初日こそ、鹿目まどかにダメダメコミュニケーションを取ってしまったほむらだったが、その後の学校での活躍には目を見張るものがあった。
座学をすれば、皆が苦戦する問題を最初から答えが分かっているかのようにスラスラと電子ボードに書き、運動をすれば部活生顔負けの身体能力を見せつけ、県記録すら塗り替える。
まさしく、容姿端麗、頭脳明晰、その上運動までできすぎるパーフェクト女子である。天は二物を与えないというが、彼女には当てはまらない。寧ろ天が彼女に贔屓しているとすら疑ってしまう。
「いやー、ほんと凄いよねあの転校生」
そんな転校生の事をまどか達は校舎の屋上で弁当を広げながら話題にしていた。
「まどかから話を聞いた時は可愛い顔した不思議ちゃんだなって思ったけど、勉強も運動もできるなんて、属性もりもり過ぎない?これが萌えかっ!?萌えってやつなのかーっ!?」
いつぞやのまどかに戯れる時みたく、さやかは自分の身を捩って冗談っぽく言う。あの容姿と言動だ。男女関係なくほむらを目で追うものは少なくない。
「ほんとに凄いよね、時々同じ年だって忘れちゃうくらいだよ」
初日の一件以来、ほむらからの接触はなかった。というより、常に彼女の周りには彼女を賞賛する人で溢れていて、身動きとるのも難しそうな様子だった。
「でも、やっぱりほむらちゃんのことどこかで見たことがあるような気がするんだよね」
「それって、お決まりのやつですかなー?幼い時に実は出会っていて、大きくなってから再開して、そこから恋が始まるとか何とかー」
「そ、そんなのじゃないよー」
「もー、可愛いなーまどかは!私の嫁になるのだぁ!」
さやかが揶揄うとまどかは頬を赤らめる。期待通りの反応をくれるまどかがかわいくて、さやかは徐ろにまどかに抱きついた。
そうして、二人が他愛もなくじゃれついている時だった。
ぎぃぃっ、と屋上の扉が開きそこから予想だにしない人物がひょっこり顔を覗かせた。
「あら?お邪魔だったかしら?」
「へ?いやいやいやいやいや、全然!誓って何もしてないから!」
じゃれついていただけなので本当に何もしていなのだが、変に焦っているせいで逆に怪しくなってしまっている。
「ほ、ほむらちゃん?何でここに?」
扉を閉じ、姿を見せたのは話題の渦中にあったほむらその人であった。
「落ち着いてお弁当を食べる場所を探していたの……教室じゃちょっと人が多すぎて、良かったらご一緒してもいいかしら?」
にこり笑みを浮かべながら、首を少しだけ傾げるほむら。仕草はあざといが、彼女の不思議な雰囲気も相まって妙な色香を纏っていた。
「もちろんだよっ、ほむらちゃん」
まどかは快く頷いた。心の片隅に初日のことが残っているが、一緒にご飯を食べたいと言っているほむらを断る理由なんてなかった。
「ありがとう、鹿目さん……それに美樹さん」
「えっ、あたしの名前も知ってるの?」
「ええ、クラスメイトだもの」
ほむらに認知されていることにさやかは驚く。もし自分だったら転校してすぐにクラスメイト全員を覚えるなんてできないなと素直に感心していた。
「あたしのことはさやかでいいよ」
「わ、私もまどかって呼んでくれたら嬉しいなって」
「ふふ、ありがとう。じゃあ遠慮なくそう呼ばせてもらうわね。私のこともほむらって呼んで」
そして、互いにある程度自己紹介を終えると屋上のベンチに横になって弁当を広げた。ほむらもまた、持ってきたお弁当を開けると……。
「わ、ほむらちゃんの弁当可愛いね!」
「どれどれー? へぇ、見たことないキャラクターだけど、なんかゆるくて可愛いなー」
そういえば今日の朝、キュゥべえが“僕が初めて作ったお弁当だよ”としっぽに弁当を吊り下げながらやけにご機嫌だったのを思い出す。ほむらの弁当には色とりどりの野菜と、おかず、そしてその全てを置き去りにするほどの存在感で中心にキュゥべえの形をしたおにぎりが入っていた。いわゆるキャラ弁と言うやつだが、ここまで凝ったものを作るとは思っていなかった。
