人がいるべきではない場所。そこに赤色の光が降り立った。

 

 

「ふーん、珍しいね。グリーフシードの回収以外であんたが顔を見せるなんてさ」

 

 

 濃い赤色の髪を頭の後ろで束ねた少女が、目線を下に向けた。

 

「君は僕のサポートがなくても十分やっていけるだろう?」

 

 視線の先には、白い小動物。もとい、少女を破滅へと導く淫獣であるキュゥべえがその場に佇んでいた。いつものように無機質な目を向けている。その耳に赤いリボンは付いていない。

 

「だから言ってんだよ。何しに来やがった」

 

 両者の間に流れる空気はおおよそ仲間とは思えないものだった。その証拠に少女は怪訝そうな表情を隠そうともしていない。

 

「君に伝えるべきことがあってね」

「はぁ?あんたが?なーんか胡散臭いね」

 

 少女は表情を変えないまま、懐から取り出したお菓子を口に含んで、カリカリと食べながら話半分で聞く。

 

「まあ、いいよ。言ってみな」

「巴マミが仲間を作ったみたいだ」

 

 

 パキりとお菓子が折れ、空中をクルクル回って落下する。が、落ちる前に少女の手によって掬われる。

 

 掴んだお菓子を再び口に含んだ少女は、鉄塔の手すりに肘を掛けて、溜め息混じりに遠くを見つめる。キュゥべえの言葉に多少なりとも動揺したようだった。

 

「マミがねぇ……別にいいじゃねーか。いちいちあたしに言うことでもねーだろ。嫌がらせかっての」

「嫌がらせ?とんでもない、コレは君にとっての死活問題だよ」

「…………」

 

 キュゥべえの言葉に少女は沈黙で答えた。死活問題というものが何を意味するか分からないほど、少女は伊達に魔法少女をやっていない。

 

 

「君だって分かるだろう?見滝原市の大きさでは、魔法少女二人分のグリーフシードの数はいずれ足りなくなる。そうなれば、巴マミがどれだけ良識人であっても、隣町である風見野に手を伸ばさざるをえなくなるだろう。そうなってしまったら、杏子。いくら君が強くても分が悪いよ」

 

 キュゥべえの言いたいことは分かる。分かるからこそ、杏子は苛立ち混じりに舌打ちをする。

 

「んなこた分かってんだよ。あたしに尻尾巻いて逃げろつってんのか、マミをぶっ殺せつってんのか……言いたいことははっきり言いな」

「とんでもない、僕はそこまで言ってないよ。あくまでも、情報共有さ。ただ、アドバイスをするなら早いうちに相手の情報を掴んだ方が良いと思うよ」

「はいはい、どうも。一応礼は言っておくよ……ったく、なんで今になって仲間なんか」

 

 杏子の顔には“分からない”という言葉がありありと浮かんでいた。

 

 かつて、魔法少女として駆け出したばかりの頃。杏子は幻惑の魔法を使う魔女に苦戦を強いられ、風見野から見滝原まで追いかける羽目になった事があった。その時は死ぬか生きるかギリギリのところで杏子はマミに助けてもらった。

 

 その後はマミの魔法少女としての信念や生き様に感銘を受けて、彼女に弟子入りし、魔法少女コンビを組んでいた時期もあった。

 

 マミとならどんな魔女にだって負ける気はしなかったし、練習を重ねて必殺技も完成させた。討伐が終わったらマミの家でたらふくケーキを食べて、他愛もない会話に華を咲かす。そんな楽しい日々を彼女と共に過ごしていた。

 

 

 

 杏子は自分は悪者をやっつける正義の味方なんだと、信じて疑わなかった。

 

 

 

 だが、ある事件をきっかけに、杏子は魔法少女としてのあり方を根本から変えてしまった。魔女は使い魔であろうと見敵必殺(サーチアンドデストロイ)して人々の安全を重視するマミと、魔法少女の力は徹頭徹尾自分達のためだけに使うべきだという杏子。他人の為に力を使う少女と自分の為に力を使う少女との間にヒビが入るのは時間の問題だった。

 

 最終的に互いの主張が交わらない二人は命の奪い合いまですることになり、マミが敗北を認める形で決別することになった。

 

 そんな過去があったのにも関わらず、今になって仲間を見つけたということは、同じ志を持った魔法少女がもう一人いるということだ。

 

