僕と契約してお嫁さんになってよ!   作:ゆでたまごやき

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第五話 共闘

 

 

 

 

 

「ひーとーみー、お願いっ、ノート見せて。必ずや恩を返させて頂きますので」

「いいですわよ」

「だめよ、ひとみ。さやかの為にならないわ」

「なにをー!ほむらはあたしのお母さんかっての」

「そうよ」

「おっ、冗談言うようになったねぇ」

「ティヒヒ」

 

 暁美ほむらが見滝原中学に転校してから数日、この頃にもなってくると、いくら転校生とはいえ所属するグループもだいたい固まってくる。ほむらは周囲に目を遣ると、ピンク髪、青髪、緑髪、といつの間にか色とりどりのメンバーと共に行動するようになっていた。

 

「そうだ、帰りにCD屋寄ってかない?」

「うん、いいよっ、上条君に買っていくの?」

「まあ、そんな感じ、二人は予定とかどう?」

「申し訳ありませんわ、わたくし今日はお稽古があってご一緒できませんの」

 

 

 お嬢様口調で、志筑仁美が答えた。彼女の事をほむらは多くは知らない。精々、上条恭介を巡ってさやかの前に立ちはだかる恋敵だろうか。

 

 

「そっかぁ、ならしょーがない。稽古頑張ってね仁美、ほむらは?」

「ええ、いいわよ。ちょうど寄りたかったの」

「さっすが!」

 

 

 嘘である。ほむらはCD屋に微塵も興味がない。だが、まどかが着いていくと言ったのだ。彼女と行動を共にできるのなら、断る理由なんてない。

 

 

 

 

 

 

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「皆さん、楽しんできてくださいね」

 

 終礼が終わり、放課後となった。学校で志筑仁美と別れたあと。約束通り、三人はCD屋に寄っていく。

 

「あった、これよこれ。試聴していきますかー」

 

 さやかはお目当てのCDを見つけるやいなや、近くにあったヘッドフォンを取って試聴を始めた。ウキウキで聞いているあたり、床に臥す上条に早く聞いてもらいたいのが見て取れる。

 

(……腐れ縁とは言うけれど、乙女の顔になってるじゃない)

 

 そんな甘酸っぱい雰囲気を醸し出しているさやかを尻目に、ほむらはまどかの側で一緒に別のCDを見ていた。特段音楽に興味がある訳では無いので、こうするのが最適なのだ。決してまどかの趣味を覗き見たいわけではない。

 

「ほむらちゃんはどんなジャンルの音楽が好き?」

 

 まどかからそんな質問が飛んでくる。はたして、自分は何が好きだったのだろうかと一瞬考えた。過酷なループの中で音楽を聞いている余裕なんてどこにもなかった故に、とうの昔に忘れてしまったみたいだ。

 

「……そうね、ジャンルはあまりに気したことないけれど、強いて言うならクラシックかしら」

「そうなんだっ、さやかちゃんと同じだね!」

「……まあ、そうなるわね」

 

 

 クラシックは嫌いじゃない、が、さやかと同じだと言われるとなんだか何とも言えない気持ちになる。別に嫌だというわけではないが、今までかなり苦労をかけられてきた相手なだけに、複雑である。

 

 

「そういうまどかは……どうしたの?大丈夫?」

 

 そう聞いた時だった。まどかが突然肩を震わせたかと思うと、キョロキョロと辺りを見回し始めた。まるで、見えない何かを探しているかのように。

 

「なにか……声が……」

 

 その瞬間、ほむらの視線がギリッと鋭くなる。この状況にほむらは心当たりがあった。

 

 

「誰かが、……助けてって。ごめん、ほむらちゃん……私、行かなきゃ」

「……なら、私も着いていくわ。そろそろ日も落ちる頃だし、一人で歩いちゃ危ないわよ」

 

 そんな状態のまどかに、ほむらが下した決断は引き留めることではなく、着いていくことだった。今までのほむらならそんな手段を選ばないだろう。

 

「え、でも、悪いよほむらちゃん」

「まだCD屋は閉まらないし大丈夫よ。それより、助けを求める声が聞こえたのでしょう?もし、聞き間違いじゃなければ、大事になる前に確認した方がいいわ」

「し、信じてくれるの?」

 