「あ、ええ、ありがとう。同居人が作ってくれたのよ」
驚きはしたが、キュゥべえが作ったとは言えないのでほむらは言葉を濁して答える。だが、その言葉は二人にとって別の意味に捉えられる。
「え?ど、同居人ってもしかして、まさか彼氏とか!?」
「えぇっ、ホントなのほむらちゃん!?」
二人とも健全な女子中学生。恋愛の話はケーキよりも大好物だ。ほむらに向ける瞳はキラキラと輝いている。
「え、いや、そういうのじゃ」
「かーっ、超絶美少女のほむらさんってば、恋愛まで抜け目なしとは、隅に置けないねぇー!」
「ち、違うわよ。彼氏だなんてそんな」
「私も気になるっ」
「ま、まどかまで」
頭の隅であの白い小動物が愉快そうに笑っているのが想像できる。同居人なんて曖昧な言葉で濁すんじゃなかったと、心の中でほむらは反省した。
「本当に違うのよ、訳あって私の遠縁の親戚が面倒を見てくれているだけ。同居人って言ったのは、それ以外に説明できる言葉が見つからなかったの……期待している話じゃなくてごめんなさいね」
ひとまずはそういう設定にしておこうとほむらは言葉を紡いだ。
「なーんだ、あたし達の早とちりだったわけね。勝手に盛り上がっちゃって悪いねほむら」
なんだか申し訳なさそうな二人。その光景を見た時、ふと、ほむらの心の中で懐かしさが込み上げる。
そういえば、さやかとこうやって話すのは何時ぶりだろうか。思えば、殆どのループで互いに良い感情を持つことはあまり無かった。それが、今回に限っては友好な関係を築きつつある。小さな変化ではあるが、ほむらにとってはそれが大きな意味を持つことに変わりはない。あのキュゥべえと出会って、物語が大きく動き出しているような実感が湧いてくる。
「大丈夫よ、少し複雑な家庭だから勘違いされるのはよくある事なの。それよりもお弁当を食べましょう?お昼休みが終わってしまうわ」
「わっ、ホントだ」
その後も三人は談笑を重ねつつ、互いの親睦を深めていくのだった。
昼休みが終わり、午後の授業となった。科目は体育だが、柔軟をやったりボールの上でバランスをとったり、はたまた高飛びをしたり、内容に一貫性はない。
体操服に着替え、校庭に集まった生徒一同に教師がペアを作って柔軟をするように言う。
「私達三人だもんね、どうしよっか?」
まどか、さやか、ひとみは三人組だ。こういう時は、誰か一人を入れてペアを作るが、さやかの視界に一人でいるほむらが映った。最近、ほむらがあまりにも凄すぎるが故に、本当にペアを組んでいいのか皆遠慮してしまっているところがある。
「今日はまどかとひとみがペアを組んで、あたしはほむらを呼んでくる」
「あ、さやかちゃん」
そう言って足早にほむらの元に向かうさやか。
「おーい、ほむらー!あたしとペアを組もー!」
その声にほむらは一瞬肩をビクッと震わせるが、振り返った彼女はどこか嬉しそうな面持ちだ。その顔にさやかは一瞬心が波打つ。
「ええ、分かったわ。よろしくお願いね、さやか」
長く手入れされた髪を手で払い、ほむらはさやかの元に歩み寄る。いちいち絵になるなぁ、とさやかは思わずには居られなかった。
そして、柔軟が始まるが--------
(うわ、関節やわらかぁ……ほむらってスタイルいいから気付かなかったけど、思ったより身体が小さいし……それになんだかいい匂いが)
「?どうしたのさやか?」
「へ?いやいや、な、なんでも無い」
「そう?」
不思議そうな顔をして尋ねるほむらに、さやかはどこか挙動不審ながらも返事をした。
(顔も良すぎるんだよなぁ……)
「やったぁ、乗れたよっ」
「お見事ですわ、まどかさん」
遠くからまどかの嬉しそうな声が聞こえる。バランスボールにちゃんと乗ることができて嬉しそうな様子だったが、なんだがドギマギしてそれどころじゃなかったさやかだった。
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「どう?良かったんじゃないかしら?」
