けたたましい銃撃音が鼓膜を殴るかのように、四方八方から鳴り響く。音の発信源は、紫と黄色の閃光と化した二人の少女だった。
一人は黒々と鈍く光る銃を手に取り、慣れた手つきで化け物を撃ち倒す。少女の体躯なら反動で仰け反ってもおかしくはないのに、その衝撃を当然のように流し、身体を使って吸収している。その上、弾がなくなれば、流れるような動きでリロードをし、敵に微塵の隙も与えない。戦い慣れているのは誰が見ても明らかで、迫り来る敵の攻撃を撫でるように躱しながら、的確に弾丸を敵の体に命中させる。
方や戦場をリボンのようなもので縦横無尽に駆け回り、どこから出したのか、大きなマスケット銃を寸分も違わず化け物の眉間にぶち込む。一丁につき一度しか打てないマスケット銃だが、少女はどこからともなく銃を生成しては正確無比に機関銃の如く打ち込んでいる。それも、空中で立体的な軌道を描きながらだ。こちらの体捌きも普通の少女らしからぬものであり、その瞳に焦りの一つも見えない。
------歴戦。そう形容すれば良いのだろうか。映画で見るようなアクションシーンが陳腐に思えるほど、凄まじい光景をまどかとさやかは唖然と見守るしかなかった。
同じクラスに通っていたはずの少女が目の前で化け物と命のやり取りをしている。そんな、意味のわからない状況が現実として目の前で繰り広げられているのだから。
「上から来るわよ」
水平方向の敵をあらかた屠ったところで、上方から敵襲。だが、二人が慌てることは無い。この程度は日常茶飯事とばかりに、二人とも迎撃する。
暁美ほむらは手に持った拳銃を機関銃に持ち替え、巴マミは巨大化したマスケット銃を片手に、上から降り注ぐ化け物を一網打尽にした。
敵がいなくなったからだろうか、落ちる砂の如く具合の悪い夢のような景色がもとの景色へと戻っていく。
「……助かったわ」
「礼には及ばないわ。あなた一人でも対処できたでしょうし」
先程まで壮絶な戦いをしていた二人は言葉を交し変身を解きつつも、互いの警戒は緩めない。それが魔法少女として正しい行動だ。しかし、変身を解いた途端に巴マミは驚いたように目を見開いた。
「あら?あなた達も見滝原中学校なの?」
マミが驚いていたのは、ほむらたちの制服が自分と全く同じものであると分かったからだ。戦いの最中、魔法少女ではない二人のことも見ていたが、似ている制服はどこにでもある。まさか、ばったり出会った魔法少女が同じ学校の生徒だとは思わなかったのだろう。心なしかマミの警戒の色も柔和になったような気がしたほむらだった。
「ええ、そうよ。こっちの二人は……ちょっとトんでいるわね」
「仕方ないわ、いきなりあんな事があったんですもの」
ほむらが二人に目を向ければ、まどかもさやかもポカーンとした表情で成り行きを見守っていた。情報量が多すぎたあまり、嚥下しきれていないのだろう。
「わ、私、な、何がなんだか……ほむらちゃんが銃をバンバンって撃ってて、変身して、それから同じ学校の綺麗な人もいて」
「右に同じく、あたしも頭ごっちゃごちゃ。ほむら、どういうことか説明してくれない?」
ほむらとマミが互いに目を見合わせる。こうなった以上、説明をしないわけにはいかない。特にほむらは二人の友達だ。説明がないのは不自然だろう。
「ええ、わかったわ……あなたもいいかしら?」
「大丈夫よ。でも、その前にお互い名前が分からないんじゃ、話しにくいわよね。ここは一つ自己紹介はどうかしら?」
「それもそうね、私は暁美ほむら。見滝原中学二年よ」
「あら、てっきり同い年かと思ったわ。私は巴マミ、見滝原中学の三年生よ」
ほむらの醸し出す雰囲気はとてもではないが年下のソレではない。だからこそ、二年生と言われた時にマミは少しだけ驚いたが、学年が違うなら学校で見たことがないのも有り得る話かと納得した。
「あたしもほむらと同じクラスメイトの美樹さやかっていいますっ!」
「わ、私も同じくクラスの鹿目まどかっていいます」
蓋を開けたら一つ上の先輩だったからか、思わず敬語になってしまう二人。中学生にとって、年齢が一つ違うのはとても大きなことである。巴マミの大人びた容姿もそれを加速させている。
「ふふ、なんだか可愛らしいわね。ここで出会ったのも何かの縁だし、三人ともよろしくね」
「よろしく……ね。巴マミ、縄張りのことはいいのかしら?魔法少女同士が出逢えば、碌なことにならないのが世の常よ」
これはほむらからマミへの忠告だった。魔法少女とは魔女が落とすグリーフシードなしでは、生き永らえることはできない。それ故、個体数に限りのある魔女を魔法少女同士が奪い合うのが当たり前なのだ。
「じゃあ、暁美さん。あなたはここで私と一騎討ちしたいのかしら?」