 

 不安そうに聞いてくるまどかに、ほむらは一歩距離を縮め、薄っすらと笑みを浮かべて答える。

 

 

「ええ、私はアナタを信じるわ……何があっても」

 

 

 どこか、粘着質で蠱惑的な声がまどかの耳介をなぞる。キュッと、一瞬息が詰まりそうな感じがしてまどかはほむらから視線を離そうとするが、どうしてか離れない。吸い込まれていくように、瞳と瞳が交差する。鼓動が耳にまで届き、身体は強張る。胸がざわめき、時間が伸ばされる。1秒が、1分に、1時間に感じられるほど。そうして、呼吸さえ忘れ…………

 

 

「じゃあ、さやかも呼んでくるわ」

 

 

 先に視線を外したのはほむらだった。彼女はそう言って、さやかのいるコーナーに足早に向かう。

 

 残されたまどかは……

 

 

(……な、何で胸がこんなにバクバク鳴ってるの?私どうしちゃったんだろ)

 

 顔を火照らせて、しゃがみこんでしまう。あんなに近くで人の顔をまじまじと見ることなんてなかった。それこそ家族くらいだというのに、その領域に容易く侵入してくる暁美ほむらという人物にまどかは不思議な感情を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

 

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 夕暮れ。太陽が地平線に身を隠すさなか、茜色に空は染められる。鴉の唄が遠く響き、景色は薄暮に包まれていく。

 

 そんな薄暗い時間帯に、三人は人気のない入り組んだ場所に来ていた。

 

 

「助けてって聞こえるって……まどかもそういう年頃なのかねぇ、あたしには何にも聞こえないけどなー」

「ほ、ほんとに聞こえたんだよっ、確かこっちの方から」

 

 頭の後ろで腕を組みながら、さやかは呑気に歩いている。それもそうだろう、いきなり助けを呼ぶ声が聞こえると言われても、なかなか信じるのは難しい。

 

「人が聞き取れる音の周波数には大きな個人差があるわ。私達に聞こえていなくても、まどかにだけ聞こえるっていうことも十分にあり得るわよ」

「えぇっ、そうなの?なんか小難しい原理だね」

 

 

 ほむらが適当にそれらしい事を言ってまどかを肯定すると、なるほどという面持ちでさやかは納得する。さやかにはこれくらいで丁度いいなと思った瞬間であった。

 

「あっ、あそこに」

 

 声の主を見つけたのだろうか、まどかが立ち止まって指差す方向にそれはいた。

 

 それは小さな白い体をボロ雑巾のように弄ばれた小動物だった。その周囲には、それをお手玉のように遊んでいる、体格のいい野良猫たちが居た。

 

「助けないとっ」

「あっ、ちょっと」

 

 まどかは誰よりも先に駆け出す。猫達は一瞬、体を立たせて威嚇しようとしたが、自分よりも圧倒的に大きな生き物が近付いてきては、本能が逃走を選ぶ。

 

「大丈夫っ!?」

 

 倒れた小動物の元に駆け寄ったまどかは、ボロボロの体の生き物を抱き上げる。まどかに続いて、ほむらとさやかが到着する。

 

「まどかを呼んでたのって……もしかして、その?」

「分かんない、でも、もしかしたらそうだと思う」

 

 

 どこか困惑している二人。まさかホントにいるとはと驚くさやか。酷い怪我をした小動物を心配するまどか。

 

 

 そして、その様子を見ていたほむらは……嗤った。無様だと、愉快だと、自身を上位種だと宣う生き物が、まどかと契約をする足掛かりとして猫にやられる小芝居を打っているのだ。そんな手段しか取れないキュゥべえが滑稽で仕方がなかった。

 

 自分の口角が上がっていることに気付いたほむらは、そっと表情をもとに戻した。こんな顔、二人に見られるわけにはいかなかったからだ。

 

「と、とりあえず病院に見せに行かなきゃっ」

 

 まどかが小動物を胸に抱き、立ち上がる。

 

「動物病院ってこの近くにあったっけ?」

「さっきのCD屋の近くに、小さいけどあったと思うわ」

「じゃあ、そこに連れて行かなきゃっ……ってあれ、景色が、な、なんだかへんだよっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぐにゃり

 

 

 

 

 

 

 

 そう形容すれば良いのだろうか。あたり一面の景色がまとまりをなくし、溶けて崩れるように形を変えていく。たちの悪い夢のような、あまりの冒涜的な景色の変化に、まどかとさやかは顔を青ざめさせ、その場にペタリと座り込んでしまった。恐怖のあまり足に力が入らないのだろう。

 

 

「な、何よこの空間、絶対おかしいって」

「さ、ささ、さやかちゃん、なにかいる」

 

 気色の悪い高い声で、そいつらは鳴き声を発する。綿のような頭に、取ってつけたような目と口、一言で表現するなら“化け物”と言わざるを得ないだろう。そんなのが、三人の周囲を取り囲み、鋭い音を立てるハサミを近づけてくる。このまま抵抗しなければどうなるか予想に難くない。

 

 

………だが、それは魔法少女がいなければの話だ。

 

 

 生憎、目の前の現象はほむらにとって慣れきった景色だった。幾度も殺されかけた。そのたびに駆逐した。かつて希望を願い、絶望に身を焦がし、呪いを振りまいた者たち。

 

「魔女の結界」

「……え、?」

「二人とも心配しないで……あなた達には指一本たりとも触れさせない」

 

 

 そういったほむらの左手には、いつの間にか銀色の盾が装着されていた。

 

 

「私達だけの秘密よ」

 

 二人を庇うように、ほむらは降り立つ。先程の制服姿から、魔法少女へと姿を変えて。

 

 瞬間、乾いた銃声とともに化け物の額に鉛玉が食い込む。

 

 ほむらの手には硝煙を吐く拳銃が握られていた。

 

 

「えっ、ええっ、どういうこと!?ほむらちゃんが、殺し屋さん!?」

 

 平和なこの国で、銃を用いて戦っている姿が衝撃的すぎで、まどかはほむらのことをどこかの国のヒットマンだと思っているのかもしれない。

 

 ほむらは二人を一瞥すると、慣れた手つきで銃のトリガーを引き、次々と敵を屠る。時折、迫り来る攻撃を華麗に躱しながら、マガジンをリロードする。その一連の動作はまるで円舞曲でも踊っているかのようだ。

 

 

「どういうことよこれ、ほむらが銃持って、可愛い服着て……あたしって疲れてんのかな」

 

 目の前で繰り広げられる凄まじい銃撃を見て、呆然とするしかないさやか。

 

 

 目の前で友人が変身して、銃火器を何食わぬ顔でぶっ放して、顔色一つ変えずに化け物をぶっ殺していくだけでもお腹いっぱいなのに、現場は更に混沌を極めることになる。

 

 

 

 

 

 

「加勢するわっ!」

 

 

 

 

 

 大きな破裂音とともに、化物が木っ端微塵に爆散する。虚空を切り裂いてこの場にやってきたのは、黄色の可愛らしい衣装に身を包んだ少女だった。年齢は同じくらいだろうか、くるりと巻いたツインテールはどこかお嬢様のような印象を与え、物柔らかな表情も相まって大人のお姉さんと間違ってもおかしくはない容姿だった。

 

 

(予想よりも早かったわね………巴マミ)

 

 

 見滝原をパトロールしているマミの事だ。遅かれ早かれこうなることは分かっていた。

 

 

(予想通り、巴マミは協力的だね。少し予定が早まったけど、計画に支障はないよほむら……安心して、僕もすぐそっちに向かうよ。欠陥品共に挨拶と行こうじゃないか)

(ええ、分かったわ)

 

 信頼できるパートナーにあとの事は任せて、ほむらは眼前の敵に集中する。

 

「ありがとう。助かるわ」

「話はあとっ、来るわよ!」

 

 鋭いハサミが命を絶たんと飛来するが、二人の弾幕を突破することは叶わない。暁美ほむらと巴マミは互いに背を向けて、まどかとさやかを守るように立つ。

 

 合図は一瞬。たった一瞬、一瞥するだけでいい。

 

 二人の魔法少女の共闘が始まる。

 

 

 




マミさーん( ・́∀・̀)

感想と評価いつもありがとうございます(* ᴗ͈ˬᴗ͈)”
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