恵まれた血筋と才能をネタ職業でふいにするクズ 作:ひよこ鑑定士
──────────
アイリス
職業:【宿屋王】Lv.8
年齢:16歳
tips:父親の病死により、若くして女将になった。
最近は経営難に悩まれているが、実は近隣の高級宿屋のオーナーが圧力をかけることにより、客が来ないように妨害している。
その狙いはアイリスの圧倒的な美貌を我が物にするため。
困っているところに手を差し伸べ、不当な契約を結ばせる目論見を立てているが……。
『未解禁情報』
スリーサイズ:B[?]W[?]H[?]
性癖:??????
現在のあなたへの好感度:???
※更なる情報の閲覧には、困り事を解決する必要があります。
──────────
「うーーーーむ」
宿屋の一室で俺は腕を組みながら悩んでいた。
この半透明の鑑定結果は俺の意思次第でいつでも出せるようなので、部屋に入ってもそれを見ながら悩むことができた。
【女体鑑定士】
俺はてっきりありとあらゆる女性の性的な秘密が見れるもんだと思っていた。思っていたんじゃない、期待していた。
性欲に負けた哀れな皇子は、性欲に負けたからにはエロい結果が返ってくると思っていた。
だが蓋を空けて見れば、困りごとなるものを解決しなければ肝心の情報は見れないときた。
放っておけば良い。
もしかしたら他の女体には正しく作用するかもしれない。
そう思った。そう思って俺は自分を激しくぶん殴った。
「バカ野郎が!!! 一度オカズにしたいと思った美少女の情報を見ずに放っておくだと!? 俺にチ◯ポは生えてないのか!?」
いや生えている。立派にそびえ立っているんだ。
今か今かとオカズを待ち焦がれている俺の相棒がそこにはいる。
父親と国と期待は裏切ってもムスコだけは裏切ってはいけないんだ。
うちの国教の聖書にも書いてる。知らんけど。
「ならやることは簡単だ。困り事を解決すれば良い」
俺はすぐに性欲を消して思考に没頭し始める。
アイリス。
職業──【宿屋王】。
「【宿屋王】は知っている。職業大全にも載っていた。確か宿屋の運営知識が最初からインプットされていて、画期的な営業政策を思いつく補正がかかる……みたいな職業だったな」
その名に恥じない強力な職業だ。
【宿屋王】の運営する宿屋は確実に繁栄する。
そう言われてるほどだ。
「余程のことが無ければ確実な成功が約束されている。であれば今の現状は余程のことが起きていると見ていい」
──近隣の高級宿屋のオーナーが圧力をかけている。
そう書いてあったな。
「近隣の高級宿屋と言えば──宿屋グルーカスか。貴族御用達のビカビカしてるクッソ派手な宿屋だった記憶はある」
俺も公務の際に泊まったことがある。
サービスは高級宿屋に恥じない素晴らしいものだったが、如何せん貴族に媚び過ぎている内装や装飾がいけ好かなかった。
まあ、メイン層を貴族にしているんだからそれが正しいんだけどな。俺の性に合わなかっただけで。
「グルーカスのオーナー……胡散臭い笑みを浮かべているおっさんだったな。名前は忘れたが」
……特に悪い噂は聞いたことがなかった。
だが【女体鑑定士】の鑑定結果が正しいのであれば、普通に帝国法に則って裁かれる犯罪行為だ。
具体的にどんな圧力のかけ方をしているかにもよるが。
「情報が少ないな。少し探るか」
現時点の情報の少なさで鑑定結果を信じることはできない。
職業の能力だからといって、それを過信すると能力頼りの木偶の坊になりかねない。
「縛りだ。困り事を解決するまで──俺はシコらない」
☆☆☆
翌朝俺は早速ニコニコ顔の美少女オーナーに探りを入れる。
「少し聞きたいんだが良いか?」
「はいはい! 何でもどうぞ! お客さんあなたしかいないし暇だからネ。ははっ……」
自嘲するアイリスの姿は少し痛々しかった。
父親から引き継いだ宿屋の経営がうまくいっていないことで自罰的になっているのだろうか。
「俺は少し経営関係の職業を持っていてな。昨日、うまくいっていないと言っていただろう? 少し手助けができるかもしれない」
「ほんとっ!? それは助かる……けど、お客さんに助けてもらうだなんて……」
疑うことを知らない目だ。
確かにコレは騙されかねないな。見ず知らずの人間からの助言を真面目に聞くタイプだ。
とりあえず俺は嘘と本心を混ぜる詐欺師の常套手段を使う。
「素晴らしいサービスだったよ。掃除も隅々まで行き届いていて、ベッドの質も悪くない。
前者は全て本心。