瞬間、剣呑な空気が張り詰める。まどかとさやかはゴクリと喉を鳴らした。目の前にいるのは魔女を狩り続け、今日までその命を繋いできた歴戦の魔法少女。それを知らない二人であっても先程の戦闘を見れば、彼女と戦えばどうなるのか想像に難くない。
だが、ほむらは微塵とも動じない。それどころか、不敵に口角を上げるのだった。
「私にその気がないって分かってて言ってるわね?私も無駄な争いは好きじゃないわ……それに、魔法少女が協力できるのなら、そうしたいって思ってるの。特に
ほむらは微笑む。小悪魔のような表情で。これにはマミも心の中で動揺を表す。そもそも、マミは今日に至るまでずっと一人なのだ。一時期はとある魔法少女と共闘していたこともあったが、今はそれも解消されている。
そんな中、目の前に友好的に見える魔法少女が現れたのだ。もしかしたらと、淡い期待を持ってしまうのは仕方のないことかもしれない。彼女だって、大人びているようには見えるがまだ中学三年生。早くに両親を事故で亡くした彼女は、心の奥底で人の温もりを欲している。
「あのー、二人の世界に入っているところ申し訳ないけど、あたしたちが置いてけぼりなことについてはどうお考えで」
なんだか気まずそうに、割って入るさやか。そろそろ説明があっても良いんじゃないかと、表情が物語っている。
「あ、ごめんなさい。混乱しているわよね……うーん、どこから話したら良いのかしら」
と、マミが悩ましげな表情を浮かべたとき。
「それについては僕が説明するよ」
「きゃっ!?え、ええー!?しゃ、喋った!?」
まどかの腕の中で丸まっていた小動物が、急に起き上がったかと思うと、ぴょんっと跳躍して四人の中心に降り立った。言わずもがな、ほむらの眼光が鋭くなる。
「僕の名前はキュゥべえ、まどかさっきは助けてくれてありがとう!」
「ど、どういたしまして? えっ、でも何で私の名前を?」
「さっき自分で名乗ってたじゃないか」
「そ、そっか、そうだったね」
そういえばそうだったと思い出すまどか。何故か脳裏に違和感が走るが、そう深く考えることはなく、キュゥべえの言葉を嚥下した。
「それについては私からもお礼を言うわ鹿目さん。この子は私の大切な友達なの」
マミがキュゥべえを拾い上げて優しく腕に抱く。キュゥべえもまるで猫のようにその中にすっぽりと収まった。マミも心做しか嬉しそうな表情である。
「で、いいのかい?暁美ほむら、僕を殺さなくて」
何の抑揚もなく、機械音声かのようにキュゥべえから出てきた言葉は、一瞬にして場を凍らせた。キュゥべえにとっては、ほむらが何もしてこなかったことに対するただの疑問でしかないが、わざわざこの場でそれを言うことに悪意を感じずにはいられない。疑念の視線がほむらに集まる。
「あ、暁美さん、どういうこと?キュゥべえに何をしたの?」
マミの表情に疑いが浮かぶ。もしかしたら、仲良く出来るかもしれないと思った矢先に、キュゥべえからの爆弾発言。人間、一度手に入ってから失う方が精神的に受け入れ難いものだ。
「それは……」
「お願い、説明してっ!」
悲哀の色に怒りが混じる。キュゥべえはマミにとってかけがえのない友達だ。もし、それを傷付けているのなら、マミだって黙っていない。
「ほむらちゃん?そ、そんな酷いことしてないよね?」
まどかからも疑いの目を向けられてしまう。状況はほむらにとって望ましいものではない。このままでは、最悪マミと戦うことだって有り得る。そうなってしまってはこれからの計画も水の泡。また振り出しに戻ってしまう………。
だが、それはほむらが一人だった場合の話だ。
「やれやれ、感情がないって言う割には、的確に人の嫌がることをするもんだね」
混迷を極めたこの場にもう一つ声が届く。それは先程放たれたキュゥべえの声と同じように聞こえるが、似て非なるものだった。
「ああ、僕のことは気にせずに続けるといいよ、劣等種」
「君は……」
そこには確かに感情があった。誰が聞いてもイラついているのが分かるほど、語気に怒りを含ませて話すそれはキュゥべえと瓜二つの姿だった。
二体目のキュゥべえは集まる視線をものともせず、スタスタとほむらの元に歩んでいく。そして、彼女の元に辿り着くやいなや、ほとんど不可視といえる速度でほむらの肩に登った。まるで、そこが自分のいるべき場所だと。誰にもこの場所は渡さないと言わんばかりの圧が放たれている。
「どういうこと……?なんでキュゥべえが二人もいるの……?しかも、全く同じ姿の」
交互にキュゥべえを見ながら、マミは驚きを隠せずにいた。それもそうだろう、全く同じ姿をした個体が目の前にいるのだから。
「む、失敬だね巴マミ。明らかに僕の方がハンサムじゃないか!」
「えっ!?ご、ごめんなさい?」