学校が終わったあと、ほむらは誘われるがまま、まどか、さやか、ひとみの三人と共に途中まで一緒に帰路に着いた。
家に着いたほむらは、今日の様子を見ていたであろうキュゥべえに問いかけた。心做しか、薄っすらとドヤ顔をしているようにも見える。
「今日の行動はケチの付けようがなかったよ。誰が見ても仲良くなったのが分かるくらいだ。頑張ったねほむら」
「ふふ、当然よ。あなたが付いているもの」
「僕はあくまでお膳立てしたに過ぎないよ。あの言動は君自身が考えて、君自身が実行したんだ」
キュゥべえはちょうどほとぼりが冷めたタイミングで屋上にさやかとまどかが居ると告げただけ。あとの行動は全てほむらが考えてやったことだ。弁当の使い道も特に何も言っていなかった。
「僕の見立てでは、二人とも初日の事はもう気になっていないみたいだ。一時期はどうなるかと思ったけど、こういうのは時間が解決するものだね。あとは、そろそろ巴マミに接触する事も考えるべきだけど……」
まだ計画は第一歩を踏み出したばかりだ。さらに計画を進めるためには、巴マミとの接触は避けて通れない道である。
「それだけじゃないわ、さやかの契約の事も蔑ろにはできない。今日でいくらか彼女と仲を深めれたけど、このままじゃいつも通り間違いなく契約するわ」
「まあ、そうだろうね。あの欠陥品共の事だ。まどかの異常なまでの因果につられて蜚蠊のように湧いて出てくる以上、そばにいる彼女をついでとばかりに狙うだろうね。だけど、いいのかい?まどかを救うのが最優先だろう?」
キュゥべえの言葉に、ほむらは逡巡する。彼女にとってまどかを救うことだけが繰り返す理由。
だが、まどかだけを考えてその他全てを犠牲にしても結末は変わらなかった。それが痛いほど分かっているし、今日さやかと久しく会話したことで、彼女は切り捨ててもいいような存在ではないと、ほむらは強く思った。彼女の瞳から迷いはもう無くなっている。
「……救えるなら、彼女だって救いたいわ。あの子だって、インキュベーターに誑かされた被害者。見捨てる理由はどこにもないわ。だから、契約する鍵となる上条恭介をどうにかしないといけないけど……」
「前言っていたバイオリン馬鹿のことだね。それなら僕に一つ考えがあるよ」
一体どんな案だろうかと、キュゥべえに耳を傾けると
「僕らで奇跡を起こせば良いんだよ」
「……どういうことかしら?」
「事故で腕が動かないんだろう?だったら、僕らで治せば良いじゃないか」
突拍子もないことをキュゥべえは当然かのように言う。魔法少女の願いの果てに、上条恭介の腕は修復されるというのに、一体どんな方法で奇跡を使役するというのか。
「そんなこと、可能なの?」
「一応これでも星間を跨ぐ種族だよ?今の人類の医療技術よりも何段階もその先を行っている自負はある。さすがに欠損とかは無理だけどね」
「で、でもそんなこと出来るだなんて、あいつらは言ってなかったわ」
「言うわけないだろう?目の前に契約のチャンスがあるのに、あの守銭奴共がみすみす逃すわけないじゃないか」
「……そんな」
ほむらは驚愕する。それでは、それではあまりにもさやかが報われないというものではないか。
「まあ、威勢よく奇跡を起こすなんて啖呵を切ったのはいいけど、上条恭介の怪我がどの程度か見てみないと分からないというのが本音だよ」
万に一つ、億に、兆に、はたまた京に……例えそれが那由多の彼方であろうとも、ほむらにとっては十分すぎる。さやかを魔の手から救う為に、乗らない手はなかった。
「分かったわ、やりましょう。私達で上条恭介を治す」
「そうだね。それを当面の目標にするけどタイムリミットのこともある。巴マミのことも並行してやっておこう」
「ええ、分かったわ」
こうして、次なる一歩を踏み出すべく、二人は早速動き出すのだった。
体育の授業は自己満足で書きました。演出とはいえ何でバランスボール乗ってんだろ……
ひとみさんの影が尋常じゃなく薄いですが、仕様です。