 杏子は奥歯をギリッと噛み締めた。

 

「一応、言っておくけど。マミの仲間になった魔法少女には気をつけた方がいいよ。彼女の素性は僕らにも分からないことだらけだ」

 

 キュゥべえの言葉を受けて、杏子の視線は鋭くなる。目の前の生き物がうっかりで魔法少女の情報を忘れるなんて思えなかったからだ。

 

 

「どういう事だ。あんたが契約したのに、忘れたっていうことかい?」

「いいや、忘れたわけじゃない。僕は今まで契約した魔法少女全員の事を覚えているよ。それに、間違いなくソウルジェムを持つ魔法少女だったから、僕と契約しているはずさ。だけど、何故かその記憶が何処にもないんだ。はっきり言って得体の知れないイレギュラーと断ずるしかないよ」

「そんなワケ分からねー奴とマミはコンビを組んだってのか?」

 

 先程まで何処か怒っているかのような雰囲気はなりを潜め、困惑というか心配というか、キュゥべえの話を聞いてそんな表情を浮かべてしまう杏子。

 

 気持ちが収まらないのか髪をがしがしと掻いて、彼女は鉄骨にもたれた。上を見上げてみれば、雲が溶けて欠けた月が顔を覗かせているところだった。

 

 

「僕から言えることはこれくらいだよ。どうするかは君が決めるといい」

 

 そう言うやいなや、キュゥべえは鉄塔を鋼材伝いに降りていき、その場から退いた。残された杏子はというと。

 

「あたしにどうしろってんのさ……」

 

 

 何を思ってそう呟いたかは分からない。小さな声は誰に聞かれることもなく、風に掻き消された。

 

 

 




閑話ですが、最推しの杏子ちゃんをやっと出せました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

目が覚めたら、『まどマギ』の美樹さやかの姉だった…(作者:黒い魔女)(原作:魔法少女まどか☆マギカ)

『魔法少女まどか☆マギカ』を見た後に目が覚めたらまどマギ世界だった少女の話。▼おまけに妹は美樹さやかだった。


総合評価:1012/評価:8.5/連載:4話/更新日時:2026年10月04日(日) 00:15 小説情報

魔法少女まどか☆マギカ [異編] 反逆のキュゥべえ(作者:折無堂)(原作:魔法少女まどか☆マギカ)

※原作大幅改変IFです。▼「キュゥべえが善良になった」のではなく、▼「キュゥべえが従来の魔法少女システムを非効率だと判断したら」▼という前提で進みます。▼キュゥべえの行動原理、魔法少女システム、魔女などについて独自解釈・独自設定を多く含みます。▼※TVアニメ版を前提としたIF作品です。▼『[新編]叛逆の物語』の改変・派生作品ではありません。▼――――――――…


総合評価:1599/評価:8.81/完結:35話/更新日時:2026年09月24日(木) 21:53 小説情報

環いろはになっちゃった人の話(作者:憑依大好き侍)(原作:魔法少女まどか☆マギカ)

いや環いろはって誰ぇ!?


総合評価:3146/評価:8.89/連載:5話/更新日時:2026年10月21日(水) 02:54 小説情報

俺がマギカなのか……?改(作者:きのこ大三元)(原作:魔法少女まどか☆マギカ)

 目を覚ますと、そこは『魔法少女まどか☆マギカ』の世界だった。▼ ▼ しかも自分は見知らぬ少女の姿で、時系列は暁美ほむらがまだ眼鏡と三つ編みだった最初の時間軸。▼ ▼ 『叛逆の物語』まで知っている以上、この先に起こる悲劇も知っている。▼ なら、未来を変えればいい――そう思った。▼ ▼ だが、自分自身のことだけは何も分からない。▼ ▼ 長く学校を休んでいたらし…


総合評価:1945/評価:8.57/連載:53話/更新日時:2026年10月22日(木) 19:09 小説情報

TS憑依転生強化さやかちゃん(作者:愛しのマルゲリータ)(原作:魔法少女まどか☆マギカ)

▼映画館から家に帰る途中、不慮の事故に巻き込まれて死んでしまった俺の転生先は……まさかの美樹さやかだった。


総合評価:5887/評価:8.35/短編:7話/更新日時:2026年10月02日(金) 19:14 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>