しかめっ面のキュゥべえにそう言われたからか、思わずマミは謝ってしまう。だが、その頭の中にはずっと疑問符が駆け巡っている。
「ちょっと遅かったわねキュゥべえ」
「ヒーローは遅れて登場するものだろう?あぁ、ごめんよ、今は冗談を言う時じゃないか」
軽口を叩くキュゥべえは、マミとその胸に抱かれた小動物に目を向ける。
「さて、何から話そうか。リクエストはあるかい?」
キュゥべえはマミに話を振る。頭にはてなマークが浮きっぱなしのマミは少し悩んだ後、覚悟を決めたかのような面持ちで言葉を紡いだ。
「……じゃあ、何でキュゥべえが二人もいるのか教えてもらえるかしら?」
マミの質問にキュゥべえは首を傾げる。
「何を言ってるんだい? 君の腕に抱かれてるソイツは一人なんかじゃない。数百、数千、数万を優に超える集合意識の一欠片に過ぎない存在だ。僕は違うけどね」
キュゥべえの言葉に、マミは思わず自分の腕にいるキュゥべえに視線を向けた。幼い頃から行動を共にするキュゥべえが実は一人ではないどころか、何人もいるという話はマミに大きな動揺を与える。
「どういうことなの?」
「マミ、君は僕と共に居て不思議には思わなかったのかい?一つの体であれだけ多くの場所、多くの魔法少女と契約できる訳がないじゃないか。いつも思っていたけど、マミは自分が信じたいものを信じすぎる節があるよね。将来悪い男に引っかかるよ」
「なぁっ!? よ、余計なお世話よ!」
「キュゥべえ、言い過ぎよ」
キュゥべえに面と向かってそんなことを言われたせいで、マミは顔を紅くする。デリカシーがないにも程がある。
「まあ、話を戻そうか。そこの雑種の話が気になっているんだったよね? そいつの言う通り、僕たちはそいつを間引いたに過ぎない」
「僕としては素体が勿体ないから辞めて欲しいんだけどね」
「自分の死すら勿体ないという合理性だけで片付ける君らにそう言われても響かないなぁ」
「感情という非合理的なモノを持つとまるで獣のようになってしまうんだね、勉強になるよ」
「…………」
「…………」
同じ顔をした生き物の間に火花が散ったような気がする。
「感情という崇高なモノを持たない者に何言っても無駄だとは思ってたけど、ここまでとは思わなかったよ欠陥品共」
「君こそ、精神異常者として母星から切り離されたのに、まだ僕たちに拘るんだね。その執着心には感服するけど、総じて惨めと形容するしかないね」
「惨めなのはどっちかな? 大きな群集団の中の、意志を持たない歯車でしかないお前たちと、自分の意思で火花を散らして一生を輝かせる僕。天と地の差があるじゃないか」
「個人の一生になんの意味があるんだい?僕らには宇宙を延命するという大役があるんだ、長い目で見れば僕たちがしていることが正しいって分かるよ」
「その宇宙を延命させることに何の意味があるんだい?一生という時間を個として自らの意志で過ごし、朽ち果てることの素晴らしさが分からない劣等種を見てると実に可哀想だよ。感情がないから分かんないか」
「感情がなくても、そんなことは無意味だってはっきり分かるよ。宇宙が終われば、この先の未来もなくなる。人間だって、この先連綿と命を繋いで行くというのに、住む場所が無くなればそれも消えるよね?この宇宙に住まう全ての種族のずっとずっと先の世代が困らないように行動している僕たちの方が崇高と言っても差し支えないだろう」
「それは違うね。結局お前たち欠陥品は、感情が無いゆえに、自分達の存在が宇宙の終焉と共に消えてしまうことに耐えられないだけだ。まさしく、個が無いから集団としての繁栄に縋っているに過ぎない」
「それは生き物として当然の選択だろう?家畜を見てごらんよ、個ではなく集団として管理した結果、今やその種の繁栄は約束されているじゃないか。絶滅しないということがどれだけ恵まれているか、君には分からないのかい?」
「分かりたくもないね。お前たちが宇宙の
二体の激しい口論の末、マミの胸に抱かれたキュゥべえは結論づける。
「やっぱり君とは平行線だ。どれだけ言葉を交わしても交わる気配がない。精神異常とはこれほど厄介なものなのかと再認識したよ」
「それはこっちのセリフだよ。結局、宇宙に飼われた家畜が自らを延命しようとしているに過ぎない。生命の進化は強い感情の発露があってこそだ。だというのに、それが無い君らはずぅぅぅっと立ち止まっているじゃないか。その証拠に技術は頭打ち、幾星霜も前から一歩も進歩していない。だから感情を持つ人間を頼るしかないんだよね。憐れな
「……」
そうして一呼吸置いたところで。
「ごめん、何言ってんのか全然わかんない」
さやかが四人全員の気持ちを代弁した。
暁・鹿・美・巴「( ゚д゚)ポカーン」
以上キュゥべえたちのクソみてーなレスバでした。