手助けしたいと思ったのは性欲からです。俺はクズ。
「そ、そんな褒めないでよぅ……。そうね……父さんからこの宿屋を引き継いでから初めて褒められたかもしれないわ……うん、嬉しい」
「……っ、かわよ」
はにかむアイリスが可愛すぎた。
俺は微かに罪悪感を感じながらも取り繕う。
「ま、そういうわけで。話して欲しいんだ」
「うーん、この前からかな。突然ウチと懇意にしてた織物ギルドから取引を停止したいって言われて、洗剤の手配とか洗濯とか全部手作業でやらなきゃいけなくなったんだ」
「織物ギルドというと……洗濯は水魔法で補っていたのか」
「数が数だからね。手作業じゃ流石に回らないよ」
「それもそうか」
業者に委託している宿屋がほとんどか。
その中でも懇意にしている織物ギルド……要はシーツなどベッド周りの清掃を担当しているとこから、急に取引を打ち切られたと。
そりゃまたきな臭い。
「その取引が打ち切られた時から、急にお客さんが入らなくなっちゃって。知り合いに聞いたら、あたしの宿屋の悪い噂が広まってるとか何とか。勿論事実無根だよ」
「……ふむ」
やり口が思ったより杜撰だな。
だが金も権力もある人間が行うには最も効率が良い。
特にグルーカスは多くのパトロンを抱えている。
貴族御用達の高級宿屋と、下町の人間に愛される老舗宿屋……特に父親から引き継いだばかりの新人オーナーともなると、社会的信用能力は雲泥の差だ。
圧力をかけて潰すことは容易いだろう。
聞きたいことは聞けた。
俺はニコリと笑いながら言った。
「ありがとう。少し考えてみるよ」
「うん。こちらこそありがとう。無理はしないでね」
アイリスも俺に過度な期待を向けはしなかった。
半ば諦めているのもあるだろう。確かにこの状態であれば、権力で彼女を手中に収めるのは容易い。
──俺のオカズ候補だぞ? そんなことはさせない。
俺は宿屋から出る。
照る日差しに目を細めながら、人目の付かない路地裏に移動した俺は不意に──
「──ハッ」
「やっぱいたか。本職の隠密は分かんねぇわ」
音も気配も感じさせないまま、目の前に黒装束の女が現れた。
仮面を被り、全身を線の出ないダボッとした装束を着ているその者の名はムメイ。
皇族専用の護衛隊の一人だ。
てっきり追放と同時にいなくなったかと思っていたが、廃嫡されていないのもあって未だ護衛の任を続けているっぽいな。
「父上から何か聞いてる?」
「特に聞いておりませんが、坊ちゃまが性欲に負けたのは知っています」
「事実だけどやめろよ口に出すのは」
本職の護衛だけあって、俺が今までプライベート空間でしてきたことは大体全てバレている。シコってる最中に目の前に出てきたことだってある。
声は紛れもなく女性だが、素顔も肌も見たことがないから異性として意識したことはない。
全てバレてるならもう何をさらけ出したって良いや、という状態だが普通に俺をおちょくってくるのはやめてほしいね。
「じゃあ大体状況は分かってるわけだ。俺の手助けが禁止されてるってことも無さそうだが……」
「グローカスのオーナーを殺してきましょうか?」
「やめろまじで」
ちゃんと俺の独り言まで聞いているらしい。
ってことは【女体鑑定士】の力を使ったのも推測されてそうだな。流石にスリーサイズ見るためには困り事を解決する必要がある……ってのはバレてないだろうが。いやバレてるか。
「俺は俺の信念に誓って、できる限り穏便に自分の力を使って解決したい。……まあ、だが俺にできることも多くはない。そこでムメイにはオーナーの秘密の裏取りをして欲しい」
「流石に証拠の場所までは分かりませんが」
「そこを俺が何とかする」
「グローカスのオーナーは男性ですが、坊ちゃまの力は女性にしか作用しないのでは?」
俺はこの力を手にした時から少し考えたことがある。
性癖含め人の秘密を閲覧できるのであれば、男女両方に使うことができれば社会的にめっちゃ強いんじゃねーかと。
俺の職業は【女体鑑定士】。
女体であれば鑑定することができる。
「女体にしか作用しないのなら女体にすればいいじゃない」
「性転換薬、ですか……」
思いっきり違法薬物だが、この世には一定時間性別を変える薬物が存在する。俺もムメイからその存在だけは聞いていた。
ふふふ……はははっ、俺の能力とシナジーが合いすぎる。
「ちなみに薬を飲ませるために俺も女体になって誘惑してくるわ」
「……これだからコイツは面白いんですよ」
さ、女体になって誘惑して女体化させて弱みをいただきに行くとするか!!